片思いの両思い。それでも私達は前に進もうとしてる。そんな情けなくてどうしようもない私達の、始まりの物語。 作:柳しをん
今回は、まどほむ勘違いしまくりのお話です。
すれ違って、思い込んで、塞ぎ込んで。
そんなお話です。
そういうわけで、前編はさやまど、マミほむ気味です。
ただ、さやまどは友達の域を出ないレベルには抑えてるはずです。
マミほむは正直ハテナって感じですね。オフホワイトですよ、オフホワイト。
ところで、ほむらちゃんが泣いてるところってすごくいいですよね。
まどかに裏切られて、まどかが寝取られて、まどかに嫌われて。(あれ、全部まどか絡み…。)
例えば、まどかのことが好きなほむほむに、まどかが恋愛相談するんですよ。さやかが好きって。(あくまでフィクションです。)
そんで、ショックを何とか隠して、相談に乗るんです。
健気に、心配させないように、悟らせないように笑顔を繕って。
なんやかんや(最近この言葉にハマってます。なんやかんや。)、マミさんと協力してさやまどくっつけることに成功して、パーティーするんですよ。
乾杯して、辛くなったほむほむが適当な理由つけて、部屋に籠もるんですよ。
それで、マミさんもついてって。
部屋のドアを閉めて、その場に泣き崩れて、マミさんと抱き合って。
全部全部吐き出して。
それで、もう大丈夫って明らかに大丈夫じゃない顔で言って。
さやまどを祝福するんですよ、健気に。
自分の想いを全部全部押し殺して。
はい、完全な妄想ですね。なんでここに書いたんでひょ。
でも、まじでほむほむならやりかねない気が…。
ありゃ、脱線しましたね。
何が言いたいかって言うと、ほむほむ泣くよ。ってことです。
自分の中のなにかが、泣かせろ…って。
では、どうぞ!
私は、恋をした。
恋なんて、したことなかった。
私は一日を生きるのに精一杯で、それ以上なんて考えたことなんてなかった。
それでも何とか私の時計は動き出して、余裕が作れた。
まどかとさやかと仁美と、登校すること。
さやかが面白いことを言って、私達が笑ってること。
自分で作ったお弁当を持って、皆で屋上で談笑しながら食べること。
学校帰りに寄り道して、素敵なものを見つけること。
たまに魔女退治だってして。
毎日が、動き出した。輝き出した。
私の知らない、素敵な未来へ。
そんな中のできごとだった。
私は、まどかの笑顔に胸が打ちひしがれるような苦しみを覚えた。
その苦しみは、決して嫌なものではなくて。
どこか心地よくて、心酔してしまったこともある。
私は気がきじゃなくて、杏子に相談した。
彼女は、私をしみじみと見つめ、成長したな、なとど親のようなことを呟いていた。
そして、涙を流していた。
よかったな、本当によかったな…だとか。
私は困惑してしまったけど、彼女はたくさんのことを教えてくれた。
恋、告白、この苦しさの正体。
そして、その先にあるもの。
とても、魅力的だった。
そして、憧れた。とても強く。
しかし、そう上手くはいかなかった。
引っ込み思案で気弱な性格が、今更災いして、なかなかそれらしいアプローチをかけることができずにいた。
でも。
今日こそ、想いを伝えるんだ。
杏子に言われたあの言葉を思い出して。
『いいか?告白ってのは、自分をスタートラインに立たせるための儀式みたいなもんなんだ。つまりほむらはまだ、スタートラインにすら立ってないってことだ。まどかの事を好きになるのも、まどかに好かれるための事も全部、準備だったんだよ。スタートするためのね。だから、ほむらはスタートしなきゃいけない。永い、ずっと先のゴールに向けてな!』
…よし。
やるしかない、暁美ほむら。
伝えなきゃ、何も始まらない。
そう、スタートラインに立つのよ。
まずは、それからよ。
まだ、何も始まってない。
これから、始めるんだ。
私が未来へのドアを開けると、まどかがいた。
「…あ…え…?」
しかし、私は絶句してしまった。
居たのは、まどかだけではなかった。
「…ほむら…ちゃ…!?」
「ほ、ほむらっ…!?な、なんでこんなタイミングで…!?」
そう。さやかだ。
二人は抱き合っていた。
まどかがさやかの胸に顔を埋めて、さやかが頭を撫でていた。
私は悟った。
あぁ、そうか。
私には、スタートラインに立つ資格すらなかったのだ。
いや、スタートラインなんて、最初から存在しなかったんだ。
私は、ありもしないゴールを目指していたんだ。
「…そう…そうだったのね…。哀れね…私ってば…。」
「ほ、ほむらちゃん…?」
「ごめんなさい、邪魔をしてしまって。直ぐにいなくなるから、気にしないで…。」
「え?ちょ、ちょっとほむら!?あんた、何か勘違いを…!」
「…さようなら、まどかっ…!」
私はその場から、逃げるように去る。
そして、心の中でこう付け足す。
大好き、だったよ…。
「待って、ほむらちゃん…!!」
「…。」
宛もなく、歩いていた。
そもそも、何故歩いているのかも覚えてないし、何処に自分がいるのかすら分からない。
迷い込んでしまった。迷宮に。
何もない心と、何も掴めない手と。
それだけを持って、歩くしかない。
それ以外なんて、できるわけなかった。
どれだけ歩いただろうか。
いつしか、茜色の空は漆黒の闇に塗りつぶされていた。
緑は消え、アメリカンなネオンが光る。
そんなことすら意に介さず、歩き続ける。
そう、歩き続けるのだ。
「おい!君!何してるんだ!?」
声をかけられる。
恐らく、後ろから。
しかし、そんな声に反応するほどの余裕はなかった。
迷宮から抜け出す、それだけしか。
「止まらないか!君、学生だろう!?」
腕を掴まれる。
「うるさいわね…。」
「なっ…!?うるさいとはなんだ、君!」
「…そのままよ。いいから、離しなさい…。」
恐らく警官かなにかなのだろう、私の事をあれこれと注意する。
言葉づかいだとか、学校のことだとか。
法律と社会に縛り付けられた、哀しい犬。
「いい加減、離してよ…邪魔…。」
「邪魔…!?君!学生だからって優しくしていたが、もう許さんぞ!さあ、来なさい!」
より強い力で私の腕を引く。
「…物分りの悪い犬…。」
「いっ…犬だとぉ…!?」
更に警官は激昂し、私を怒鳴りつける。
聞き流すのも限界で、私は魔法少女に変身する。
「なっ!?な、なんだそれは!?」
驚く警官をよそに、私は時間を止める。
そして、また歩き出す。
何処か、遠い場所へ。
「あら…暁美さん?どうしたの、こんなところで?」
また声をかけられた。
これは…マミの声…。
「…マミ…?」
「ええ、巴マミよ。暁美さん、どうしたの?」
「…いえ、なんでも…。」
「嘘ね。」
「嘘じゃない…。」
「それも嘘。」
「…嘘じゃないってば…。」
「嘘をつくのが下手なのね、暁美さんは。」
「あなたに何がわかるっていうのよ…!?」
「何も分からないわ。だって、何も話してくれないんだもの。」
「おかしいわよ、あなた。人の思いっていうのはね、言葉にしなきゃ伝わらないの。伝えないくせに、何がわかるなんて、自分勝手だわ。」
「…ふふ…もっともな意見ね…。」
「そうよ…私は、想いを伝えられなかった軟弱者なのよ…。その上、一人で背負い込んで…。」
「…暁美さん、何があったの?辛いことくらい、吐き出したって、誰も怒りはしないわよ?」
「そうかしら…きっと、神様が怒るわ…。」
「ふふ、そんなジョークが言えたのね。さ、ついていらっしゃい。流石に、道端で悩みを聞くほど私だって愚かじゃないわ。」
「お邪魔します…。」
「はい、いらっしゃい。」
「私ね、まどかに今日…告白するつもりだったの。」
「へぇ…。」
「告白しようと、屋上に向かった…。きっと、うまく行く…そんなふうにばかり考えていて、失敗するなんて頭の片隅にもなかった…。」
「いざ屋上への扉を開ければ、まどかがいたわ…。但し、さやかと抱き合ってね…。」
「…ふーん…?」
「その時、分かってしまったのよ…。私には、まどかの隣にいる資格はないんだって…。」
「それで、街を彷徨っていたと?」
「ええ、そうよ…。」
「なるほどねぇ…鹿目さんと美樹さんが…ふーん…。」
「馬鹿みたいね、私って…。」
「心の何処かじゃ、まどかにとっての私は…かなり大きいものだって、そう思ってた…。」
「それこそ、一番であってもおかしくない、そう思ってたわ…。」
「でも、現実は残酷ね…私のこの思いは…簡単に否定された…。」
「…ねぇ、暁美さん?」
「…?」
「本当に、二人は付き合ってるのかしら?」
「は…?」
「だって、ただ抱き合ってただけでしょう?言質はとれてないんでしょう?」
「それはそうだけど…あれは…確実に…。それに、さやかは、なんでこのタイミングで来るんだって…。それってつまり、そういうことじゃないの…。」
「…なんで、このタイミングで…。でもそれって、別の意味にも取れない?」
「へ…?」
「もしも、よ。鹿目さんが、暁美さんのことを好きだとして、鹿目さんが美樹さんに、そのことを相談していた…。そこで、なんらかの原因によって、鹿目さんが感極まってしまった。それを見かねた美樹さんが鹿目さんを抱きしめた。親友なんだから、それくらいは普通じゃない?」
「…。」
「そして、そのタイミングで暁美さんが登場。美樹さんは、鹿目さんが暁美さんのことを好きなのに、このままじゃ勘違いされる、なんでこのタイミングで、ってことなんじゃないの?暁美さんは勘違いすると止まらないから。それはみんな知ってるし。」
「…希望的観測ね。」
「あら、今の暁美さんには願ってもない話だと思ったのだけど。」
「ええ、確かにね。そうあってほしい、そう思う自分がいるのも嘘じゃないわ。でもね。」
「私は、50%の確率だったとしても信用しないことにしてるの。99.99%、それが基本。舞い上がってたりして自分が自分じゃないとき以外はね。」
「あら、そう…。」
「言っておくけれど、私をこうさせたのは紛れもなくあなた達よ?文句を言われる筋合いなんてないわ。」
「…ごめんなさいね。」
「とにかく。…まどかのことは諦めるわ。」
「…。」
「私のこの想いは邪魔なの。二人の間には。彼女は優しいから、さやかの愛を貰いながら、私の愛を受け取ろうとする。もちろん、そんなことはできるわけもないし、やってはいけない。」
「それに、私が望んでいた全ては果たされたの。ワルプルギスの夜を討ち倒し、全員が生き残る、少なくとも私にとっては最高の未来。それ以上なんて、ワガママだったのよ。私は、神様の逆鱗に触れたの。」
「彼女が幸せそうに笑っていればそれでいい。彼女が楽しそうに話せていればそれでいい。彼女が誰かのために苦しんだりしなければそれでいい。たとえ、隣にいるのが私じゃなくても、私に向かって微笑んでるわけじゃなくても。」
「…そう。ねぇ、暁美さん。」
「なにかしら?」
「そうやって、自分の心を偽って、さも平然と話すのは楽しいかしら?」
「なっ…!?」
「どうなの、暁美さん?」
「あ、あなた、馬鹿にしてるの!?どうかしてるわよ、そんなこと言うなんて!?」
「だって本当のことでしょう?あなた、話すときに虚空を見ていたわ。自分自身を無にして、言い聞かせてる、そうでしょう?」
「…なんで…?」
「そこまで…私のこと、分かっちゃうの…?」
「ふふ…なんでかしらね?」
「…そうよ…あれは…嘘…いや、半分は本当で、半分は嘘…。昔は、笑っててくれれば、誰に向けたものでもいいって思ってたのに…。」
「…今はもう、それだけじゃ足りないの…。隣にいて、私だけを見て…微笑んでほしい…。優しい声で…優しい言葉をかけてほしい…。他の人じゃだめ、私だけのまどかに…。」
「ふふ…言えたじゃない、自分の気持ち。」
「それはね、とっても大切なものなの。嘘偽りなんか絶対にしちゃいけない。誰にも消すことなんてできないものよ。」
「…マミ…。」
「いいのよ、鹿目さんと美樹さんのことなんて関係ない。あなたはあなたらしく、気持ちを持ち続けることをすればいい。もちろん、二人をあんまり苦しめることはしちゃいけないけどね。」
「それにね、人間っていうのは、良い方向に考えることができる生き物なのよ。希望的観測だとか、低い可能性だとかはどうでもいい、とにかくそこにあるものを信じることができる。」
「芥子粒みたいに小さな可能性でも、硝子玉みたいに儚いかも可能性だったとしても、ゼロってわけじゃない。」
「信じましょうよ、暁美さん。絶望するんじゃなくて、希望を持つの。それはなんにも悪いことじゃないから。」
「…うん…。」
「ど、どうしよう…ほむらちゃん、泣いてたよ…?」
「…しっかし、アイツもタイミング悪いなぁ…。勘違いでもされたら、まどかの気持ちに気づかないぞ、ほむらは…。」
「…でも、勘違いされたって、ほむらちゃんが私のこと好きってわけじゃないだろうし…。なんとも思わないと思うんだけど…。」
「何バカなこと言ってんの、まどか。アイツは泣いてた、それが何よりの証拠でしょ?」
「でもぉ…。」
「はぁー…あんたがそんな調子でどうすんのよ!そんなんじゃ、ほむらが離れてっちゃうよ?」
「それは、そうだけど…。」
「ほむらちゃんは…すっごく魅力的だから…。沢山の人が集まってきて…その中には私なんかよりも素敵な人が沢山いて…そしたら、ほむらちゃんは…。」
「まぁ…ほむらが魅力的ってのは否定しないし、その周りに沢山の人が集まるのも分かるよ。でもね、ほむらは誰よりもまどかのことを大切にしてるから。大丈夫!」
「…でも…。」
「あーもう!でもでもでもでも言って!第一、ほむらはあんたのことを助けるためだけに、何度も何度も苦しみながらここまで来たんだよ!?それこそ、あたしなんかじゃとっくに倒れてるくらいのだよ!?つまりそういうことでしょ!?」
「…うん。」
「そこまでわかってるんだったら、なんでそんなこと言うのさ?ほむらのことを信じてないわけじゃないでしょ?」
「それはそうなんだけどね、やっぱり、心配で…。」
「心配ねぇ…。そんなの、必要ないと思うけどね…。ま、頑張んなさい。経験者からアドバイスがあるとすると、やらない限り、と失敗することはない。でも、成功することもない。ってことかな。」
「えへへ、さやかちゃんには上条くんがいるもんね?」
「とは言っても、まだ仁美と争奪戦してる途中なんだけどね…あはは…。」
「…うん、私頑張る!さやかちゃんに負けないように、頑張るよ!」
「よぉし!あたしも頑張るぞー!まどかに負けないように、恭介をモノにしちゃいますよー!」
「…すぅ…すぅ…。」
「ふふっ…可愛い寝顔ねぇ…。」
私が暁美さんには泊まっていくように言うと、最初こそ断ったが、最終的には受けてくれた。
その辺りに暁美さんらしさが溢れていると思う。
いつも強気で、クールで、他人の意見には流されない。そんなふうなのに、実は気弱で、クールとはかけ離れてて、他人の意見に流されまくりの彼女こそ本当の暁美さん。
それでも鋼のような強い意思をもって、自分のやるべきことをやり抜く忍耐力と。
誰かを助けたい、その一心で自分を殺すことすら厭わない、王道でありながらも人々を惹き付ける往年のヒーロー像と。
とってもいじらしい乙女心まで持ち合わせて。
そんなところまで含めて、私達みんな好きになってしまったんだけどね。
なんやかんや言っても、みんな暁美さんが心配で、可愛くて、愛らしくて、大好きなのよ。
なんなのかしらね、皆あなたの周りに集まったの。
暁美さんが望んでいたけれど、暁美さんにとって遠い未来は、暁美さんが何もしなくても訪れたのよ。
それはきっと、暁美さんがそれだけ輝いていたからなのね。
そう、あなたは輝いている。
どんな人よりも、どんな生き物よりも。
とっても気弱で、いじらしくて、どんな人よりも乙女でも、誰かのヒーローであって、救世主のあなた。
全部、暁美さんなんだから。
だから、大丈夫。
告白なんて、上手く行くわ。
今までのどんな辛いことに比べれば、どうってことない。
ね、暁美さん。
「ん〜…ふわぁ…今何時…?」
「…7時30分…寝坊ギリギリ…。寝坊ギリギリ!?」
「あら、おはよう暁美さん。」
「マミ!?ど、ど、どっ、どうして!?」
「あー、あー…もう、落ち着いて…ほら、お水…。」
私はマミから水を受け取り、それを飲み干す。
夏特有のぬるい水道水ですら、美味しく感じた。
喉と脳を潤し、徐々に記憶がはっきりしてくる。
「…ふぅー…。そういえば、ここはマミの家だったわね…。どうりで、枕の質感が違うわけね…。」
「そうよ、暁美さん。ここは私の家なんだから。それに今日は土曜日よ。」
「…ごめんなさい、取り乱してしまって…。」
「いいのよ、謝らなくて。寝起きなんだから、それくらいね。それに、焦った暁美さんも可愛かったから。」
「かわっ…!?も、もう!からかわないでよ!」
「ふふ…はいはい、わかったわ。」
「もう…マミのバカ…。」
「ほら、さっさと着替えてちょうだい。こっちだって、洗濯だとか、朝ご飯の用意とかで忙しいんだから。」
「は、はい…。」
「ん〜!今日はいい天気だし、どこか出掛けましょうか?」
「お出かけするの…?」
「もう…そんな露骨に嫌そうな顔しないの!たまにはどこか出かけましょう?二人きりなんて、初めてなんだから、ね?」
「…うん…。」
やっぱり暁美さんはこうなのだ。
押しに弱い、でもそこがいい。
「決まりね!それじゃあ、場所はショッピングモールに決定!」
「…まぁ、そこしかないし。」
「なにか言ったかしら?」
「え?あ、いえ、なんでも!」
「それじゃあ、暁美さんは一旦家に戻って身支度してきなさい。ショッピングモールの近くの公園に11時までに集合ね。わかった?」
「ええ、わかったわ。」
午前11時頃、ショッピングモール
「さて、まどか隊員!今日はショッピングモールに来ているが、目的はなにか答えなさい!」
「はい!デートの下見のためです、さやか隊長!」
「よし!…恥ずかしいね、これ…。」
「もう…さやかちゃんがやろうって言ったんだからね?」
「あっはは…ごめんごめん。こういうのって定番だからさ、つい…。」
どこが定番なんだろうと思いつつも、どこかで楽しんでいた自分がいたのも事実。
彼女はとても一緒にいて楽しい人物だ。
いつも笑わせてくれるし、明るくさせてくれる。
悩みがあれば聞いてくれるし、協力もしてくれる。
私と親友であることが不思議なくらいに素敵な人物なのは間違いない。
ほむらちゃんはほむらちゃんで、また別の魅力がある。
そう、友達と想い人は別なのだ。
何度か彼女とも衝突したことはある。
それだって、二人がお互いを理解しようとして起こったものなのだ。
それに、彼女との縁は切ろうと思っても切れないだろうし、切りたくない。
そんな人。
「さってとぉ…どこから行こっかなぁ…。」
「あー、さやかちゃん、普通にお買い物しようとしてるでしょー?」
「げっ…そ、そんなことないよー?あたしだって、ねぇ?あは、あはは…。」
「もー…さやかちゃんだって、上条くんのことがあるのに、そんなことでいいの?仁美ちゃんに取られちゃうよー?」
「うぅっ…それをつかれると何も言えないよ…。ま、あたしも考えてみますかね!」
「それじゃあ、まずは…服屋さんなんてどうかな?二人で服を見てれば、自然と距離が縮むと思うんだ。」
「おっ、まどかにしては冴えてるねー!」
「むー!一言余計だよ、さやかちゃん!」
「あっはは…ごめんね?」
「もう…相変わらずなんだから…。」
「よし!そうと決まったら、服屋にレッツゴー!」
「あっ、待ってよー!」
同時刻、ショッピングモール付近の家族連れ溢れる公園
「んん〜…いい風ねぇ…。」
「なに気取ってるのよ…。」
「あら、失礼ね。ロマンチックだって言ってほしいわ。」
「はぁ…マミって、そういうところよね。」
「あらあら?またまた失礼な発言ね。私、馬鹿にされた?」
「そ、そういう事じゃ…。…ただ、そういう…ところ…憧れるなって…だけで…。」
「…素直じゃないんだから。」
「も、もう!この話はこれで終わり!行くわよ!」
「はいはい、わかったわよ。」
「さて、まずはどこに行きましょうか?」
「…私は別にどこでもいいんだけど。」
「あら、それってつまり、私といれればそれでいいってことかしら?嬉しいこと言ってくれるじゃないのー!」
「そ、そういうわけじゃ…!ない…わ…けでも…ないけど…。」
「ふふ、ありがとう。私も暁美さんと一緒にいれるだけでも十分よ。でも、折角だからなにか目的を持って何かを買いましょう?」
「…そうね…。」
「それじゃあ、服屋にしましょうか。」
「へ…?服…?」
「そうよ、服。あなた、鹿目さんとのデートすることになったら、なにかにもこだわりを持たないと。その服も悪くないけど、友達とのお買い物ー、感が強すぎると思うから。」
「それはそうだけど…。というか、当たり前…。」
「とにかく、服よ。気持ちは服からファッションから。そうは思わない?」
「まぁ、そうね…。一理あるわ…。」
「よし、決まりね!さ、行きましょう暁美さん!私がコーディネートしてあげる!」
「…それがしたかっただけでしょう?」
「ふふ、内緒。」
午前11時30分、モール内のブティック
「んー…まどかまどか、なんかいい服あった?」
「えっとね…この猫ちゃんのワンピースと…前から欲しかったショートのデニムパンツと…あと、このピンクのジャケット!えへへ、かわいいでしょー?」
「…ああ、うん、かわいいかわいい。…でも、あんたさ、そんな小学生みたいな服でほむらとデートするの…?」
「しょ、小学生ー!?」
「もう慣れてるから何も言わなかったけどさ…今日のまどかの服…白Tシャツににピンクの上着…下はイエローのミニスカ…あんたのその見た目も相まって、小学生6年生がいいとこよ…。」
「ひ、酷いよ〜!私だって、気にしてるんだからね、そのこと!…さやかちゃんとか、マミさんに比べて…胸だって…くぅ〜…。」
「気にしてるんなら、大人っぽくすればいいのに…。ほら、少しはオシャレして、らしくしないと。ほむらがそれ見たら笑っちゃうかもよ?」
「うん…。でも、やっぱり私はこういう服が好きだからなぁ…。」
「いいよね、さやかちゃんはオシャレで…。今日初めて見たときからオシャレだなって…。」
「えっへへ、褒めても何も出ないぞー?って、あたしのことはどうでもいいの!自分でなんとかできるから!」
「だから、あたしが手伝ってあげるよ!もっと、まどかを可愛くしてあげる!」
あぁ、やっぱり。
すごく、頼りになる人だ。
「ね、ねぇ…ホントにこれ着るの…?わ、私には大人すぎるんじゃないかな…?」
「そんなことないって。似合うと思うよ、まどかに。」
「まぁ…さやかちゃんが言うなら…。」
同刻、まどかたちのブティックの隣の、小洒落たブティック
「うーん…暁美さんは…どっちが似合うかしらねぇ?」
「どっちでもいいから…早くしてよ…こっちだって、疲れたのよ、何回も着替えさせられて…。それも、無駄に脱ぎ着しにくいものばっかり選んで…。」
「だって、暁美さんが可愛いんだもの。ガーリーなファッションから、スタイリッシュなファッションまで、なんでも似合うし着こなすんだもの、ずるいわ。」
「それに、暁美さんは髪の毛が長いから…髪型次第でもっともっと可愛くなるし…本当にずるい。」
「ず、ずるいって…あなただって、髪の毛は長いじゃないの…。」
「私はこの髪型が気に入ってるの。それに、私は癖が強くてあんまりいじれないのよ。」
「…むぅ…わ、わかったから…とにかく、服を選んでよ…。」
「はいはい、わかったわよ。はい、これ。きっと似合うわ。」
「…どう、かしら…?似合ってる…?」
「ええ、よく似合ってるわよ。とっても可愛いわ。」
「…可愛い可愛いって…私は別に、可愛くなんか…。」
「そんなことないわ。謙遜しなくても、みんなあなたの可愛さは理解してるんだから。」
「うぅ〜…。も、もう着替えるわ!」
「ふふ…ホント、可愛いんだから。」
「はぁー…こんなに服を着たりするだけで疲れるとは思わなかったわ…。」
「でも、暁美さん楽しそうだったじゃない。あ、まさか…鹿目さんとのデートを想像して…?」
「ち、違っ…!」
「ふふ、暁美さんは本当に乙女ねぇ。」
「…むぅ…乙女って…バカにしてるようにしか聞こえないんだけど…。」
「バカになんかしてないわよ。寧ろ、褒めてるのよ。いつもはクールで、乙女からはかけ離れてると思いきや、実はとっても可愛くて、乙女!これこそギャップ萌えってやつでしょう?」
「うぅ…マミまでさやかに毒されて…。」
「毒されてなんかないわよ。私が、本心からそう思ってるんですもの。」
「…恥ずかしい…。」
「さて、次のお店に行きましょうか。もう服も十分だし。」
「ええ…。」
「ん〜…お腹空いたなぁ…。」
「そうだねぇ…。もうお昼だもんね…。」
私とさやかちゃんは、服の買い物を済ませ、宛もなくブラブラとしていた。
当初の目的であった、デートの下見は、あってないようなものになりかけていた。
そう、ただ、友達とのお出かけを楽しんでいるだけ。
それでも満足だった。
ほむらちゃんの事を考えると、胸が締め付けられて、とっても痛くなるから。
それを少しでも忘れられるなら、それでよかった。
そう、よかったのだ。
いつか幸せに変わるかもしれないこの、誰もが味わう苦しみを。
「んー…いつものハンバーガーショップでいいか…。」
「うん、私もそこでいいと思うな。」
そう、今だけは。
彼女の事を全て忘れて、このささやかな時間を。
噛み締めていよう。
「お昼、お昼…ねぇ暁美さん、どこかいいところはないの?」
「そんな漠然とした質問をされても…。まぁ、ないことはないわよ。」
「へぇ、どこかしら?」
「ここの二階に、よくまどかとさやかと仁美と行くハンバーガーショップがあるの。…まぁ、特別に美味しいってわけじゃないんだけどね…。ただ、あのなんとも言えない、ジャンキーな味が…好きなのよ。」
「…そう…。今までは、病気とか、魔法少女のこととかで、そういうものが食べられなかったんですものね…。本当に、ごめんなさい…。」
「も、もう…マミがそんな悲しそうにする必要なんてないわ…。病気だって治ったんだし、魔法少女ことだって、皆と乗り越えられるって思えるようになったんだから…。それに、たったハンバーガー一つで、マミがそんなに謝ることなんて…。」
「…ありがとう、暁美さん…。一番辛いのはあなたのはずなのに、慰めてもらっちゃうなんてね…。」
「そ、そんな…。」
「でもね、やっぱり…私はあなたの辛い過去を一緒に背負いたい…。傲慢かもしれないけれど、私がしてきた罪の歴史でもあるんだから…。それがどれだけ暁美さんを苦しめたのか、それが分かったから…。」
「一緒に背負うだなんて、そんなことする必要は…!」
「ううん、私がそうしたいから。あなたの苦しみは、皆のもの。そうでなければいけないし、それを望んでる。」
「やめて、やめてよ…そんな、私の罪を肩代わりなんて…!」
「だから、その罪は暁美さんのものじゃない。鹿目さんに、美樹さんに佐倉さん。それに、私。皆の罪なのよ。あなたを無限に続く迷宮に落として、更に追い打ちをかけた…。私達は、その罪を贖罪しなければいけないのよ…。」
「…マミ…あなた、そこまで…。」
「ふふ、私達だってね、暁美さんには申し訳なさを感じてるのよ。その私達は今の私達じゃないけど、歩むかもしれなかった未来の私達なんだから。それを救ってくれたのは間違いなく暁美さんよ。その、恩返しだって思えばなんともないわ。」
「何を今更かもしれない。それでも、私達は暁美さんに幸せになってほしい。魔法少女だとか関係なく、一人の少女として。せめて、普通に生活できるようになってほしい。暁美さんからすれば、普通じゃなかったあの生活を…。」
「マミ…。」
「これは、私一人の意見なんかじゃない。皆で話し合って、決めたことなのよ。」
「…皆…私なんかのために、そんなことを…。」
「暁美さん、だからよ。皆、暁美さんの事が大好きなんだから。」
「うぇぇぇん…あり、がとう…マミぃ…ぐすっ…。」
「あ、暁美さん、泣かないで、ほら…。完全に忘れてたけど、ここはショッピングモールなのよ?ね?」
「…ごめんなさい、マミ…。」
「い、いいのよ。泣いてくれるくらい、嬉しかったって分かったからそれで…。」
「…あのっ…マミ…。」
「どうしたの?」
「さ、さっきは…泣いちゃって、言えなかったけど…。改めて…ありが、とう…。嬉しかった…わ…。」
「…どういたしまして。」
「さて、お昼にしましょうか!」
「そうね…。」
なんやかんやあって、私達はハンバーガーショップに来ていた。
結局のところ、私もマミも、人間だということだ。
それに、こうやっているのも悪くない。
そう思う自分がいるのも事実だ。
魔法少女という重責から一時的にも解放されること。
逃げかもしれない。甘えかもしれない。
でも、折角の機会なのだ。
楽しまなければ、損ではないか。
それに、マミにも失礼だ。
「ハンバーガー食べるのって、久しぶりねぇ…。」
「そうだったの?」
「ええ…私、できるだけそういうものを避けるようにしてたのよね…一回ハマると、なかなか抜け出せないし。」
「栄養バランスも良くないし、身体にも悪影響が出るだろうし。更に悪質なのがおいしくて手軽ってことよねぇ。でもやっぱり、魔法少女である以上は、健康でいなきゃ。いざというときに身体がついていかないなんて、絶対にだめだから。」
私はマミの強い使命感に感激しつつ、こういったものが大好きな青い髪の魔法少女のことを思い浮かべていた。
全く、見習ってほしいものだ。
「まぁ、一回くらいはいいわよね。これまでだって、上手く続けてきたんだから。」
まるで麻薬の常習犯入門者のような台詞に、少しだけ苦笑い。
「そういえば、マミのご飯はとても健康的だったものね…。」
「まあ、ありふれたものばかりだったけれどね。暁美さんが思ってるほど、難しくもないし。」
「へぇー…私もやってみようかしら…。確かあの…五穀米…だったかしら。あれ、美味しかったもの。」
「あぁ、ああいうのは全部スーパーに売ってるわよ。それも、そんなに高くはないし。少しご飯に混ぜて炊くだけでいいのよ。」
「ふぅん…ちょっとだけで…。あ、あと、あの野菜スープ?あれもすごく美味しかったわ。」
「あはは…あれは健康重視っていうか、前日のあまりの野菜と鶏肉をとりあえず煮込んでコンソメと塩こしょうで味付けしただけの手抜きなんだけどね…。」
「それでも美味しかったものは美味しかったのよ。」
「ありがとう。本当は味噌汁の方がいいのだけどね。朝に味噌汁を飲むと半日分の活力が湧いてくる、とか言うし。今日はあの野菜たちを処理しないといけなかったから。」
「そういう暁美さんはいつも何を食べてるの?お弁当はかなり色彩豊かで美味しそうだけど。」
「私は…大抵は前日の余り物とか、味噌汁とか…適当なサラダとか。あと、忙しいときは果物で済ませちゃうわね。」
「あぁ…そういえば、いつかの時はお弁当の代わりにバナナ食べてたわねぇ。それで皆から心配されて。ふふ。」
「し、仕方ないじゃないの…。寝坊しちゃったんだから…。」
「やっぱり、暁美さんは可愛いわねぇ。」
「か、からかわないでよ…。」
「さってと!まどかはなに頼むの?」
「んー…もうチーズバーガーも飽きちゃったんだよね…。でも、あんまりお小遣いも残ってないし…。やっぱり、チーズバーガーだけでいいかなぁ…。」
「ありゃ珍しい。チーズバーガーだけでいいの?ポテトくらいなら奢るよ?」
「ありがと、さやかちゃん。でも、でもね…食べれないの。」
「へ?そりゃまたどうして?」
「…太ったの。昨日、お風呂上がりに体重測ったら。」
「…ありゃりゃ。」
「うぅ…このままじゃ、ほむらちゃんに顔向けできないよぉ…。」
「ま、まぁ…ダイエットすればいいじゃん、ね?まだあたし達は中学生なんだから…。」
「うん…。私、頑張るよ…頑張って、ダイエットする…!」
「…っていいながら、ハンバーガー食べようとしてるんですけどね。」
「もう!折角いい雰囲気だったんだから、壊さないでよぉ!」
「あっはは…ごめんごめん…。って、あれ…?」
「え?どうしたの、さやかちゃ…え…!?」
私が、さやかちゃんの見る方向を見ると…ほむらちゃんが、いた。
それも、マミさんと。
楽しそうに、談笑している。
その顔は、幸せそうだった。
ああ、そっか。
私なんて、目にも入れてもらえないんだ。
「…ま、まどか…。」
「…ほら、やっぱりそうだよ…。私のことなんか、どうでもよかったんだ…。」
「そ、そんなことないって…。」
「だって、見てわかるでしょ…?あんなに楽しそうだよ、ほむらちゃんは…。」
「た、たまたまだよ、きっと…!ほら、友達とデート、みたいなさ!ハンバーガーが美味しいから、あんなに楽しそうなんだよ、ね!」
「…いいの、もう…。わかってたことだし…。ありがとう、さやかちゃん…。」
「…諦めちゃうの?こんなところで?あたしの知ってるまどかは、もっと強い心の持ち主だと思ってたんだけどね。今のまどかは…ただの軟弱者だよ。」
「…!」
「あっそ…まどかは、親友との約束一つ守らないし、そんな簡単に好きな人を諦めちゃうような人だったんだ。」
「ほむらと一緒にいるようになって、気弱な所も少しは良くなったかと思ったけど、そんなことなかったんだね。がっかり。」
聞いていれば、好き勝手を。
何故、さやかちゃんにそこまで言われなければいけないのか。
「…ふざけないでよ…さやかちゃんに何が分かるの…!?」
「分かるよ、今のあんたは、とんでもなく情けなくて、臆病で、どうしようもないほどのバカだってことが。」
そう言い放つさやかちゃんの瞳は、哀れな捨て猫を見るような目だった。
それにまた私は怒りが込み上げてきて。
「なんなの!?さやかちゃんは、私のなんなの!?」
丁度昼時のショッピングモールの、人で混雑しているハンバーガーショップであることなど、とっくに頭から抜け落ちていた。
「好き勝手言って、私のことなんか何も分かってないくせに!酷いよ、そういうの!」
「だって本当のことでしょ?」
「…さやかちゃんに、何がわかるの…何も、わからないくせに…。」
改めて考えてみれば、かなり棘のある言葉だと思う。
さやかちゃんの言っていることは全て正しくて、反論なんかできない。
ただ、言い方だけが癪に触って、声を荒らげてしまった。
声を荒らげただけで、それ以上どうこうできるわけもなく、同じことを機械のように呟くことしかできない自分が情けなくて泣いてしまった。
「ね、ねぇ…あれって…。」
マミの指差す先には、見知った顔が二人。
「まどか…と、さやか…?」
店先で何やら口論をしているようで、こちらにも僅かだが声が聞こえてくる。
遂にはまどかは泣き崩れてしまった。
さやかはそんなまどかを見下すのみで、手を差し出すこと一つしない。
さやからしくない、無慈悲なその視線に私は少しだけ恐怖を覚える。
そんな彼女らを、野次馬が遠巻きに観察している。
そして、更に気になること。
何故、ここにいるのか。
あなたは、あなた達は。
いや、二人でいるのは別にいい。
それは、恋人としては当たり前だろう(マミは違うと言い張ってはいるが。)。
しかし、何故ここに、何故このタイミングで。
何故、私がいるときに。
私の見えないところで、などとは言えないが、できればやめてほしい。
そうやって、あなた達の見えないところで傷心を抉られて塩を塗り込まれている人がいることに気がついてほしい。
そんな、かさぶたを抉られ、塩を塗り込まれている少女の、余りに酷い顔を見かねたのか、マミが肩に手を置く。
「マミ…。」
マミは何も言わず、首を横に振る。
まるで、見ちゃだめ、と言わんばかりに。
そして、黙々と食事を続ける。
私もその意思に甘え、食事を続ける。
そう、あれはただの他人のそら似だ。
別の人物に違いない、そうだ。
必死にそう言い聞かせ、ポテトを一口。
ポテトは、冷めていて、なんだかいつもよりも塩っぱかった。
「…出ましょうか、暁美さん。」
「…。」
マミの提案に、私は黙って着いていく。
とてもではないが、言葉を発する気力なんてなかった。
喧嘩をしていたと思われる彼女らは結局、揃って出ていった。
「さ、もう帰りましょうか。私の家で、お茶でも飲み直しましょう。」
「…。」
私はまた、黙って頷くことしか出来なかった。
「ただいまー…。」
「…。」
その後特になにがあるわけでもなく、家に辿り着いた。
そして、なぜだか泣きたくて堪らなくなってしまった。
私は、靴を履き替えることも忘れ、嗚咽を漏らし、大粒の涙を雨のように振らせ、その場にへたり込む。
自分のあまりに情けない泣き声に、更に涙が止まらなくなる。
そんな私を、マミはただ黙って抱きしめてくれた。
何も言わず、優しさを。
こんな私にも分けてくれた。
それがとても嬉しくて。
同時に悲しくもあって。
優しさを、私を認めてくれるその優しさを。
離すまいと抱きしめ返す、そんなことしかできなかった。
「落ち着いた?」
「うん…。」
いつもの化けの皮が剥がれ、少し情けない自分が見えることすら意に介さず、私はマミにしがみつく。
「…でも、お願い…。もう、少しだけ…このままで…。」
「…ええ、いくらでも。こんなことで暁美さんの助けになるなら。」
「…。」
「…。」
「…やっぱり、私は駄目だったんだね…。」
「…。」
「一人で舞い上がって、勘違いして、地に落とされたのに、また舞い上がって…。」
「本当に、嫌になっちゃうな…何度も何度も、こんな思いするなんて…。」
「分かってるよ、自業自得だってことくらい…。馬鹿な私だって、それくらいは…。」
「…でも…辛いものはやっぱり辛いんだ…。どれだけ頭が理解してても、辛いんだね…。」
「…もう、嫌だよ…。これ以上、苦しみたくなんてない…。」
「…。」
「…ごめんね、こんなこと言っても…マミには、迷惑かけるだけってわかってるのに…!」
「…。」
「私は、甘えてるの…あなたのその、私に…確かに、私だけに向けられた優しさに…。」
「…当たり前じゃない…この優しさは、あなただけのものなんだから…。いくらでも甘えなさい…。」
「…うぇぇぇん…マミ…マミ…。」
「大丈夫よ…私はどこにも行ったりなんかしないから…。ずっと、何時までも、あなたに…あなただけに、優しさをあげるから…。」
「…。」
「…。」
会話もなく、歩く。
モール内を、ただ。
別段、用事があるわけでもない。
同じところを、何度も。
「…ごめん、まどか。」
ふとさやかちゃんが謝罪の言葉を呟く。
「…。」
私は何も答えない。
答える言葉が見つからない。
「少し、言い過ぎたって…ホント、ごめん。」
「でも、諦めてほしくないんだ。ほむらのこと。」
「あたしも、頑張るから。仁美に負けないから、まどかも。」
「…。」
無言、たったそれだけ。
それが、私の返事だった。
「…じゃあね、まどか。また、学校で。」
「ばいばい、さやかちゃん。」
私も何とか会話ができるくらいには回復して、そっけない返事。
私は、迷っていた。
さやかちゃんは、確かな勇気を持っていた。
私の不明瞭なこの気持ちとは違う、輝いている勇気。
憧れだった。
彼女の、その勇気が。
私にも、欲しかった。
そうすれば、こんな思いをする必要はなかったのに。
幸せそうに微笑む、ほむらちゃん。
その笑顔は私のためじゃなくて、マミさんに向けたものだった。
そんな幸せそうに笑ってるのは、私だけだと思ってたのに。
あんな楽しそうに話しているのは、私だけだと思ってたのに。
そんなことはなかった。
私は決して特別なんかじゃなくて、その他大勢と同じだったのだ。
それは、私の意思をへし折るのには十分すぎる事実だった。
…しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
人類は、壊れたものを新しくするばかりではなくて、修理して使ってきたのだ。
それがたとえ、折れてしまっていたとしても。
私には、約束がある。
さやかちゃんとの約束が。
だから、修理しなければならない。
それは、さやかちゃんのように輝いていないかもしれない。
花咲誇る、幸せなストーリーではないかもしれない。
たとえ、道端の名もなき雑草だったとしても。
私は、最後まで。
やり遂げる、そう密かに決心したのだった。
「よいしょっと…暁美さん、狭くない?」
「ううん、大丈夫。狭くないよ。」
「そう、それならよかったわ。」
「…な、なんか…恥ずかしいね…。」
「そう?このくらい、普通だと思うけど。」
「そ、そうなの…?私、ずっと病院にいたから、こういうの疎くて…。」
「ふふ、これから沢山覚えていけばいいのよ。暁美さんはまだ、中学生なんだから。」
「…うん。そうだね。」
私は暁美さんを元気づけるために、もう一晩泊まっていくように言った。
暁美さんは相変わらず遠慮しつつも、私の押しに負けて現在に至る。
そして、彼女の垢だか棘だかなにやらがなくなったおかげで、素の彼女に戻ったよう。
「…マミ…。」
暁美さんはもぞもぞしながら、私の胸に顔を埋める。
「なぁに、どうしたの?」
「…やっぱり、暖かいね…。」
「ふふ、どうしたのよ急に…。」
「ちょっとだけ、センチになっちゃって…。」
「…昔ね、私、まどかに抱きしめられたことがあったんだ…それこそ、今みたいに、一緒に寝て…。」
「その日は、とっても怖いことがあって…まどかだって怖かったはずなのに、私のことを励ましてくれて…。すっごく、暖かかったの。」
「…なんか、似てるなって…思い出しちゃったの。」
「…そう。そうだったの。」
「あ、ご、ごめんなさい…勝手に、変なことしちゃって…。」
「ううん、いいのよ。さっきも言ったけど、この優しさは暁美さんのためにあるんだから。好きなだけ甘えて、使ってくれればいいんだから。」
「つ、使うって…やめてよ、そんなふうに言うのは…。」
「…ごめんなさい、不謹慎だったわね。」
「私は、大切にしたいから…あなたの、その、強くて輝いてて、誰かの支えになれる、素敵な気持ちを…。だから、粗末にするようなことはしないで…ね…?」
「ふふ…やっぱり、素敵な人ね、あなたは。」
「か、からかうのはやめてよ…もう…。…私は、ただありのままのことを言っただけなのに…。」
「そこが可愛いのよ、暁美さんは。そうやって、人を嬉しくさせたり、キュンとさせるようなことを、悪意も他意もなく言っちゃうんですもの。それでいて、すっごく自分がそういうことを言われるのにはなれてないところとか、いじらしいところとか。」
「うぅ〜…。」
「とにかく、もっともっと、自信を持ちなさい。折角美人なんだから、それを自負してないと逆に失礼よ?」
「わ、私なんかよりも魅力的な人は沢山いるのに…。杏子だって、さやかだって、マミだって、まどかだって…。私とは比べられないくらいに、素敵で…。」
「あら、それは口説いてるのかしら?それも、同時に四人も?」
「ち、違うよ…。だって、本当のことなのに…。」
「…ふふ、ありがとう。嬉しいわ、暁美さんが褒めてくれるなんて。」
「えへへ…。」
そう、私は彼女が笑ってさえいればそれでいいのだ。
辛く、涙も血も枯れてしまいそうな壮絶な過去などに苦しむこともなく、幸せそうに。
願わくば、それが私に向けたものであることも少しばかり。
「…お出かけ、誘ってみよう。断られたっていいから、私だってできるってことを、証明しなきゃ…!」
私は携帯を握りしめていた。
たった、一本の電話をかけるかかけないかで、私のこれからが決まる、そんな気がした。
今の私はまるで、PK戦のキッカーのようだ。
それも、ここで決めなければ敗北がきまる、そんな重要な場面。
意を決し、私は携帯のロックを解く。
震える指を滑らせ、電話を掛ける。
高いコール音が一回、二回。
三回、四回。五回、となったところで声が聞こえる。
『は、はい…もしもし、まどか…どう、したの…?』
心なしか震えているようなほむらちゃんの声。
「も、もしもし…?あの、明日って…空いてるかなって…。」
『えっ…?え、えっと…ま、マミ…明日は、何もないよね…?…うん、わかった…。…ええ、何もないわ。』
…少しだけ、胸がチクリと痛む。
一緒にいる人に。初めて聞く、ほむらちゃんの言葉遣いに。
「よかった…。それでね、明日お出かけしない?私、あんまりお小遣いはないんだけど…ほむらちゃんと、一緒にいたいなって…。」
『…!そ、そう。…それじゃあ、公園…で、待ち合わせ…しましょうか…?』
「う、うん、それがいいと思うな。」
想い人の、途切れ途切れな、確かな承認の意思に安堵しつつ、答えを上手く繕う。
『集合時間は…11時…でいい、かしら…?』
「う、うん。」
『…えっと、ありがとう。誘ってくれて…うれし、かったわ。』
『そ、それじゃあ、おやすみなさい…また、明日…。』
「うん…また、明日。」
通話を切り、ベットにダイブする。
大きめの可愛くデフォルメ黒猫のぬいぐるみを抱きしめ、う〜、と唸る。
明日が、楽しみでたまらない。
このワクワクを、込み上げてくる嬉しさを。
さっきまでの自分に教えたい、そんな気分。
それと同時に、不安でもあった。
マミさん。
こんな時間に一緒ということは、そういうこと。
私だって、その経験がないわけじゃない。
…二人きり、というのはないが。
それでも、諦めるわけにも、止まるわけにもいかない。
これは、約束なんだから。
ゴールなんて、たった一つしかない。
そのゴール目指して、走り抜けるだけ。
その先にある、幸せを掴むため。
いかがでしたか?
予想以上に長くなっちゃいましたね。
前編でこんなに長くなるとは思わなくて…。
いやぁ、すれ違いっていいですねぇ。
こういう、健気な子たちなら尚更。
さいっこうですよ…泣いてるところとか、胸がきゅー、ってなるとことか…はっはっはっ…。
はい、ただの変態ですね。
さて、スランプの方ですが…改善に向かってますってか、ほぼ良くなりましたよ。
これ書いたのが正解なのかはわかんないですが。
とりあえずは、書けてます。心配してる人なんて皆無かと思いますが、ワタクシは元気です。
リモート帰省ってパワーワードですよね。
…帰省、したいなぁ、なんて。
リモートじゃなくて。
では。