三日月の頃   作:kui_doji

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1-2 ご合判のお代は一つ

にっこりと笑いかけた女は指差した所、つまりは俺の隣へと座った。

 

いや、違うな。コレは正確では無い。

 

俺に向かって非常に好意的(諸説有)な笑顔を向けてくれている和装の黒髪美人が俺の隣、具体的には俺の左手からの距離で酒と魚を挟んだ約40cmほどに座している所をわざわざ選んで座り、こちらにその麗し顔をこうくいっと「どうかしたかな?」っと言わんばかりに傾けた角度に維持しながら俺の目を見ていた。

 

「どうかされましたか?」

 

実際に言ってきた。…ヤベェな。予想以上に美人だしなんか良い香りするし好意的だしなんか良い香りするしで自分の想定していたパターンのどれも役に立たない…。考えてきたパターンの4つのうち3つは拝み倒して連絡先聞いて後日お茶に誘うパターンだし、残りの1つは流石に…今は使えない。

 

「いや…なんでもねー…ないですよ。その…お姉さんみたいに美人な人に声掛けられるのは初めてだったからさ…ちょっと面喰らっちまいやした」

 

本心である。急に隣に現れた時はびっくりはしたが直ぐに美人が近くに居る喜びの方が勝り、今では美人に話しかけられているし会話が継続していると言う感動で涙が出そうである。俺は男の涙は安く見せるものでは無い、という考えなので人前涙は見せぬが多分家に帰ったら泣く。

 

「あら…お上手ですね。あんまり美味しそうなお酒を持っていらっしゃったから…つい。」

 

目を細め…ふふっと小さな笑みを溢す。

あ、これまでの女っ気の無さを帳消しにしてお釣りが来る可愛いさでまある。美人且つ可愛いってそんな人いたら最高だな。今俺の目の前にいるけどさ。

 

「…あぁ、これ?」

 

そう言って小瓶を掲げる。

 

「これはウチの、あいやウチって言っても下宿先の酒店なんすけど。そこが卸してる冷酒です。今日配達の帰りなんすけど、注文を多く取りすぎちゃって…まだあそこに4本あるんすよ。このまま持って帰ったらドヤされるし…それならここで飲んで勘定だけ合わせようって」

 

そこまで話して自分の失敗をぺらぺらと話している事にバツが悪くなり…ははっと笑って誤魔化す。

 

「だからさ。一人では飲みきれないし、お姉さんが手伝ってくれるんならせっかくの酒が無駄にならずに済むよ」

 

そう締めた。

 

「あら…図らずともそのお酒を飲まなきゃいけないところに居合わせてしまったんですね〜。それはそれは…大変ですねぇ」

 

…うん。今ハッキリ分かったがこのお姉さんは凄く、本当にお酒が好きなタチのようだ。今の言葉も思いの外たくさんの酒が飲めるのが嬉しい様って気持ちが隠れてない。

 

しかし、あっと何かを思い出したのか急にしゅんとなってしまった。

 

「あの…すいません、ついお酒が飲みたくて声を掛けてしまいましたが…実は私持ち合わせがないのです。ちょっと一口…と甘えて良い量でもありませんし」

 

そこは遠慮するのか、と思ったが美人のお姉さんと飲める機会をみすみす逃すのは本意ではない。

 

「そうっすね…ならこの一本と引き換えに、一つお願いをきいてくれたなら…差し上げますよ」

 

「…えっと…その…お願い…ですか〜?」

あ、ヤベェ露骨に警戒されてしまった。ちょっと何言うんだコイツって言ってる目をしてるしちょっと例の長包みを抱えて体をガードしてるし、なんならちょっと距離が離れた気がする…。

 

「いや違うんです。そーゆんじゃなくって、そのお願いってのは簡単、簡単なヤツですよ!」

 

そう叫び、一拍おいてお願いを口にする

「お姉さんの名前!!教えて下さい!!」

 

そう言い終わった時。キンっと短い音が聞こえた。

お姉さんを見ると先程までの優しげな雰囲気は既に無く。

優しく細めていた目は見開かれ、綺麗な紅色な瞳が見える。

 

「えっと…何か不味ったかな」っと思うが早いか…首筋に冷たい何かが当たって居るのを感じる。その冷たい何かはお姉さんの手から伸びており、そしてそれが…なんと言うか所謂ところの『刀』である事を理解するのには少しばかりの時間を要した。

 

「誰に頼まれて私の真名を?首と胴が繋がっているうちに話すのです」

紅い目がの輝きが、その言葉に嘘がないと言うのだと俺に言っているようだった。

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