【安価?】掲示板の集合知で来世をエンジョイする【何それ美味しいの?】 作:ちみっコぐらし335号@断捨離中
世良姉ちゃんっていいよね……。
◆
「――――んで、あたしのオススメはこの映画! この映画のヒロインの仕草をマスターすれば蘭の旦那もイ・チ・コ・ロ!」
「もう、園子! 新一とはまだそーゆー関係じゃ……」
「はいはい、照れない照れない。あ、世良ちゃんもどう? ホテル生活の暇潰しにピッタシじゃない?」
「いや、ボクは遠慮しておくよ……」
都内某所。映像ディスク等のレンタル業を営む店の内部で女子高生三人の声が響く。
毛利蘭、鈴木園子、世良真純は窓際の棚の前に立ち、ああでもないこうでもないと映画作品を物色していた。
園子があれこれと映画を紹介する中、世良は窓の向こう側を一睨みすると声を潜めて二人に話し掛けた。
「なあ、窓の外にいるアイツ、二人の知り合いか?」
「え、窓の外……?」
怪訝そうに外を見る二人。あっと声を上げたのは蘭だった。
「アルトさんだ」
「アルト?」
「うん、前に事件の時に会った人」
「あら、美形じゃないの」
三人の視線に気づき、黒いスーツを纏った青年が一礼する。彼は店のドアを潜ると一直線に蘭たちの前にやってきた。
「蘭さん……でしたね、お久しぶりです。今日はコナン少年は一緒じゃないんですか?」
「コナン君? いいえ、今日は学校帰りにそのままここに来たから一緒じゃないですけど……」
「え!? 何、このイケメン、眼鏡のガキンチョの知り合いなの!?」
「違うよ園子、知り合いだったのはコナン君じゃなくてお父さんの方! 元々お父さんの顔見知りだったみたいで、お父さんが犯人に襲われた時にも助けてくれたんだ」
「へえ…………」
世良がチラリとアルトの右手を見やる。そこには手首から指先までびっしりと真新しい包帯が巻かれていた。そして、微かに漂う血の匂い――――つい先ほど創傷したに違いない。
「アルトさんも何か借りに来たんですか?」
「ええ、見たい映画を少々。初めはパソコンで見ようとしてたんですが、作品が配信されてなかったのでやむなくこの店に」
「だったらあたしが店ごと借り上げてあげよっか? 親友の父親を助けてもらったお礼として!」
「いえ、そこまでしてもらうわけには…………第一、自分が動かなくても蘭さんが犯人を無力化していたでしょうし」
――――つまり、コイツは蘭君よりも早く犯人を取り押さえた、ということか。
世良はアルトという金髪碧眼の外国人を上から下まで具に観察していく。
小柄な体格で、さほど鍛えているようには見えない。また、その立ち振る舞いでわかりにくいがこの骨格からすると…………もしかしてこの人は。
世良が見つめる先で三人の会話が続いている。
どこかでカランと何かが床に落ちる音がした。
「それで、皆さんもDVDを借りに?」
「あたしたちと言うよりは世良ちゃんの暇潰し用! あの子、放課後娯楽のない生活してるみたいだったから連れてきてあげたのよ」
「いや、ボクにも娯楽がないわけじゃないし! それに」
――――今はもっと面白そうな謎が目の前にあるしね。
ニヤリと笑う世良の好奇心旺盛な瞳がスーツ姿の人物を捕捉した。
「なあアンタ、その手の傷は一体――――」
「キャアアアアアアアアアアアア!!?」
突如として、絹を裂くような悲鳴が店内を駆け巡った。
「――――――っ」
「な、何!?」
「何が起こったの!?」
「様子を見に行こう!」
世良を先頭に四人は声の方向に駆ける。
店の奥の通路で、一人の男性が棚にもたれ掛かるように倒れていた。
世良はすぐにスマホを取り出し警察の番号を入力。コール音が鳴る中、視界の端で慌てて店の外に出ようとする人影を捉えた。
「待――――」
「店から誰も出るな!!」
世良よりも先に声を張り上げたのはアルトだった。
アルトの制止に驚いたのか、ドアに向かっていた女性の動きも止まった。
アルトが世良に顔を向けた。
「現場から誰も出さない……ですよね?」
「あ、ああ…………」
助かったと同時、釈然としないものを抱えつつ、世良は警察と救急車を呼んだ。
とはいえ、救急車の方は無駄になりそうだったが。
「首をバッサリか…………」
被害者の男性の周囲一面に血痕が付着している。あれは致命傷だろう。
被害者の手には何もない。となればこれは自殺ではなく他殺。犯人はこの店の中にいる――――。
警察が到着すると捜査が始まり、すぐに被害者の身元は判明した。
事切れていた男性の名は
死因は恐らく首の外傷による失血。まだ死後硬直が始まっておらず、体温が残っていることから死後間もなく発見されたと推定される。
店内にいた容疑者となりえる人間は、被害者を除き九名。
うち蘭たち三人は入口近くの棚におり、被害者との面識もなく除外。蘭たちの後に訪れ、今日初めて来店したアルトも同じく容疑者から外れる。
店員ら二人は店のカウンターにおり、被害者の死亡推定時刻にも揃ってカウンターにいたことが監視カメラの映像で確認できている。
容疑者は残る三名に絞られた。
いずれも店の常連客であり、犯行時刻に監視カメラに映っていなかった人物だ。よく店に来るため被害者の顔は知っていたが、皆彼とは特に親しくないと口を揃える。三人とも被害者のいた通路からは離れた場所にいたと言うが、それを証明するものは何もない。
そもそもこの店は天井ギリギリの高さの棚が並んでおり、監視カメラの死角も多い。
返り血を浴びずに被害者を殺せる、何らかのトリックを使ったのだろう。
所持品検査では凶器は見つからなかったが、何らかの方法で処分したと思われる。
「うーん…………」
世良は唸った。未だ犯行動機も凶器も不明。返り血を浴びずに対面で殺すのは不可能に近い。すぐに人が集まってきたから着替える時間もなかった。だから犯人は被害者を襲うために、凶器を遠くから動かす何らかの仕掛けを用いたはずだ。
しかし、棚は傷だらけで仕掛けが残っている様子はない。傷跡にも血が付着している。
警察は店から真っ先に飛び出そうとしていた柊を怪しんでいるようだ。
確かに、証拠隠滅を疑われても仕方のない行動だが――――果たして本当に彼女が犯人なのだろうか。
「棚の傷……………………傷といえば」
――――
世良が店内を見渡すと、アルトは容疑者の一人・柴原を捕まえて何かを話しているようだった。その碧の瞳は真っ直ぐに男を見据えている。
「本当に被害者とのトラブルは何もなかったんですか?」
「だぁああ! しつけえ! だから何度も言ってるだろうが! たまにこの店で見かける程度の関係だって! 奴の名前も今日知ったよ!」
「なるほど、そうですか………………そういえば、被害者が亡くなる少し前に物音がしましたよね? 何かご存知ないですか?」
「はあ? 物音ぉ? 知らねーよそんなの」
「本当に? 何か落としたりしませんでした? 小さい軽い物だと思うんですが」
「だから知らねえって! ネクタイピンでも落としたんじゃねえの?」
「………………え?」
今の発言って――――世良は急いで遺体の服装を調べる。遺体の胸元は――――。
「もしかして犯人は…………」
――――あの人か。
ブツブツと呟いていると背後に影が差した。アルトだ。
「どうです? 何かわかりましたか、探偵さん」
「…………ボク、アンタに探偵って名乗った覚えないんだけど?」
「失礼、園子さん共々有名なもので、つい」
「はあ? それはどういう――――」
アルトは左手の人差し指を世良の口に押し当てた。
なるほど、これ以上言うつもりはないようだ。
「それで、犯人は?」
「ああ、おかげさまでね。あとは凶器だけど――――」
「目暮警部! 凶器と思われる物を発見しました!」
「何ぃ!? 本当かね!?」
俄かに捜査中の警察官らが騒がしくなった。凶器発見の報告だ。
「見つかったみたいですね」
「ああ……………………」
首肯しながら世良は考える。アルトが会話した容疑者は柴原だけだった。第一発見者の南や現場から逃走しかけた柊ではなく、柴原と。
「なあ、アンタ。もしかして最初から犯人がわかってたんじゃないか?」
「――――――――――」
アルトは押し黙った。
「…………わけ…………かん探偵…………いやしかし……は…………」
しばし、何やら小声でボソボソと呟いていたようだが、残念ながら世良はその細部を聞き取れなかった。
ただ『探偵』の一言のみが世良の耳に残った。
「――――さて、どうでしょうね?」
アルトは世良の質問に何も答えなかった。
だが、もしもあの呟きの中の『探偵』がアルト自身を示すとすれば――――面白い、これは
世良は捜査を取り仕切っている目暮警部に話し掛けるため、その場を発つ。
――――お前の目的、正体…………この事件を解いた後で、その謎に挑戦してやるよ!
探偵の目はギラギラと力強く輝いていた。
テレッテー♪
有戸 は 称号『世良のライバル』 を 手に入れた !
(なお一方通行)