砕蜂から迫られて困っています 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
その魂はこの手足に宿る。
私はそれを振るって天を衝く。
「どういうことじゃ!?」
夜一は一番隊副隊長である長次郎に腕を掴まれながら、護廷十三隊総隊長・一番隊隊長山本元柳斎重國へと吼えた。
普段飄々と笑みを浮かべ、活発ないたずら猫染みた彼女はどこにもいない。
余裕はなく、焦りと恐れ、そして怒りだけが今の彼女を動かしていた。
「謹慎じゃと!? 宵丸と砕蜂が死んだというのに! 喜助と鉄裁が捕らえられたというのにか!? この儂に! 動かず大人しくしとれというのか!」
その知らせを聞いたのはつい先ほどのことだった。
流魂街における魂魄消失事件に赴いた隊長副隊長たちは虚となり、その下手人は浦原喜助。握菱鉄裁はその協力を行い、禁術を使用した。そして―――四楓院宵丸と砕蜂は虚化に耐え切れず死亡し、魂魄ごと消失した。
意味が解らない。
虚化? それを為したのが浦原喜助?
何よりも、弟と妹分の弟子が死んだなんて。
「元柳斎!」
「その現状が、全ての理由じゃ」
「っ―――」
元柳斎は狼狽える夜一を見据える。
「肉親と副官を失い、その上自身が隊長に推薦した男がその実行者であるなど平静を保っておられるものか。この一件は既に中央四十六室では最重要案件として扱われておる。そして、決は既に下された」
「まだじゃ! 儂が喜助と話す!」
「ならん」
夜一が食い下がっても、元柳斎は揺らがない。
その眼は静かに、されど確かに燃えている。
全てを焼き尽くすような静かな炎。
ただ、そこにはほんの僅かに夜一を気遣うものがあり、
「動くな、夜一よ。お主は浦原喜助との親交があった。下手に動けば―――主にも嫌疑が掛けられるぞ」
「知ったことか!」
それでも夜一は吼える。
「儂が、宵丸と砕蜂を行かせたのじゃ!」
「左様」
叫びと共に吐き出されるのは後悔と慚愧。
流魂街消失の解決部隊に彼女は宵丸と砕蜂を半ば無理やりねじ込んだ。
二人ならば大丈夫だろうという信頼と楽観があった。
仲睦まじい二人に経験を積ませたいと、関係が深まればいいという老婆心があった。
そして――二人は死んだ。
「っ……儂の、せいで……!」
「……否定しても、主は受け取らんだろう。で、あれば今は動くな。四十六室の沙汰を待て」
「いいや! 儂のせいだからこそ……!」
「―――長次郎」
「御意」
「!?」
元柳斎の呟きに振り向いた時、自身の腕を掴んでいた長次郎は開いた手で既に始解を済ませた斬魄刀の柄を夜一に向けていた。
名前を呼ばない斬魄刀の始解。
即ちそれは彼が卍解に至っているということ。
人伝手には聞いたことがあった。一番隊副隊長である彼が卍解を習得しており、かつて元柳斎の顔に傷をつけた張本人であるということを。本来であれば副隊長に収まらない力量の持ち主であるということを。
けれど、それを本当の意味で彼女は信じていなかった。
疑っていたわけではないが、それでも慢心していた。舐めていた。
その間隙を見逃す元柳斎と長次郎ではなかった。
「恨んでいい」
雷撃が走り、意識が強制的に遮断される。
消える意識の中、最後に聞こえたのは長次郎の優しい声だった。
恨んでいいだなんて。
恨むべきは彼ではない。
四楓院夜一が許せないのは――――自分だけだ。
あの時の我がままを、彼女はずっと後悔している。
100年間、後悔し続けている。
そして意識を取り戻した時、全てが終わっていた。
浦原喜助と握菱鉄裁、虚となった隊長たちは正体不明の謎の人物により逃亡を果たしていた。
●
「―――――」
そんな100年前のことを、双極の丘を落下しながら夜一は思い出した。
朽木ルキアの処刑は実行されなかった。
処刑の直前黒崎一護が現れ、止めたのだから。
双極は十四郎と春水が、何故か持っていた四楓院家の封印された秘具により破壊された。三日ほど前に屋敷から盗難されたものだ。
ルキアは遅れて現れた恋次に連れていかれ、副隊長たちは一護に瞬殺された。
夜一は白哉に助太刀しようとして――――突如現れた外套で全身を隠した小柄な影に双極の丘から突き落とされた。
不意打ちされた自分の間抜けさに憤りつつ、その影をにらみつけ、
「お久しぶりです、夜一様」
「――――」
その声に、外套の下の顔に夜一の時が止まった。
かつて失ったはずの妹分。
生きていたと聞いたばかりの弟子。
「――――砕蜂」
●
「生きて……おったのか」
「はい、
開口一番ニュアンスが夜一の想定しているものと違うが、しかしそんなことに気づく余裕はなかった。
双極から離れた雑木林で二人はおよそ100年振りに対峙する。
砕蜂は静かに柔らかく微笑み、夜一は信じられないと言わんばかりに目を見開いている。
「お主は、生きていた」
「はい。色々ありましたが、この通り生きております」
「宵丸は」
「無論、元気ですよ。今は、今だけ、今回限りの別行動ですが。えぇ、今後一秒たりとも離れる余地はないですし、逃げようとしても離しません。首輪とか付け合いたいですねお互いに」
「生きて……生きて、おったか……!」
夜一は感涙のあまり砕蜂の言葉の最初しか聞いてなかった。
目頭を押さえ、滲む涙を止められない。
「……」
ツッコミ待ちだった砕蜂は、思った以上の義理の姉の様子に思わず照れてしまい頬を掻く。
「あー……夜一様。感動の再会は私が望む所なんですが、というか100年振りに私も夜一様成分補給したいんですが。今は状況が状況でして」
「んっ ……む、そうだったな。状況が状況じゃ」
今度は最後の言葉しか聞いていなかった。
夜一は濡れた目元を拭い、一度息を吐く。
「―――――砕蜂」
「はい」
「主と宵丸が生きていたことは嬉しい。これは本当じゃ。心の底から」
だが、
「――――今、お主は護廷十三隊の敵か?」
琥珀の目を細め、問う。
鋭いが、しかしその頬には一筋の汗。
そうであってほしくないと、彼女の心は叫んでいた。
「……ふむ、難しい問いです」
しかし夜一の剣呑さはとは対照的に砕蜂は軽い動きで首を傾げた。
「心としては護廷の矜持を忘れていないつもりです。――――ですが、行動を見れば、敵と言われても否定はできないでしょう」
「――――砕蜂」
「はい」
「今すぐに、投降しろ」
「できません」
信じられないと、夜一は目を見開く。
どうしてと、彼女の表情は告げていた。
「いえ、別に夜一様と敵対したいわけではないですが、この処刑は止めなければならないんですよ。夜一様とて朽木ルキアの極刑には疑問もあったでしょう?」
「――――それは」
それは、その通りだ。
朽木家の娘相手に重い刑、重なる執行日の短縮。
確かにおかしいと思った。
だが、
「それは、それが、護廷十三隊の決定じゃ」
夜一は吐き捨てる。
「儂はもう、掟を違えん。己の意思で、我儘で公人として判断を過つことはせん。尸魂界の貴族として、護廷十三隊の意思に従うと」
「変わられましたね、誰よりも奔放であった貴方が」
「その主の言う奔放さが!」
割れるような叫び。
「儂が……お主らを殺した……っ!」
「生きてます。超生きてます。現世エンジョイしてました。ピースピース」
慟哭を上げる夜一とは対照的に両手でピースして砕蜂が元気さをアピールしていた。
だが夜一の反応はなく、砕蜂は居心地の悪さにすぐに下した。
はぁ、と一度息を吐き、
「夜一様」
真っ直ぐに見つめる。
「私は、この極刑を止めます。護廷十三隊の意思に背くとしても、そもそもそれは歪められたものですから」
「――――ならぬっ!」
夜一の息は荒く、目元にはぬぐったはずの涙が。
彼女自身、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
自身の判断で殺したと思っていた、だから掟を違えぬと誓った、なのに二人は生きていて、その片割れは十三隊の意思は歪められたものという。
解らない。何が正しくて何が間違っているのか。
あの100年前から彼女は自分で考えることを禁じていた為。
そして、解らなくなって、どうすればいいか答えは見つからなくて、
「――――!」
双極から二つの大きな霊圧を感じた。
片割れは覚えのないものだが、もう一つは知っている。
朽木白哉。
しかもその霊圧の波動は卍解したもの。
誇りの為に、己の誓いの為に、妹すら殺そうと決めた男の者。
何もかも解らなくて――――しかし、それだけは今の四楓院夜一の中で確かなものだった。
そして、その瞬間、彼女の意思は決まった。
「―――――――――瞬閧」
霊圧が雷鳴と共に弾けた。
背と肩より霊圧が放出され、隊長羽織と死覇装が吹き飛び、露出の多い刑戦装束のみが晒される。
「……夜一様」
その様に砕蜂は目を細めた。
それは夜一の本気。
卍解を用いるよりもこの技を使った方が強いという、死神にあるまじき四楓院夜一の戦闘形態だ。
「――――儂が」
雷鳴と霊圧を纏いながら、琥珀の瞳から涙を流す夜一は最早揺れていない。
「儂が揺らいで……白哉坊が揺らがんとは。全く笑える話じゃ。……あぁ、そうじゃ。砕蜂、宵丸が生きていたことは嬉しい。だが……それで、主らに迎合すれば――――誇りと矜持の為に妹を殺さんとする白哉坊になんと言えばいい?」
「……」
弟と妹分が帰ってきて妹がマジ妹になっておった! じゃ駄目ですかねお義姉様! と言いたかったが流石に砕蜂も空気を読んだ。
その霊圧が本気であると悟っていたからだ。
「お前が何をしようとしているのか儂には解らん。だが、止めるぞ砕蜂」
それが、
「護廷十三隊二番隊隊長、四楓院夜一の責務じゃ」
「―――なるほど」
それは砕蜂の知らない夜一だった。
きっと自分たちが変えてしまった夜一なのだろう。
彼女の決意を咎める気はない。
寧ろ、この対峙に、夜一の本気に場違いな嬉しさを覚えていた。
知らず知らずのうちに口端が歪む。
彼女の本気と戦えることが。
100年を経て、自分がどれだけ成長したのかを師匠に見せられるから。
「で、あれば! 私の意思と夜一様の誇りをぶつけあうことに迷いなどありませんとも!」
「―――無駄じゃ、この姿の儂を主は知らんだろう。これは」
「高密度の鬼道を手足に纏い、白打と共に打ち込む高等技法。隠密機動の長に伝わる文字通り必殺技。刑戦装束がこんなドスケベ衣装の由縁ですよね」
「どす……? ……あぁ、宵丸から聞いてたか」
「えぇ―――そうです、当然私も知っています」
「! まさかお主も――――!」
「
驚く夜一に、しかし砕蜂は否定する。
「生憎――――その先です」
斬魄刀に手を添え、
「―――――――卍解」
霊圧を解き放った。
「っ! 砕蜂、お主卍解まで……!」
霊圧と共に暴風が轟く。
そして、
「雀蜂雷公鞭
その名を告げる。
「―――――瞬閧纏装・無窮轟嵐」
それは両手両足に装備された手甲と脚甲だった。
始解時点の雀蜂は片手に嵌められる爪と手甲だ。それが両手足に備わり、肘と膝から先を完全に覆う形。始解のそれより装甲は厚みを得て、流線を描き、肘や踵の位置からは短い管が伸びていた。
卍解と同時に砕蜂の短裾の羽織も吹き飛び刑戦装束へ。
そしてその背に、霊圧でできた翼を背負う。
「……なんじゃ、それは。卍解、か?」
砕蜂の卍解を目にし、夜一は何度目か解らない驚愕に襲われた。
斬魄刀の卍解は総じて巨大を誇る。
それは純粋なサイズであることが大きいが、同時に規模の話でもある。
卍解後の斬魄刀のサイズが小さくとも、それから生じる規模は超広範囲、という卍解は儘あるものだ。
だが、砕蜂のそれはそうは見えなかった。
シンプルな具足にしか見えないのだから。
いや、そもそも、
「改メ、じゃと」
その名には聞き覚えがあった。
それは、
「えぇ、浦原喜助の卍解。『観音開紅姫改メ』、あれで元々の卍解を作り替えさせました。前はクソデカミサイル射出とかいう私の長所を全部消すちょっとアレだったので」
その時には雀蜂と盛大な喧嘩をしたのだが、しかし有用性において雀蜂も納得させた。
「喜助じゃと……! アイツまで噛んでおるのか!」
「えぇ! 相変わらずの糞野郎です!」
文句を言いだすと尽きないので、早々に一言で終わらせ、
「『瞬閧纏装』は、言ってしまえば瞬閧を前提とした卍解です。私がたどり着いた瞬閧は風の形になったために戦闘力よりも継戦能力に長けていたんですが」
肘先と踵から延びる管が光った。
そう思った瞬間、
「――――――――――!?」
気づいた時には腹部を殴られ、暴風に飲み込まれながら数十メートル吹き飛んでた。
「がはっ、ごほっ……! っ、今、のは……!?」
「オリジナルの雀蜂雷公鞭は街一つ吹き飛ばしかねないミサイル砲。それを―――具足の推進力として利用し、その加速と共に瞬閧の白打を叩き込む。それが『雀蜂雷公鞭改メ・瞬閧纏装・無窮轟嵐』」
口から血を吐き、砕けた地面に埋もれた夜一の前に瞬歩で現れた彼女は腕を組み、
「雀蜂雷公鞭は死んだ! もういない!」
吠える。
「だけどこの手足に! 一つになって生き続ける――――うるさい、なんだ雀蜂。死んでない? イメチェンしただけ? 黙れ、今私が人生で言いたいセリフ第3位を言っているのだ……!」
「っ、何をふざけておる!」
「私はいつだって大真面目ですとも!」
そして雷と風がぶつかり合う。
100年振りの師弟対決がここに始まった。
宵丸の霊圧が消えた……?
くそ雑魚メンタル夜一さん。
許して。
全部終わったあとにしおらしい夜一さんが出てくるので許して。
『雀蜂雷公鞭改メ・瞬閧纏装・無窮轟嵐』
元々ミサイル発射だった卍解を浦原喜助の卍解により作り替えたもの。
両手足の具足で、肘と踵にブースターが備わっている。そこから本来ミサイルとして打ち出す霊圧を加速器として用い、その速度に乗せて瞬閧の白打を行う卍解。
暗殺には適さないが、しかし砕蜂の白打と歩法を活かした姿。
砕蜂の奥の手その1.
弱砲雷公鞭は死んだ。
僕は手足アイアンマンと呼んでます。
まぁアイアンマンには管状加速器ないけど。
日刊1位とルーキー1位を二日間くらい乗せていただいたようでありがとうございます。
感想評価お願いします。