砕蜂から迫られて困っています   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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Homecoming

 修行と準備を終えた一護とその仲間たちが尸魂界に、志波家の力を借りて瀞霊廷に侵入する。

 全ては朽木ルキアを極刑から救うため。

 志波家の岩鷲を加えたたった五人で瀞霊廷、護廷十三隊へと喧嘩を売っていく。

 そして彼らを現世で鍛え、尸魂界にて導いた四楓院宵丸と砕蜂の二人がどうしているかといえば、

 

「おっ、茶柱」

 

「おお、縁起がいいなぁダーリン」

 

「ダーリン言うな」

 

 流魂街のある茶屋でお茶を飲み、団子と饅頭を味わっていた。

 

 

 

 

 100年前、宵丸は鬼道衆の総帥補佐、砕蜂は二番隊副隊長。

 それぞれに確かな地位についていたが、当時流魂街で起きた魂魄の消失事件の調査に当たっていた。九番隊が赴き、されど成果は出ず追加で平子シンジを始めとした隊長格が続いた。宵丸と砕蜂がそこに加わったのは彼の姉であり、彼女の上官である四楓院夜一によるもの。

 経験を積ませたいと思ったのだろう。

 総隊長の山本元柳斎重國には咎められたが、話を聞く彼女ではなかった。

 弟と妹分に手柄を取らせるために、彼の反対には聞く耳持たずに行けと快活に笑ったし、宵丸も砕蜂も当然のように従った。寧ろ感謝だってしていた。

 夜一の奔放さを元柳斎も理解していたし、同じように隊長である京楽春水が自分の副官である矢動丸リサを行かせたというのもあったから。

 

 そして、シンジたちも、宵丸も砕蜂も、敵に陥れられた。

 

 現在公的に二人は死亡扱いであり、夜一や家族も、当時の友人たちもそう思っていることだろう。

 無論、顔を見たいという思いはある。

 だが、それはできないのだ。

 一護たちと一緒に最初から瀞霊廷に殴り込みに行けば――――かつて彼らを嵌めた敵に気づかれる。

 大事なのはタイミングだ。

 一護たちは鍛えたが、それでも副隊長レベル。

 隊長格には勝てない。

 精々卍解使わずに舐めプしてくれたらなんとかというレベル。

 だから、宵丸と砕蜂が瀞霊廷内で、自分たちの存在を明かし、彼らを手助けするというのなら状況に即したタイミングでなければならない。

 そしてそのための選択肢は浦原喜助に与えられている。

 彼が考えた起りうる全ての可能性と、それに対する手の打ち方。

 そして現状は彼の予測からは外れておらず、静観する時間。

 だから、

 

「いやー、100年経ってもここはお茶も団子も美味い。100年間ずっとここに来たかったんだよ」

 

「確かに。かつては修行の合間によく来ていたものだな」

 

 二人でのんびりお茶をしているのは、一護たちを見捨てているわけでもさぼっているわけでもないのだ。

 流魂街には多くの魂魄が生活しているから、当然のように茶屋など山のようにある。地区に応じて治安の良し悪しの差が激しいが今二人がいるのは前半の治安が比較的良い場所。

 その上で、かつて瀞霊廷を抜け出した夜一が厳選した最も味が良い店だ。

 

「どうだダーリン。店に菓子を置くのは。タピオカとかいいと思うぞタピオカ」

 

「うーん、ドリンクならいいけどなぁ。菓子の類は難しい、ラーメンと一緒に出すと匂いが付くし」

 

「しかし、あの店も碌に客こないだろう。何か新しいこと始めた方がいいと思うんだがな」

 

「道楽でやってる店だかんなぁ。採算度外視だし」

 

 まったりとした空気がそこにある。

 瀞霊廷では絶賛命を懸けた殺し合いが行われているとは思えない。

 宵丸は隣で団子を頬張る砕蜂に視線を送る。

 頬の中に団子を貯めこんだ彼女はリスのようであり、肩まで伸びる髪が揺れている。

 尸魂界にいたころは襟足が外跳ねしたおかっぱ頭で、ずっとその髪型だったが数年前から何を思ったかおかっぱもやめて、髪を伸ばし始めた。

 

「そいやぁ」

 

「うん?」

 

「なんで髪型変えたんだっけ」

 

「可愛くないか?」

 

「……似合ってるけど」

 

「ふふん」

 

 宵丸の言葉に嬉しそうに砕蜂は息を漏らし、

 

「いつだったかな、何年か前に空座町を歩いている時のことだった。中学生らしい餓鬼にナンパされてな」

 

「ごほっごほっ!」

 

「はっはっは、勿論相手にしなかったとも。すぐに自分が人妻であると言った。NTRとかは全く興味がないしな」

 

 それで、

 

「向こうもすぐに引き下がったし、よくよく話してみると子供ながら中々男女の機微に敏いやつでな。ダーリンが中々素直になってくれないとあれこれ相談したものだ。何と言ったか……青色だか水色だか、そんなやつ。その時会った以来なんだ」

 

「じゃあお前の螺子が外れたのは……!」

 

「あぁうん。アレがきっかけといえばきっかけだな」

 

「野郎そいつ見つけたらぶっ殺してやる!」

 

「おっ? 嫉妬か? ふふふ、いいものだなこれは!」

 

「違う!」

 

 宵丸は激怒した。

 その青系の色の名前のせいで砕蜂の螺子がイカれたのだ。

 絶対に見つけ出して断罪する。

 

「で、その時に言われたんだがおかっぱは今時流行らんらしい。前髪ぱっつんは長身がやるといいが私のように小柄だと子供っぽく見えるとな。髪型を変えたのはそれからだ」

 

 彼女は髪を弄りながらくしゃりと笑い、

 

「似合っているだろう?」

 

「……まぁ、ね」

 

 目を逸らし、誤魔化すようにお茶を飲む。

 言動は狂っているが、100年前とは違い緊張がなく険が取れ、常に余裕を持った彼女は間違いなく魅力的なのだ。

 そんな彼女に愛されていて、悪い気は勿論しない。

 

「ま、私は流行を追う女だ。現世がいいのは短いスパンで流行り廃れがあるということだな、刺激的だった。尸魂界ではこうはいかん」

 

「んん、昔のシャオはそういうの興味なさそうだったな」

 

「昔の話だ。無論、今は違うとも。流行には敏感だ。あれだ浦原の嫌いな所は腐るほどあるがあのダサい帽子は時代遅れも著しい」

 

「本人には言うなよ。喜助さんは好きで使ってるんだし」

 

「いやもうとっくに言った」

 

「言ったのか……」

 

「そうしたらあいつはむしろ頷いたよ。『たしかにあたしの帽子は古い』と」

 

 だが、

 

「あいつはこうも言った。『でも砕蜂サン。古き良きものは、それを愛する者が引き継いでいかないといけないと思わないすか? それが他人に笑われようとも』とな。私は思ったよ」

 

 彼女は遠い目で空を見上げ、

 

「―――――確かに。良いこと言うなこいつ」

 

「仲良しか」

 

「奴は人格が肥溜めの糞だが、評価するべきところは評価すべきだな。ダーリンのエロ本を生真面目貧乳委員長ものに変えたのも奴だしな。まぁその奴が持っていた褐色猫耳姉御肌巨乳本燃やしたら血涙流してたが」

 

「ほんと何やってんの!?」

 

 道理で見覚えのないエロ本があった。

 ほんとそういうことは止めて欲しい。

 砕蜂の喜助への評価は正鵠を射ているのだが。

 

「あぁもう……姉上や白哉が今の砕蜂を見たらなんていうか」

 

「ふむ……夜一様なら爆笑してとっとと結婚しろとか言ってくれるだろう」

 

「言いそうなんだよなぁ……それならまず姉上が結婚してくれないと。喜助さんと」

 

「は? 夜一様は結婚とかしないんだが?」

 

「その話は前もした」

 

 砕蜂は肩をすくめ、

 

「朽木白哉は随分と雰囲気が変わっていたな」

 

「お前だけはそれを言うな。……まぁそりゃ100年も経ってるし、朽木も継いだだろうしな。3人で修行したのが懐かしい。姉上にからかわれ、いっつもマッハで血が上っていたのになぁ」

 

 宵丸と白哉は同い年で大貴族の長男同士というのもあり、宵丸のお付きだった砕蜂も交えて鍛錬を重ねた。

 宵丸は鬼道、白哉は斬術、砕蜂は白打と歩法。

 それぞれの得意分野を互いに学び合ったものだ。

 

「懐かしい」

 

 尸魂界に戻り、郷愁に駆られずにはいられない。

 タイミング故に、今は古巣には戻れないがしかしここは二人にとっては生まれ故郷。

 かつての戦いは長引き、終わりは遠い。

 

「あぁ、懐かしい。だが、停滞していた状況は動き出した」

 

 砕蜂もまた空を見上げ、静かに言葉を紡ぐ。

 

「この100年は雌伏の時だった。奴は強く、賢く、魔の手が長い。私も宵丸も強い。夜一様を始めとした護廷十三隊の隊長たちも。……だが、それでもまだ足りない。足りなかった。彼らは未だやつの掌の上」

 

 水面に映る月の影のように。

 実体は捉えられず、届かない。

 彼女は一度目を伏せ、宵丸を見つめる。

 

「だが、チャンスはある。我々は奴の計画の外にある。そういう風に浦原喜助が配置したのだ。だから、私と宵丸ならば勝てる」

 

「……シャオ」

 

「だから」

 

 彼女はふっと優しく微笑み、

 

「―――――この戦いが終わったら結婚しよう」

 

「…………………………………………それって、現世でいう死亡フラグじゃないのか」

 

 宵丸が半目になった。

 良い話してたのにと顔で叫んでいる。

 

「何を言うか。それは流石に古い。昔の死亡フラグは最近じゃあ生存フラグだ。生き残る希望だからな」

 

「ちょっとそれっぽいことを……」

 

「フラグは置いといて私は本気だ」

 

「……」

 

 二の句が継げなくなる

 何度も求婚されるたびに冗談と受け流してきたが、本気なのが伝わってくる。

 彼女のことが嫌いなわけではない。

 寧ろ好きだ。

 だがこの100年、自分と砕蜂の状況は色恋を許さないものだった。元々貴族同士である自分たちにとって結婚は重いものだ。自分も彼女も家の名に誇りを持っている。 

 そんな状況で人生の伴侶を決定したくなかった。

 姉のこともあるし。

 

「うぅむ」

 

 お茶を飲む。

 冷静に考える。これからのことを。

 

「…………」

 

 宵丸は首を傾げた。

 あれ、別に断る理由なくね?

 今更砕蜂以外と人生を共にするなんて考えられない。

 誰と結婚すると聞かれたらノータイムで宵丸は砕蜂と考えるだろう。

 結婚生活に不安はない。100年間一緒に生活してきたのだ。良い所も悪い所も知っている。

 だったら、

 

「結婚するか」

 

「……………………」

 

 砕蜂が手にしていた団子の串を落とした。

 彼女は無言でそれを拾い、ついた砂に構わず最後に残っていた団子を口に放り込み、

 

「まじか」

 

「なんで驚いてるんだ」

 

「何のかんの流されるのかと」

 

「冷静に考えて、今回の一件が上手く行けばしない理由がないしなぁ。喜助さんの冤罪が晴れれば姉上も嫁の貰い手が見つかるし」

 

「は?」

 

「もういいからそれ」

 

「うぅむ」

 

 頭を抱えた彼女が頬を赤く染める。

 

「びっくり」

 

「小学生並みの感想」

 

「シャオ、驚愕しちゃった」

 

「ぶりっこ?」

 

「別に宵丸と結婚したいだけなんだからね!」

 

「ツンデレ……?」

 

「これは違った。私はクーデレだ」

 

「アホな、が頭に付くが」

 

「で、マジか? 本気と書いてマジと読むのか?」

 

「マジだ。本気と書いてマジと読もう」

 

「ふおおおおおおおおおお」

 

 顔を真っ赤に染めてくねくねしだす。

 興奮してただでさえどうかしている頭が沸騰している。

 

「宵丸」

 

「おう」

 

 すっ、と彼女は背筋を伸ばし、半身でこちらを向く。

 頬は赤いが、視線は真っ直ぐに。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

「愛してるぞ、ダーリン」

 

「俺もだよ、ハニー」

 

 かくして。

 瀞霊廷で一護たちと護廷十三隊が殺し合いをしている中。

 さっくりと四楓院宵丸と砕蜂の結婚が決まった。

 砕蜂に迫られても、もう困らない。

 

「姉上も喜んでくれるといいが」

 

「当然だろう。あのお方のことだ。今回の処刑だって疑問に思って何かしらの手を打っているはずだ」

 

 

 

 

 

 

「白哉」

 

「……」

 

「ルキアの、妹の処刑は―――本当に良いんじゃな?」

 

「無論、掟に従うまで。それが貴族としての責務だ」

 

「………………あぁ、そうだな。その通りじゃ」

 

「私はもう、掟は破れない」

 

「そうじゃ。その通りじゃ。――――儂も、同じじゃ。二度と違えない。朽木ルキアの処刑にはお主の意思に従おう」

 




3話にしてタイトル詐欺。
うーんこの。
OSRなタイトルに変更します。

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