三日月の頃   作:kui_doji

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プロローグ

「三日月の出る晩。五条の河原には凄っげぇ美人の女が出る」

 

そんな噂をバイト先のダチの口から聞いたのは桜も散り切ってしまった四月の終わり。

 

らしいってなんだよそりゃっとは思ったしきいたか。

どうやら遠目には確かにスッゲェ美人が居るように見えるんだと。遠目に美人ってそりゃ相当だな。んでもってその横顔は何処か寂しそうに見えるもんで、せっかくならお近づきになれれば…と下心丸出しで近づこうとすると、いつの間にやら忽然と消えている。

 

一度ならまぁ視線を外した時にどっかに行ったのだろうと思った。ただ偶々二度目に見かけた時は確かに目線を外していなかったのにやはり声が届くくらいの距離で見えなくなってしまう。気になって毎晩通い、そして先月の三日月の晩、今までと同じように遠目には見えるが三度同じ様に忽然と消えるのだと言う。流石に気味が悪くなり、それからは三日月の晩に五条の河原には近づかないようにしているらしい。

 

まるで幽霊かなんかじゃねぇかと考えはしたが、今俺は愛車のママチャリを必死に漕いでいるのは正にその女に会う為だ。

 

別に幽霊が好きだとかいうオカルトマニアめいた理由なんかでは無い。俺はテレビが言う幽霊や妖怪の類はこれっぽちも信じてないし、見たこともない。だから奴の言う美人が幽霊だと言うことは信じていない。

 

つまりは三日月の晩に現れるという美人は現世のものであり、だからこそ俺はその美人に会い、あわよくばお近づきになって一緒にお茶したりそれ以上のアレコレをする為に今爆走しているのだ。

 

思い返せば俺の人生は女に縁というものを感じたことが無い。幼稚園時に好きになった子はスカートをめくる悪戯をしたって事でキライだ!っと言われてグーで殴られたし。小学生の時に好きだった子にはスカートをめくる悪戯をしたと帰りの会で女子全員から総スカンを喰らった。中学生の時もそうだ。帰りがけに好きだった子のスカートをめくったということで保護者を呼んでの三者面談となった。

高校は男ばかりでむさ苦しい環境で女っ気は皆無だったし、大学に入れば何か変わるかと思いもしたがさっぱりである。

 

だが俺は諦めの悪い男だ。歩みを止めて女が寄ってくるほどの顔に生まれついては来なかったのだ。ならば歩みを止めず、走り続けることが成功への近道なのだろう。そう思えばペダルに込める力は増し、愛車のスピードは加速度的に上がっていく。

 

「よぉぉぉし!!待ってろよぉ美人のネーチャン!!俺が煎れるお茶は美味いゾォ!!」

 

夜空に綺麗な三日月が浮かぶ夜。

どうしようもなく下心しかない叫び声をあげながら俺は征く。

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