砕蜂から迫られて困っています   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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一体いつからエタっていたと錯覚していた?


Happy Ending

「長かったっすねぇ」

 

 浦原商店の店先、喜助は軽く体を伸ばしながら息を吐いた。

 尸魂界での藍染との闘い。

 100年にも及ぶ男の陰謀がついに終わったのだ。

 そのために喜助や宵丸、砕蜂、一護、シンジ、多くの仲間たちが多くの時間を費やし、十三隊も巻き込み総力を挙げて打倒した。

 結局、トドメを刺したのが宵丸と砕蜂なあたり流石だなと苦笑する。

 100年というのは死神の尺度から見ても長い時間だ。

 変わらなかったものはあって、変わったものもある。

 世界の全ての問題が解決したわけでもない。

 それでも、確かな区切りにはなったのだ。

 

「はぁぁ~~~~~」

 

 空を見上げながら長く、万感の思いを込めて息を吐き、

 

「――――――喜助」

 

「ぁぶはぁっふぁひぃ!?」

 

 呼ばれた声に、思い切りむせ込んだ。

 視線を下げ、目の前にいたのは、

 

「よ、夜一さん!?」

 

 100年振りに会う四楓院夜一だった。

 死覇装ではなく、現代的な黒のスキニーとタートルネックのサマーセーター。宵丸や砕蜂がよく着ているのと同じデザインだ。

 髪が伸びたのだろうか。

 宵丸と同じ紫の髪を纏めず、そのままに流している。

 顔立ちは少し大人びたなと、率直に思った。

 

「……」

 

「…………え、えーと」

 

 琥珀の瞳が揺れている。

 それはかつての夜一では考えられなかった雰囲気で、

 

「――――っ」

 

「う、うわぁ!?」

 

 目にもとまらぬ速さで、彼女は喜助の胸の中に飛び込んだ。

 転ばなかったのは奇跡だったと、自分でも思う。

 いや、いくら100年ぶりの再会だとしてもこんな感動的なシーンになると誰が予想しただろうかちょっと良いにおいがするしなんだかんだ柔らかいな何も言わずしがみ付いてくるのちょっとかわいいけどこんなとこ砕蜂に見られたら殺されそう―――、

 

「…………」

 

「…………」

 

 自分たちから少し離れた場所、電柱の影から無表情の砕蜂が半分だけ顔を出していた。

 

(砕蜂サン―――――ちゃうねん!)

 

(何がちゃうねん)

 

 一瞬のアイコンタクトと肘から先のジェスチャーで意思疎通。

 なぜか関西弁だった。

 

(殺さないで!)

 

(もう死んでるだろ私たちは)

 

(ウオオオオオ死神の鉄板ジョーク!)

 

(黙れ! 今はお前のやるべきことをする時だ!)

 

(なんかいいセリフですけどやるべきこととは!?)

 

(抱きしめ返すんだそして死ね!!!)

 

(もう死んでますよ私ら!)

 

 全ての会話はアイコンタクトと肘から先のジェスチャーのみある。

 宵丸がいれば、実は仲がいいだろうと突っ込んでいたところだ。

 なにはともあれ。

 喜助は砕蜂を意識の外に追いやった。

 とりあえず、見守ってくれているらしい。

 そして、自分を抱きしめて震える夜一を見る。

 見て、少しだけ迷って、

 

「……っ」

 

 壊れものを触るみたいに、彼女の背に手を回した。

 触れた瞬間、びくりと震えたのが猫みたいに思えて思わず苦笑してしまった。 

 何を言うか、色々迷って、

 

「……すみません、夜一サン」

 

 出て来たのはそんな、陳腐にも程がある言葉だった。

 100年前、何も言わずに尸魂界から離れ、夜一との関係を断ち切った男の言葉としては最低が過ぎる言葉だっただろう。

 

「……」

 

 夜一はしばらく何も言わなかった。

 喜助の胸に顔を押し当てて、絶対に顔を見せようとしなかった。

 そして、

 

「………………次は許さん」

 

 それだけをぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよっ、快適かい?」

 

 宵丸は持参した土産が入った紙袋を掲げつつ、牢の中に声を掛ける。

 簡易ベッドと備え付けのトイレ、小さな机。 

 差し入れだったのだろうか、精霊通信を読んでいた彼は視線をこちらに向き、

 

「やぁ、宵さん。しばらくぶり」

 

 牢の中から、にへらと市丸ギンは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牢の格子を挟んで、地べたに座りこんで向き合う。

 差し入れのお菓子とお茶をそれぞれ広げ、

 

「いやほんま助かりましたわ、宵さんいなかったら処刑されてたかも僕」

 

「いや俺は別に助命を願ったわけじゃないけどな」

 

「えっ?」

 

 牢屋越しにギンの細めがさらに点になった。

 

「俺がしたことはお前の貢献度だからな。まぁ死んだら死んだらでしゃーないかと……」

 

「うっわひっどい! これしばらくはフェードアウトされて次の次の事件の時に助っ人として解放されて助けに入る展開ですやん!」

 

「予測が具体的すぎる!」

 

 けらけらと笑っているギンは随分とリラックスした様子だった。

 100年間藍染の側近をしていたとして捕縛された男とは思えない。もっともそれは藍染もそうだったのだが。全身を拘束され、無間に投獄されて尚、あの男は余裕の自然体だった。

 肝が太すぎる。

 

「……ま、大人しくしておけば100年くらいで出れるんじゃないか?」

 

「だといいですけどねぇ」

 

 実際、ギンの功績は結果論であれば大きかった。

 宵丸の奥の手である『輪道』、その存在を藍染に語られていたのなら、あの男の卍解で宵丸も、砕蜂も、元柳斎でさえ敗北し、殺されていたのだろうから。

 加え、藍染が制圧した虚圏についての情報、破面という存在についても多くの情報があり、尸魂界の虚に関する知識は数世紀分進んただろう。

 涅マユリが狂喜乱舞である。

 

「……でさ、ギン坊」

 

「はい?」

 

「お前は、満足できたのか?」

 

 市丸ギンが藍染に従っていた理由。

 それはまだ宵丸は聞いていない。彼も決して口を開こうとしない。

 だけど、それだけは確かめたかったのだ。

 

「うーん、どうでしょ?」

 

「おい」

 

「あはは。ま、ひとまず納得はしたということで。はい。それで十分ですわ」

 

「……ふぅん」

 

 まぁそれならそれでと、思う。

 元から何考えているかよく分らないし、なにも言わない男だ。

 本人が納得しているのならそれでいい。

 どうせ松本乱菊が関わっているのだろうが。

 精霊通信を差し入れしたのもきっと彼女なのだろう。

 なら、宵丸も満足だ。

 

「それじゃ、行くわギン坊」

 

「ありゃりゃ、連れないですわぁ。もうちょっといてくれてもいいんちゃいます?」

 

「残念ながらそこそこ忙しいんだよ俺は」

 

 無駄話をしたいのは山々だが、宵丸もあまり遊んでいられない。

 藍染の闘いを経て、尸魂界、護廷十三隊に変化があった。

 隊長格の3人が謀反を起こしたのだ、当然代わりが必要になる。

 そこはそれぞれこの事件を機に復隊した仮面の軍勢のうち3人が収まっている。

 そして宵丸は、

 

「鬼道衆総帥・大鬼道長就任、遅れながらおめでとうございます、宵さん」

 

「さんきゅ」

 

 かつて師が担っていた役職をそのまま引き継いでいた。

 四楓院宵丸は鬼道においては尸魂界きっての天才だ。技術革新において彼の存在は極めて大きく、ここ100年機能停止状態だった鬼道衆の再興の為に就任したのである。

 この場には持ってこなかったが、普段着も改造隠密装束の死覇装に加え鉄裁がかつて着ていた青のロングコートが追加されている。襟がやたら大きかったのが気になったので改造してもっとスマートにしたけれど。

 本当を言えば、現世でだらだらするのもそれはそれでよかった。

 

「シャオも念願の二番隊隊長だしなぁ」

 

 二番隊隊長兼隠密機動隊隊長。

 それが今の砕蜂の肩書だ。

 宵丸と同じく、師であった夜一のものをそのまま引き継いだ形である。

 砕蜂自身は夜一の下に就こうと思っていたが、夜一自身が引き継ぎを強く望んだ故でもある。完全に砕蜂に完敗したからという理由もあるだろうが、

 

「現世に行く時間もいるだろうし―――時間掛かったもんだ」

 

 結局尸魂界に戻らなかった喜助との時間を作るためでもあるのだろう。

 かつて快活で男勝りだった姉は随分としおらしくなってしまった。

 

「あ、せやせや宵さん。それはそれとして」

 

「うん?」

 

「―――――ご結婚、おめっとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんだかなぁー、なんだかなー!」

 

「もういいだろうシャオ」

 

 流魂街の外れ、100年前から行きつけ、プロポーズをした茶屋。

 互いの仕事をこなし、砕蜂は隊長羽織を、宵丸は総帥コートを着たままだ。

 砕蜂が文句を言っているのは、

 

「結婚式をちゃんと挙げられたのは良かった」

 

 二人の左手の薬指にはシンプルなデザインの結婚指輪が。

 藍染との戦いから一月後に二人は式を挙げた。 

 大規模な戦いと混乱の後だからこそ皆で迎えた明るい話題だったが、

 

「瀞霊廷貸し切りできなかった……」

 

「無理に決まってるだろそんなん」

 

 最終決戦で元柳斎に言っていたことだがそこそこ本気だったらしく、式当日まで、終わってからもまだぐちぐち言っていた。瀞霊廷貸し切りこそできなかったが、それでも尸魂界式の通常の式に加え、いわゆる洋風の式も現世からウェディングドレスやタキシードを取り寄せて盛大にやったものだ。

 

「俺は満足したけどなぁ」

 

「むっ、別に不満があったわけではないぞダーリン。ただこう、もっと上を目指せたのでは? という飽くなき向上心がだな……」

 

「そんな向上心は要らんよ」

 

 嘆息しつつ、温かいお茶を啜る。

 ほう、と息を吐き。

 

「―――俺は、これでいいよ」

 

「むっ」

 

「世界が救われたとか、そういう終わり方じゃないけれど。それでも俺や俺の周りの人は報われた。そしてシャオとこうして結ばれた。だったら俺はこれでいい、これがいい。この終わりで、俺は満足だ」

 

 この先、長い人生きっと色々あるのだろう。

 死神の一生は長い。

 敵はまだまだいる。

 だけど、区切りはついて、その区切りは宵丸と砕蜂の結婚だ。

 なら、それは宵丸にとっては最高の終わり方に他ならない。

 

「むぅ……そう言われると文句を言いにくいではないか」

 

「ははは」

 

「なんか否定してくれ」

 

 砕蜂は短く息を吐き、そのまま宵丸の肩に体を預けた。

 

「……うん、ま、私も満足だ」

 

 時間がゆっくりと流れている。

 実際の所仕事は明日からもあるのだが、それはそれ。

 今はやっと手に入れたこの瞬間を味わいたくて―――――

 

 

「―――――よし、ダーリン次だ!!!!」

 

 

「えぇ……?」

 

 ゆっくりとした時間もどこへ行ったのやら、砕蜂が思い切り立ち上がった。

 

「シャオ? シャオさん? 今凄い良い雰囲気だったじゃん」

 

「私と宵丸がいればいつだって凄い良い雰囲気だ」

 

「それはそう」

 

「うむ!!!」

 

 力強く頷き、

 

「―――――次だ」

 

 重く、もったいぶって言った。

 次とは、

 

「―――――子作りだな!」

 

「大きい声で言うんじゃないよ!」

 

 いや確かにそれは結婚の後のステップとしては間違っていないが、

 

「ほら、こう、順序があるだろ? 新婚を楽しむとかさぁ」

 

「いや、ほら我々貴族だし子作りは大事だろう」

 

「急に正論を言うんじゃないよ」

 

 それはそうなんですが。

 宵丸はもっと雰囲気を大事にしたいのだ。

 具体的には3年くらいは新婚でいちゃいちゃしたい。

 

「さぁ! ラブラブしてからちょめちょめしよう、愛しているぞダーリン!」

 

「愛してはいるけどハニー!」

 

 ―――――砕蜂から迫られて困っています。

 




めでたしめでたし。


これにて完結です。
長いことお待たせしました。

ご愛読ありがとうございました。
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