【安価?】掲示板の集合知で来世をエンジョイする【何それ美味しいの?】 作:ちみっコぐらし335号@断捨離中
もうマジ時間無さ過ぎて無理ぃ…………。
その日、江戸川コナンは灰原哀、吉田歩美、円谷光彦、小嶋元太、阿笠博士らと共に東都水族館を訪れていた。
東都からアクセスしやすいこの水族館はリニューアルオープンしたばかり。
水族館だけではなく、屋内型の遊戯施設にレストラン、屋外には二輪式の大観覧車などもあり、子供たちも今日を楽しみにしていた。
しかし、到着してすぐにコナンが記憶喪失の女性を発見した。ベンチの上に散らばっていたフロントガラスの破片、ガソリンの匂い、壊れたスマートフォンなどの状況から見て、女性は車に乗っていて事故に巻き込まれたようだ。夕べの交通事故に何か関わりがあるかもしれない。コナンにはこの女性を放っておくことはできなかった。
コナンは灰原と共に聞き込みを開始した。
一方、『お姉さんの知り合いを探そう、記憶を取り戻そう』と張り切る子供たちは女性と共に水族館の敷地内を回っていた。とは言え、探す前にゲームコーナーでダーツに興じているところをコナンは見てしまったが。
件の女性は、銀髪にオッドアイとかなり特徴的な人物だ。しかし、聞き込みをしていても目撃情報はない。建設中のエリア周辺でも痕跡は見つからなかった。
この女性は本当に以前この場所に来たことがあったのか? あるいはこのまま探していても知り合いが見つかる可能性は――――。
「――――ん?」
「どうかしたの江戸川君?」
「ああ、ちょっとメールが入ったみたいで……」
隣を歩く灰原に断ってスマートフォンの画面を点け、差出人を確認する。
――――って、
何か用事でもあるのだろうか。サッと文面を流し読みする。
メールに書かれていた要点は二つだ。昨夜大きな事故があったそうだから、周辺では気をつけること。知人が今日コナンらと同じ水族館を訪れるので、もし何かあれば彼女に声をかけること――――。
昨夜首都高湾岸線で起きた大規模な交通事故はニュースでも大々的に報道されているので、当然彼も知っているだろう。
しかし、それを理由にわざわざこうしたメールを送ってくるだろうか? しかも近くにいるであろう知人の存在をコナンに教えている。
もし、昨夜の事故に『彼ら』が関わっているとしたら、そしてその関係者が今もなお行方不明だとしたら――――捜索のための人員を事故現場からも比較的近い東都水族館に配置している可能性は否定できない。
――――念のため、沖矢さんにもあの女性のことを聞いておくか?
ふとそう思った時、
「おーい! コナン! 灰原ー!」
「こっちだよー!」
「上ですよ上ー!」
コナンと灰原の二人に声が降ってきた。
二人が見上げると、観覧車の上りエスカレーターに少年探偵団と博士、例の女性の五人がいた。一足先に観覧車に乗ろうとしているようだ。
子供たち三人ははしゃいでいて、上っていく先にある壁に気づいていない。このままだと手すりの上に身を乗り出している元太が危ない。
「元太戻れ!!」
コナンが咄嗟に叫ぶも元太は壁にぶつかり、大きくバランスを崩し――――転落。もう駄目かと思った時、女性が飛び降り、観覧車のなだらかな柱伝いに滑り降りると元太をキャッチ、そのまま受け身を取った。
幸いなことに元太にも女性にも怪我はないようだ。
――――ったく、ヒヤヒヤさせやがって。
コナンがホッと息を吐いたその時だった。
「――――そこにいるのは誰ッ!?」
彼女は鋭く叫ぶと、抱きかかえていた元太を手放し、近くの柱の陰に駆け出す。
女性の向かう先、隠れるようにそこに佇んでいたのは上下青色の長ジャージに身を包んだ小柄な人物だった。迷彩柄のストールと帽子のつばに隠れ、その表情を窺い知ることはできない。
いつの間にそこにいたのだろうか。
女性は謎の人物を取り押さえようと掴みかかったが、相手に腕を弾かれ失敗してしまう。その後も攻防が続くが何れも相手にいなされてしまう。
「さっきからずっとあの子たちのことを見ていたでしょう!? 何者なの!?」
「人に名を尋ねる時にはまず自分から名乗るべきだと思いますが?」
「――――――――ッ!!」
知らぬこととはいえ、『記憶喪失の人に言ってはいけない台詞ランキング』があれば上位に食い込みそうな発言をした謎のジャージ男。
女性の動きが対象を捕らえるための物から倒すための物に変わった。
しかし、本当に驚くのはここからだった。
速すぎてまるで霞んでいるように見える拳。先ほどよりも何倍も速くなったように見えるそれすら相手は避けたのだ。
激しい攻防の最中、拳圧で帽子が吹き飛ぶ。隠れていた輝くような金髪と碧眼が露わになる。と、
「――――え!?」
コナンは驚愕の声を漏らした。
――――黒スーツ姿の印象が強過ぎて気付かなかったが、あの人はまさかアルトさんか!?
未だ正体不明のアルトと記憶喪失の女性――――このまま戦闘が続いては危険だ。他の客だっている。
何とか制止しようとして、
「あーっ!? あの時のお兄さんだー!」
「本当です! こんなところで会えるなんて奇遇ですね!」
観覧車乗り場から戻ってきた歩美と光彦がコナンよりも先に声を上げた。
その発言を受けてか、ヒートアップし掛けていた戦闘はピタリと止まる。
「この人はあなたたちの知り合い…………なの?」
「うん! 前に公園で一緒に遊んだの!」
「木に引っかかっていたサッカーボールを取ってくれました!」
嬉々としてアルトとの関係を述べる歩美と光彦。元太も彼に見覚えがあるらしく呑気に手を振っている。
お前ら一体いつ知り合っていたんだ、とコナンが戦慄している間にも事態は解決の方向に向かっていた。
「その……ごめんなさい、いきなり手を出してしまって。ずっと視線を感じていたから、ストーカーかと思って…………」
「いや、こちらこそ誤解させてしまったようで申し訳ない。もっと早く声を掛けるべきでした」
互いに差し出された右手を取り合い、シェイクハンズ。
周囲からわっと歓声が上がった。
「な、何じゃ!?」
「どうやらサプライズか何かの
気付けば周囲には多くの野次馬が集まっていた。
落下した元太を見て、慌てて駆け寄ってきていたスタッフらは気が気でなさそうだったが、ようやく二人の
その間灰原はコナンの後ろに隠れるようにして、ジッと握手する二人を見つめていた。
短くてすまない……本当にすまない…………。