ペルソナ5S+佐倉双葉   作:菓子子

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大阪と双葉と熱

 ……またか。

 スマホの画面の右上端を確認すると、そこには『18%』と表示されていた。

 今はまだ、太陽が空高い場所に鎮座している時間帯で。きっちりと、朝には充電を済ませたはずなのに。

 最近、どうも電池の減りが早い気がする。

 旅行が始まったのと殆ど同じタイミングで、この不具合が現れ始めたように思う。中々俺もツイていないな。

 まぁ、その内別のタイミングと場所でツキが回ってくるだろう――なんて、自分で自分を納得させていると。

 

「ふぁれひー、ほれ」

 

 うん?

 大阪ジェイルに備えて、食べ物屋さんが立ち並ぶ繁華街を散策しながら嘆いていると、不意に横から声が掛けられた。

 言うまでもなく、双葉だった……with たこ焼き。

 頬張りながら喋るものだから、全く聞き取ることができない。

 とりあえず口の中を処理することを促してから、数刻待つと、左手に携えていたたこ焼きセット(8個入り)を、ずいっと差し出してくる。

 

「食ってみろ、飛ぶぞ!」

 

 ありがたくいただくことにして、元々爪楊枝が付いてあったモノを、そのまま口へ放り込む。

 あっつ……思わず息を吸って、空気を確保したくなる程度の熱さ。だが……それでいい。

 舌でたこ焼きをコロコロと転がしていると、ソースが味蕾にブチ当たって、DNAに素早く届けられる。頃合いを見て、優しく歯でそれを噛み切ると、固くも水気もない、ちょうどいいトロトロの具が口の中を満たす。勿論食感がない訳ではなく、具の中に忍ばされたタコがいいアクセントになっていた。

 つまり……美味い。確かに、飛んでしまいそうな美味さだ。

 

「UFO好き、粉もん好きにはたまらんなー、これ。この濃い味の暴力だよなー。正直……今まで来た場所の中で一番だ。レベチすぎる。これ食べた後に、ソーキそば食べたら、繊細すぎて絶対味が分からんだろ、これ」

 

 それは、まぁ……そうかもしれない。

 沖縄の食べ物と、大阪の食べ物は対極の位置にあると言っても過言じゃない。

 それは、超過密スケジュールの中、現在進行形で敢行されている、この日本世直しの旅で得た、数多い知見の内の一つだった。

 ……それにしたって。

 その地その場所の特産品や、美味しいモノを食し続けているのもあって、真はおろか、杏まで摂取カロリー量を気にし始めていると言うのに。

 双葉のこの頓着のなさといったら、ある意味目を見張るものがある。

 確かに……仔細を観察すれば、半袖のジャケットから出た二の腕や、首元には、余計な肉付きはないように思える。むしろ、スリムな体型だと言えるだろう。

 サポート役というのもあって、ジェイルでは皆より動いていないのにも関わらず……だ。

 

「ひょっとして私、今……カレシに視姦されている!?」

 

 ソースの付いた口で、訳の分からないことを言っている双葉に。

 思い切って、自身の不可思議な体内事情について訊いてみる。

 

「わー、それ。デリカリー欠如案件では? まぁどうだっていいんだけどなー」

 

 例えば、なんだろう。

 双葉の脳はおおよそ、俺の思考能力の何倍ものスペックを有していることは反論の余地がないとしたら。

 するとやはり、同じ時間俺と双葉が考えたとしたら、その間に消費されたカロリー量は、当然双葉の方が何倍も多い訳で。

 つまり、一般人より太りづらい体質なのかもしれない。

 

「それはある。でも、あんまりかなー。頭使うって言ったってやっぱり、脳の栄養はブドウ糖だけだし。ラムネ食っときゃ事足りてるみたいなところはある。脂肪が脳の栄養になるなんて、直感的にも理解し辛くない?」

 

 まぁ、確かに。

 

「……あ。まぁ、話は言うほど変わらないんだけどさ、世界で一番燃費のいいCPUって何か知ってる?」

 

 CPU、だって。

 CPUってあれか。パソコンの脳みたいな役割をしているアレか。

 にしたって、一番燃費のいいCPU――か。

 性能のよさではなく。

 『燃費がいい』の判断基準が曖昧でよく分からないけれど、とりあえず仮定するとしたら、単純にエネルギー対動作の速さで考えるべきか。

 なら、動作がべらぼうに早い、最近リリースされたintelのCPU――と見せかけて。

 昔々に開発されたモノが、消費電力が抑えられていてイイ――みたいなオチだったりして。

 

「はいぶぶー。残念だったな! ガハハ!」

 

 たこ焼きの容器片手に、胸を張って不敵に笑う双葉の姿は、そこそこ絵になっていた。

 祐介ならその場で、指でその光景を切り取っているに違いない。

 ああ、くそ。スマホの電池に余裕があるなら、写真に収めておきたかったな、なんて、問題とは全然関係ないことを思っていると。

 双葉は。

 

「正解は……ココ、さ」

 

 言って、トントン、と、自身の頭を叩いて見せた。

 キメポーズでそんなことを発する双葉の表情は、ドヤ顔以外のナニモノでもなかった。

 絶対、最近見たアニメに影響されているに違いない。

 

「脳ね! 脳。脳って、他の有象無象のCPUに比べて、何倍、何十倍も燃費いいんだってー。その証拠に...あれよ、カレシのスマホ、ソフィー入れてから格段に充電の減り、早くなったっしょ?」

 

 ...!

 確かに。その通りだ。

 あれは偶発的なものじゃなく、ちゃんとした理由があって。

 ソフィーというスーパーAIがスマホの中に入ったことによって、消費された電力が笠増しされたのか。

 ソフィーの脳に送るべき栄養、もとい電力を送るために。

 

「それにほら、余剰熱が発生するから、自分の脳、アラスカに移転するかー、みたいなことを考えなくてもいいじゃん? ちょっと身体がポカポカするくらいだろ?」

 

 考えすぎたあまり、体温が上昇するくらい脳のパフォーマンスを引き出せるような人種が、双葉以外には数えるくらいしかいないことに、自身は気づいているのかどうか。

 

「だから普通に私は、身体の……燃費が悪いんだと思う。うむうむ」

 

 ――え?

 散々『人間の脳は燃費がいい』ことを引っ張っておいて?

 どういうことだ?

 

「あ、や……違くて」

 

 それこそ頭がオーバーヒートしそうな俺に気づいたのか、双葉はすかさず訂正してくれる。

 

「そっちじゃなくて、私が太りにくい体質の理由の話な。単純に、得られた栄養に対して、吸収されずにお尻から出て行った栄養が、人に比べて多いんだと思う。アメ車だな、アメ車。私の身体は実質アメ車だ」

 

 アメ車か……なるほど。

 躊躇いもなく、たこ焼きを口の中へと収める双葉を見て、納得する。

 

「てか、お尻て。カノジョにそんなこと言わすな。自然な会話の流れから、またわた、私に特殊なプレイを要求する導入に入んなし」

 

 入っていない。入ってないよ。

 時たま自分が特殊なプレイを彼女に強要しているヤベェ奴に仕立て上げるような真似は止めていただきたかった。

 閑話休題。

 とうとうたこ焼きを食べ終え、手持ち無沙汰にしている双葉と隣に従えて、大阪の街を練り歩く。料理を拵えたり、各々の好みに合った食べ物飲み物を調達していると、意外と出費がかさんでしまう。

 氷堂ジェイルが思わず恋しくなってくるほどの炎天下。

 数分程度そうしていると、横から小さな声で「あづぁー」と、気だるげに感情を表現した声が一つ。

 ……。

 こうして、同じ時間を共有した気になっているだけでも幸せだが、せっかくなら一つ、話題を出してみようか。

 例えば。

 双葉は燃費のいいCPUこそ『ヒトの脳』であると言った。しかし厳密に言えば、CPUとはパソコンにとっての脳の役割を担う、中央処理装置に他ならない。

 特に難癖をつけるつもりも、屁理屈をごねて反感を買うつもりもなかったが、そう表現した双葉の思惑が、なんとなく気になって。

 聞いてみることにした。

 

「特に理由は……ない!」

 

 暑さが結構堪えているのか、やけくそで大きな声を挙げる双葉。

 ともあれ。特に意味はなかったようだ。

 

「でも、同じ働きをしていること以外にも、似た部分があるって思わん?」

 

 また俺が、頭の上に?を浮かべていると。

 見兼ねた双葉は、おもむろに僕の手を取る。

 じっとりとした細い手が、俺の指と指の間を絡めてくる。

 

「ど、どない?」

 

 どない――って。

 ただ、双葉と手を繋いでいるだけだが。

 双葉は何かを察して欲しいみたいだったが、俺はそれ以外の事象を認めることはできなかった。

 

「あ、そう……。まー確かに、もう繋ぎ馴れてるもんな。私も正直、全然ドキドキしてない。してないしててない。マジで」

 

 全然ドキドキしていないらしい双葉。

 そして、この余りあるディコミュニケーションさに、お互い微妙な顔で

 

「じゃ、じゃあ……これなら、どうだっ!」

 

 ――!?

 流石に今度こそ、俺はドキリとしてしまった。

 させられてしまった。

 だって。

 人の賑わうこんな場所でいきなり、キスを迫ってくるなんてそんなこと、思わないじゃないか。

 あっけなく俺は唇を奪われて。

 諸刃の剣とばかりに、頬を紅潮させている双葉だけ、目に入る。

 

「ほら、今。私しか見えてない」

 

 見透かしたことを双葉は言って、続ける。

 

「熱が籠ると、処理能力が落ちる……でしょ。現にわ、私も……カレシしか、見えてない」

 

 言って、胸の辺りを抑える双葉。

 

「く、苦しい」

 

 苦しい。

 確かに、俺もそうだ。

 特に、胸の辺りが。

 それと同時に、理解したことがあった。

 中学の頃に、教室で人目も憚らず、イチャイチャしているカップルに対して、『周りに見せつけているのではないか』と揶揄しているクラスメイトが居た。

 あれは、本当に。

本当に彼らは周りが見えていなかったんだ。

 熱に浮かされていたのだろう。

 今の俺たちと同じように。

 

「……く」

 

 俺は自然と、双葉の次の言葉を促していた。

 

「食い過ぎた……ぉぇ……」

 

 ……。

 今にもリバースしてしまいそうな迫真の表情で、俺をドン引きさせてみせる双葉。

 いくら太らないとは言っても、食べ過ぎは体によくないらしかった。

 




恐らく次が最終回になります。恐らく。
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