ハジメ達と合流するのはまだ大分先になります。(だってオルクスの90階層での活躍が書きにくくなるんだもの)
凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。ゴーレムの声質は女性のものだった。
「僕は辻風来。隣の兎人族はシアだ」
しかし相手がゴーレムとはいえ、挨拶されたのだからきちんと挨拶は返す。
(えっ? 普通に挨拶してる……私も挨拶した方がいいのかな……)
「シア…ハウリアです……?」
「う~ん、そっちのウサギちゃんはちょっとぎこちなかったけどまいっか。うんうん、挨拶するのは最低限の礼儀だからね。この前の三人はガン無視してたからね。ホント全く、最近の若者と来たら……君達が常識的でよかったよ」
少し微妙そうにしていたが、取り敢えず妥協はしてくれたようだ。
「ん? この前の三人? 僕達以前に誰かここに来たのか?」
「おっ、鋭い質問来たね~。では特別にこの私ミレディ・ライセンがお答えしま~す」
一々苛立つ話し方で来の質問に答えるミレディ・ライセン。
「君の言う通り、君達がここに来る前に三人、足を踏み入れているんだよ。一人は黒髪の男の子で、オーちゃんと同じで
その三人は来とシアとは違って名前を名乗らずにそのまま迷宮を後にしたようで、ミレディには名前がわからなかった。
「……まさか、ハジメと香織さん?」
「やっぱり知り合いだったんだね! 錬成師クンの名前がハジメ、で合ってるかな?」
「ああ」
「じゃあカオリさん、ってのはどっちの方?」
「治癒師の方だ。あと一人はわからない」
金髪の少女はまだ未対面なので名前がわからなかった。
「そっか……君とあの三人とは何か違うかもしれない。もしかしたら仲良くできそうだよ」
「そうか、じゃあ少し考えておこうかな」
ちゃっかり目の前のゴーレムと仲良くなろうとしている来。シアは非常に心配そうにしている。
「そうだ、ミレディ・ライセンは確か人間の女性だったはずだが、何故ゴーレムの姿をしているんだ?」
危うく話が脱線してしまうところだった。いや、既に脱線していた。
「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」
「この手記に書いてあった」
「こっ、これは!? オーちゃんの字で書いてある! まさか君がオーちゃんの迷宮の攻略者だったなんて……って、よく見たら君、オーちゃんのコート着てるじゃん! 駄目だよ死人の服を脱がしたら。罰が当たるよ?」
「ご、ごめんなさい! 服が破れていたので拝借したのと、オスカーさんの遺志を継ぐという意味もありまして……」
ここまで無双してきた剣士がゴーレムに説教されているという非常にシュールな光景が出来上がっている。
「オーちゃんの遺志か……君のその決意に免じて、その事は水に流してあげよう。やだ、ミレディちゃんってば、やっさし~」
どうやらミレディも、来と同じく寛大な人間?なのかもれない。
「で、ここに何を求めに来たのかな? ……神代魔法しかないよね。それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな?オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」
「それもあるけど……この世界に太平をもたらす為にあの神を討ち滅ぼすことになるだろうから実質そういうことにはなるかな?」
「そうなんだ……ああ、私の正体についてまだ説明してなかったね」
ミレディは昔のことを懐かしむかのように天を仰いだ。シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。
「うん、要望通りに簡潔に言うとね。私は、確かにミレディ・ライセンだよ。ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決! もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」
「そうか、倒せば話してくれるんだな」
「当たり前よぉ、私は君より年上なんだから。嘘なんてついたら年上としての威厳がなくなっちゃうからね」
言っておくが、来は肉体でいえば21歳、精神で言えば700歳は超えている。
「じゃあ今度はこっちから質問するね?」
今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め、真剣さを帯びてくる。
「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」
嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ。彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかない。オスカーが記録映像を遺言として残したのと違い、何百年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問に近い。
本来の彼女は、凄まじい程の忍耐力と意志、責任感を持っている人間である。
「目的? 目的ならさっき……」
「本当は別の目的があるんでしょ? 君からはただならない喪失感を感じる。何を求めているの? 富? 名声? 力? それとも、女の子?」
女の子という言葉に来は反応した。
「その反応から察するに、ウサギちゃんは君の想い人じゃないみたいだね。君の想い人は今何処にいるの? それともそもそもいるの?」
「……判らない。オルクス大迷宮にいた時はしっかり彼女の鼓動が聞こえていたのに、迷宮を出てから急に小さくなって、それからだんだんと小さくなっていって、今ではもうほとんど聞こえないんだ」
「それって、その子はもう死んだって……」
「彼女はまだ死んじゃいない!!」
ミレディが言いかけた可能性を完全に否定した。
「まだ完全に聞こえなくなったわけじゃないから、まだ何処かで生きているはずなんだ! 僕は絶対に彼女を見つけ出す。見つけ出すまで、まだ死ぬわけにはいか……」
途中で大きく咳き込み、吐血した。そして神水を飲み干す。
「来さん!」
シアが来の吐血を見たのはこれが初めてだった。
「相当その子を愛してるみたいだね。私もその子を探す手助けをしたいところだけど、今は試練に集中する時だよ。安心して、剣士クンが万全になったら彼も参加するから」
「……やってやるですぅ! 今までの恨み、ここで晴らすですぅ!!」
シアの掛け声と共に、ライセン大迷宮最後の戦いの火蓋が切られた。
大剣を掲げたまま待機状態だったゴーレム騎士達が一斉に動き出し、頭をシアに向けて一気に突っ込んできた。
(忘れるなシア、来さんに教わった剣術で乗り切るです!)
「【鳴ノ舞・〝円転電環〟】!」
シアは腰に差していた刀を抜き、時計回りに回りながらゴーレム騎士達を斬った。
「あはは、やるねぇ~、でも総数五十体の無限に再生する騎士達と私、果たして同時に捌けるかなぁ~」
ミレディの口調は元の軽薄な雰囲気に戻っていた。ミレディはモーニングスターを射出した。シアが大きく跳躍し、上方を移動していた三角錐のブロックに飛び乗る。
「絶対やってやるです!! 【鳴ノ舞・紫電一閃】」
三角錐のブロックから恐ろしい速度で飛び出し、ミレディの胸部を斬りつけた。
「いやぁ~大したもんだねぇ、ちょっとヒヤっとしたよぉ。とんでもない速さで斬られちゃったからねぇ~」
「嘘……」
破壊された胸部の装甲の奥に漆黒の装甲があり、それには傷一つ付いていなかった。
「んぅ~、これが気になるのかなぁ~」
シアの視線に気がつき、ニヤつき声で漆黒の装甲を指差す。
「これはねぇ~、アザンチウムでできていてねぇ、そう簡単には傷つかないんだよぉ~」
「もう私一人じゃ勝てそうにないですぅ……」
「さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」
ミレディは、砕いた浮遊ブロックから素材を奪い、表面装甲を再構成するとモーニングスターを射出しながら自らも猛然と突撃を開始した。
シアは咄嗟に近くのブロックに飛び移ろうとする。しかし…
「させないよぉ~」
足場にしていた浮遊ブロックが高速で回転し、バランスを崩した。
そこへモーニングスターが絶大な威力を以て激突した。シアは足場から放り出され、音を立てながら通り過ぎる鎖にしがみついた。
そこへ狙いすました様にミレディがフレイムナックルを突き出して突っ込んだ。
「くぅう!!」
直撃は避けたが、強烈な衝撃でシアの口から苦悶の呻き声が漏れる。それでも、すれ違い様にシアは鶴嘴を鎧に突き立て取りついた。
肩口に取り付いたシアは、そのまま左の肩から頭部目掛けて大鋸〝草薙〟を振り下ろした。が、ミレディが回避したことでバランスを崩され、宙に放り出された。
「きゃあ!」
悲鳴を上げるシア。
「シア!!」
そこへ、体力が幾分戻った来がシアのもとへ飛び出し空中でキャッチする。
「来さん!」
喜色に満ちた声で来の名を呼ぶシア。憧れの抱っこで救出をしてもらい、そんな状況でないとわかっていながら、つい気持ちが高揚する。
「跳べ!!」
「しゃーこらーッ!! ですぅ!!」
腕だけの力で、シアをミレディ目掛けて投げ飛ばした。
ミレディはヒートナックルを放とうと拳をグッと後ろに引き絞る。と、その瞬間、手元に戻したモーニングスターに繋がっている鎖がいきなり切断された。
「わわわっ、なにっ!?」
驚きの声を上げるミレディ。鎖を斬ったのは、シアを投げ飛ばして下へ降りていく来だった。
そこへ、草薙を振りかぶったシアが到達する。
「りゃぁあああ!!」
気合の籠った雄叫びと共に、回転するエネルギー刃がミレディの装甲を切り裂く。
ミレディは左腕を掲げようとした。だが、左腕は既に切断されていた。
ミレディはせめて、奪われた左腕の仕返しに一撃を入れてやると、死に体のシアにヒートナックルを放とうとする。
しかしシアは空中で身体を捻り、一撃を躱した。そして、右腕の付け根に草薙を叩きつけた。そして、右腕も切断した。
「っ、このぉ! 調子に乗ってぇ!」
ミレディも苛立ってきたようだ。その間に、別のブロックから飛び出した来が落下中のシアを肩で受け止める。そして近場のブロックに着地した。両腕を失ったミレディは何故か、周囲の浮遊ブロックを呼び寄せて両腕を再構成することもなく、天井を見つめたまま目を強く光らせていた。
「来さん! 逃げてぇ!
シアが叫んだ直後、空間全体が振動した。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。だが、破片だけではなく、今まさに、
「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」
この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められている。天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしていた。一つ一つのブロックが、軽く十トンを上回る巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくるのだ。喰らえば一たまりもない。
「ら、来さん!」
シアが来に手を伸ばしたと同時に、天井の巨石群が落下を始めた。シアの叫び声も虚しく、来は降り注ぐ数多のブロックと共に消えた。
シアはミレディのもとへ行けば安全かと視線を巡らせるが、ちょうど猛スピードで壁際に退避して行くところだった。
「来さんの仇……逃がさないですぅ!!」
シアは復讐一色になってミレディを追った。
ミレディの目には、来達が一瞬で巨石群に飲み込まれたように見えた。悪あがきをしていたようだが、流石にあの大質量は凌ぎきれなかったかと、僅かな落胆と共に巨石群にかけていた〝落下〟を解いた。
巨石群の落下に呑み込まれ地に落ちていた浮遊ブロックが天上の残骸と共に空間全体に散開するように浮かび上がる。
「う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」
ミレディはそう呟きながら来達の死体を探す。シアは自分の近くで見つかった。
「あれ? 死んだかと思ったらまだ生きてる……まだやれるみたいだね……」
だが、来の方はまだ見つかっていなかった。もう一度隈なく探そうと視線を動かした瞬間、雷が鳴り響いた。
「なっ!? 何で上級魔法が!?」
雷に気を取られていると、一番奥で微かに煌めいた。ミレディは悪い予感を感じ取り、五つのブロックを自分の前に移動させる。雷鳴が響くと同時にブロックは切り裂かれた。そして、ミレディの身体は細長い炎に巻き付かれ、一瞬で崩壊した。
(み、見えなかった……!? 速過ぎる……! 嘘!? アザンチウム製の鎧がっ!?)
落石に巻き込まれたと思われた来だが、落ちていくブロックのうちの一つに着地し、ゾーンに入っていた。
(一瞬でもいいから相手の隙を見つけるんだ。点じゃなく、線として捉えろ。線に沿って剣を振るえば相手に届く)
周りに浮かぶ数多のブロック。その向こうに、ミレディの姿が見えた。
「……初めて隙を見せたな」
ここからミレディの姿を直線状に捉えられる。
「【鳴ノ舞・紫電一閃】」
周囲に青白い雷が発生する。ミレディの視線がこちらに向いた。どうやら気づいたようだ。
ミレディの前に五つのブロックが移動してきた。五つのブロックがミレディを護るように一直線に並ぶと同時にブロックを飛び出し、一直線に飛び出した。狙うはブロックの後ろ、ミレディ・ライセン。
しかしブロック程度では来の攻撃を止めることはできない。一列に並んだ五つのブロックはあっという間に両断された。
(この速さなら、使える!!)
「【青龍ノ舞】」
そしてミレディの心臓の位置、すなわち核を狙って舞鱗を振るう。左斜め下から舞鱗を振り上げた。刀身は青い炎に包まれ、青い炎は龍の姿をしていた。
「【画龍点睛】!!」
アザンチウム製の鎧をものともせず、遂に核が露わとなった。
「今だ、シア! 核を叩き切れ!!」
来の声にシアは反応し、核が剥き出しになったミレディへ向かって飛び掛かった。
「でぇやぁあああ!!」
草薙を核に叩きつけ、草薙に流す魔力の量を増やす。それに比例してエネルギー刃の回転速度が上昇した。
「私達はそう簡単には、死なないんですぅ!!!」
超高速で回転するエネルギー刃は火花を散らしながらアザンチウムに切れ込みを入れ続け、遂に核ごと切断してみせた。
ミレディの目から光が消える。シアはそれを確認するとようやく全身から力を抜き安堵の溜息を吐いた。直後、背後から着地音が聞こえ振り向くシア。そこには来が立っていた。シアは、彼に向けて満面の笑みでサムズアップする。彼もそれに応えるように笑みを浮かべながらサムズアップを返した。
この瞬間、七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略されたのだった……
次回
第三十閃 突破と仲間入り
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外伝をある程度進めてから
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今でしょ!
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