ブルックの町編は次回まで続きます。
不定期のオリキャラ噂話
プリズムの気遣いはよく無駄と言われるらしい。そしてブロトンは後で殴られた。
ギルドには荒くれ者達の場所というイメージがあったが、中は意外と清潔さが保たれていた。入口正面にカウンターがあり、左手には飲食店になっている。そこで何人かの冒険者達が食事を摂ったり雑談をしている。ちなみに、酒場は別の場所にある。
来達がギルドに入ると、案の定冒険者達の注目の的となった。最初は見慣れない恰好(和服)の二人組ということでささやかな注意を引いただけだったが、彼等の視線がシアに向いた途端、瞳の奥の好奇心が増した。それを察知した来は黄金の瞳で一睨みし、黙らせた。そして足止めもなく来はカウンターへ向かう。
カウンターには恰幅のよい女性がいた。そして何故かシアの冷たい視線が来に向けられている。その来はシアの方を向いて頭にはてなマークを浮かべている。何度も言うが、来には膵花という最愛の妻がいる。
そんな来達の内心を知ってか知らずか、女性はニコニコと人好きのする笑みで来達を迎えてくれた。
「こんなカワイ子ちゃんがいるのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」
「……はい?」
来はポカンとした表情で女性の目を見ていた。何言ってるんだろう、この人。
「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」
「いやだから違……何でもありません。肝に銘じておきます」
もうこの人の勘を覆せないと判断したのか、素直に聞き入れることにしたのだった。
「あらやだ、年取るとつい説教臭くなっちゃってねぇ、初対面なのにゴメンね?」
女性は申し訳なさそうに謝ってきた。何とも憎めない人だと感じたのだった。食事処では冒険者達が「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」と言いたげな表情で来を見ている。
(だから妙にここが静かだったのか……)
ここでも切り替えの早さは健在だった。
「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「あ、はい。素材の買取をお願いしたいんですが」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「買取に提示が必要なのですか?」
来は疑問を感じつつ言われた通りステータスプレートを懐から取り出した。
「おや? あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「そうでしたか」
「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」
(やっぱり通貨は違うのか……円ならまだしも、カリトや文、両、販、石はないか……)
ルタというのは、この世界トータスにおける北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。ルタの価値は日本円と同じだった。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。
「そうですね、折角なので登録しておきます。運の悪いことに今持ち合わせが無いので買取価格から差し引いて貰えますか?最初の買取額はそのままでいいので」
「可愛い子連れてるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
「解ってます」
有難く厚意を受け取り、ステータスプレートを渡した。
女性は、シアの分も登録しておくかと聞いたが、そもそも持っていないのでまずは発行をしてからとだけ伝えた。
来としては、シアのステータスを把握しておきたかったのだが、技能欄に固有魔法がはっきり記載されるのでまだ見られるのは不味いと判断して見送ることにした。
戻って来たステータスプレートには、天職欄の横に職業欄が追加されており、そこには〝冒険者〟と書かれていた。更にその横には青い点が付いていた。
青色の点が示しているのは、冒険者のランクである。色は通貨の価値と対応している。この制度を作った初代ギルドマスターの性格は知らないが、覚えやすくて助かる。
ちなみに、非戦闘系の天職持ちが上がれる限界は黒。ハジメは錬成師という典型的な非戦闘職なのでいくら頑張っても黒より上に上がることはない。だが来は剣士というばりばりの戦闘職であり、金まで上がることができる。(実力で言えば既にその域に達している)
「男なら頑張って金を目指しなよ? お嬢さんにカッコ悪いところ見せないようにね」
「善処します。それで、買取はここでいいのですか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
受付だけでなく査定もできるとは、優秀な方だ。来は、あらかじめ〝八咫〟から取り出して籠に入れ替えておいた素材を取り出した。樹海の魔物から剥ぎ取った素材である。流石に奈落の魔物の素材を出したら大騒ぎになり兼ねないのでそれは仕舞ったままだ。品目は魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、女性は再び驚愕の表情を露わにする。
「こ、これは!」
恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げた女性は、溜息を吐きながら来に視線を移した。
「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」
「ええ、そうですけど」
女性の反応を見るに、樹海の魔物の素材は相当珍しいようだ。
「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」
「やはりそう簡単には手に入らないですよね」
「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」
実際シアたち刃卯鱗亜の協力もあって樹海を探索していた。だが、来は水陸両用の生体ソナーを持っているので、霧で視界を奪われても一応地形や生物の位置を把握することができる。
それから、全ての素材の査定が終わった。買取価格は、四十八万七千ルタ。結構な額だ。
「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」
「いえ、大丈夫です」
そのまま五十一枚のルタ通貨を受け取った。異常に薄くて軽いので場所を取らない。
「ところで、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんですが……」
「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
手渡された地図は、無料とは思えない程に精巧に描かれていた。
「ありがとうございます。非常に精巧に描かれていますね」
「なあに、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
「これが落書きなのか……」
この女性、かなり優秀のようだ。外見年齢から推測して若い頃は今より重要な職に就いていたに違いない。
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その娘ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
「まあその連中なら僕が完膚なきまで叩きのめしておくんで」
しれっと周りの冒険者達に宣戦布告をしてしまっているが、女性は最後まで気配り上手でいい人だった。来とシアは頭を下げ、入口に向かって踵を返した。
「次は何処に行きますか?」
「そうだね、次は何処に行こうかな」
現在二人は〝八咫〟に記録した地図を見て次の行先を考えている。
「今日はもう何処かで泊まりません? 私もうクタクタなんですよぉ……うわっ!?」
シアが他の人にぶつかってしまったようだ。シアとぶつかったのは来よりも年上の女性だった。
「何処見て歩いてんだいアンタ」
「ひぇぇ、ずみまぜん~」
女性の剣幕にシアはビクッとしてしまい、涙目で謝る。
「シア、大丈夫か? すみません、うちのシアがご迷惑をお掛けしたみたいで……」
「ん? このお嬢ちゃんアンタの連れかい? もう少し周りに気を配ったらどうな……」
女性は来を僅かの間見つめ、声を震わせて尋ねた。
「アンタ……白狐かい?」
「どうしてその名を……まさか、ヘールボップさん?」
「え、あの、この人は一体……」
突然の展開にシアは付いていけていなかった。
「アンタ……嬢ちゃん(膵花)をほったらかして今まで何処に行ってたんだい!」
「がッ……!」
来の腹にヘールボップのパンチが炸裂する。突然の一撃に流石の来も反応できず…いや、反応はしていたが躱さなかった。そしてそのまま地面に倒れ込んだ。
「来さん! 来さんに何するんですか!」
「何だ? アンタ白狐の知り合いか? 悪いけど、これはアタイとソイツの話なんだ。首突っ込むんじゃないよ」
「いきなり来さんのお腹を殴っておいて、話って何ですかぁ!? 完全に一方的な暴力じゃないですかぁ! それと、来さんを白狐って呼ぶのを止めて下さい!」
「アンタ白狐の連れじゃないのかい!? 何で白狐が反撃しなかったのか分からないのかよ!?」
「うっ……」
確かに来は反撃も回避もせずにそのまま喰らった。シアの頭では突然の攻撃に反応できなかった、というのが考えられる限界だった。
「アタイのパンチを喰らったら
その言葉を聞いた瞬間、シアの中で何かが音を立てて切れた。そして腰の刀に手を掛けた。
「貴女だけは……貴女だけは絶対に許さない!!」
ヘールボップは依然鋭い目つきのままシアを見ていた。
「うあああああああああ!!!」
怒りに任せて刀を抜き、動かないヘールボップに向かって振り下ろした。
「愚かがッ!」
が、刃がヘールボップの身体に届く前に、シアの首に手刀が振り落とされた。シアは刀を落とし、一瞬痙攣した後、地面に倒れ伏した。
「……何故僕と膵花が一緒じゃないかは後で話をします。今は、気を静めてください」
「……アタイとしたことが面目ないねぇ。悪かったよ」
やはり来は強者だった。一触即発だった状況を一瞬でひっくり返した。
「続きは宿で話すとしましょう」
「そうだ、宿で思い出した。アンタ、ギルドのオバチャンから貰った地図持ってないかい? アタイったらうっかり失くしちゃってさぁ~」
「ええ、もう使わないのであげますよ」
「本当かい!? ありがとよぉ~、さっきは腹パンして悪かったよぉ~」
先程の状況からは想像もつかない程態度が変わっていた。光輝が聞いたら驚くこと間違いなし。
こうして大事に発展することなく事を収め、三人は宿へ向かって行った。
「そう言えば、千里眼の能力で宿を探せたのでは……?」
「あっ……」
宿屋、〝マサカの宿〟にて。
「もうチェックイン終わったのに姐さん何処に行っちゃったんだろ~」
「リーダーまたどっかで問題起こしてないといいけど……」
「おっ、噂をすれば」
宿にまた新たに三人、入って来た。一人はヘールボップだ。そして、気絶している兎耳の少女を背負っている青年の方は何処か見覚えがあった。
「姐さ~ん、今まで何処行ってたのよぉ~」
「ん? プリズム様、そちらの方は一体……? まさか殿か……」
「坊ちゃん、それはないと思うよ」
「ああ……」
青年の方もこちらに気づいたようだ。
「いやぁ、すまないねぇ。地図失くして道に迷ってたんだよ……どうしたんだい皆してこっちをじろじろと見て……」
「ひょっとして君、辻風君か?」
「ええ、お久しぶりです。ブロトンさん」
この五人も来の知り合いだった。麦藁帽子を被っている女性はテイア・テンペル、忍の恰好をしている青年はハレ―・百武、神社の巫女のような恰好をしている女性はジーレイ・エンケ、フードを被っている青年はブロトン・イアソン、古代ローマの女性が着ているような服装の女性はポキシエ・ハートレーという。
「五人とも無事でよか……」
「明星様!!」
「辻風様!!」
テイアとジーレイが来に抱きついてきた。
「よしよし、二人共元気で良かった」
笑顔のまま二人の頭を撫でる来。二人共気持ち良さそうにしている。
「師範、御健勝そうで何よりでございます」
「鍛錬の方は励めているか?」
「はい、毎日欠かさず鍛錬に励んでおります」
カム達より前にもう弟子がいた。刃卯鱗亜にとってハレ―は兄弟子にあたる。
「明星、無事でよかった」
「ハートレーさんも」
シアを除く全員が再会の喜びに浸っていた。
「本当ならここでもっと沢山話がしたいけど、君はまだチェックインが済んでいないだろう? 僕らはもう済ませたから、一旦ここで失礼するよ」
「はい、また何処かで」
ヘールボップ一行はそれぞれの部屋に向かって行った。
「んん……ここは? そうだ! あの女は……」
「目が覚めたか? シア」
「来さん……無事だったんでずねぇ~!!」
シアは泣きじゃくりながら来に抱きついてきた。
「よしよし。心配かけてごめんね」
来はシアを宥めながらカウンターへ向かった。すると、十五歳くらいの少女が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「今日は泊まりに来た。ガイドブックを見て来たんだが、記載されている通りでいか?」
来が見せた〝八咫〟に映っている地図を見て合点がいったように頷く少女。
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
「取り敢えず一泊で頼む。食事と風呂も付けてくれ」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
「ふむ…二時間で頼む」
「えっ、二時間も!?」
「そんなに驚く程長いのか?」
来は元古都民なので一時間単位で風呂に入るのが習慣になっている。日本にいた時も南雲家では最後に入っていた。(勿論膵花と混浴の日もある。というかほとんど混浴)
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 今なら二人部屋が空いてますが……」
少女はちょっと好奇心が含まれた目で来達を見ていた。そういうのが気になるお年頃なのだろう。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは流石に勘弁してもらいたい。シアも美人とは思っていたが、想像以上に彼女の容姿は目立った。膵花という美女の妻がいるのでこういう感覚には疎くなっていた。
「それで頼む」
来が躊躇なく答えると、周囲がざわつき始めた。少女も少し顔が赤くなっている。シアはというと…
(ふふふ、来さんに私の処女を貰ってもらいますよぉ)
性的な意味で来を狙っていた。
「あの、手続きの方お願いします」
「へっ!? あ、はい……」
いかがわしい想像をしていた少女は来の声で正気に戻り、手続きを済ませた。手続きが済んだと共に、来はシアを抱えて一階から三階まで瞬間移動した(ように駆け上がった)。二人部屋に入ると、シアをベッドに寝かせ、自分はヘールボップ達の許へ向かった。
「成程、つまり君は、滝沢ちゃんとその他同年代の男女十数名と共にこの世界に召喚されて、オルクス大迷宮で仲間の裏切りに遭い、奈落に落ちた…そして二か月程掛かって地上に生還した後、シアという名の兎人族とライセン大峡谷で出会い、兎人族全員を死から救ったのち、この町にやって来たと」
「そうかい……アンタにはアンタなりに事情があったんだね。理由もなく殴って悪かったよ」
ヘールボップ一行と来は三人部屋に集まり、話をしていた。
「いいんですよあれくらい。それで、ヘールボップさん。以前この世界で膵花と出逢ったそうですけど、今彼女が何処にいるか、分かりますか?」
「いや、残念だけどアタイにも分からない」
「そうですか……」
(本当ならアタイの千里眼で見つけられるだろうけど、それじゃ白狐の為にならない。自力で見つけ出してこそ初めて喜びが湧くってもんだ)
(プリズム、その気遣いは余計だと思うよ…)
来は少し落ち込んでいた。膵花の居場所が分かれば直ぐに飛んでいくのだが、場所が分からない以上、情報も無く闇雲に捜すのはあまり良い策とは言えない。
「別に落ち込まなくていいのよ明星様。魔女っ娘ちゃんなら大丈夫だって」
「滝沢嬢ならきっと無事でしょう。辻風様も根気強く捜せば、何時の日か再び二人が廻り逢う時が来るでしょう」
「二人共、ありがとう」
来はすこし元の調子を取り戻した。
「師範、その、シアという少女とはどういう関係なのですか?」
「普通に大事な仲間だと思っているが、それがどうかしたか?」
それを聞いてハレ―はホッとした。年月が経ってもかつての来は健在だった。
「それでは僕は戻ります」
「明星」
来が部屋を出ようとすると、ハートレーが呼び止めた。
「必ず生きてホーリィと再会しなさい」
「……分かった」
来はそう一言だけ言って、ヘールボップ達の部屋から出たのであった……
次回
第二十五閃 ゆったり休息まったり準備
IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)
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外伝をある程度進めてから
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今でしょ!
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別途執筆