ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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来とシアがライセン大迷宮に突入する以前にもうハジメと香織、ユエが突破しちゃってます。

読者すら苛立たせるほどの理不尽迷宮を前にしてもなお平然といられるオリ主の忍耐力が化け物です……(もう既に化け物だけど)


第二十六陣 突入

谷底の光景は正に、死屍累々だった。全て鋭利な刃で一刀両断され、一撃で絶命していた。

 

本来ライセン大峡谷は、奈落程ではないが、強力な魔物の住処となっている。常人ならば、まず生きて帰ることが難しいだろう。

 

だがしかし、()()()()となればこれに当てはまらない。白狐の剣士、辻風来と、兎の少女、シア・ハウリアである。

 

「一撃必殺ですぅ!! 【鳴ノ舞 〝紫電一閃〟】」

 

雷を纏ったシアの居合斬りで一体の魔物は真っ二つに斬られた。シアの魔法適正は薄いが、これは魔法ではないのでわざわざ魔法陣を描く必要がない。これでほとんどの魔物は難なく倒せる。

 

来はというと、谷を縦横無尽に駆け回りながら魔物を斬り伏せていく。流石に〝飛脚〟に乗ったまま刀を振るうのは不利だ。刀の形状的にも機動力的も降りて戦った方がいい。

 

「【鳴ノ舞 〝熱界鎌鼬〟】」

 

最早視認不可能な速度で抜刀と納刀を繰り返し、属性を持たない斬空刃が無数に飛び交った。魔物の群れは成す術もなく谷底の滲みとなった。更に血だまりから陽炎が発生し、それはやがて小さな積乱雲となり、近くで雷が落ちた。これが技の名前に〝熱界〟が付いている理由である。

 

谷底に跋扈する地獄の怪物がまるで雑魚のようだ。大迷宮を示す何かがないかを探索しながら片手間で皆殺しにして行く。道中には魔物の死体が積み重なって山のようになっている。

 

「正確な位置が分からないからこうやって探しているわけだけど……思ったより難しいな」

 

現在ライセン大峡谷に突入してから二日が経っている。【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されている洞窟は既に通り過ぎていた。

 

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

「それもそうだね」

 

そうして更に探索を続けること三日。未だに収穫はなく、時間ばかりが過ぎていく。空に浮かぶ上弦の月を臨む谷底の一角で、野営の準備をしていた。テントを建て、夕食の準備をする。町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。野営テントと調理器具に特殊な性能はない。本当に()()()テントと調理器具である。

 

野営テントは、これといった特殊な効果は無い代わりに、通気性に優れた構造になっていて、眠る時に蒸し暑くならないようになっている。

 

調理器具の方も、特別な効果は無いが、性能は格段に良かった。特に包丁の方は、普通の包丁で絶対切らないだろう鰹節をいとも容易く切断したという伝説を持つ、地球一よく切れる包丁並みの切れ味になっている。

 

生成魔法が宝の持ち腐れになってしまっている。

 

その日の夕食は、茹で鶏と鶏ガラ出汁スープ、サラダである。茹で鶏とあるが、材料はクルルヤ…ではなく、空を飛べる鶏である。肉質も味も地球の鶏に非常に酷似しており、この世界で最もありふれた鶏肉である。調理方法は至って簡単。適度な濃さの塩水で久侘…ではなく鶏を茹でるだけ。シンプルだが、これが格別に美味なのだ。スープの方は、茹でた後のお湯をそのまま使ってくし切りにした玉葱のような葉菜、千切りにした人参のような根菜を煮込んで出来上がる。鶏の出汁に加え、野菜の出汁がお湯に溶け込んでいるので絶品である。最後にサラダ。これはトマト、レタス、キュウリの三種類だけを使ったものだ。輪切りのトマトとキュウリ、葉をそのまま取っただけのレタスを適度に混ぜ、特製のタレをかけて出来上がる。

 

お客に出せる程の料理を堪能し、その余韻に浸りながら、何時ものように食後の雑談をする来達。テントを建てる前に一帯の魔物はシアが全て駆逐してあるのでしばらく襲われる心配がない。就寝時間も、()()()()がぐっすり眠り、来は不眠で見張りを朝まで続ける。

 

その日も就寝時間になり、寝る準備に入るシア。テントの中の布団はそれなりにふかふかなので、野営にもかかわらずそれなりに快適な睡眠が取れる。

 

布団に入る前に、シアはテントの外に行こうとしていると、訝し気な表情をした来が、シアを呼び止めた。シアはすまし顔で言う。

 

「ちょっと、お花摘みに」

「……そうか、いってらっしゃい」

 

勿論谷底に花など一輪も咲いていない。その真意には気づいているものの、敢えて言わないのがデリカシーのある男性。ハジメはというと……今の状態なら言いかねない。

 

しばらくすると、シアが、魔物を呼び寄せるかのような大声を上げた。

 

「ら、来さ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、まるで信じられないものを見たかのように興奮に彩られていた。

 

シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。

 

その指先を辿って視線を転じる来は、そこにあるものを見て目を瞬かせた。

 

其処には、壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、女の子が書いたのか、みょんに丸っこい字でこう掘られていた。

 

〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク(クソッタレ)大迷宮へ♪〟

 

ドキワクの部分に横線が入れられ、その上に鋭い字でクソッタレと書かれていた。恐らく後から書き加えられたのだろう。

 

〝!〟や〝♪〟のマークが妙に凝っているが、それ以上にクソッタレという部分が謎を呼んでいた。

 

「……何これ」

 

確かに信じられないものだった。

 

「何って、入口ですよ! 大迷宮の! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」

 

シアはやけに能天気だ。

 

「……()()()()という名前……」

 

その名に見覚えがあった。オスカーの手記に書かれていたライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるがファーストネームの方は知られていない。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。

 

「間違いなく【ライセン大迷宮】だ。やはり勘は当たっていたようだな……それにしても、言葉遣いが妙にお調子者だな。何かあるのか……?」

 

誰かのいたずらと思いそうだが、オルクスでもそうだったように、大迷宮は難易度が非常に高い。用心に越したことはない。

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

そんな来の考察に気づくこともなく、シアは、入口はどこでしょう? と辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている。

 

「シア、あまり不用意に動き回ると……」

「ふきゃ!?」

「シア!」

 

来の眼前で、シアの触っていた窪みの奥の壁が突如回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。さながら忍者屋敷の仕掛け扉。

 

「行くしかないか……」

 

シアの後を追い、来も回転扉に手を掛けた。仕掛けは問題なく作動し、扉の向こう側に送る。中は暗闇に包まれていた。扉が元の位置に戻ると、その瞬間、空気を裂く音が響いた。

 

暗闇の中を、来目掛けて無数の何かが飛来した。暗闇で見えないが、音波探知で位置を捉える。

 

風切り音を頼りに神速の抜刀術で次々と斬り落としていく。歯切れのよい音が部屋に響く。

 

その数二十。最後の一つが斬り落とされる音を最後に、再び静寂が戻る。

 

それと同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。そこは十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版がある。床に転がっているのは矢だった。

 

(シアがいない……? まさか!)

 

シアがこの部屋にいないということは、来が入ったのと同時に再び外に出た可能性が高い。直ぐに回転扉を作動させた。

 

「シア!」

「うぅ、ぐすっ、来ざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

おそらく矢が飛来する風切り音に気がつき見えないながらも天性の索敵能力で何とか躱したのだろう。だが、本当にギリギリだったようで、衣服のあちこちを射抜かれて非常口のピクトグラムに描かれている人型の様な格好で固定されていた。兎耳が稲妻形に折れ曲がって矢を避けており、明らかに無理をしているようでビクビクと痙攣している。もっとも、シアが泣いているのは死にかけた恐怖などではない。シアの足元を見ると……盛大に濡れていた。

 

「……」

「うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」

 

女として絶対に見せたくなかった姿を、よりにもよって惚れた男の前で晒してしまった。来はというと、目元を片手で隠している。

 

「取り敢えず着替え、出そっか」

「はぃ~」

 

シアを磔から解放し、着替えさせる。シアの顔は言うまでもなく、真っ赤だった。来は、シアに背を向けて座り、お茶を飲んでいる。心を落ち着かせているのだ。

 

そして、シアの準備も整い、いざ迷宮攻略へ!と意気込み奥へ進もうとして、シアが石版に気がついた。

 

顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろに草薙を取り出すと一瞬で展開し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。石板には入口と同じ字でこう書かれていた。

 

〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

容赦なく切断される石板。よほど腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いで草薙を何度も何度も振り下ろした。

 

すると、細切れになった石板の跡、地面に何か彫ってあった。

 

〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟

 

「ムキィーー!!」

「シア! 落ち着け! 今みたいに毎回キレてるようじゃ相手の思う壺だ!」

「放してください来さん! メチャクチャに壊さないと気が済まないんですぅ~!!」

 

草薙を振り回そうと暴走するシアを来が羽交い絞めにする。手を離せば間違いなく暴走を始めるだろう。それだけは何としてでも阻止しなくてはならない。

 

(ライセン大迷宮……ここは一筋縄ではいかないようだ……)

 

スタートは最悪だったが、【ライセン大迷宮】の攻略は、この時を以って始まったのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふふ、()()()()()()()()が来たね……ウサミミちゃんの方は見事に引っ掛かってくれたみたいだね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と同じ反応で見てるだけで愉快だよ……それにしても、白髪の剣士クンの方、何処かで見覚えのあるコートを着てるなぁ……あれ、どこだっけ? まあいいや。でも、ウサミミちゃんや他の三人とは違って、剣士クンは怒ってないみたいだ……いや、怒ってはいるけど、方向が違うというか……そして何かさっきから物凄い殺気が迫って来てるような気がするんだけど……』

 

【ライセン大迷宮】最深部。そこでは、小型のゴーレムが水晶玉を介して来とシアの様子を見ていた。このゴーレムこそが、【ライセン大迷宮】創設者、ミレディ・ライセン本人であることを、二人はまだ知らないのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぶしっ!」

「くちゅんっ!」

「ぶしゅんっ!」

 

一方ブルックの町では、男一人女二人が盛大にくしゃみをした。

 

「覚えてろよミレディ・ライセン……あのクソッタレで地獄みたいなとこ二度とこねぇからな……」

 

ドキワクの文字に横線を入れてその上にクソッタレと書いたのは、如何やらハジメだったようだ。

 

「ん。今度会ったら灰すら残さず焼き尽くしてやる……」

 

ユエも随分と苛立っているようだった。

 

「雫ちゃんと膵花ちゃんの方、大丈夫かな……」

「来の次に強い膵花さんがいるんだ。まあ大丈夫だろ……ところであの氷漬けになって悶絶してる奴は一体どうしたんだ?」

 

ハジメが指差す方向には、以前シアに言い寄って来た男が股間を抑えて悶絶していた。潰されるところは想像もしたくない。

 

「ん。私を口説こうと言い寄って来たから見せしめに股間を潰してやった」

「ユエ……恐ろしいヤツだな……」

 

ハジメはユエの恐ろしさを、身をもって知るのであった……

 

「……そういえばあの兎人族、()()を着てたような……」




次回
第二十七閃 地獄の大迷宮

IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)

  • 外伝をある程度進めてから
  • 今でしょ!
  • 別途執筆
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