IF編は召喚鬼滅譚をある程度投稿したところで始めさせていただきます。
第二十三陣 剣士と兎の門出
現在、来とシアは〝飛脚〟に乗り込んで平原を疾走していた。シアは来の後ろに乗っている。以前、樹海まで乗せた時よりも明らかにシアの密着度が高くなっている。
そんなシアは肩越しに質問を投げかけた。
「来さん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」
「ごめん、言って無かったね。次の目的地はライセン大峡谷だ」
「ライセン大峡谷?」
現在、確認されている七大迷宮はオルクス大迷宮とハルツィナ樹海を除いて【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実に攻略するには、次の目的地はこの二つのどちらかにすべきでは?と思ったのだ。
「一応、ライセン大峡谷にも七大迷宮があると思われる。シュネー雪原は魔人族の領土だから衝突は避けられないかもしれない、それに雪原とあって環境も厳しい。今の服装じゃ凍え死んでしまう。そこを考慮すれば大火山を目指すのが最適だと思うんだが、何せ東西に伸びる大峡谷だ。途中で迷宮が見つかるかもしれない」
「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」
シアにとってそこはあまりいい思い出が無い場所だった。ついこの間そこで一族が全滅しかけたのだ。頬が引き攣ってしまうのも、無理はない。
「頑張れ、今のシアなら谷底の魔物も難なく倒せる。身体強化に特化した君なら何の影響もなく動けるんだ。寧ろ独壇場だろう」
「うぅ~、面目ないですぅ~」
「ははは、よしよし」
現在運転中なのだが片手を離してシアの頭を撫でた。シアの方はというと、嬉しそうだった。
「では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」
「そうだね、できれば食料や調味料を揃えておきたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったはずだ」
来自身、いい加減まともな料理が食べたかったというのもある。それに町で買い物なり宿泊するなら金銭が必要になる。魔物の素材なら腐るほど〝八咫〟に詰まってるので金銭面の方は当分困らないだろう。それにもう一つ、峡谷に入る前にやっておきたいことがあったのだ。
「はぁ~そうですか……よかったです」
「ん? よかった? どういうことだ?」
「いやぁ~、来さんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をばりぼり食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……」
ハジメ「ぶしゅん」
香織「くちゅん」
雫「へくちっ」
膵花「くしゅん」
ユエ「……どうしたの皆?」
ハジメ以外「「「ううん、何でもない」」」
ハジメ「あいつ……随分と楽しんでるみたいじゃねーか……(怒)何時かお前の頭を一発殴らせてくれ……」
「どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。来さんもまともな料理食食べるんですね!」
「そりゃ人間だからね。魔物の肉は癖が強すぎて料理に向かないし、魔力が詰まってて常人が食べたら命を落としかねない。……君は一体僕を一体何だと思ってるんだ……」
「……プレデターという名の新種の魔物?」
「最早人間ですらない……」
とんでもなく失礼な兎である。しかし来は
仲の良い様子で騒ぎながら草原を進む二人。
「でも、一緒に旅する相手が来さんでよかったです。来さん、とても
「……そうか、ありがとう」
来は若干嬉しそうにしていた。だが彼には膵花という最愛の妻がいる。他の女性に靡くことはない。
数時間程走っていると、前方に町が見えてきた。そろそろ日が暮れるといった頃だ。来の表情が綻んだ。
「戻って来たんだ。やっと懐かしい風景に」
遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模の町だ。街道に面した木製の門が建っており、その傍には門番の詰所らしき小屋もある。それなりに充実した買い物が楽しめそうな規模だ。
「シア、町に入る前にこれを着けておけ」
「え?あ、はい」
シアは来から渡されたチョーカーを首に着けた。黒を基調として、小さな水晶が散りばめられている。
ある程度町に近づいた所で〝飛脚〟を〝八咫〟に仕舞い、徒歩に切り替えた。
「ひえぇ、まだ町までそれなりに遠いんですから仕舞わなくてもいいでしょうよぉ~」
「大丈夫、シアならこのくらいへっちゃらだろう?」
「うぅ、来さんがそう言うなら、もう少し頑張ってみますぅ」
道中、文句を垂らすシアを宥めながらも遂に町の門まで辿り着いた。小屋から武装した男が出てきた。武装したといっても革鎧に長剣を腰に差しているだけでぱっと見冒険者に見える。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
規定通りなのか、やる気なさげな質問に対し、ステータスプレート(隠蔽済み)を取り出して応答する来。
「食料の調達と宿だ。旅の途中なんでね」
ふ~んと気の無い声で相槌を打ちながら門番の男が来のステータスプレートをチェックする。そして、少し眉間に皺を寄せた。
「……このレベルでよく生きてたな」
ステータスの数値は滅茶苦茶だったので隠蔽して非表示にしておいた。しかしそれでもレベルの表示は低い。いや、レベル表示の上昇が遅すぎる。(現在19レべ)
「運だけは良いらしいからね」
「マジかよ……どんだけ幸運強いんだよ。それよりあんた、見慣れない恰好をしてるな」
「僕の生まれ故郷で着ていたものなんだ」
「ふ~ん……で、そっちの兎人族は……」
現在、来とシアは和服を着ている。トータスではまず見かけることのない異世界の民族衣装だ。おまけに来の髪は白髪で、それなりに長いので結んである。
「……お察しの通り」
その言葉だけで納得したのか、なるほどと頷いてステータスプレートを来に返す。
「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外と金持ち?」
「いや、そうでもないかな」
「まさか、奴隷商か?」
「それは断じてない」
きっぱりと否定した。相当奴隷商と見られたくないらしい。
「じゃあ何処で手に入れたんだ?」
「う~ん、
門番は凍りついた。今、この青年は何と言ったのか……聞き間違いでなければ、相当強者だろう。
「……な~んちゃって☆」
来はさり気無く笑顔でデレた。女子が見ていたら確実に骨抜きにされていただろう。
「何だ……冗談かよ……冷や冷やさせんなよ」
「すまない。少しからかってみただけだ」
如何やら冗談だったようで、門番はホッと胸をなでおろした。(帝国兵を皆殺しにしたのは事実)もし本当ならとんでもない辻風である。ま、本当のことなんだけど。
「まぁいい、通っていいぞ」
「ああ、どうも。そうだ、素材の換金所は何処にある? ここに来るのは初めてだから」
「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な地図をくれるから」
「そうか、ありがとう」
「いいってことよ」
門番から情報を得た来達は門を潜り町へと入った。門にも書いてあったがこの町はブルックという名らしい。町中はそれなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアド程ではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。
こういった騒がしさが気分を高揚させた。しかし、シアは先程からぷるぷると震えて、怒鳴ることもなくただ涙目で来を睨んでいた。
「どうしたんだ? 折角の町なのに生まれたての子鹿のように震えて」
「これです! この首輪? です! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! 来さん! わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」
旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷奴隷扱いを受けさせられたことに相当ショックを受けたようだ。チョーカーにはシアを拘束するような力などない。ただの飾りである。それは解っているようだったが、それでもショックなものはショックだったようだ。
「違う、違うんだシア。君は僕の大事な仲間だ。奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町中を歩けるはずがないだろう。ましてや、白髪で物珍しい上に容姿もスタイルも抜群。奴隷じゃなかったら十分も経たずに目を付けられる。後に待っているのは絶え間ない人攫いの嵐だ……っていきなりどうしたんだ?」
言い訳があるなら言ってみてくださいよぉと言わんばかりに来を睨んでいたシアだったが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめてキュンキュンしだした。
「も、もう、来さん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ!恥ずかしいじゃないですかぁ~」
「いや誰もそこまで言ってないからね?(世界一……いや、宇宙一可愛い、じゃなくて綺麗で魅力的なのは膵花だけだ……!)」
残念な兎を前にしてさえ、呆れの色を見せることなく来は話を続ける。
「寧ろ奴隷という身分が、君を守っているんだ。そうでなきゃ、毎度毎度トラブルに巻き込まれて
「それは……わかりますけど……」
理屈も有用性も解るが、それでも納得し難いようだ。仲間というものに強い憧れを持っていただけに、そう簡単に割り切れないのだろう。
「……有象無象の評価なんてどうでもいい。大切な事は、大切な人が知っていてくれればそれで十分だ。一々小さい事を気にするな」
「……来さん……えへへ。ありがとうございますぅ」
長年想い人と連れ添って来たからこそ、その言葉に重みがあった。故にその言葉はシアの心にストンと落ちる。自分が来にとって大切な仲間であるということは、刃卯鱗亜達の皆も、来も解っている。別に万人に理解してもらう必要はない。
「どんなことがあろうとも、僕は仲間を見捨てない」
「町中の人が敵になってもですか?」
「世界だろうが神だろうが同じさ。仲間は誰も死なせない。たとえこの命を犠牲にしてでも……!?」
来は腰に差した〝舞鱗〟に左手を掛けながらシアに言ってみせた。だが、最後の言葉で来の脳内に走馬灯が駆け巡る。
『もう少し自分のことにも気を配ってくれ。自分を守るということも時には大事だ。その事がどういうことなのかじっくり考えてみろ』
『来君、もう一人で苦しまないで。苦しい時、悲しい時は何時でも私に頼っていいんだからね?』
(……そうだ、膵花と約束したんだ。膵花の命として僕の命を守るって)
「来さん?」
「……ごめん、さっきの言葉は忘れてくれ」
だが既に聞かれてしまっていた。いざとなれば、自分のために世界とだって戦ってくれて、剰え命を投げ出す覚悟まで有しているという言葉は、やはり一人の女として嬉しいものだった。それが惚れた相手ならば尚更嬉しいものだ。
「あと、そのチョーカーには通話機能と探知機能があるから、必要なら直接魔力を注ぎ込んで使え」
生成魔法により元々持っている〝思念通話〟と〝気配感知[+特定感知]〟が付与されている。魔力を込めた分だけ有効範囲が広がる。また、〝思念通話〟の方は器用に特定の所持者とも通話が可能であり、内緒話にはうってつけである。〝気配感知[+特定感知]〟の方はビーコンの役割を果たしている。
来の説明に、感心の声を上げるシア。
「それと、外したかったら何時でも外せるぞ。流石にずっと着けているのは暑苦しいだろうし……」
「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいという来さんの気持ちというわけですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってるわけじゃなくてですねぇ……」
「うん、取り敢えずちょっと黙ろうか」
「ぐすっ、ずみまぜん」
黄金の瞳の貫禄を前にシアは縮こまってしまった。旅の同行は許しても、過度なアプローチは許してくれないようだ。それでも呆れの表情は一切見せないのが辻風来という男。これが女子からの人気が高い理由の一つでもある。
そんなこんなでメインストリートを歩いていると、一本の大剣が描かれた看板を発見した。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。
来は看板を確認すると重厚そうな扉を押し開き、扉の向こうへと足を踏み入れたのだった……
次回
第二十四閃 剣士は冒険者となり、六彗星は宿に集う
IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)
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外伝をある程度進めてから
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今でしょ!
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別途執筆