三日月の頃   作:kui_doji

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1-1 河原の美女

愛車を走らせた先、五条大橋から望む河原に女が一人立っていた。

 

あれは美人だ。

人を見る目は養わなず、女を見る目は鍛えた自分だから分かる。

いや、女の事を教えてくれたダチだって言いはしたがオレほどには分かるまい。だって視力は俺の方が良いし。

 

女は艶やかな黒髪を一纏めにし後ろからなびかせ、白い大きめの花(造花だろうか?)を結び目に一輪挿していた。白い菊をあしらった薄手の着物に身を包み、大きく長い袋包みを抱えて月をじっと見ているようだった。

 

成程…アイツが幽霊では…と感じてしまう様ならこの世のものではないと言われると信じてしまいそうな不思議な雰囲気を感じる。

 

目線を彼女から逸らぬまま、傍に愛車を停める。

そしてそのまま、河原へと降りた。

 

目線は…最後まで逸らすことはなかった。

逸らさずに事はなかったのだが…、河原へと降り立った時に女の姿はなかった。

 

「…マジでか?」

 

コレは…女の話を持ってきたやつの話が、いつの間にか消えてた、という言葉が頭の中でリフレインする。確かに目線は外してない。外してない筈だが…。周りを見渡しても、女の姿は…やはり無い。

 

まさか川に…とも思ったがここら辺はまだ浅い。

大人一人が音も無しに入る事は難しいだろう。

 

まさか本当に幽霊の類か、と考えたがやめた。

 

女が幽霊だとしだらあの女とお茶したりそれ以上のアレやこれや何ぞできやしないのだ。いくら美人でも…そうなのであればまた次の出会いに向けて前を向くのが得策だろう。

 

「あ〜…仕方ねぇか」

 

ふと空を見やる。さっきは女に目をやって気に留めなかったがかかる雲もなく、成程見上げたくなるような見事な三日月である。

 

綺麗だ、と素直に思った。

 

…まぁ今日は残念会って事で一人で酒盛りでもやろう、

ちょうど配達先の婆ちゃんに貰った鶏肉スモークがあったし。

 

背負った鞄の中から丸めた新聞紙の包みを開け、良い匂いのするスモーク肉を取る。あの婆さんくれるのはありがたいが毎回新聞紙に包むのはちょっとなぁ。いや凄いありがたいから文句はねぇけど鞄に匂いがつくんだよな…。

 

まぁ肴は十分だろう、後はコレに合う酒をっと考えた時に今日の配達で予期せず余った冷酒の小瓶達を思い出す。

 

思い出すが早いか愛車の荷台のクーラーから小さめの冷酒の小瓶一本くすねる。うん…よく冷えている。今日の客の好みが俺の好みと一緒で良かった…。まぁ本数間違えたのは俺だが一本分くらい自分の財布から出してもまぁ痛いってほどでは無い。

 

飲んだ後にウチまで押して帰るのはいくのはちと面倒だが、今の心に湧き上がる『飲みたい』という衝動には抗い難かった。

 

「さーて…先ずは一本」

 

指をかけ、ぽんっと小気味の良い音を立てて栓が抜ける。

 

 

「あら〜…」

 

声が、した。

 

隣から。誰も居なかった筈の隣から…。

自身の体がグッと強張り、心臓が煩いほど跳ねるのが分かる。

 

声のする方に視線をやる。

 

人だ。

女が…居た。

橋の上から見たあの女が、今、俺の隣にいた。

 

「美味しそうですね〜。ご合判に預かりたい所ですが…?」

 

お隣は空いてますか〜?っと

 

ちょいちょいっと俺の隣を指差して

にっこりと、まるで童子の様な笑みを浮かべながら女は言うのだった。

 

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