第一陣 白昼神隠
奈落を力なく落ちていく者が一人、その腹には刺し傷があり、血が滲んでいる。腰には刀を一振り差し、まるで侍のような恰好をしていた。
彼は涙を零しながら落ちていく。
「皆、ごめん……」
全ての始まりは、或る日の月曜日に起こった。
早朝、一組の男女が一緒に歩いていた。
「こうして二人きりで一緒に歩くのって、何時振りだろうね」
頬を赤らめて歩いている女子の名は
その隣にいる男子は
二人は八重樫流道場の門下生である。そして南雲家で書生兼お手伝いさんをしている。
剣の腕は、二人共優れていた。全国大会に出場する程の腕前だ。そして二人共全国大会を制している。反則行為は一度もしたことがない。
「本当、凄く久し振りな気がするよ」
来がそう言うと、膵花は彼と腕を組む。まだ高校生ながら、既に婚約をしている。法的にはまだ結婚は認められていない年齢なのだが、二人はまるで、長年連れ添って来た夫婦のように語り合う。
「まだ時間はあるみたいだし、ちょっと公園に寄ってみようか」
「うん」
そして二人は誰もいない公園に寄り、ベンチに座る。
「ねぇ、来君」
「何かな?」
「今度の休みの日にさ……二人でデートしようよ」
「うん、喜んで」
「ありがとう」
デートの約束をし、顔を近づける。
「「……んっ……」」
そして髪が触れ合い、唇が重なる。二人はしばらく続けた後、唇を離した。
「そろそろ行こうか」
「うん♡」
膵花と来の二人は手を繋ぎ、学校へ歩いて行った。
教室に入ると、教室がざわついた。学年でもトップクラスの美少年と美少女が共に入って来たのだ。膵花と来は何事も無かったかのように席に荷物を置く。
「おはよう、膵花ちゃん、辻風くん」
二人に挨拶したのは白崎香織という女子生徒だ。彼女は膵花と共にクラスの三大女神と呼ばれている。
「「おはよう、香織ちゃん(さん)」」
流石膵花と来、息ピッタリである。
「おはよう、膵花、辻風君」
「おはよう、膵花。今日も君は綺麗だね」
「よっ、辻風」
「おはよう、雫ちゃん、天之河君」
「おはよう、龍太郎」
挨拶した順に八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎。雫は八重樫流道場の令嬢であり、しばしば雑誌の取材を受けているほどの実力の持ち主。かつて来に本気で勝負に挑んだところ、呆気なく敗れてしまった。しかしそれでもなお、『現代に現れた美少女剣士』の称号は健在だった。ちなみにクラスの三大女神でもある。
天之河光輝は膵花や来と同じく八重樫流道場の門下生である。こちらの実力も来より下である。クラスでは成績優秀、スポーツ万能、おまけに容姿端麗と好印象の三拍子だ。来と同じくらい女子に人気がある。しかし思い込みが激しく、更に自覚もないことから、来と膵花からはあまり好印象を持たれていなかった。そして先程膵花の美貌を誉めたが一部男子生徒とは違い下心は皆無である。どうやら光輝は香織と雫、膵花に気があるようだ。香織と雫に関しては幼馴染だから、膵花に関しては道場で自分のいる方にいつも笑顔を向けているから、というのが理由だ。しかし、その時の膵花は光輝の後ろにいた来に笑顔を向けていたのだった。
最後に坂上龍太郎、ガタイが良くて脳筋であること以外特筆することはほとんどない。190cmの龍太郎ですら来には勝てなかった。ちなみに来の身長は183cmとこちらも高い方だった。来が龍太郎を打ち負かして以降、二人はそれなりに仲が良くなった。
始業のチャイムが鳴る直前に一人の男子生徒が教室に入って来た。名を、南雲ハジメという。割と何処にでもいそうな普通の男子高校生である。
「よぉ、キモ…」
最後まで言い終わることなく来に悶絶させられたのは日常的にハジメにちょっかいを掛けている檜山大介他三名だった。この後彼らはお昼休みまで休憩時間の度に悶絶させられることになる。いきなり悶絶させられたのか、周りの女子生徒はおろか、男子生徒まで恐怖で震えていた。クラスが恐怖で包まれる中、ハジメに香織と膵花、来、雫が挨拶した。
「おはよう、ハジメ。今日は随分と遅かったね」
「南雲くん、おはよう! 今日はギリギリだったね」
「おはよう、ハジメ君。また徹夜したの?」
「南雲君、おはよう。毎日大変ね」
「香織、膵花、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に二人は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気のない奴に何を言っても無駄だと思うけどなぁ…」
「あ、ああ…おはよう。白崎さん、膵花さん、来、八重樫さん」
檜山達とは違い、香織は好意を持ってハジメに接している。そしてそれは膵花と来も同じ。幼い頃から家族として暮らしてきたハジメを気遣っている。膵花と来はハジメにとってたった二人の親友だった。
「確かに授業態度は良いとは言えないが、彼も彼なりに努力はしているんだ。そう悪く言うのは止めてくれないか」
「おっと、そうだったな。悪ぃ」
光輝とは違い、龍太郎はまだ良識のある方だった。だから来とも仲良くなれたのだろう。
基本授業中寝ているハジメは膵花と来から勉強を教わっている為、成績は光輝を抑えて三位である。しかも最近は休憩の度にコーヒーを飲まされ続けているので授業中寝ることが少なくなり、授業態度も改善しつつあった。
順位はこんな感じ。
順位
1位 辻風来、滝沢膵花
3位 南雲ハジメ
4位 天之河光輝
5位 白崎香織
お昼休み、膵花と来は眠っているハジメを起こした。
「ハジメ君、一緒にお昼食べよ?」
「ああ、もうお昼か。じゃあそうさせてもらおうかな」
「ふふふ、今日は全部来君が作ってくれたんだよ」
「そうなんだ。来の料理かぁ、楽しみだなぁ~」
するとそこへ、香織も近寄って来る。
「三人ともこれからお昼? よかったら私も一緒に食べていい?」
「「うん、いいよ」」
「あ、うん……」
三人は快く(ハジメは渋々)了承しようとしたが、そこへ光輝が割り込んできた。
「香織、膵花、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。折角の香織と膵花の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
それを聞いていた膵花と来は不愉快で堪らなかった。
「天之河、香織さんが僕らと一緒に食べるのに何で君の許可が要るんだ? 彼女の弁当は君のじゃないだろう?」
来は少々眉間に皺が寄った状態で光輝に訊き返した。
「そうだよ、なんで光輝君の許可が要るの?」
香織の反撃に思わず雫も噴き出した。光輝は困り顔になる。見苦しいことこの上ない。
「そ、そういうつもりじゃ…俺はただ……」
「天之河君、そんなに香織ちゃんがハジメ君と一緒にお弁当を食べるのが嫌なの? だったらはっきり嫌だって言ってよ。あと、私のお弁当は来君が作ってくれたんだよ?」
何ということもない、ありふれた日常。しかしそれは、唐突に終わりを告げるのであった…
突如光輝の足元に円環と幾何学模様が出現した。それはやがて輝きを増し、教室全体に広がる。
「皆、教室から出て!」
未だ教室に残っていた畑山愛子先生が叫んだのと同時に魔法陣の光が教室を包んだ。光が収まると、人の姿は跡形も無く消え去っていた。
とある高校のとあるクラスは、この世界から姿を消してしまったのだ。しかし、この時はまだ、誰も知る由もなかった。
後書きは次回予告の欄にしようと思っています。
次回
第二閃 異界転移
オリ主ヒロインにミレディ・ライセンを追加しようと思っていますが、入れてもいいと思いますか?
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入れてもいい(むしろ入れてくれ)
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原作重視(入れるな)
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死亡回避ならOK