Pw:ゼロから始める精神魔道士   作:たこぶゑ

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第二話です。リゼロ本編の主人公ナツキ・スバルがこの回から出ます。(最後の方だけ)


第一章1『エミリアの護衛』

「初めましてぇ、君がジェイス・ベレレンくんだねぇ?私はロズワール・L・メイザース。エミリア様と大精霊様から話は聞いているよぉ?何でも記憶喪失で庭園に倒れていたとかぁ」

 

 

「…疑わしいでしょうが、その認識で間違い有りません。メイザース殿、昨日は身綺麗にさせていただいた上に、食事と部屋を与えていただいたことに感謝致します」

 

 

「あはぁ、ご丁寧にどうもぉ、是非ともぉ私のことは親しみを込めてロズワールと呼んでいただきたいねぇ、敬称も無しだよぉ?」

 

 

エミリアとジェイスが出会った丸1日後、ロズワール邸宅にて衣食住の世話になり身綺麗になったジェイスが与えられた自室にて、

先ほど帰宅したばかりの邸宅の主人とその傍らに立つ桃色髪の従者と共に対面していた。

 

 

濃紺色の長髪に黄と青色のオッドアイ、整った顔立ちに道化じみた化粧をした180センチを超える長身の痩せぎすの貴族然とした青年という奇抜な見た目に、ノック無しに入室された時にはやや面食らったジェイスだったが、

 

その緩慢な喋り方に隠された、知性とカリスマ性を彼から感じ取り、少々恐縮していた。

 

 

…彼が無造作にジェイスの身体に抱き付くまでは。

 

 

「おやぁ?君、着痩せするタイプなのかなぁ、見かけによらずなかなか良い身体をしているねぇ」

 

 

「メイザー…、ロズワール、いきなりなにをするんですか?ほんと、なにを…、あ!尻を触らないでいただきたい、おい!ほんとにやめろ」

 

 

ジェイスは自身の尻に伸びたロズワールの手を掴み、もう片方の手で軽くロズワールの身体を押し、距離を取らせた。

押されてバランスを崩しかけたロズワールを桃色髪の従者が支える。

 

 

「あはぁ、なかなぁか鋭いねぇ!見えない位置の私の手に気付き、よぉく防いだよぉ、何かの加護が有るのかなぁ?」

 

 

ロズワールはさも嬉しそうに笑うと、白手に包まれた両手で拍手をした。

 

 

「相手の感情を察知するのは得意なもので…、それでこれにはどういう意図があったんだ?初対面の相手に対しては過度過ぎるスキンシップだと思うんだが」

 

 

「なぁーに、君の身体のマナとオド、そしてゲートの様子を計らせてもらったんだよぉ、大精霊様から聞いてはいたが、君の身体はかぁなぁりぃ特殊だねぇ」

 

 

マナオドゲート、ジェイスは昨日、邸宅に招待を受け、身綺麗にさせてもらってから、パックとエミリアから同じ単語の説明を受けたことを思い出した。

 

 

「君もエミリア様と大精霊様から昨夜にも聞いてはいるんだろぉけれども、おさらいをぉしておこうかぁ。マナとオドとゲートについてぇ、君の認識を聞かせてくれるかなぁ?」

 

 

問うたロズワールの雰囲気が変わったことを、ジェイスは察知し、恐らくこの質問で自分を値踏みするのだろうと彼は察した。

 

 

「…マナとは大気に存在する魔力で有り、ゲートを通じてオドに蓄えられる。また、ゲートを使い、放出することによって6種の属性、火、水、土、風、そして陰と陽の魔法を行使することが出来る。…マナはオドで代用も出来るが、失われたオドは戻らず、尽きれば廃人となる…と簡略したがこんなところだろうか?」

 

 

「いいねぇ、その知識は元々知っていたのかなぁ?」

 

 

「いいや、エミリアとパックに教えてもらうまでは知らなかったな」

 

 

「ふぅむ…それはとぉってもおかしな話しだねぇ」

 

 

ロズワールはジェイスの対面から移動し、ベッドに腰掛けているジェイスの隣りに座り、その眼をじっと覗きこんだ。真っ直ぐに見つめる青と黄色のオッドアイからジェイスが感じるのは強い関心と疑念だった。

 

 

「…もう変なことはするなよ?」

 

 

「あはぁ、さっきはごぉめん。でも、今は真面目さぁ、ジェイス。君は記憶は無いけど知識は頭に残っているんだよねぇ?」

 

 

「あぁ、その通りだ」

 

 

「となるとぉ君はマナ、オド、ゲートという常識は元々知らなかったわけだぁ」

 

 

話しながらロズワールの関心がより強くなっていくのをジェイスは感じる。

 

 

「それはぁ生きていく上でぇ当たり前の知識だからぁ知らないのはおかしなことなんだぁけど…君の持つ特殊なマナに関係あるのかなぁ?」

 

 

「俺のマナ?」

 

 

「そぅ。私の見たところ君の身体を流れているマナは異質だねぇ」

 

 

「…マナが異質?どう異質なんだ?」

 

 

「まぁず、私の知っている六属性と一致しない物だし、正直、私にも未知のマナだぁ。それを踏まえて前の常識の話に戻るんだけどぉ…」

 

 

ロズワールはおどけた態度から一変した鋭い眼でジェイスを捉えた。

 

 

「…君、もしかして異世界から来てたりする?」

 

 

ジェイスはロズワールから急に発せられた威圧感に驚きながらも気丈さを保ったまま相対する。

 

 

「…なぜそう思うのか聞かせてもらえるか?」

 

 

「もぉちぃろぉん、まず第一に君と直接会って話しをしてわかったけど、君は常人以上に賢い。エミリア様、大精霊様から一度だけ教授された知識を私に説明出来る位だしねぇ、けれどさっきも言った通り、その知識は常識だ。この世界だと知らなきゃ生きていけない程にねぇ、君ほどの賢者が知識として知っていないのはおかしい」

 

 

「…第二に?」

 

 

「さっき言った君のマナだねぇ、今まで見たことも聞いたこともない色のついたマナだ。それもこの世界のマナじゃないと考えれば説明がつく」

 

 

「…まだ有るのか?」

 

 

「第三にぃー、まぁこれが最後だねぇ、__ラム」

 

 

「はい、ロズワール様。」

 

 

ロズワールの傍らに立っていた桃色髪の使用人はその名前を呼ばれると純白のハンカチに包まれた何かをロズワールに手渡した。

 

 

「君がぁここに宿泊している間に衣服を洗濯させてもらったんだけどぉ、その時、君の所持品を見させてもらってねぇ、その中にこんな物が有ったよぉ」

 

 

ロズワールは手に持ったハンカチを開いて中身をジェイスに見せた。

 

 

そこにあった物は金属製の二つの籠手と鞘に納まった短剣だった。

 

 

「これらを見てぇ、君自身はどう思うかなぁ?」

 

 

「…俺があなたの立場なら真っ先に刺客かと疑うな」

 

 

「そうだよねぇ、今が悪い時期というのもあって私もまずはそう考えて君の持ち物と武器から身元を調べようとしたんだぁ、そしたらびっくりだよぉ!これらは見たことも無い金属で出来ているじゃないかぁ、これが第三だねぇ」

 

 

「要するに、俺の知識にこの世界の常識が無く、身体には未知のマナが流れていて、未知の金属の装備を持っていた…ってことで異世界から来たんじゃないかと言いたいわけだな?」

 

 

「そういうことだぁよ、君自身はどう思うかなぁ?」

 

 

「確かにあなたの話しは理に叶ってはいるが、俺は何も覚えていないし、証明しようが無い」

 

 

「証明は出来ると思うよぉ、君の知識のままにその未知のマナを使って何か魔法を使ってみてはくれないかなぁ、頼むよぉ」

 

 

ロズワールは子供の様な興味に満ちた眼でジェイスを見つめながら請願した。

 

 

「念のために聞くけれど、俺に拒否権は無いんだろう?」

 

 

「あはぁ、君にはぁまだ王選候補者たるエミリア様とその後援人である私に放たれた刺客という疑いは晴れていないんだよぉ?何より、君はぁ友人の頼みを断る様な薄弱な奴なのかいぃ?」

 

 

言われてジェイスは諦めた様に薄く笑うと、意識を自身の両手へと集中させ、自身の感覚の向かうままに放った。

 

ジェイスの両手から放たれた、青色の(もや)はロズワールの目と鼻の先で揺蕩(たゆた)いながら、徐々に形創(かたちつく)り、その形はジェイスの姿と瓜二つのものに変化した。

 

ロズワールは自身の前に現れた二人目のジェイスを目の当たりにして眼をきらきらと輝かせ、その傍らに佇んでいた桃色髪の使用人も目を白黒させた。

 

 

「あはぁ、男前が二人になったねぇ。呪文も無しにこんな高度そうな魔法が使えるなんて、すごいよぉ。この魔法の名前を教えてくれるかなぁ、それと何か他に出来る魔法はあるかい?」

 

 

「この魔法は幻影術(イリュージョン)、幻を生み出す魔法だ。後はマナを水と氷に変化させる魔法と召喚魔法、…それと精神魔法というものを少々」

 

 

「へぇ!召喚魔法に精神魔法、とぉっても興味深いなぁ、それらは見せてくれないのかぁい?」

 

 

「あいにくと召喚魔法は発動してここに喚ぶとずっと存在することになるから世話をする必要が出てくるんだ。幻なら簡単に消せるんだけどね、こんな風に」

 

 

言ってジェイスがパチリと指を一つ鳴らすと、ジェイスの姿の幻は青色の(もや)に戻り、そのまま霧散し消えた。

それを見たロズワールは少し残念そうな顔を見せる。

 

 

「そして、精神魔法だけど…、…これは正直あまり見せたくたいな」

 

 

ジェイスがやや暗い表情で話すと、それが興味を惹いたかロズワールの眼光が怪しく光った。

 

 

「ほぉーぅ、それは何故かなぁ?そして、そもそも精神魔法とはどういう物か聞かせてくれるかなぁ?」

 

 

「精神魔法は文字通り精神に関する魔法で、簡単なもので相手を眠らせたり、意識を乱したりする。高度なものだと相手の精神を乗っ取って操ったり、記憶を書き換えたり出来る」

 

 

ジェイスの言葉を聞いて、ロズワールの顔色が変わる。

 

 

「…それはとぉてぇもぉ恐ろしい魔法だねぇ」

 

 

「それが俺が見せたくないと言った理由だ、やむを得ない場合以外はあまり使いたくはない。それに…」

 

 

「それにぃ?」

 

 

「これはあくまでも持論だが…精神は俺にとって大きな武器だが、同時に大きな弱点でもある。高度な精神魔法を使っている際は自分自身の精神も無防備になるから危険なんだ」

 

 

「ということはぁ、君にとっての切り札という訳だねぇ。でも、その切り札と弱点をホイホイと私達に話してしまっていいのかなぁ?」

 

 

ロズワールの疑問にジェイスは肩をすくめて明るい笑みを見せて答えた。

 

 

「この国の事情はエミリアとパックから聞いているし、今は少しでも自分のことを明かして信頼を得たいからね。何よりも俺たちはもう友人なんだろ?」

 

 

「あはぁ、そうだねぇ。さっきは君を刺客なんて疑って悪かったよぉ、それで君と友人同士になった所で提案なんだけどぉ、…君、うちで雇われてみないかぁい?給金は出すし、衣食住の保証もするよぉ。他に行く当ては無いんだろぉ?」

 

 

「…あぁ、しかし、いいのか?俺の様な、どこの誰とも解らない奴を雇い入れて」

 

 

「君とぉ直接話をして信頼出来ると分かったしぃ、何よりその能力はとぉっても有用だぁ。…ここで逃して他で雇われるのも避けたいしねぇ」

 

 

「それが本音に聞こえるな、…いいだろう、あなたの申し出を請けよう。しかし、雇われるとは言っても何をすればいいんだ?」

 

 

「まずはぁ4日後にエミリア様が王選の関係でルグニカの街へ向かわれるからぁ、付いていってぇ警護をしてほしい。私は今日の夜にも発たないといけないからねぇ」

 

 

「今日また発つのか、随分と多忙なんだな」

 

 

「まぁねぇ、これでも辺境伯だからねぇ、私」

 

 

言ってロズワールはおどけた様に笑ってみせた。

 

 

「屋敷のことについてはぁその後かなぁ。まずこの後の3日間はゆっくり休んでよぉ、じゃあそろそろ失礼しようかなぁ」

 

 

言い終えてベッドから立ち、出口の扉を開けた途中「あ、そうだぁ」とロズワールがジェイスへ向き直った

 

 

「これは私の興味本意で聞くんだけどぉ、君、エミリア様のために命は捨てられる?正直に教えてよぉ」

 

 

急な問いにジェイスは面食らうも、ロズワールの態度と裏腹な真剣な眼差しに真剣に思考し応える。

 

 

「…いや、エミリアは確かに恩人だし、彼女のために命を張って戦うことは出来るが、命を捨てることは俺には出来ない」

 

 

「ほーぅ、それは何故だぁい?聞かせてくれるかなぁ」

 

 

「俺には記憶は無いが、しなければいけないことがある様な気がする。それを(ないがし)ろにして、エミリアを優先することは出来ない」

 

 

ジェイスはロズワールの真剣な眼差しに応える様に、真剣な眼で見て答えた。

 

ロズワールはジェイスの答えを聞いて満足した様に笑うと手をヒラヒラと振った。

 

 

「ありがとうねぇ、それじゃあ4日後によろしく頼むよぉ」

 

 

言ってロズワールはジェイスの部屋を従者を引き連れて後にする。

 

「…彼女のために命を捨てる騎士は現れてくれないものかねぇ」

 

 

誰にも、傍らの使用人にすら聞こえない声で、ロズワールは呟いた。

 

 

_____________________

 

 

「…まさか、初仕事からこんな事になるなんてな」

 

 

ジェイスは4日前の出来事を思い出しながら街の街道から暗い路地裏へ駆けていた。

 

事が起きたのは数分前、エミリアとジェイスがルグニカの街に到着してしばらくの出来事。

 

ジェイスが初めてルグニカの街を訪れるということで街を案内してくれるというエミリアの計らいにより、街の中をしばし散策していた矢先の事、ジェイスの傍らを歩いていたエミリアにスリを働いた橙色髪の少女を追ってジェイスは街中を駆け回っていた。

 

 

「おいっ!止まれ!」

 

 

「へっ、ばぁーか!追い付いてみろよ、のろまぁ」

 

 

ジェイスは自分の数メートル前方を走っている橙色のショートヘアをなびなせた少女へと声を上げる。

 

 

その声をあざ笑いながら、多少余裕の有る様子で彼女は自分の後方を走るジェイスを挑発している。

 

 

「…ッ!クソガキ…!」

 

 

ジェイスは少女の挑発に乗るかの様に走る速度を上げて、少女の背中へと迫る。

 

 

ジェイスの見たところ少女は街の地理にも慣れており、普段からこういった行為を生業(ならわい)としている様子とその身軽そうな体型から韋駄天のごとき足の速さでは有るが、ジェイス自身も負けてはいない。

 

「ちょっとどけどけどけ!そこの奴ら、ホントに邪魔!」

 

ジェイスに思わぬ神からの助力、見ると路地裏の先で風体のよろしく無い男三人と、それと対面して石畳の上で身体を折り畳む様な姿勢で頭を地面に着けている黒髪の青年が路地を塞いでいた。

 

ジェイスはもう少しで少女の背に手が掛かるといったところで、少女は路石を蹴って大きく跳び上がり、その勢いのままに、路地の壁を蹴って、蹴って、そのまま屋根まで登った。

少女は成すすべの無いジェイスの方を見下ろしにこやか笑う。

 

「じゃーな、変なフードの兄さん。野良犬に噛まれたとでも思って諦めな、そんでそこの兄ちゃんゴメンな! アタシ忙しいんだ! 強く生きてくれ」

 

 

「って、ええ!?マジで!?」

 

少女は捨て台詞を吐いてすぐにジェイスの見える場所、つまり、見下ろしていた頭上から姿を消した。そして、足元の青年はそれを名残惜しそうに見送る。

 

 

「くそっ!」

 

 

ジェイスは悪態をつきながらも諦めた様子を見せず、自身の内のマナに意識を集中させる。

 

そして、知識のままに呪文を口走り手の先から浮き出る青白い文字で紋章を描いた。

 

 

「来い! 雲のスプライト(Cloud Sprite )!、ドレイクの使い魔(Drake Familiar ) !」

 

 

ジェイスが声を出すと、ジェイスの描いた紋章から蝶の様な羽根の生えた、パタパタと飛ぶ手乗りサイズの小さな人型の生き物とジェイスと同じ位の全長の恐竜のプテラノドンめいた両翼を持った身体に、脚に鋭い鉤爪を持ち、頭は鋭い牙の羅列した獰猛なトカゲを想わせる生物が現れた。

 

 

「スプライト、ドレイク、屋根の上を走る小柄な人間を追え、可能ならば捕まえて来い」

 

 

ジェイスが端的に指示を出すとスプライトとドレイクと呼ばれた生物は少女が登っていった屋根の方へと飛び上がり姿を消した。

 

 

ふぅ…と一息ついたジェイスは自身のすぐ周囲を見回し、男四人からの注目に気付いた。

 

ジェイスは暫し、人差し指を目頭と鼻の間に置いて深呼吸をし、彼らを見て、一言発した。

 

 

「…それで?こちらはどういう状況なんだ?」

 

 

 




ジェイスの描写にちょこちょこ《~の様に感じる》と有るのは彼自身まだ記憶が無くなって、自身のテレパス(精神感応)の能力をコントロール出来てないという設定です。



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