砕蜂から迫られて困っています 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
人を喰らうこの口で、空を飛びたいと言ったとしたら
君は手を指し伸ばしてくれるだろう。
ただ僕はその時、その手を取れるだろうか。
四十六室の地上部建物が一瞬で消し飛んだ。
はじけ飛ぶ瓦礫と閃光は瀞霊廷中からも確認できるほどの規模だった。
「くっ……!」
立ち上る土煙から飛び出したギンの死覇装の左腕の袖が焼けこげ、腕にも傷を負っている。
破道の九十一、千手皎天汰炮を正面から受けてそれで済んだのだからむしろ僥倖と言えるだろう。
地面を削りながら着地し、行き着く暇もなく見上げた先に、
「うおっ!」
直径十数メートルはある巨大な氷柱が迫っていた。破道の六十二・
そしてそれだけはない。
今だ土煙が離れない視界の中、しかし発せられる霊圧がその存在を教える。
環刃を回した四楓院宵丸。そして、もう一度。
「!」
ギンの体を光の帯が六つ、突き刺さり上半身の動きを拘束する。
縛道の六十一・六杖光牢。
汎用性の高い高位の縛道で使い手も多いもの。
動けず、頭上には巨大な氷。
何もしなければギンは氷柱に打ちのめされ、氷漬けだ。
だから、ギンは拘束されながらも動きを止めなかった。六杖光牢の拘束は肘の位置。勿論同時に肉体の動きすらも阻害するが、霊圧によりある程度抵抗はできる。故に霊圧を刀を握る左手に集中し、脇指しを振るい―――――超伸縮した刃が氷柱を両断した。
同じ要領で六杖光牢の帯も貫き断つ。
それらの一連の行動に必要としたのはコンマ数秒以下の一瞬の出来事だった。
そして霊圧感知に従い、切先を宵丸に向ける。
――――神速。
音さえ置き去りにして神殺槍が宵丸へと延びる。
その速度は宵丸でさえ認識できないものであり、文字通りの必殺だ。
「おっ?」
だが、その神速を抜いたギンは予想外のことに目を微かに開いた。
神殺槍が伸びた軌道上、宵丸の三メートルほど手前で何もない空間が小さく爆発した。その爆発が軌道をわずかにずらし、
「っと!」
環刃で受け流し、右肩をわずかに切り裂くのみでダメージを抑える。
「あれま、驚いた。まさか二度目で対応されるとは」
「見えないほどの攻撃って、シャオだって同じだから。あいつの本気の速度は俺にも目視できない。こいつぁその対策でくみ上げたもんだ」
「んー、伏火と曲光?」
「惜しい。伏火を周囲に張り巡らして、曲光で隠してるのは正解だ。その上で灰縄を自分の体に繋いで、伏火に何かが触れて爆発したと同時に自分の体を自動で動かしてるわけだ」
「はえー、ほんま宵さんは鬼道の組み合わせが凄すぎてきもいわぁ。頭どーなってるん? 貧乳拗らせるとそうなるんか?」
「巨乳で窒息して死ね!」
罵倒と共に環刃で回転。
同時、ギンを囲むように漆黒の壁が空間を歪めながら覆っていく。
展開した鬼道は破道の九十・黒棺。生み出した直方体の中を超重力子の氾濫で押しつぶす極めて破壊力の高い鬼道。扱いが難しく、発動に代償や条件が必要となる九十番台ではまだ使いやすい類であり、相手を黒棺が囲むので逃げ場を無くせる。
「―――――舞踊旋刃」
黒棺が一瞬で細切れにされた。
砕け散る黒片の中、にへらと笑みを浮かべたギンの手に斬魄刀はない。手から鬼道でできた紐が伸び、それが斬魄刀に結び付いている。その紐を振り回しながら神殺槍の刃を伸ばして黒棺を微塵に断ったのだ。
「……お前、そんなことできたのか」
「ただ使うんやなくて頭使うて使えゆうたのは宵さんやろ。僕の頭は巨乳のように知識が詰まっとるでのぅ」
「詰まってるのは無駄だ」
「舞踏連刃!」
向けられた切先から超神速の伸縮が連続した。
言葉にすればただそれだけが、しかしその殺傷能力の高さは異常だ。黒棺をも断つ威力と強度。それが連続する殺意の暴力。
少なくとも本来軽口の応酬に繰り出す技ではないがギンには特に躊躇いはなかった。
同時に宵丸も動いていた。ギンに斬魄刀の切先を向けられるよりも速く。
「縛道の八十一、断空!」
卍解の能力を用いない鬼道の発動。断空が出現したと同時に神殺槍の刃が到達する。断空が持ったのは一瞬にも満たない刹那だった。だがその刹那の間に環刃を回し宣告無視発動の準備を完了させる。
宵丸の卍解は宣告無視の詠唱破棄も強力だが、しかし環刃の回転を必要とする。
故にこの動きだけは鍛錬に鍛錬を重ねたのだ。
そして、
「二位一道――――断空雷吼」
舞踏の刃に砕かれた防護壁が―――雷撃となって爆発する。
「ぬっわ!?」
驚きながら瞬歩で思わず大きく飛び退く。
断空も雷吼砲も知っている。だが今のは知らない。
警戒し、攻撃の手を控え宵丸を見据える。
「――――鬼道の融合?」
鬼道の技術は様々だ。詠唱破棄や後述詠唱、平行詠唱等々。だが、一つ一つの鬼道を融合させ、一つのものとするなんてことをギンをしても聞いたことはない。
いや、それに挑戦しようという話は聞いたことある。
護廷十三隊とは別枠の鬼道衆という組織がある。
かつては鬼道を用いた十三隊に並ぶ組織だったが、100年前総帥と副総帥、総帥補佐を失ってからは戦闘集団ではなく研究機関に様変わりしていた。
そこでは様々な鬼道の使い方や簡易化をその道のスペシャリストが日々研究をしているのだが、
「あかんなぁ。鬼道衆はぼんくらやん。雁首揃えて机に向こうても、宵さん一人にも及ばん」
「いや、喜助さんや鉄裁師もいたからなー」
ぼやきながら環刃を一度回し、
「三位一道―――斬嵐蒼火輪」
蒼い炎が竜巻となって吹き荒れ、その中に霊圧の斬撃が織り込まれる。
蒼火墜、闐嵐、斬華輪の融合鬼道。
四楓院宵丸が編み出した鬼道融合、『複位一道』。
二つ以上の鬼道を組み合わせるそれは本来であれば尸魂界史上誰も為したことのないもの。宵丸もかつて鬼道衆に在籍していた時は研究していたが実現できず、しかして卍解の習得と練度の上昇により実現したものだ。
「あっついあっつい!」
疎まし気にギンが斬魄刀を三度振るい、融合鬼道をぶった切る。
「―――はっ、底が見えたぞギン坊」
神殺槍。
宵丸からすれば恐ろしいのはその手軽さだ。
あまりにも伸縮が速いが故に軽く振るだけで広範囲への殲滅攻撃になる。恐ろしいのはどれだけ伸ばしても強度が劣化していない。おそらく卍解として派手さがない分リソースが強度に注がれているのだろう。完全発動前とはいえ黒棺をみじん切りにするだけの強度は恐ろしい。
圧倒的な無駄の無さ。
必要なもの以外をそぎ落とした無頼武骨の機能美。
即ち、
「お前のその機能美こそ、貧乳を認めている発露……!」
「はぁー?」
やれやれとギンが両手を広げ、空を仰いだ。
「宵さんこそなんやその盛り過ぎ卍解は。宣告無視に自作の融合鬼道て。おまけに九十番台をぽんぽんと。僕の考えた最強斬魄刀かいな。――――巨乳のように盛りまくりや」
「はっはっは」
「あっはっは」
宵丸が飛び退くよりも先に、ギンの全力の瞬歩が刃を届かせた。
脇指しと環刃が鍔迫り合う。
「宵さんの卍解、近接はあかんなぁ。斬術がいまいちなのも相変わらずや」
「はっ……! 瞬歩の腕が随分と上がったな!」
「宵さんがコツを教えてくれたやん?」
至近距離、互いの卍解の能力が意味をなさない間合いで刃を交え合う。
宵丸は鬼道の発動に環刃の回転を伴うが、それを既にギンは見抜いている。脇差しサイズという振り回しやすい形状を活かして環刃を回させず、距離を取らせないように絶妙に誘導しながら切り結ぶ。
宵丸の斬術の腕ははっきり言ってまるでダメだ。
これは砕蜂が生暖かい笑顔で慰め、喜助も目をそらし、鉄裁が鬼道があるからいいじゃんと励ますレベル。並みの隊士よりはましというレベルで隊長格には相手にならない。
対してギンは斬拳走鬼、オールマイティに高い。
至近距離で斬術のみで戦えば、当然のように宵丸は押されてしまう。
「舐めるなよ……!」
だが、斬術の拙さの対策を宵丸がしてないわけがないのだ。
ギンの斬撃に弾かれたまま、逆らわず―――七曜から手首のスナップを効かせて環刃を放る。
死神にとって半身である斬魄刀から手放すという場合によっては勝負を投げた行為に、反射的にギンの視線が宵丸から離れた。
「だらっしゃ!」
「あぼっ!?」
視線がズレた一瞬に、宵丸の拳がギンの頬に突き刺さる。
突き上げるような一撃にギンの視界を半分潰し、死覇装の襟を掴む。
掴まれたと、ギンが認識した瞬間には、
「ッ―――」
視界が回転し、地面に叩きつけられていた。
背中から無防備に地面に落ちたが、経験による反射がギンの体を突き動かす。腕だけは動き、斬魄刀の切先を向けようとし、
「詰みだ、ギン坊」
キャッチした七曜でギンの死覇装を大地に繋ぎとめる。
「…………参ったなぁ。鬼道だけじゃなくて白打もそんな強いとか反則ちゃう」
「おいおいギン坊。巨乳に脳みそやられてるのか」
宵丸は一度嘆息し、
「―――俺の嫁を誰だと思ってる。蜂梢綾。尸魂界始まって以来、白打と歩法の天才だぞ」
誇らしげに胸を張る。
「――――」
その顔を見上げながら、ギンは細い目を微かに見開いた。
まるで憧れるように。
好きなものを好きと、愛する者を愛していると、胸を張って言える彼のことを眩しげに見上げていた。
市丸ギンは嘘つきだ。
本当のことは言わない狂言回し。
蛇のように、定めた獲物を丸呑みする獣。
そんな自分が本当のことを言ってもいいのかとさえ思う。
誰かを飲み込んだ口で、誰かを愛しているだなんて言っても誰が信じてくれるだろうか。
自分はそんな口で、愛を囁けるだろうか。
四楓院宵丸のように――――誰かを愛していると誇りを以て口にできるだろうか。
「……敵わんなぁ、宵さん」
だから、ギンは宵丸が好きだったのだ。
ギンの言葉に本当はない。だけど宵丸はいつだって思ったことしか言わない。100年前だって自分では気づいていなかっただろうけど、ギンには彼がどれだけ砕蜂を想っていたのか知っていたのだ。
ギンは思う。それはそうであってほしいという願望かもしれないけれど。
もしも宵丸が、自分と同じ立場だったとしたら。
きっと宵丸だって同じことをしただろうと。
宵丸は胸を張って愛に生きるけれど、ギンは誰にも告げられないのだ。
「でもなぁ、宵さん。藍染隊長は強いで。僕を倒したとしても、藍染隊長には勝てんと思うで?」
「あー? ……まぁ、確かにアイツは強いよな」
だけどと、憮然とした顔で彼はギンを見下ろした。
「俺が、何の勝算もなく戦いに来たと思ったか? あいつも、あいつの鏡花水月も対策してるに決まってるだろ」
「―――――――ほなら」
宵丸の言葉にギンは静かに返した。
「僕くらい倒してくれんと、ダメやで?」
灰の瞳が、琥珀を貫き、
「――――――死せ、神殺槍」
●
「―――――――あ?」
その解号を聞いた瞬間、斬魄刀を握る感触が消失した。
違和感に従い、自分の腕を見れば――――――右肩の一部が消滅していた。
「僕の斬魄刀はね、宵さん。伸びるだけやないんよ。縮む瞬間に刀身が崩れるんやけど、その時に刀の欠片を相手の体に遺すんや。そいで、その欠片は―――猛毒になるんよ。今、それを活性化させた」
「がっ……ぁ……!?」
腕を押さえ、膝から崩れ落ちる宵丸の避けるように起き上がりながら嘆息し、改めて刀を向ける。
「刺さったんやなくて斬っただけやから効き目がいまいちやなぁ。――――ま、もっかい刺すけど」
言いながら斬魄刀を伸ばして宵丸の胸の中央に突き刺す。
当然、戻すと同時に刃の欠片を彼の中に残しておく。
「っ……ギン……!」
「これにてお仕舞い―――かどうか、見せてくれるかなぁ?」
息も絶え絶えな宵丸へ指を指し、神殺槍の毒を起動させて、
「――――――■■」
声にならない言葉で、宵丸が何かをつぶやいた。
それをギンは聞こえなかった。
言葉が耳に届くよりも速く、衝撃がギンをぶち抜き意識を刈り取っていたからだ。
●
「―――――参った。僕の負けや」
意識を失っていたのはおそらく一瞬だった。
気づいた時には自分は倒れ、まともに体を動かせず、すぐそばの瓦礫に宵丸が腰かけ息を整えていたからだ。
卍解を解いたのかコートは消えているが、どういうわけか死覇装も吹き飛んだようで背中と肩がむき出しになった刑戦装束だ。
神殺槍で消滅したはずの右肩も、何故か回復している。
「……死ぬかと思ったわ」
「いやぁ、なんで死んでないん?」
「そりゃあお前、新妻をいきなり未亡人にはできんだろ」
「…………敵わんなぁ」
思わず笑ってしまう。
脳裏に過ぎる一人の女性。
自分は、彼女に向かってそんなことは言えない。
瀞霊廷を裏切った自分が言えるのは、
「ごめんね、くらいか」
「あー? それで? なんで藍染についてるんだよ」
「あー?」
「あー、じゃない」
「んー」
「おい」
「……」
「……」
「………………返してほしいもんがあるんよ」
嘆息しつつ、ギンは応えた。
「藍染隊長は僕が返してほしいもん持っとる。だからそれを返してほしいだけや」
「その為なら十三隊を裏切れるって?」
「せやね」
「そっか」
宵丸は小さく頷いた。
それで満足だった。
「それならそれでいいよ。お前のそれが理由になり得るなら。それはそれとして藍染とはケリを付けるし」
「――――――ほう、面白いことを言うね四楓院宵丸」
瞬間、莫大な霊圧が宵丸に圧し掛かった。
その霊圧を忘れない。
この100年忘れたことはなかった。
振り返り、その男をにらみつける。
茶髪に眼鏡、整った優し気な顔立ちの隊長羽織。
「――――藍染惣右介」
「やぁ、宵丸君。元気そうだね?」
ギン、ヒロインの風格。
ちょっとギン強くね?とか思ったけど僕が好きなので仕様です。
感想が巨乳とおっぱいで埋め尽くされたのでやっぱり我らはおっぱいの奴隷。
宵丸を公式の隊長ステに合わせると
攻撃力:90
防御力:70
機動力:95
鬼道霊圧:100
知力:100
体力80
みたいな感じです。
前話感想返信が少し遅れると思いますが、更新するモチベーションになっております。いつもありがとうございます。
今話も感想評価いただければ幸いです