「何だよ……これ……」
三メートルに及ぶフェンスはグラウンドを含めた校舎を囲い、普通には脱出出来ないようになっている。僕たちは鬼を倒し切るまで学校から出られなくなった。
「おいおいおいどうするんだよ! これじゃあ俺たちあの鬼に殺されちまう!」
「だから鬼ってなんだよ! 分かりやすく説明しろって!」
足立君の取り巻きだった生徒が恐怖でうずくまる。それに勢いよく他の生徒が説明を求める。
「そうだ小野! お前も見たんだよな! どんな奴だった?」
「……怪物だった」
「それはいいんだよ。どういう奴なんだ?」
「大きさは二メートルを超えてた。腕も僕の倍はあって、装備みないなものも見えた。多分何の対策もせずに戦ってもここにいる皆殺される」
「……そんなになのか」
「もうやめて! これ以上聞きたくない!」
そう言って女子生徒が耳を塞いで逃げようとするけどそもそも逃げ場がない。どの道僕たちに残された手段は鬼を倒すしかないんだ。
「待てよ。高々三メートルのフェンスだ。網目になってるしなんとか脱出出来るだろ」
「上見てよ。あれをどうするの?」
「え?……あ」
そう。フェンスの上には夥しい程の針が取り付けられている。上を見ていなかったらあの針の餌食になって地面との濃厚接触は回避出来なかったろう。
「でもどうする? 数で攻めても勝てないんだったらもう無理じゃないか?」
「だからこそ道具を使うんだ。僕たちで戦うには百パーセント勝てる作戦を立てないといけない。あと、
絶対に逃げない勇気が必要だ」
自分でも柄じゃない事を言ってるって思う。でもそうしないとここから出るなんて出来やしないんだ。
「そう言って、お前は何が出来るんだよ。お前喧嘩してるとこ見たことないんだけど」
「まあ……正面から戦うのは無理だけど、罠や作戦なら……なんとか」
それも秋葉君と考えた方が倒す方法も多く見つけられそうだけど、取り敢えず教室に戻って僕たちは各々の考える使える道具を調達し始めた。
◇◆◇
警視庁 殺人ゲーム対策課
「すぐにでも突入をかけるべきです! こうしている今も生徒たちは恐怖し、殺されているかもしれないんですよ!」
「まあまあ
「その結果がヨーロッパの惨劇なのです! 向こうもそうした油断の末死者を五百人ですよ!? 悠長な事を言っている暇はないんです!」
警視庁の一室を使って行われている会議は今起きている殺人ゲームの現場に突入するか否かで突入派とFBIの指示を待つ派で分かれている。突入派の意見としては今までの事件は全て警察の介入が無かった故に大量の死者を出したから、指示待ち派は経験が無い自分たちが行っても死ぬだけだという互いに分からなくはない意見だ。因みに俺こと
「青山君、君はどうかね?」
「あー、自分としては情報を精査してからでも遅くは無いと思います。資料を見ましたけど……現場には怪物の死体があったなんてどうにも信用できなくって」
「たとえ実際と違ったとしても子供たちが死線にさらされているのは変わりません! 装備を整えてすぐ現場に向かうべきです!」
高木
「なら君は作戦があるのか? 全員無傷で、無理だとしても犯人を捕らえる方法が」
「今はないです……しかしそれが諦めていい理由にはなりません!」
「正義感があるのは結構だが、それでここにいる者の誰かが死んだら? 俺たちは国民の盾になる義務は無いし、家族がいる奴らにそれを犠牲にしろという資格は君に無いだろう」
「! ……そ、そこまで言うつもりは」
「いやーそんな感じだったぞ。それに作戦が無いのに突入って正に第二次世界大戦時の日本軍がやらかしたポカじゃないか。少なくとも作戦を立案しない限り、君の意見は価値を持たないなあ」
悔しそうに歯噛みする高木は俺を睨みつけるが、俺は自分で間違ったことを言ったとは思っていない。俺だって死にたくないし、事件に現場で関与したくなかったから警部にまでなったんだよ。
「落ち着きたまえ高木君、丁度FBIの担当が来た。こちらの意見を聞いてからでも良いだろう」
「……分かりました」
「では……どうぞ、お入りください」
高木が黙り、警視正の一声で会議室の扉が開き、二人組の男女が入ってきた。一人は俺と同じくらいの三十後半の男と二十後半の女性だ。
「どうも。私は
「……
「どうも、
「挨拶は結構。早く現場に行きたいという子が見えますしね」
アリアは警視正の挨拶を遮り高木に流し目を向ける。
「今回の事件の犯人『コンキスタドール』は名前が判明しているだけで他の情報は生存者と現場に残っていた痕跡のみです。犯人の容姿、性別、特徴何一つ判明していません。なので本来ならすぐにでも突入し、コンキスタドールを逮捕するのが良いのですが……」
「
アリアは首肯する。まさか本当に
「怪物がいるとでも言うのですか? フィクションじゃあるまいし」
「確かにこんなもの誰もが一笑に付すでしょう。しかし、これを見れば
少しは考えを変えてくれるのではないでしょうか?」
そうして彼女はパソコンをプロジェクターに接続し、ある映像を見せて来たが
「なんだ……これ……?」
それは映画のワンシーンと言われても差し支えないような肉片が変色し、尚も動いているシーンだった。
この場にいる誰もがフィクションだと思うがこんな状況でFBIの職員がホラー映画の観賞会なんぞするわけが無い。頭が冷静になるにつれてこれが作り物ではないという事を皆が理解してくる。さらに映像には続きがあった。
『こちら映像班、只今例の肉片を発見。回収作業に入る』
映像に映り込んでいた男が透明な容器にその肉片を入れるために手を伸ばす。すると
『うわああああ!!』
その肉片はまるで意志があるかのように動き、男の身体へ飛び移りその肉を貪っている。男は暴れて引きはがそうとするが肉片は流動し、貪り続けていく。徐々に男は動かなくなってそこには肉片が再び
「これはフィクションでもドッキリ企画の小道具でもありません。実際に存在し、殺人ゲームで使われた現場に残された数少ない証拠。本来ならあなたたち一般人には公開されない情報です」
「一般人って……」
高木は何か言いたそうにしていたが見たものが信じられないんだろう。それどころじゃなさそうだ。
「それを見せてくれたって事は、この件に自分らが参加してほしいってことですかね?」
「して欲しいではなく
「お、おいおい! 何勝手に決めてるんですか! そもそも作戦だってまともに決めてないのに」
「分かりました! 僕たちに出来る事なら何でもやります!」
「た、高木くん! 君勝手に何言っているんだい!」
まだこっちはこれが本物だって受け入れ切れていない者も多い。そんな中何を考えているのか高木が余計な事を言い出した。何やってんだよほんと。
「そうですか。なら皆さんには
現場に潜入。及びコンキスタドールの捕縛、無理なら殺害してもらいましょう」
アリアの台詞に再び会議室は静まり返った。FBIってのは目的のためなら犯人を殺すことも
「アリアさん……それは流石に……逮捕じゃ駄目なんですか?」
「既に五百人を超える死者を生み出した殺人鬼を庇うんですか? これはFBIでも決定を下しました事項です。何もただ殺せというわけではありません。しかし日本の警察や司法は優秀でも犯人に対して甘すぎる。死刑を実行するのにも二十年もかかるとか。人を人とも思わない者に国の金を浪費させるなんて論外です。コンキスタドールも過去の事件との関連性を暴いた後は死刑となるでしょう。もっとも、生きて逮捕したらの話ですが」
アリアの持論に俺は絶句した。この女は人殺しに対してそいつが今までの被害者に対してしてきたように慈悲の心なんて全く持ち合わせていない。殺人犯をまるで人じゃないと言わんばかりに冷たい気を放っていやがる。
「警視正、アリアさんの意見は海外から見た日本の警察、司法への意見と言えるかもしれません。しかしこの国で裁判無しの私刑じみた事を自分ら警察がやっていいわけが無い。ここは作戦を立ててコンキスタドールを自分らが逮捕するのが正しいと判断します」
「うむ……しかし……」
俺は警視正に近づき小声で進言する。しかしやはりというか警視正は答えを濁した。さっきの映像が本当だとしたら多く見積もってこの中の半分が死ぬかもしれない。
「自分もやりたいわけじゃありません。でもこのまま放置していたらFBIが何をしでかすかわかったもんじゃない。それは分かるでしょう?」
「それは……そうだが……」
「ならやるべきです。何ならSWATにも協力を要請しましょう。この事件は国の機関が全ての力を合わせなければ解決できません。ここはどうか、ご決断を」
警視正は尚も顔を歪ませるが何もしなければ俺たちはその化け物に突っ込むことになる。無策でやるよりも何かしら手を打つべきだ。
「しかし、他の機関にどう説明する? この動画を見せるのか? アリアがいたとしてもそれ自体ふざけた妄想と取り合わないだろう」
「しかしFBIの言う事には流石に無視できるものではありません。少なくとも策の一つは手に入ります。それを元に作戦を考えても遅くは無いかと」
それを聞いて警視正も決意したように頷く。しかし横槍を挟むようにアリアから新たな情報が入った。
「一応言っておきますが時間は残されていません」
「? それってどういう……」
「過去の事件は警察も当然動いていました。しかしそれでもあれだけの死者が出た理由の一つとして
殺人ゲームの期間があまりにも短いのが原因として挙がっているの」
「ゲームの……期間?」
「ええ、期間は三日間。その間警察も許可やら何やらで動けずゲーム開始から四日目、ようやく動けて現場に向かった警察が見たのは
無残に広がった肉塊と渇いた血だまりが舞台となった施設の壁や床に飛び散ったまさに地獄の惨状だったの」
そういってタリソンが操作したパソコンから恐らく現場を映したのだろうあまりにも
「……うぇ……」
中には吐き気を催す者も出てくる程だった。
俺たちはこれを平然とやるような化け物と戦うのか……?
「こちらも最大限のバックアップはします。当然人員も。皆さんお願いします」
そう言いながらアリアは頭を下げて
「この怪物を使役し、人々を死と恐怖に陥れる悪魔を共に捕らえてください」
俺たちに懇願してきた。
……ここまでされたらこっちだって「おいおい勘弁しろよ!」
……えー?
「なんで死ぬ覚悟なんて持たなきゃいけねえんだよ! そっちがやりゃあいいじゃねえか。俺は御免だぜ!」
ここで空気読めない奴登場。名前は確か……
「……警視総監にもあなたたちを人員として配置する許可は得ています。これはFBI、日本警察共に決めた決定事項です」
「そんなこと聞きてえんじゃねえんだよ! そのお高くとまった態度も、FBIの命令とかいうのも気に入らねえ! そもそもそっちだって最初から人員配置しとけよ!」
また滅茶苦茶言い出しやがるあいつ。警視正たちもあいつに辟易していたがなんでクビにならないんだ?
「そ、それは一か所に人員を配置するどころかこのような事件も前例が無く、こちらも完全に対応出来なかったことも否めません……しかし」
「あーあーそういうの面白くねえからいらねえんだよ! 大体そんなこと聞いて誰がやるってんだよ! 誰もやらねえぜそんなもんクソくらえだ!」
「そんな……貴方には警察官としての正義は無いのですか!?」
「正義? あーあるぜ? 俺が楽して暮らす。それが正義だよアーハッハッハ!!」
「そんなもの……正義などと……」
高木も
「そんなにいうならあんたに俺の言う条件を飲んでもらおう……今夜一晩俺に付き合ったら考えてやるよwww」
「! ……あ、貴方は人としてそれでいいのですか! それが人として許される行いだと」
「許されるねえ! だって俺は警視総監の息子だからなああああああああ!!」
……嘘だろ? 皆絶句してやがる。あの人格者の硲田
「まさかあいつがクビにならなかった理由って……!」
「……警視総監は何も知らない。自分の息子のことも、息子が何をしているかも。……すまない」
「すまないって……」
あいつがやった不祥事は数え上げたらキリがない。窃盗、強姦は数えきれないしクスリをやっているなんて聞いたこともある。中には暴力団と繋がっているなんて話すヤツもいた。俺の同僚の女性陣も何人かあいつ絡みで辞職した。
「このままだと……あの子も……」
アリアも顔を青くしている。恐らくは処女なんだろうが、それすらあいつには興奮材料なんだろうな。
「さてどうする? 呑まなくてもいいが、人手は欲しいんだろう?」
「……わかr「いらねえよお前の手なんざな」!!」
「……あ? 誰だお前」
「青山了見。階級はお前より上だ。上官には敬語、忘れんなよ」
「うるせえ。それより、要求は呑むんだな。なら「呑まねえっつってんだろ!」黙れ! 誰に意見してやがるんだクズが!」
「ほーお前はどこの誰だ? 俺には吠えることしか能のない猿しか見えねえなあ」
「お前マジ調子乗んなよ。お前なんざ親父に言えば一発で逮捕だかんな?」
「お前さんは父親に泥を塗るのが得意なんだなー猿は猿らしくってか?」
「……てめえ死んだわ。夜道で殺されねえようにな」
「ほぇー猿に人を気遣う脳があったんだな。ん? そもそも喋る事自体驚きか?」
硲田は最後に唾を吐き捨て、そのまま会議室を出ていった。
……やっべーやっちまった。俺こういうの本当に考え無しなのどうにかならん?
「青山君……君って奴は……」
「……何も言わんでください。自分だってこの性格どうにかしたいんですよ」
俺はどうにも男女問わず「涙」ってのには弱いらしい。これでよくよく貧乏くじを引かされてたなあ……
「あの……」
「ん?」
「あ、ありがとうございます。助けて頂いて」
「いや、自分もあいつ気に入らなかったんで大丈夫ですよ。
でもこれで警察、下手をすればSWATや自衛隊も使えなくなった……」
厳一郎さんは自衛隊にも太いパイプがあると聞いたことがある。あいつがチクろうものなら俺は不当逮捕待ったなし。今回の事件も触れないでいれば過去の事件を繰り返す可能性が浮上する。厳一郎さんがどう采配を下すかで決まるが
「こりゃFBIで武器調達した方が早いな」
「……FBIでも準備を進めてあと半日で日本に到着します。だから」
「ええ、その内に作戦を考えておきましょうか」
警視正は何か言いたげだけど、まあクビになったら探偵でもやってみようかな。会議室はこのまま殺人ゲーム対策本部に変わり、あーだこーだと作戦を立てていった。
最初は冷徹な感じだと思ってたけど案外可愛いところあるじゃんアリアちゃん。ちょっと顔がほころんでいたところが見えてたぜ。
警察を入れたのはドラマっぽい感じのを書きたかったからです。絶対に完結させてやるからな……最後のなんだこれ?
キャラクター紹介
青山了見
警察側主人公枠。警部。客観的に事件を見てどうするかの判断力に長けており、口は悪いが人情に
高木庄太郎
巡査。いわゆる熱血漢。人を助けることを喜びとし、より多くの人を助けたいとのことから警察になった。熱くなると視野が狭くなるのが玉に瑕。
遠山克久
警視正。責任を恐れているが腕が立つため、辞めるに辞めることが出来ない不遇な人。その原因は過去に携わった事件にあるようだが……
硲田柳平
巡査。簡単にいってクズ。警視総監の息子という看板を盾にやりたい放題やらかし、その証拠をもみ消している。犠牲になった人物は警察内外を問わない。
アリア・ベルーナ
FBI捜査官。冷静沈着のキャリアウーマン。しかし内面は初心な少女そのものであり、いつか大切な人と結ばれることを夢見ている。
タリソン・ドナー
FBI捜査官。無口だが人嫌いではない。下された命令も不備があった場合それを指摘し、より合理的な作戦を立案する程の知性と必ず命令を完遂する能力を持つ。
あの事件
十七年前に起きた事件。概要は物語の中で語られる。