砕蜂から迫られて困っています   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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姿なきものは闇に紛れ、夜に踊る。

誰も知らない舞いは光に当たり闇を深める。


歓喜せよ、舞台の幕は上がる。


Time to first show

「――――!」

 

 拳と拳が激突する。

 瞬閧を纏う夜一の拳と瞬閧を纏った上で、卍解によりさらなる加速を乗せた拳。

 ぶつかり合い、

 

「っ……!」

 

 夜一の拳が押し負け、大きくのけぞった。

 瞬閧そのものの質や威力としては夜一の方が高い。それは研鑽に費やした時間によるものであり、雷という攻撃的な性質によるものだ。

 だが砕蜂の瞬閧卍解・雀蜂雷公鞭・瞬閧纏装による加速がそれらを上回る。

 夜一の姿勢が大きく崩れるが、同時に砕蜂もまた超加速による白打の技後硬直は小さくない。肘と踵から生じる超加速。そこから繰り出される拳撃の威力は尋常ならざるが、その代償として大きな隙が生じてしまう。

 されど、その隙を埋めるのもまた瞬閧卍解によるものだ。

 

「―――ふっ」

 

 夜一の目には砕蜂の肘と踵が光り、彼女が短い呼気を吐いたように見えた。

 そして―――次の瞬間、技後硬直をすっ飛ばした回し蹴りが夜一に叩き込まれていた。

 

「ぐっ……ぅっ―――!」

 

 咄嗟に右腕のガードが間に合ったのは偏に運と経験による直感だ。

 だがその右腕は蹴撃に砕かれ、ガードの上からあばら骨が数本砕かれた上で吹き飛んだ。

 

「ごほっ!」

 

 十数メートル地面を削りながらめり込み、血の塊を吐く。

 骨身に染みるダメージに体が痙攣し、即座に起き上がることが出来ないほどの威力だった。

 荒い息を抑えながらなんとか見据えた先には、両腕を下げて自然体で佇む砕蜂の姿。

 完全に砕蜂の速度は夜一の反応限界を超えていた。

 四楓院夜一にとってそれはここ100年以上、隊長となってから初めての経験だった。

 『瞬神』夜一。 

 その名は尸魂界最速の死神であるが故に呼ばれる名であったのだから。

 

「っ……砕蜂、ここまでとはな……!」

 

「これまでです」

 

 かつての師を超え、砕蜂は言い放つ。

 

「100年前、私は貴女に守られるだけだった。ですが、もう違う。―――私はもう、夜一様に守られるほど弱くありません」

 

「はっ……言ってくれおる。素直に超えたと言えばいいものを」

 

 ふら付きながら体を起こすが、膝立ちで止まる。

 右腕は痛々しく垂れ、左手で脇腹を押さえずにはいられなかった。

 夜一は思わず笑ってしまう。

 在りし日、いつか超えられると思っていた。いつか超えて欲しいとも。

 だが死んだと思って、生きていたかと思えば既に超えられていたなんて。

 

「まったく……人生何が起きるか解らんもんじゃ」

 

「えぇ。そしてこれからも人生は驚きに満ちています」

 

 夜一の心臓を止めかねない爆弾発言を控えている砕蜂がしたり顔で頷いた。

 その顔に、夜一はもう一度笑い、

 

「―――だが、まだじゃ砕蜂。護廷十三隊二番隊隊長として、かつての弟子に超えられたからと言って、為す術もなく敗北などできるか」

 

 一度、目を伏せ――――腰の後ろに隠し持っていた斬魄刀を引き抜いた。

 

「!?」

 

 その斬魄刀に砕蜂も驚き目を見張る。

 形状はいわゆるドス、鍔もない短刀だった。

 そしてそれは初めて見る夜一の斬魄刀だ。彼女も十三隊の隊長であるなら卍解を習得しているのは当然だが、しかしこの女傑、卍解するより瞬閧状態で殴った方が強いというとんでも理論の持ち主なのだから。

 無論、砕蜂はそして弟の宵丸でさえも卍解どころか始解さえ見たことなかった。

 それが今、解き放たれる。

 

『卍解―――――』

 

 滲み出るように夜一から霊圧が解き放たれる。

 瞬閧のように弾けるのではなく、太陽が落ちるかのように静かに。

 

『――――――――夜舞夜天魔帳(やまいやてんまとばり)

 

 刹那、砕蜂の視界が漆黒に染まり――――その卍解の名は背後、耳元から囁かれた。

 

「っ――!?」

 

 意識は逸らさなかった。

 寧ろ神経の全てを注いでいた。それにも関わらず、砕蜂の近くを超えて、いつの間にか背後から夜一が抱きしめるように現れていたのだ。

 耳への声に反射的に肘を叩き込むが、空振りする。 

 確かに一瞬前まで自分に触れていたはずの夜一はどこにもいない。

 いや、その上先ほどまで林の中で戦っていたのに視界一面漆黒に染まっている。

 光がほとんどない。

 砕蜂から放たれる霊圧が光を放っているが、それだけだ。

 そして、声はどこからともなく聞こえてくる。

 

「儂の卍解は正直言って儂にあっておらん」

 

「えぇ!? 卍解なのに!?」

 

「儂の卍解は結界系にあたるものじゃ」

 

 砕蜂の渾身のボケはスルーされた。

 ついでに身に纏う雀蜂が喚きだしたが、それはそれでスルーして夜一の言葉に耳を傾ける。

 

「卍解と同時に展開する影の結界内における任意の影渡り。始解時点で影間の移動を行うものの上位版なんじゃが……まあ、儂にとっては瞬歩移動した方が速いから使うことがまぁないんじゃなこれが」

 

 だが、

 

「―――主は儂より速い」

 

 それまで誰よりも速かった死神は、そのことを認める。

 

「この卍解は自分よりも速い相手に使わねば意味がない。意味がないというか、それよりも瞬閧で殴った方が楽じゃ。じゃが―――主相手であれば、使う意味がある」

 

「―――がっ!?」

 

 言い切ったと同時に、砕蜂の首に夜一の両手が伸び、首を極められる。

 死神では使う者が少ない締め技だ。

 自分の首を極めている夜一の腕を掴み、ズラそうとするが流石と言うべきかその締め技は完璧の一言だった。

 首と腕の隙間に、指を喰いこませるように差し込もうとするがまるで入らない。

 筋肉で抵抗するが、大した効果がないのは砕蜂自身が認識していた。そして、この接触距離では瞬閧纏装の効果も薄い。莫大な加速を生むが、同時にそれはある程度の距離を必要とするからだ。

 そして首だけではなく、砕蜂よりも長い脚を巧みに使うことで足の動きも制限される。

 瞬閧の要領で霊圧を背から発するが、

 

「甘いわ……!」

 

 同じく瞬閧により鬼道を全身から発することで相殺し、締めは緩まない。

 

「っ……ぎっ……!」

 

「主は儂より速い――だが、負けるわけにはいかん! このまま締め落として牢に放り込み、全てが終わった後に宵丸共々話を聞いてやろう!」

 

 零距離において、人間の構造的に思った以上に力が出ない。それは死神だろうとそれは同じことだ。どれだけ鍛錬を重ねたとしても、完璧に決まった締め技というのはどうしようもないのだ。

 

「100年前何があったのか! この100年間何をして、何故今になって顔を出したかを―――!」

 

「―――っ」

 

 落ちたと、夜一は思った。 

 実際、夜一の腕を握りしめていた砕蜂の手から力が抜けた。

 そして、その手は彼女の顔。右頬へ。

 左の中指が頬に触れ、静かに滑らし、

 

「――――――――」

 

 ――――――――――閃光と共に夜の帳が消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「――――なんじゃ、今のは」

 

 卍解を無理やりに消し飛ばされ、原形を残せなかった林にあお向けに倒れた夜一は静かに問いかけた。

 その隣、膝を立てて座る砕蜂は苦虫を噛み潰した顔で応えない。

 それは彼女にとって奥の手であり、本当はこんなところで使うつもりもなかった。だが、まさかの夜一の卍解で使わざるを得なかったのだ。

 

「……まぁ、良い。それが顔を出さなかった理由なわけか」

 

「えぇ、まぁ。それが全てではないですけど」

 

「そうか」

 

 夜一は息を吐き、目を閉じる。

 そして目を開けた時、彼女は自分でも不思議になるが、口元には笑みが浮かんでいた。

 

「儂の負けじゃ。……強くなったな、砕蜂」

 

「…………」

 

 思わず、砕蜂は泣きそうになった。

 かつて憧れ、目標として追い続けた人にそう言ってもらえたから。

 思っていた道のりとは随分と変わってしまったけれど、それでも一つ夢が叶ったのだ。

 

「……あの旅禍を鍛えたのは主と宵丸じゃろう。四楓院の家に封印してた転神体と双極破壊の秘具が消えていた」

 

「はい。宵丸が三日前くらいに四楓院家に忍び込んで回収していました」

 

「生家に盗みに入るとはのぅ」

 

「生家なので盗みではないでしょう」

 

「かっかっか、言いよる」

 

 声を上げて笑う。

 そんなことは100年振りだった。

 

「白哉坊は強いぞ。主が知る100年前よりもずっと」

 

「えぇ。……ですがまぁ、一護も捨てたものじゃないです。私と宵丸の弟子ですから」

 

「ほうほう、なんとまぁ……確かに大した霊圧じゃった」

 

 息を吐き、身体の力を抜く。

 肩の荷が下りたようだった。状況はまるで好転していないが、何故だか安心してしまったのだ。ずっと宵丸と砕蜂の死を引きずって生きてきた。だけど二人は生きていて、自分を超えていたのだから。

 引退時かと素直に思った。

 夜一には解らないが、砕蜂たちには考えがある。

 であれば、どうにかこうにか上手くいって、二番隊隊長も彼女に譲りたい所だ。

 

「それで? この後はどうするつもりじゃ?」

 

「そうですね……」

 

 砕蜂は顔を上げ、双極の方を眺める。

 まだそこには白哉と一護の霊圧がぶつかり合っていた。

 感じる規模から既に互いに卍解している。

 決着はそう遠くないだろう。

 尸魂界各地からも大きな霊圧がぶつかりあっており、戦いが佳境を迎えていることが分かった。

 

「……今は一度体を休めます。浦原喜助の想定通りなら、ここからが正念場ですから」

 

「―――――――喜助は」

 

「なんですかその―――は。え? 夜一様はあのくそ野郎と結婚とかしませんよね?」

 

「どういう飛躍じゃ!? そんなわけあるかっ!」

 

 否定するが、しかし一瞬で夜一の顔が真っ赤に染まった。

 うっそんと、砕蜂は思わず頭を抱える。

 あんな男のどこが良いんだろうか。

 確かに頭は良いし強いし、何でも作れるが如何せん性格というか性根が最悪だ。

 

「あんな男を義兄と呼びたくない……」

 

「いやだからそういうのでは―――――――ん? 義兄?」

 

「あっ。そうです。落ち着いたので言いますが、私と宵丸はこの一件が片付いたら結婚しますお義姉様」

 

「…………………………」

 

 夜一の目が点になった。

 数秒、沈黙。

 風が吹き、

 

「えっ?」

 

「だから、私と宵丸は結婚します。この前プロポーズを……ええと、婚約を済ませました。後はもう式を挙げるだけですね」

 

「えっ?」

 

「この100年現世でいちゃこら婚前旅行と長かったですがようやくです。子供は頑張って作るので期待しててくださいね」

 

「えっ?」

 

「夜一様」

 

「えっ?」

 

「おや、キャラ崩壊……?」

 

「いや、お主だけには言われたくない。拾わんかったがお主なんか言動おかしくないか?」

 

「いえ、現世ではこれが普通です」

 

「現世マジか……」

 

 現世出身の旅禍組が聞けばブチギレそうなことを当たり前のように砕蜂は言った。

 こんな女三界のどこにもいない。

 

「というわけで夜一様はこれからお義姉様というわけです」

 

 にっこりと、100年前は絶対浮かべなかったどや顔と笑顔を混ぜたような顔に、夜一思わず思ったことが口に出た。

 

「今のお主はなんか妹にはしたくないのぅ」

 

「えぇ!?」

 

 




『夜舞夜天魔帳/やまいやてんまとばり』
四楓院夜一の卍解
発動と同時に結界を展開し、その中において任意の場所タイミングで移動を可能。結界内限定の瞬間移動―――なのだが、尸魂界に夜一よりも速い死神も虚もいないので瞬歩で背後取って殴った方が速いせいではっきり言ってあまり使い道もない。使い方を工夫すればそれなりに有用なのだが、やっぱり殴った方が速い。
微妙に東仙要の卍解と被ってるしなぁ、というのが本人の弁。

折角なのでねつ造卍解。
名前のオサレ度全振り。
夜一さんの卍解じゃなかったら結構強い。


砕蜂の斬魄刀についての私見ですが、
始解は良いと思うんですよね。
破面編で愛染に打ち込んだシーンの砕蜂が美しすぎるし、刑戦装束エロいし。まぁ二撃決殺もよかろう。

卍解の弱砲は悪く無いんですが、如何せん砕蜂との相性が駄目。
あとあれ使ってる時刑戦装束にならないのでマイナス5000兆点。
二撃決殺からの一撃必殺はいいんですけど、にしたって三日に一回が基本とかいまいちすぎますよね。

まぁハゲの卍解よりましだけど。

このss書くために一応原作読んでるんですが、砕蜂がマジでまともな勝利がバラガンの手下くらいしかなくて草。
ほんと可愛さに全振りした子ですよ。
好き。

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