Pw:ゼロから始める精神魔道士   作:たこぶゑ

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初投稿です。長文、誤字、脱字もある駄文です。

それでも読んでいただけると幸いです。


プロローグ『空白から』

多元宇宙は愚か者を長く生かしてはおかぬ。有用な教訓となろう、生き延びられるのであれば

 

心の内で誰かの声を聞いた。

 

 

重い地鳴りの様に響く声が彼の精神を波立て、掻き立てる。

 

 

俺は誰だ

 

 

______……(わか)らない________

 

 

今有るのはここでは無いどこかの知識だけを残した空っぽな自分。

 

 

俺は何故ここにいる

 

 

______……(わか)らない________

 

 

どこか、とてつもなく遠い場所から来たという記憶とも言いがたい感覚が有るのみで何も答えは出ない。

 

 

 

俺は何をしてきた

 

 

_______……(わか)らない_______

 

 

今までなにをしてきたのかも、これからなにをするべきなのかも知らない、暗闇の中を歩いている様な漠然とした恐怖を感じる。

 

 

 

俺の名は

 

 

………………………………………………………………。

 

 

________ジェイス・ベレレン________

 

 

久遠の闇の中で空っぽの自分の内から独白を重ねて拾い上げた知識以外の確かな記憶(もの)

 

 

それが俺の名だ。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「あなたは誰?」

 

鈴の音の様な澄んだ声が優しく鼓膜を揺らし、頭背に当たった柔らかい感触にジェイスの意識は覚醒した。

 

 

彼の瞳に(まばゆ)い日の光が溢れるばかり射し込み、開いた目蓋(まぶた)を細める。

 

 

「…ここは」

 

 

「ルグニカ王国辺境伯ロズワール・L・メイザース邸の庭よ。あなた、そこに倒れてたの。」

 

 

ジェイスは自身の現状をつらつらと口述された未知の単語で端的に述べてくれた声の方へと眼を向ける。

 

 

声の主は自身の目と鼻の先、思った以上に近い位置にいた白く美しい少女だった。

 

 

少女の淡く輝る紫紺色の眼に上から覗きこまれる形で見つめられている事に気付いたジェイスは自身の頭に当たる柔らかい感触の物を理解する。

 

 

膝枕

 

 

青少年が一度は夢見るシチュエーションにあって、ジェイスの心中はそれどころではなく。彼にとっては現状を把握することで精一杯だった。

 

 

(人間…いや、未知のエルフ?ハーフエルフ…なのか?)

 

 

「…きみは?…エルフ…なのか?」

 

 

「…ハーフエルフよ。私は……サテラ。ハーフエルフのサテラ」

 

伏せ眼がちにサテラと名乗った彼女を観察し、ジェイスは自身の持ちうる知識から目の前の少女が何者であるかを引き出す。サテラからは自分への不審感と何か違和感を感じる。

 

 

「ねぇ、あなたは誰?」

 

 

曇り一つの無い澄んだ眼で見つめるサテラはジェイスへと先ほどより強い口調で同じ問いを投げ掛けた。その眼からは強い疑心と少々の関心を感じる。

 

 

ジェイスは一瞬、目の前の見知らぬ相手からの問いに正直に答えるべきかと逡巡するが、真っ直ぐに彼の方を見つめる眼に気圧され彼は口を開いた。

 

 

「…俺はジェイス。ジェイス・ベレレンだ」

 

 

「…ジェイスね。ねぇ、ジェイス。あなたはいったい何者?どうしてここに倒れていたの?」

 

 

「……俺は……」

 

 

問われ、思考し、その答えを自分の脳内から記憶を引き出そうと試みるも

 

 

(…俺は…何者なんだ?なぜここにいた?……何も思い出せない…)

 

 

引き出そうとしても答えは見つからず、

サテラからの問い掛けにここ以前の記憶が存在しないことに彼自身が気が付いた。

 

 

唯一思い出せたことは自身の名前のみだが、これすらも正しいのか判断すらつかないのが彼の現状だった。

 

 

「…解らない」

 

 

「え?」

 

 

「…解らないんだ…。俺がいったい何者で、なぜここにいるのか…、名前以外何も覚えていないんだ」

 

 

「それはそれは、とっても困ったねえ」

 

 

サテラの方から彼女のものではない中性的な高い声が飛ぶ。

 

突然の第三者の声にジェイスは顔を上げ、声の方へ眼を向ける。

 

 

見ると、直立した猫の様な生き物がサテラの肩に頭を乗せて(もた)れかかる形で顔を覗かせた。

 

 

「きみは?」

 

 

「やぁやぁ、僕の名前はパック!見知らぬ不法侵入者兼不審者のジェイスくん?ちょっと君がすやすやおねんねしている間に身体をじーっくり、みさせてもらったよ?」

 

 

「…パック、やらしい」

 

 

「そりゃあもう!血気盛んなオスだもの!

…けど、いくら僕でも同性で違う種族の相手はご遠慮願いたいかな」

 

 

「きみは…いったい、どういう生き物なんだ?」

 

 

「精霊だよ。ご存知無い?」

 

 

鼻横のヒゲをピンピンと上下させながら言葉を話す猫らしきものをジェイスは凝視して、自身の知識の内からどういう生物かを検索するが、それが自分の知らない未知のものであると理解する。

 

 

「おや?異種返しのつもりかな?そんな男前にじぃーと見つめられると照れちゃうな。可愛い我が娘の膝枕を堪能しながら、こんなかわいい僕を間近で見れるなんて君はとっても幸運だねぇ」

 

 

「特別なんだからね!すごく(うな)されていたし、そんな状態で地面に寝かせて置くのも忍びなかったから!起きれる様だったら早く起きて!」

 

 

サテラは恥じらいからかその透き通る様な白い肌を少し紅潮させてむくれる。

 

 

「そう…か、君たちには色々と手を焼かせてしまったみたいだね。ありがとう」

 

 

ジェイスは少し紅くなっているサテラの膝から身を起こすと全身から感じる鈍い痛みとひどい倦怠感に耐えながら、彼女らの方に向き直り、頭を下げた。

 

 

「ねぇ、パック。この人…」

 

 

自身の頬をスリスリと触りながらはにかむパックと名乗った猫の方を向いたサテラはやや不安そうな顔で(ささや)いた。その様子から不安と困惑を感じる。

 

 

「とりあえず悪い人では無さそう…よね?」

 

 

言われたパックが眼を細めて品定めするようにジェイスを上から下まで凝視する。

 

 

「うーん、そうだね!きみの身体について色々気になるところはあるんだけど…それは置いといて、とりあえず邪気は感じないかな。でも名前以外何にも覚えてないなんて所謂(いわゆる)、記憶喪失者ってことなんじゃないかな?」

 

 

「…記憶喪失…」

 

 

パックが話した言葉をジェイスは呟く様に復唱する。

 

 

ジェイス自身、自分の状況からなんとなく思い当たってはいたが他人から言われることで始めて自分自身の現状を(かえり)みる事ができた。

 

 

自分は記憶喪失(ゼロ)

 

 

この実状を把握したジェイスは後先の全く見えない自分の状態に漠然とした恐怖と不安を感じ自然と身体が芯から震えが起き、吹き出た冷や汗がじんわりと肌を濡らす不快感が全身を包んだ。

 

 

「…ちょっと、大丈夫?ひどい顔になっているわ」

 

 

「無理はしない方がいいと思うなあ、またこの子の膝枕を堪能したいってことなら話は別だけど…」

 

 

「また倒れたって絶対にしてあげないんだからねっ」

 

 

「じゃあ、今度は僕が腹枕してあげようか?自慢だけど僕の毛並みの良さは精霊の中でも随一だと自負しているよ」

 

 

言ってパックは腹を軽く叩いてポムポムと小気味の良い音を出す。

 

 

ジェイスはそんなパックの冗談めいた軽口とサテラのキツい言葉の裏の献身と心配を感じ、少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た。

 

 

「気遣ってくれて本当にありがとう、君たちみたいな優しい人達には会ったことが無いと思う。…覚えてないけど、きっと過去にも」

 

 

「勘違いしないで、これはただの同情。私があなたを見つけて使用人を呼びつけるのも悪いから、勝手に私が世話を焼いただけだから。

それに倒れている人を見つけちゃった助けるのは義務みたいなものだし、そのまま死なれても寝覚めが悪いだけだけだから」

 

 

早口で(のたま)い、フイと横向くサテラを尻目にやれやれとばかりにパックがため息を吐いた。

 

 

「ゴメンね。素直じゃないんだよ、うちの娘。ハーフエルフだからって毛嫌いする輩が多いせいで」

 

 

「この国ではエルフを差別しているのか?」

 

 

「エルフっていうより、ハーフエルフを…かな。まぁ、色々と込み入った事情があるんだよね」

 

 

パックの口ごもる様子からジェイスはこちらから聞くべき話題では無いと察するが、恩人達が軽んじられていることを知り自分の内から静かな怒りが湧くのを感じる。

 

 

「その人の人間性を見ずに種族だけにこだわるなんて、すごく…くだらないな」

 

 

「知った風なこと言わないで。そんな簡単な話じゃないの」

 

 

ジェイスが怒りのあまり口走ったことに対して、サテラはどこかもの悲しげな顔で反論した。

 

 

「…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ俺にとって君たちは見知らぬ自分を助けてくれた素晴らしい恩人だから」

 

 

「気休めだろうけど、…そうね、そう言ってくれるだけでも助けてあげて良かったって言えるわ」

 

 

サテラから刺々(とげとげ)しい感じが少し消えると、はにかむ様に少し笑った。

 

 

「私…、本当の名前はエミリアっていうの。嘘をついてごめんなさい。でも、あなたがどういう人か分からなかったから」

 

 

「本っ当だよね!サテラなんて悪趣味な名前使って!使うならもっとマシなものにしなさい!悪い娘め!」

 

 

「…ごめんなさい。とっさだったから他に思い付かなくて…」

 

 

しゅんとした様子でエミリアはパックに謝罪した。

 

 

サテラという名前が彼女らにとって良くない意味合いのものなのだとジェイスは察して、質問したいという好奇心を抑えた。

 

 

「それで?きみはどうするの?ジェイス。なにか今後の先行きは見えてる?」

 

 

「自分自身の素性も解らないから、正直先行きもなにもないよ。…助けられてばかりで申し訳ないが、出来れば何か助言を貰いたい」

 

 

「まずはロズワールと会ってみるのはどうかしら?ここはロズワールの領内だし、今のあなたって事情はどうあれ、不法侵入者という扱いだから…」

 

 

ロズワールと聞いてジェイスは先ほど、自分の起きがけにエミリアから先述された名前だと思い出す。

おそらくは自分が倒れていた庭一帯と少しの距離に見える壮観な邸宅の持ち主で有ろうと彼は推察する。

 

 

「ロズワール…という方がここの主人というと、きみはその方の親族に当たる人ということなのかな?」

 

 

「いいえ、彼な私の後見人で同居させてもらってはいるけれど、親族では無いわ」

 

 

「…なるほど、何か色々と複雑な事情が有るみたいだね」

 

 

ジェイスは難しい事情の話しを今するべきでは無いと判断し、とりあえず自身の今後の処遇に戻るため一旦話題を切る。

 

 

「それでその彼は今、あちらの邸宅にいらっしゃるのかな?」

 

 

ジェイスが自身が今いる場所から数十メートル離れた場所に有る、荘厳な邸宅に視線を移す。

 

 

「今は不在だから屋敷には居ないわ、でもすぐまた帰ってくると思うし、それまで部屋を使える様に私が一緒にレムとラム…使用人達に話してあげるから」

 

 

「先に見つけたのが僕達じゃなかったら侵入者として管理局に通報されて今頃は牢屋の中でくさい飯を食べるはめになっていたんだよ?優しい優しいウチの娘に感謝してね」

 

 

「…そんなんじゃない、ラム達の仕事を増やしちゃうのも悪いから自分でやっただけだし、牢屋の中でぎったんぎったんにされるあなたを想像しちゃって憐れに思っただけなんだから」

 

 

「…本っ当にありがとう。いやほんとに 」

 

 

ジェイスは何も解らない今の自分が彼女らの言う責め苦を味わえば、どうなっていたか想像してしまい、改めて、彼女らに心からの感謝を述べた。

 

 

「とは言っても僕も正直きみの身体について、ベアトリスとロズワールも加えて話したいから、そのまま追い出したく無いんだよね。…別にイヤらしい意味じゃにゃいよ?」

 

 

「俺の身体…?」

 

 

疑問を呈するジェイスをパックは猫目を細めてじっと凝視する。

 

 

「きみの身体は普通じゃない。身体の奥底にとてつもないものがある。それがなんなのかは僕にも解らない」

 

 

ジェイスを凝視するパックの眼に未知のものへ対する好奇の色が光る。

声も先ほどまでのにこやかなものから一変して冷たい調子へと変わっていた。

 

 

「…本当にきみはいったい何者なんだろうね?ジェイス・ベレレン」

 

 

 

パックの値踏みするような質問がジェイスの空っぽ(ゼロ)の精神を小さく波立てた。

 

 

 




ボーラス様に敗北直後のジェイスなので記憶を失っております。

評価いただけると幸いです。

主人公のスバルは次話しから出ます。
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