がっこうぐらし!RTA『オヤシロモード』覚醒素材生存ルート   作:シグアルト

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6.いきゃく(前)

 

 

 

 

 世界が大幅に変容した日から一晩明け、自身の通う高校の資料室で目覚めた悠里は周囲を確認しため息を付く。

 

 

「……やっぱり夢じゃないのよね」

 

 

 突如起こった惨劇。自我を失った《かれら》が周囲の人々を襲い、道路のあちこちで交通事故が発生しクラクションが遠く鳴り響き、視界の彼方では爆発や火事の発生が見えた。アウトブレイクが発生した時、屋上で園芸部として畑の世話をしていた悠里は校内での様子に気づく事がなかった。

 

 だがそれは幸運と呼べるかどうかはわからない、目の前に迫る【死】を意識する前に、屋上から見える世界が崩壊していく様をまざまざと見せ付けられていたのだから……

 

 

「うぅん、あーちゃ……むにゃむにゃ……」

 

 

 しばしの間、放心していた悠里だったがすぐ脇で眠っている少女、由紀の寝言で我に還った。そして子供のように眠る幸せそうな顔を見て思わず頬をゆるませる。

 

 

「かわいい寝顔ね、まるで……、え?」

 

 

()()()、なんだろう? 今自分は何を言おうとしたのか。何か『大切な事』を忘れていないか、僅かばかりの冷静さを取り戻した悠里は心の奥底に何か違和感を感じた。それが何なのか考えようとするが、沸きあがる不快感に屈し、悠里はそれ以上考えるのを止めた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「おーっす。おはよう、りーさん」

 

「おはようさん。由紀はまだ居眠り中かい?」

 

「えぇ、ぐっすりよ。めぐねえは?」

 

「先輩の所。見てるから朝食くらい取って来いって怒られちゃってさ」

 

「そりゃそうだろうさ。あれから今まで葛城先輩の脇にひっついてテコでも動きそうになかったからね」

 

「そ、そんな事ねーよ!」

 

 

 生徒会室へ向かった悠里を迎える柚村とくるみ。二人は中央の机を囲む椅子にそれぞれ腰掛けており、非常用食料として戸棚の隅に保管されていた乾パンをつまんでいた。初日と比べお互いに打ち解けており、名前で軽口を交わし合う仲になっていた。

 

 昨晩の騒動、一歩遅ければ葛城は《かれら》と同じ存在になっていた。それを誰よりも理解しているくるみは、夜が明けてからも彼の見張りを続けていた。目にはうっすらと隈ができている。

 

 

 

「昨日の夜は本当に大変だったわね。葛城先輩、無事でよかったわ」

 

「それなんだけどさ。あいつら、夜は数が少なくなってないか?」

 

「あー、言われてみればそうかもな。私大分騒いでたけど、アイツ等が集まるまでかなり時間があったな」

 

「夜は活動が鈍くなるのかしら。生活リズムは生前と変わらないのかも」

 

 

 昨晩の事件で気付いた事をお互い共有していく。

 

 お互いに情報を出しつくしたと感じた頃、その情報を共有すべきだと感じたくるみは入り口の扉を見つめる。

 

 

「まだ来てないのはゆきと……、あーさんか」

 

「胡桃、神様ってあたし達が起こしてもいいモンなのか? あの人が寝てる部屋のドア、スコップで叩いてもビクともしなかったぞ」

 

「じゃあ、私達にはどうしようもないな。あーさんが自然に起きるのを待つしかないか」

 

「あーちゃんはまだ小さいんだもの、そっとしておいてあげましょう」

 

 

 くるみは神様の事を『あーさん』と呼んでいた。

 大切な人(先輩)を助けてくれた恩人、それも神様に対して由紀のように「ちゃん」付けはハードルが高いと考えた彼女なりの結論だった。尚めぐねえと柚村は未だに神様呼びであるが、悠里はすんなりと『あーちゃん』呼びを受け入れていた。

 

 

 それから他愛もない雑談をしながら時間が過ぎていく。

 時刻はいつもなら一時限目の授業が開始している時間。お互い口には出さないが、自分達が非日常な状況へと叩き込まれた事実をどうしても意識してしまい、自然と口数は減っていく。

 

 そんな時、重くなった空気を払拭するかのような大きな音を立て扉が開く。

 一瞬身構える一同だが、現れた輝く金色の髪をした少女を見て安堵の息をつき…………、その息を飲んだ。

 

 

「な……なぁ、あーさん」

 

「何じゃ」

 

「いや神様さ、何だよその格好……」

 

 

 3人の目の前に現れた少女は、昨日着ていた豪族衣装ではなく白いTシャツと短パンというラフな格好をしていた。だが、Tシャツは大人用サイズだったのかぶかぶかで少女の膝まで隠れてしまっている。絹糸のようなストレートの髪は簡素なゴムで両脇を縛っており、非常にラフなスタイルとなっていた。

 

 

「あー、今日はオフだからお休みじゃ。明日から本気出す」

 

 

 呆気に取られる一同の下に近寄り机の上の乾パンを数個掴むと、彼女はバリバリと音を立てながら生徒会室を後にした。その姿に昨日感じた神聖な雰囲気はなく、ただの小学生の女の子にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るー……ちゃん…………?」

 

 

 故にその後ろ姿を沈痛な面持ちで見つめる悠里の姿は、誰も気付く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

(人生を)働いたら負けになるオヤシロRTAはーじまーるよー! 

 

 

 

 前回は深夜徘徊していた覚醒素材先輩をひっつかまえてベッドに強制送還させた所でしたね。皆、無事でえがったえがった! 

 

 ですがこの世の原理は等価交換。変わりに失ったものもあります。そう、神様の持久力(やる気)です。

 初日のオーバーワークで限界ギリギリだったのですが、昨晩のイベントで持久力はマイナスに振り切ってしまいました。これにより《神様オフモード》が発動してしまいます。

 

 この状態になると神域パワー(通称SP)が失われてしまい、神様としての権能のほぼ全てが使用不能になってしまいます。発動中の《神域》に影響はないのでセーフエリア内では安心ですが、エリアを広げるどころか《かれら》との戦闘すら危うい状態です。

 

 またオフモードでは常時発していた神様のカリスマのようなものが失われ、学園生活部の面々のSAN値減少を緩和する事が出来なくなります。いままでは『神様がいるから何とかなる』という考えが自然とあったので仕方ないと言えば仕方ない現象ですね。

 

 ですが、この状況で特にひどいのは誰かが神様に依存していた場合です。絶対的な存在として憧れだった神様が弱体化した事により、自身を守ってくれないという恐怖から疑心暗鬼に陥ります。最終的には神様に襲い掛かり、船の船首の女神像のようにバリケードに貼り付けられ魔除けグッズ扱いされます。(4敗)

 本当無茶苦茶しやがりますね。一つ覚えておくといい。憧れは理解から最も遠い感情だよ……? 

 

 

 そんな訳で大事な局面で発動すると、どんなにチャートが上手く進んでいても即崩壊の危険がある《神様オフモード》ですが、一同の精神に大きく影響を与えるのは『初回』のみです。2回目からは段々と慣れますし、雲の上の存在を身近に感じるのか親密度も上昇します。更に『神様ばかりに頼ってられない』と自立心が芽生え、神様への依存が起きにくくなります。

 

 

 なので《神様オフモード》は後半になればなるほど見せた時のデメリットが大きい上、早出しのメリットもありますので『すぐに見せる』か『絶対に見せない』の二択しかありません。

 あーちゃんの場合は持久力(やる気)が低く、オフモードに非常になりやすいので『すぐに見せる』方法を選択しました。あまりの変わりように呆気に取られている面々でしたが、悲観的な様子の人物はいませんでした。りーさんが生き別れの家族と会ったんじゃないか位のビックリ顔をしているのが面白かったです。

 

 

 

 

 これは早々に生活基盤を確保した事による、精神的余裕が要因として大きいと思われます。本日は特別なイベントも起こりませんし、初日に3階を解放するとボーナスとして少量の食料が、生徒会室の備蓄として追加されています。屋上の菜園もあるし今日明日は問題ないでしょう。

 なので、本日はめぐねえやゆきちゃんにもこの姿を見せてオフモードの姿に慣れてもらえば終わりです。

 

 

 

 

 

 資料室をガラッ。ゆきちゃん発見! ハイサヨナラ! 

 

 

 

 

 

 

 横の教室へ移動、ガラッ。めぐねえ発見! ハイサヨナ……

 

 

 

 

 

 

 

「神様、待ってください! 葛城君が目を覚ました様なんです」

 

 

 おっ、デジマ? 折角なので覚醒素材先輩にも神様のオフモードを一目見てもらいましょう。

 神様的には今回が覚醒素材先輩との初邂逅ですね。それまでは戦闘中しか顔を合わせてないので話をする余裕もない状態でしたからね。

 

 おっすおっす! 神様だよ!! 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 軽やかなスルー、何気ない無言がオヤシロ様を傷つけた。

 

 

「……まだ意識がはっきりしていないみたいですね。申し訳ありません」

 

 

 ショーガナイネ。

 覚醒素材先輩のステータスを確認した所《かれら》に襲われた時に頭部をぶつけ、意識混濁のステータス異常がついているようです。後遺症に関連するバッドステータス表記はないので、全快ではないだけですね。大丈夫だ、問題ない。

 

 この調子なら夕方には完全回復しそうですね。その旨を伝えてめぐねえを安心させます。(こんな姿でもしっかり神様やってんだよ、というアピール)

 

 

「本当ですか! よかった。私、恵飛須沢さんを呼んできますね」

 

 

 そう言いながらめぐねえは去っていきます。程なくしてゴリラ(くるみ)が扉を蹴破らん勢いで入ってきました。

 ここにいてもお邪魔虫のようだし、あーちゃんはクールに去るぜぇ……

 

 

「……()()。少しいいですか?」

 

 

 おっと、廊下に出たらりーさんに呼び止められました。いつになく真剣な表情をしていますがどうしたんでしょう? 

 まさか《オフモード》のあーちゃんに見切りをつけて『私が天に立つわ』なんて言って来ませんよね? 

 

 

「この学校以外の場所に避難した人達は、まだ生きていると思いますか?」

 

 

 よかった、普通の質問でした。

 しかし2日目にしてもう外部の避難民にまで意識が向けられるとは、かなりSAN値に余裕がある証拠です。SAN値が最大値を維持していると、確率やイベントで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので《ゆきちゃん化》や《めぐねえ化》を元に戻す事も出来ます。出来ればこの状態を維持したい所ですね。

 

 

 質問の答えは当然【YES】! ショッピングモールには2年生コンビである圭&みーくんがいますし、将来的に救助に向かいたい所です。ここで外部を示唆すれば生きる活力にも繋がりますよ。

 

 

「そう……、そうですよね」

 

 

 おぉ、りーさんの目に見た事がない程の力が宿っている。

 りーさんはどのルートでも最大SAN値の低さから(悪い意味で)ストッパーになる事が多かったですが、オヤシロモードでのりーさんは頼れるお姉さんになりそうです。

 

 

 そして、りーさんと別れた神様ですが。今日やる事は一つだけです。

 持久力(やる気)回復の為────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝る!! 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 おはようございます!! 3日目に突入ですよ! 

 さぁ、今日も朝日が眩し────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[満月]<ハーイ

 

 

 

 あれっ? まだ2日目の夜じゃないですか

 おかしいな、何かイベントありましたっけ? とりあえず部屋から出て皆の様子を見に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーさん、大変だ! りーさんが先輩と一緒に外に!!」

 

 

 あるええぇぇぇぇぇぇぇ!!!? 

 

 

 




 

遺却(いきゃく)→忘れ去ること


 お待ちしていた方は大変申し訳ありませんでした。
続きを求める感想を頂きテンションマックスになったので、急ぎ書き上げました。こちらの作品も疎かにしない様、頑張ります。

 なお主人公の容姿ですが









神様モード→恋姫無双『袁術』
オフモード→アイドルマスターシンデレラガールズ『双葉杏』
がモデルとなっています。

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