赤を潰す 作:レイ
天気は関係ない。風はない。湿気はなく乾いている。辿る軌道を考え、弦に指を引っ掛けた。
「やれるか?」
「ああ」
対象までの距離100m、高低差は10メートル程で見下ろす形だ。弦を引き絞って頭に狙いを付けた。
「合図を。いつでもやれる」
「よし。やれ」
余計な力は込めずに弦を離した。三秒もしないうちに紅い花が咲いた。
2023年1月浮遊城アインクラッド。天気は大体くもり。浮かない顔をして歩いている俺は薄暗い路地裏の薄汚れた扉を開けた。
「よぉ。シオン」
薄汚れた扉の先には質素ながらも掃除が行き届いた、1880年代のアメリカのバーを彷彿とさせる光景が広がっている。声をかけて来た店主に軽く挨拶をしてカウンター席の最奥に座った。
「アースエイク、葉巻も頼む」
「昼間からやるな」
差し出された葉巻に火をつけて紫煙をたなびかせた。
「今回の仕事は好評だったな。いや今回の仕事もというべきか」
「そうか。でいくら貰った?」
店主は汚い笑みを浮かべながら俺のインベントリに金を振り込んだ。大きな数字が表示されたインベントリにさらに45000が足された。
「5000は紹介料だ」
「ああ。かまわない」
目の前に置かれた酒を流し込むように飲んだ。
「まだ仕事はないのか?金が欲しい」
「裏の仕事でお前に紹介出来るのは今のところないな。他の奴等の先約がある。ただ表の仕事ならある」
「それでもいい。内容は?」
その時店の扉が開いた。ここに来る客なら同業者だろう。知り合いかもしれないと思い、開いた扉の方向を向くとそこには少女がいた。
「おいおいおい。おかしいだろう。こんな少女の同業者いたか?」
「いや、今日初めてみる顔だ」
「いらっしゃいませ」
平然を装う店主。すると少女は驚愕のことを口にした。
「すみません、ここどこですか?」
「ん?えっとバー「スパークイージー」だけど」
「そういうことじゃなくてここどこですか?」
質問が理解出来なすぎる。ここが何回層かも彼女はわかる筈だ。じゃなきゃ来ない筈だ。俺は冷やかすつもりで言った。
「アインクラッドの10階層の裏路地だ」
「アインクラッド、それってSAOの世界の」
「ああ。そうだが?お前、大丈夫か?」
彼女はログアウトをしようするがボタンがないことを知る。これじゃあまるで今さっきSAOに入って来たみたいだ。
「どうしよう。ログアウトできない」
「当たり前だろ?お前、今この世界に来たのか?そんなはずないよな?」
「ええ。今来たわ。メデュキボイドのテストのはずだったのに、、、」
「嘘だろ?」
驚いた。こんなにも不運なことがあるのだろうか。デスゲームに迷い込んで閉じ込められるなんて。
「じゃあ君、これからどうするんだい?」
「これからって言われても」
「家も無いし宿を借りる金もないんだろう?」
店主がそういうとその少女は明らかに顔色を悪くした。それはそうなるだろう。
「なぁ、どうするんだ?」
「どうも何も金は貸せないしこの店に住まわすわけにもいかない」
「なぁこの世界に知り合いはいるか?」
「、、、いない」
この世界は危ない。実際に人を殺している俺がいる時点で危ない。確かに善人はいる。けど全てが全て善人とは限らない。
「そう言えば、シオンはバリバリ稼いでるから金持ってるだろ?」
「おい。それ」
「君、この男の所へ行く気はないか?」
「俺はこいつのことは知らないしこいつも俺のことは知らない。そもそもお互い信頼できるやつかも分からない」
少女は暫く俺を見つめた。俺は少女に目を合わせて真っ直ぐ見る。
「シノン。15歳」
「?」
「名乗られたら名乗るもんでしょ?」
「クソ。シオン。20歳だ」
「で君はどうするんだい?」
「まだ信用してるわけじゃないけどシオンの所にお邪魔するわ」
「嘘だろ、、、」
かくして物語は動き出した。