次々回(若しくはそのまた次回)でまた同じことになりそうな予感……
UA20000超えありがとうございます!
ライセン大迷宮の攻略は想像以上の高難易度だった。
谷底よりも遥かに強い魔力分解の作用が働いており、魔法効率が非常に悪い。上級以上の魔法は基本的に使用不可。中級以下でも射程が極端に短くなってしまっている。
ただし、身体強化に限っては影響を一切受けることなく発動できるのでこの迷宮の攻略の鍵となる。
しかしここで一つ問題が発生してしまっている。
「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」
大鋸草薙を構えて獲物を探す目で何もない周囲を見渡しているシアだ。部屋の床に書かれている文に怒り狂ってしまったのだ。
一方、来はなにやらライセン大迷宮の地図を調整しながら睨めっこしている。あまりに不規則な構造をしているので、読み取るのに時間が大幅に掛かってしまう。
地図の調整とマッピングの位置の確認をしている最中、シアが奇怪な笑い声を発してしまうほどに狂ってしまった経緯を思い返した。
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最初の部屋から通路を通り、とある広大な空間に出た頃。
そこでは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくつながり合っている。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったりする。ちなみに地図への書き込みが済んだ後、外れの入口や階段は攻略の妨げになるのでシアに破壊させたり(シアは狂ったように喜んだ……というか既に狂っている)、通路は瓦礫で塞いだりしている。
「文字通りの迷宮だよねこれ……」
「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」
「うん、取り敢えず落ち着こうか」
シアは未だ怒り心頭であった。
「残るはこの道か……」
一つだけ瓦礫で塞がれていない通路。入口に最寄りの右脇の通路だ。通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らない。リン鉱石という、緑光石とは異なる鉱物で作られているので、薄青い光を放っている。
「……止まれ、シア。後ろに下がるんだ」
突然来が通路の途中で止まった。シアは言われるがままに来の後ろへと下がる。来はゆっくりとしゃがみ、白い粉みたいなものをブロック一つ分の範囲に撒いた。ちなみに小麦粉である。それを何か所か繰り返して撒いた。
「今粉で撒いたところは絶対に踏むな。物理トラップだ」
どうやらトラップらしい。魔力感知で反応しなかったので、足音でトラップを識別している。
「ひゅ~、危うく知らず知らずのうちに引っ掛かってしまうところでしたぁ……」
早速トラップを回避した来達なのであった。
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前の通路でトラップを回避した頃。
魔力感知と気配感知で魔物は感知されなかった。奥に魔物はいるが、どうやらオルクスとは違い、ここでは魔物はそれほど多くないようだ。
通路の先の空間には、三つの奥へと続く道がある。来達は階下へと続く階段のある通路を選んだ。
「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」
「でも他に道はなさそうだし……」
階段の中程まで進んだ頃、突然、シアがそんなことを言い出した。言葉通りにシアの兎耳が立ち、忙しなく右に左にと動いている。
しばらく耳を動かしていると、仕掛けが作動した音がした。そして階段の段差が引っ込み、スロープと化した。しかも傾斜はかなりある。更に地面に開いた無数の穴から粘り気のある潤滑油らしき液体が溢れ出した。
「くッ!」
段差が突然引っ込んだので危うく転倒しかけたが、瞬時に手甲鉤を両手に取り付け、地面に突き刺す。
「うきゃぁあ!?」
が、シアは段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒し後頭部を地面に強打。「ぬぅああ!」と身悶えている間に、液体まみれになり滑落。そのまま股を大きく開いた状態で来の頭上に激突した。
「がっ!?」
その衝撃で手甲鉤が外れ、二人仲良く滑ってしまった。
「シア! 壁に鶴嘴を突き刺せ!」
「ごめんなさぁ~い!! 身動きが取れないですぅ~!!」
滑り落ちていく速度は増していく。仕方なく来は、鎖鎌を取り出して壁に突き刺した。壁に長い裂け目を作りながら、ある程度滑ったところで止まった。
「これで身動きは取れるか?」
「はい、一応何とか……」
身動きがある程度できるようになったところで、シアは〝宝物庫〟から鶴嘴を取り出し、壁に突き刺した。その間、来は何度も鎌を壁に突き刺して立ち上がる。
「来さん! 道がっ!」
前方には、道が無かった。二人は落ちる寸前のところで何とか持ち堪えている状態だった。
(どうする? もう後戻りはできない。あのまま滑っていたら確実に放り出されていた。でも、他に道はない……)
「シア、しっかり掴まってろ。今から坂を下る」
「ええっ!? どうしたんですかぁ!? さっき私がぶつかったショックで頭がおかしくなったんですかぁ!?」
「大丈夫だ、放り出されはしない。放り出される前に、天井まで跳ぶ」
「ひぇぇ……でも、他に道はないようですし、やるしかないんですかぁ……」
シアは若干怯えているようだ。だが、腹をくくり、シアは突き刺した鶴嘴を壁から抜き、来にしがみついた。
「絶対に離すな」
「は、はい!」
シアの返事を合図に、来は壁に突き刺していた鎌を引き抜いた。固定箇所を失った来とシアは再び坂を滑る。そして放り出される直前、全力で跳躍した。前に向いていた運動エネルギーが、跳躍により天井に向く。
天井に激突する直前でぐるりと身体を半回転させる。そして天井に足が着いた。
天井に足が着いた瞬間、ゾーンに入る。流れる時間が格段に遅くなる。
(あのまま落ちてたら蠍の餌食になっていたな……)
底には夥しい程の蠍が待ち構えていた。落ちたら確実に毒にやられてしまう。
(ん? あそこは……)
下方のとある場所に、横穴が開いていた。
(今更後戻りはできるはずないし……あそこに懸けるしかないか)
「【鳴ノ舞 紫電一閃】」
紫色の雷を纏い、横穴まで一直線に跳ぶ。天井に足を着けてから跳ぶまで、時間にして0.2秒。圧倒的な決断力である。
神速で跳び、横穴まで一瞬で到達した。靴裏にぬるぬるの液体が付着していたせいもあり、着地した後も少しだけ滑った。
「もう目を開けていいぞ、シア」
「死ぬかと思いました……」
どうやらあまりの速さに目を瞑るしかなかったようだ。二人は見ていないが、天井にも文字が書かれていた。
〝彼等に致死性の毒はありません〟
〝でも麻痺はします〟
〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!〟
どうやら蠍の毒はそれほど強くなかったようだ。だが二人には文字を見る余裕が無かった。
「先に進もう」
「はい」
剣士の青年と兎の少女は再び歩みを進める。
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蠍部屋の横穴からしばらく迷宮を彷徨った後、とある部屋に辿り着いた。が、またしてもトラップが発動してしまう。天井が丸ごと落ちてきたのだ。
逃げ道は奥の通路以外にはなく、その通路もかなり距離が離れている。〝紫電一閃〟がなければ天井に押し潰されていただろう。
「はー、はー、潰されるかと思いました……」
強力な魔力分解作用により、魔力を用いた技(魔力を放出する技)の魔力効率はかなり悪い。だが、来にはまだそこそこ魔力のストックがあった。
〝ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い〟
ミレディの煽りも健在。それにシアが反論する。
「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ださくないですぅ!」
「分かったから行くぞ」
「うぅ、はいですぅ」
その後も、進む通路、たどり着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。突如、全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき、物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、蟻地獄のように床が砂状化し、その中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、そしてミレディ直筆の煽り文句。シアのストレスは溜まりまくっていた。
進むにつれ、勝手に発動するトラップが増え、来も回避できなくなっていたが、それでも全てのトラップを突破し、この迷宮に最も大きな通路に出た。幅は六、七メートル程で、急なスロープ状の通路で緩やかに左巻きの螺旋状になっている。
勿論この通路でもトラップは無慈悲に発動する。スロープの上から岩の大玉が転がってきた。
シアは踵を返し文字通り脱兎のごとく逃げ出そうとする。だが、来は止まったままだ。
「来さん!? 早くしないと潰されますよ!」
しかしシアの呼びかけに応えることはなく、逆に大岩に向かって跳びかかった。
「たまには自力で撥ね退けるのも面白いな」
そして大岩に向かって跳び蹴りを入れた。右足は大岩に埋もれている。大岩は蹴りと同時に動きを止め、やがて一瞬で罅に覆われ、右足が抜かれた瞬間に砕け散った。
刀と妖術を除き、来が持つ最も危険な武器。それは神速の脚力を持つ脚が繰り出す蹴り。鉄の壁ですら容易く破る一撃を生身の人間が受ければ……間違いなく死ぬ。
「来さ~ん! 流石ですぅ! カッコイイですぅ! すっごくスッキリしましたぁ!」
これで脅威は去ったかと思いきや、次の脅威が待っているのがライセン大迷宮。今度は黒光りする金属の大玉だった。
「あ、あの来さん。気のせいでなければ、あれ、何か変な液体撒き散らしながら転がってくるような……」
無数に開いた穴から腐食性の高い液体が大量に撒き散らされている。飛沫で地面や壁が溶ける。
「……逃げろ、シア。全力で逃げろ」
「はいぃ!!」
再びシアは爆速でスロープを駆け降りる。来はというと、何と舞鱗を鞘から抜いた。
「【妖術 〝天ノ橋立〟】」
そして一本の刀の先から紫色の光の筋が金属の大玉に向かって駆け抜ける。紫色の光は金属の大玉を射抜き、大玉を向こうの壁まで吹き飛ばし、壁を貫き更に奥へと大玉を追いやった。
「さて、シアのところに向かわないと」
舞鱗を鞘に仕舞い、来はスロープを駆け降りていった。
「シア!」
「あ、来さ~ん! あの大玉どうにかなったんですね?」
そして無事にシアと合流した。
「ああ、切り札の一つを使ってしまったが……」
「切り札?」
〝天ノ橋立〟は高威力な分、魔力の消費も大きい。ましてやここは魔法特化型にとっては最難関の大迷宮。消費魔力も倍増する。一発撃つだけで
「魔力を半分持って行かれた」
「大丈夫ですか来さん!? ここライセン大迷宮ですよ!?」
「安心しろ。
脅威を二度退け、ゆったりと降りていると通路の終わりが見えた。出口の向こうには相当大きな空間が広がっているようだ。だが部屋の床が一部しか見えない。
「跳ぶぞ」
「えっ!? またですか!?」
シアは再び慄くも、意を決して来に掴まる。そして常人の域を超えた跳躍力で部屋の向こう側へ向かって跳んだ。
シアは部屋の下側を見た。
「ひんっ!?」
そして呻き声を上げた。出口の真下が溶解液のプールになっていた。
「来さん! 下がヤバいことになってます!」
「それがどうした! 僕がいる。だから落ちない!」
「理由になってないと思うんですけど……」
来とシアは溶解液のプールを易々と越え、出口から見えていた部分に着地した。
その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両側には無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。
「最奥に近づいてきたな」
「ええ、これでようやくヤツを穴だらけのボコンボコンにできますですぅ……」
「相変わらず物凄い怒りだね……」
そんなことを話しながら来達が部屋の中央に進むと、トラップが作動する音が響いた。最早何度目今となってはもう判らない。
騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分が光り輝き、金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。その総数、五十体。
「行くぞ、シア。久々の戦いだ、気を引き締めろ。」
「か、数多くないですか? いや、やりますけども……」
来は舞鱗を鞘から抜く。トータス最硬度を誇るアザンチウムですら紙のように容易く切断してしまう切れ味を持っている。問題なく騎士達を切断できるだろう。本当に人間が打ったものなのか……
一方シアは、少し腰が引け気味である。強力な魔力分解の作用を無視して力を発揮できるとはいえ、実戦経験は圧倒的に劣る。もともとハウリア族という温厚な部族出身であり、まともな魔物戦も僅か五日程度のみ。来との模擬戦も含めて二週間といったところだ。気丈に刀を構えて立ち向かおうと踏ん張っているところ、根性はあるようだ。
「シア」
「は、はいぃ! な、何でしょう、来さん」
普段通りの柔らかい声音でシアに声を掛ける来。
「お前は十分強い。指南を付けた僕が保証する。あのゴーレム如きに負けるはずがない。全力で戦え。危なくなったら必ず助けに来る」
シアは来の言葉に思わず涙目になる。単純に嬉しかった。付いて来た事も迷惑に思っているのではないかと不安になっていたが、杞憂に過ぎなかった。彼は仲間を絶対に裏切らない。そうと分かれば未熟者なりに出来ることを精一杯やるのみ。シアは、全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。
「ふふ、来さんが少しデレてくれました。やる気が湧いてきましたよ! 来さんの自称妻の膵花さん、下克上する日も近いかもしれません」
「自称は余計だ」
シアのテンションは急上昇していた。真っ直ぐ前に顔を向けて騎士達を睨みつける。
「かかってこいやぁ! ですぅ!」
「頑張れシア! 僕達が負けることは、絶対にない!」
五十体のゴーレム騎士を前に、全力で己とシアを鼓舞する来は、舞鱗を構えた……
解説
【鳴ノ舞 紫電一閃】
今まで披露した技の中で最速の居合斬り。全身に紫の稲妻を纏い、神速で敵の間合いに入り、抜刀と同時に斬りつける。
名前の由来
四字熟語の「紫電一閃」より
次回
第二十八閃 更なる追い打ち
IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)
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外伝をある程度進めてから
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今でしょ!
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別途執筆