【安価?】掲示板の集合知で来世をエンジョイする【何それ美味しいの?】   作:ちみっコぐらし335号@断捨離中

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 まさか、その二が書き上がった…………だと……!?




一方その頃 その二

 

 ◆

 

 

 

 

「アーサー…………英語圏でよく見られる人名であり、イギリスに伝わる伝説の王…………そして」

 

 ――――ラム酒をベースとしたカクテルの名前でもある。

 

 しとしとと雨が降る中を、傘をさした江戸川コナンがブツブツと呟きながら歩く。

 時折通行人が訝しげに振り向くがコナンは気にも止めなかった。

 

 下校途中のコナンの思考を占めるのは、先日の殺人事件の折りに遭遇した『アルト』と名乗った青年のことだ。

 

 彼が目暮警部らに名前を訊ねられた際に言いかけた『アーサー』という単語。

 それを何故あのタイミングで口にしたのか、どのような意味があるのかを延々と考察し続けていた。

 

 アーサーという人名はイギリスを主として多く見られるありふれた名前だ。かの伝説にうたわれる『かつての王にして未来の王(キング・アーサー)』にあやかりたいのだろう。

 現に、新一(コナン)が敬愛するシャーロック・ホームズの生みの親の名も()()()()・コナン・ドイル。他にもアーサーの名を持つ著名人は多数存在する。

 

 ならば、アーサーが名前でアルトが名字の可能性…………名字と名前を間違えて名乗った?

 いや、あれほど日本語が堪能な男が、そんな初歩的なミスを犯すとは思えない。そも、間違えたなら間違えたで改めてフルネームで名乗ってしまえばいいだけの話。それをあからさまな形で言い直したのは何故だ?

 

 アーサーがニックネーム…………だとしても、それを名前を訊かれたタイミングで言うのか?

 

 どうして名前だけを名乗った? そもそも本名だったのか?

 

 普通に考えて、事件現場でたまたま居合わせただけの人間。その言動を深く考える必要はないのかもしれない。

 しかし、謎多きアルトの立ち振る舞いが、コナンを思索の海へとかき立てる。

 

 組織が好む黒い色のスーツ、事件についてヒントを与えるかの如き発言、犯人を取り押さえる際の常人離れした動き――――――もしかしたら工藤新一に毒薬を飲ませた黒の組織(やつら)の仲間かもしれない。

 無論、ただの考えすぎの可能性もある。奴らの仲間だとして、わざわざコードネームを明かしたことに意味があるのか?

 

 工藤邸の居候・沖矢昴にも確認を取ったが、『アーサー』にも『アルト』にも覚えはないという。昴の焼いたクッキーを頬張りながらコナンは再三聞き直したが、返答は変わらなかった。

 詳細は省くが、昴は奴らの内情にも精通している。その彼が知らないのであればアルトは()だろう。

 

 そう思っていたのだが――――

 

『…………工藤君。やつらが…………組織の人間がいたわ…………』

 

 昨日コナンに連絡してきた灰原哀の声が脳裏を過った。

 博士と共に訪れた家電量販店で、組織の人間の気配を察知したという。相手の姿は見ていないそうだが、恐怖の滲む掠れ声は嘘や冗談の類ではない。

 

 身近に突然現れた奴らの痕跡――――――米花町に来たばかりだと語ったアルトが、黒の組織の人間である可能性は高い。

 

 だとすれば、一体何が目的だ?

 毛利小五郎に接触し、殺人事件の解決に協力した意図は?

 未だ灰原哀(組織の裏切り者)に手を出していない理由は?

 

 ――――ダメだ、全然わからねぇ。

 

 堂々巡りになる思考を切り上げ、ほぅと深呼吸を一つ。

 降り続く雨粒の向こう側にある喫茶ポアロの看板が目に入る。コナンが身を寄せている毛利探偵事務所はその上階、まさしく目と鼻の先ではあるが――――。

 

「…………先にコーヒーでも飲んで気持ちを切り替えるか」

 

 畳んだ傘を傘立てに。ポアロに入店するとすぐにコーヒーの芳香がコナンを迎え入れた。

 昼の書き入れ時も終わり、マスターは休憩しているのだろう。勤務しているのは榎本梓と安室透の二人だった。

 

 コナンはいつも通り安室に声をかけようとして、その表情が険しいことに気付く。

 

 職業柄、色々な事物に目ざとい安室だが、何かに気を取られているらしくコナンが来たことにも気付いていないようだ。

 何かあったのか。お冷やを置きに来た梓にすかさず話を振る。

 

「ねえ梓さん。安室さんの様子が変だけど、何かあったの?」

「安室さん? 実は今日の昼頃、安室さんがいない時に来たお客さんの話をしてからずっとあんな感じで」

「お客さん? それってどんな人?」

「えっと、若い外国人で、レインコートの下に真っ黒なスーツを着ていて――――」

 

 まだ話の途中だったが、コナンは確信した。

 ――――店に来たのはアルト(あいつ)だ。

 

「梓さん、その人って金髪碧眼で小柄な男の人だった?」

「えっ? コナン君、もしかしてあの人と知り合いだったの?」

「…………まあね」

 

 コナンが曖昧に頷くと、梓はパアッと顔を明るくした。

 

「――――え、安室さんに事情を訊いてほしい?」

 

 梓からの依頼を要約するとこうだ。

 とある客が安室のことを探しているようだったため、昼過ぎからシフトに入ってきた安室にそのことを伝えると様子がおかしくなった。

 今はまだお客さんも少ないため影響は出ていないが、業務に支障が出てはマズいので両者と顔見知りであるコナンに事情を訊いてもらい、問題があるなら解決してもらいたいとのことだ。

 

 個人的にも何があったのか気になっていたので、梓からの頼み事は渡りに船だ。ひんやりとしたグラスを傾け、水を一口。喉を潤す。

 

 ひょいと席を立ち、カウンター席に腰を下ろすと、安室はようやくコナンの姿を認めたらしかった。

 

「安室さん、『アーサー』もしくは『アルト』って名前に聞き覚えない?」

 

 安室が口を開くよりも先に小声で問い掛ける。

 唐突だったためか安室の動きが止まったが、それも一瞬のこと。洗い物をする梓にギリギリ聞こえない、そんなコナンの声量に察しがついたらしい。

 

「シャーロック・ホームズやイギリスのアーサー王伝説、リコーダーや合唱について話したいわけではなさそうだね」

 

 こくりと首肯すると、殺人事件で出会ったアルトと名乗る青年について簡潔に説明する――――――梓の証言を踏まえ、昼頃ポアロを訪れたのであろうことも付け加えて。

 

 しばし、内容を精査するように安室は黙り込んでいたが、やがてゆるゆると首を横に振った。

 

「僕の周りでは見たことも聞いたこともないな」

 

 少なくともそんな酒の名前は。最後にぼそりと付け加えられた呟きに、安室の言わんとすることが込められていた。

 すなわち、黒の組織においてそのようなコードネームを持つ幹部はいない。

 

 だというのに、安室の表情は優れない。何故だろうか。

 コナンが疑問を口にすると、安室は殊更に息を潜め、手を口元に添えながら耳打ちした。

 

「ポアロに向かう途中、すれ違った奴が呟いたのを聞いたのさ。『アムロレイ』ってね」

「っ、それって――――!?」

「ああ…………」

 

 私立探偵『安室透』と公安警察『降谷零』。その二つの顔を知っているぞと言わんばかり。

 偶然と言うにはあまりに出来過ぎている。

 

 雨合羽のフードに隠れていたため顔は見えなかったそうだが、すれ違った人物と梓から伝え聞いていた青年の服装が一致していた。

 

 黒の組織の探り屋として活動する『バーボン』であっても、未知の幹部がいる可能性は捨てきれない。

 

 まさか組織にスパイ(NOC)であることがバレたのか――――と、戦々恐々としていたところにコナンがやってきたというのが事の顛末らしい。

 

「でも何の連絡も来てないし、襲われたりもしてないんだよね?」

「奴らのことだ。すぐにでも行動を起こすだろうから店を出ていくことも考えていたんだが…………何かが引っかかっていてね」

「引っかかる?」

「ああ、それが何かまではわからなかったが…………ようやく手掛かりを掴めた気がする」

 

 安室は頭の中で謎の男の足取りを辿る。毛利小五郎、江戸川コナン、そして――――――組織の人間にしてはあまりに迂遠なやり口だ。ターゲットがバーボンにしろ、目の前の少年にしろ、手段がまどろっこしすぎる。この件に、気の短いジンが関わっていないことは確実だった。

 

 背後にいるのは誰だ? 誰の命令で動いている?

 

 いや、それどころか、あるいは何かの警告のようにさえ――――。

 

「いや、さすがにそれはないか」

「安室さん?」

「お待たせ、ブラックでいいんだろう?」

「あ、うん…………」

 

 安室の顔からは既に険が取れていた。そのことに何か釈然としないものを感じつつ、コナンはコーヒーカップを受け取った。

 梓からの依頼は完了した……ということでいいのだろうか。依頼主の姿を探したが、店内には見たらなかった。洗い物を終え、バックヤードにでもいるのだろう。

 

「――――情報ありがとう、コナン君。こちらでもそのアルトという男について探ってみよう」

「もし何かわかったら――――」

「必ず連絡する」

 

 おもむろにカウンターから離れた安室。その横顔はこれからウエイターをする従業員の物には見えなかった。

 コナンは思わず声をかけた。

 

「安室さん、どうするつもり?」

「梓さんには悪いけど、今日は体調不良で早退させてもらうことにするよ」

 

 スタッフオンリーと書かれた扉を潜る安室を見送り、窓の外から差し込む光に目を細める。

 

 卯月最後のしめやかな雨はいつの間にか過ぎ去っていた。

 

 






有戸@帰宅途中「アムロ・レイ……? アムロ・レイみたいな声って何だ…………?」
安室@出勤中「!?」


 やだ、この主人公の口緩すぎ……!?

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