砕蜂から迫られて困っています   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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何度でも、その名を呼ぶよ。


Call,Call and Call

 黒崎一護と朽木白哉が懺罪宮にて向き合う。

 現世においてこの対峙は、一護の完敗だった。白哉が何をしたのかも分からないほどの力量の差が、彼らには確かにあった。

 だが、今この時においては現世で瞬殺された攻撃を一護は見切った上で向き合う。

 白哉から放たれる霊圧にも顔色を変えない。

 捕らわれの身であるルキアとたまたま一護に協力する四番隊隊員の山田花太郎は思わず膝をついたというのに。それだけで一護の成長が窺える。

 尸魂界における戦いが、彼をそこまで強くしたのだ。

 居合わせた十三番隊隊長の浮竹十四郎も驚くほどに。

 だがそれすらも朽木白哉にとっては、黒崎一護が戦えるだけの力量があるということが分かっただけだ。対峙できるほどに、別人のように強くなった。それは結構。

 しかし所詮その程度。

 祈るように、誓いを立てるように白哉は斬魄刀を構え、厳かに告げる。

 黒崎一護と朽木白哉の格の差を。

 そして己が斬魄刀の名を。

 

「―――――散れ」

 

 斬魄刀の始解が行われ、

 

「――――その名前を聞くと現世でちょっと前に流行った楽曲思い出すから笑えるんだなこれが」

 

 飛来した砕蜂が一瞬にして包帯を刀に巻き付けてせき止めた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

「――――」

 

 突如現れた彼女に浮竹が声を上げて驚き、白哉もまたらしくもなく両目を見開く。

 彼らにとっては100年前に死んだと思っていた人間だったから。

 

「―――砕蜂」

 

「久しいな白哉。随分とキャラが変わった。眉間の皺が寄り過ぎだぞ? 堅苦しそうなのは相変わらずだが」

 

 微かに硬直する白哉へと気安く砕蜂が語り掛ける。

 その名をルキアや花太郎は知らなかったが、

 

「……先代隠密機動総司令官補佐及び同第一分隊『刑軍』副軍団長及び、先代護廷十三隊二番隊副隊長―――砕蜂」

 

「自己紹介ありがとう。我ながら舌を噛みそうな役職だったな」

 

 肩をすくめ、白哉と視線が交わる。

 

「……100年前の一件で、死んだはずだ」

 

「では幽霊か? 死神である私が。色々あって生きていたんだなこれが」

 

「…………では」

 

「さて」

 

 白哉の目が細まる。

 その目は同じく死んだはずの四楓院宵丸が生きていたのかと問うていたのだろう。 

 だが、砕蜂は応えない。元々砕蜂はこの時点で彼らの前に顔を出すつもりはなかったのだ。だが、

 

「……砕蜂さん」

 

「お前のせいだこの阿呆」

 

「えっ」

 

 更木剣八と戦い深手を負っていた一護を回収したまではよかったのだが、その一護が白哉の霊圧を感じてすっ飛んでいったのだ。浦原喜助作の霊圧遮断用及び飛翔用外套を奪って。そのせいで砕蜂は此処まで走って来たのである。

 

「砕蜂さん、助けに来てくれたのは感謝するけど退いてくれ。俺は、こいつを斃さなきゃいけねーんだ」

 

「はぁ? お前が、こいつを?」

 

「あぁ!」

 

「―――戯け」

 

 吐き捨てた直後、砕蜂は一護の背後へと移動していた。

 そして、彼がそのことに気づくよりも速く、人差し指が一護のこめかみに添えられ、

 

「縛道の10―――絶気」

 

 指先から放たれた白い光が一護の意識を刈り取った。

 一瞬でぐったりとなった一護を肩に担ぎ、砕蜂は息を吐く。

 

「重いなこいつ」

 

「……縛道の10・絶気」

 

 口を開いたのは少し離れた位置で眺めていた十四郎だった。

 

「相手を休眠状態にする麻酔代わりの縛道だ。鬼道としては初歩だが、霊圧の大きな相手には高位鬼道の発動以上に難易度が高い。……腕を上げたな砕蜂」

 

「えぇ浮竹隊長。100年間何もしていなかったわけではないので」

 

「彼を治す気か?」

 

「させぬ」

 

 白哉は静かに、そして冷たさを以て告げる。

 

「兄が生きていたことは喜ぼう。だが―――その少年を助けるということは護廷十三隊に弓を引く行為だ。それを、解っているのか」

 

「無論。悪いがこちらにも事情があってな」

 

「――――夜一が泣くぞ?」

 

「お前は妹を泣かせていないとでも?」

 

 視線が交差する。

 そして、

 

「!」

 

 一瞬前まで砕蜂が立っていた場を白哉が斬魄刀で薙ぎ払い、

 

「お前に歩法を教えたのは誰だったかな?」

 

 その背後に、一護を担いだ状態の砕蜂が移動を完了していた。

 砕蜂は口端を歪め、

 

「っ!」

 

 顔を貫く刃を顔を逸らすことで咄嗟に回避した。

 

「兄は私が教えた斬術を終ぞ碌に学ばなかった」

 

「はん! 私は刀なんぞまともに使わんから何の問題もないな!」

 

 砕蜂の頬に一滴、冷や汗が流れ――――二人の姿が霞む。

 次に砕蜂が出現したのは懺罪宮を繋ぐ橋の先。一瞬にて数十メートルを移動し、

 

「兄の瞬歩はその程度だったか?」

 

 その背後に既に白哉が一刀を振りかぶっていた。

 振り下ろす。

 斬撃は砕蜂ごと一護を袈裟に斬り裂き、白哉が、十四郎が、ルキアが、花太郎が、その光景を目撃する。

 しかし、その次に彼らが見た光景は、

 

「―――!」

 

「お前の瞬歩はその程度だったか」

 

 振りかぶった白哉の背後で不敵に笑う砕蜂の姿だった。

 

「――隠密歩法四楓の参『空蝉』」

 

「隠密歩法四楓の参『空蝉』か!?」

 

「隠密歩法四楓の参『空蝉』だと!?」

 

「隠密歩法四楓の参『空蝉』ですか!?」

 

「そう! 隠密歩法四楓の参『空蝉』!」

 

 瞬歩で次の瞬間には、十数メートル上の建物の屋根の上に。

 

「口に出して言ってみたい歩法第一位! 皆が好きな隠密歩法第一位! 隠密歩法四楓の参『空蝉』だ!」

 

「……兄はそんな女だったか?」

 

「お前に言われたくないわ。生真面目が加速しおって。あーまったくお前の顔を見ると全く肩が凝る」

 

 嘆息する砕蜂に、白哉は――――小さく鼻で笑った。

 

「―――凝るような身体には見えんが」

 

「兄様!?」

 

 あからさまな白哉の挑発にルキアが驚愕した。

 厳格さが擬人化したような兄が、そのようなことを言うと思わなかったから。

 

「ぶっ殺すぞ!」

 

 そして案の定砕蜂はキレた。

 中指を立てて白哉に向け、

 

「――――こいつがな!」

 

 そのまま一護を中指で刺した。

 えっ、そいつ? とその場の全員が思った。

 

「3日だ、白哉」

 

 眉間に皺を寄せる白哉に、不敵に笑い告げる。

 

「3日でこいつをお前より強くしよう。それまでは休戦にさせてもらうぞ? ―――何やら瀞霊廷も忙しいようじゃないか。そっちを調べることをおすすめする」

 

 一瞬、白哉と浮竹にそれぞれ視線を移し、

 

「100年待っただろう? 後3日くらい待てばいい。あぁ、追ってきても構わんが」

 

 砕蜂の姿が霞み、消える。 

 同時に白哉と十四郎の霊圧感知からも消失した。

 それはただの歩法によるものではなく、鬼道も併用した高度な隠形であることを、一度消失されては再捕捉が難しいことを二人は気づいていた。

 

「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

 

 

 

 

「うーむ、参ったな」

 

 懺罪宮から離脱し、安全な所まで来た砕蜂は一護を下ろして首を傾げた。

 

「予想よりも白哉の腕が上がっていたではないか。あやつめ……」

 

 対峙し、霊圧を感じただけで分かる。

 朽木白哉は強い。

 100年前は夜一がちょっと煽っただけでキレ散らかしていた白哉だが砕蜂がふざけても全く揺らがなかった。

 対峙し、霊圧を感じれば分かる。

 おそらく、砕蜂の持つ奥の手2つのどちらかを切れば倒せるだろうがそのうちの一つは使いどころが決まっている。もう一つは使えなくもないが、

 

「あの場で戦ってたらルキアとあの汎用モブ隊員も死んでただろうしなぁ……」

 

 それは困ってしまう。

 その上、敵にもこちらの手の内が晒されていただろう。それはまだ早い。

 砕蜂と宵丸には段取りがあるのだから。

 戦力が足りない。

 おそらく、ルキア救出の為なら浮竹十四郎は力を貸してくれるだろう。十四郎がいればその親友の京楽春水の力も当てにできる。

 だが、それだけ。宵丸と砕蜂は護廷十三隊隊長格の力があるが、十四郎と春水以外を相手取れと言われれば流石に困る。

 特に総隊長の山本元柳斎重國にはダメだ。

 あの爺はちょっと次元が違う。

 状況を整え、完璧な準備をし、後先考えずに宵丸と砕蜂が手の内全て晒してやっと勝ち目が見えるというレベル。

 何が困るって、今回の一件で彼が敵に回るのは絶対に避けられないということだ。

 

「うぅむ、どうにか浮竹と京楽を引き入れて相手を押し付けなければならん」

 

 二人が聞けばガチ切れしそうなことをつぶやく。

 戦力が足りない。

 そもそも敵は護廷十三隊ではない。

 そのうちに潜む者。

 だが、十三隊はその存在に気づいておらず戦いは避けられないのだ。

 

「……癪だが、お前の力も当てにするぞ」

 

 意識を失った一護を見下ろす。

 浦原喜助の、四楓院宵丸の弟子とも言える男を。

 潜在能力は十分。既に霊圧は隊長格に匹敵しているのだから、斬魄刀の秘奥を体得すれば白哉とも渡り合えるだろう。

 準備は進んでいる。

 宵丸との別行動もその為だ。

 新妻を放っておいて、とは思わなくはないが必要なことだから。

 

「……あ、私と宵丸が結婚することを伝えれば流石に動揺したか?」

 

 再び首を傾げ、

 

「いや、私とダーリンは100年前からラブラブだったから驚くこともないか!」

 

 

 

 

 

 

 

「砕蜂が生きていた」

 

「―――――」

 

 突然二番隊の隊首室に押しかけた白哉は四楓院夜一へと言い放った。

 褐色の肌。隊長のみが着ることを許される隊長羽織。紫がかった黒髪は肩まで無造作に伸ばされている。猫科の動物を思わせる琥珀の目は美しく、しかし驚きに見開き震えていた。

 

「――――なん、じゃと?」

 

「砕蜂が生きていた。五体満足でな。おまけに腕も随分と上げていた」

 

 一度鼻を慣らし、

 

「随分と昔の兄(・・・)に雰囲気が似ていたな」

 

 夜一の目に一瞬歓喜が交じる。

 100年前死んだはずの妹分が生きていた、それは喜ばしいことだし、彼女が生きているのならば、

 

「宵丸も、おそらく一緒だろう」

 

「!」

 

 琥珀の瞳に涙が滲む。

 だが―――次の白哉の言葉に彼女は硬直した。

 

「アレは旅禍の味方をしていた」

 

「――――」

 

「黒崎一護、私が現世で斬り捨て死神の力を失ったはずだが、アレが力を貸して死神の力を取り戻したのだろう。死人が生きていたのだ。もう私は驚かん。砕蜂の鬼道の腕も上がっていた所、宵丸もいるはずだ」

 

 だからと、朽木白哉は四楓院夜一を真っすぐに見据えた。

 

「兄はどうする?」

 

「―――」

 

「かつての弟が、妹分が護廷十三隊に、我々が護るべき掟に弓を引いている」

 

 ――――その時兄は二人を殺せるか? 

 それだけ言って白哉は隊首室を去った。

 言いたいことはそれだけだと。

 自分はもう決めていると言わんばかりに。

 実際白哉はもう覚悟を決めている。

 例え相手がかつて共に研鑽を重ね、武芸を教え合った親友たちが相手だろうとも。

 彼は殺すだろう。

 朽木白哉は妹を死なせるために、親友だって殺す。

 彼にはそれだけの覚悟があるから。

 

「――――」

 

 では、四楓院夜一は? 

 白哉が去り、一人だけになった隊首室。彼女は自身の椅子に深く座り込む。

 その表情は髪に隠れて見えない。

 

「……宵丸、砕蜂」

 

 呟くのは失ったと思っていた名前。

 これから己の立場としては手を下さねばならない相手。

 この100年間一度も忘れなかった二人。

 

「――――」

 

 答えが出ることはなく―――処刑の日は迫る。

 

 




BLEACHssでやたら良く見る空蝉。
かっこいいですよね。


砕蜂のキャラ崩壊が著しいということでタグを色々追加しました。
作者は勝手に電波砕蜂と呼んでいます。

夜一さんがメンタルやばそうなのは仕様です。
日刊1位いただきました、ありがとうございます。

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