ようやくミレディが仲間入りします。そしてライセン大迷宮編はこれにて終焉です。
オリ主の精神力がジェダイの騎士並みだった件。だが誰にでも
追記
ステータスを調整しました。
辺りには粉塵が舞い、地面は熱で一部溶解していた。近くには身体ごと核を横断された巨大ゴーレムが転がっていた。
そのゴーレムの残骸の上で、草薙を支えにして息を荒げるシアの許に、来が歩み寄って来た。穏やかな眼差しをシアに向ける。
「よくやった、シア。見事だったぞ」
「えへへ、有難うございます。でも来さん、そこは、〝心惹かれた〟でもいいんですよ?」
「……最後の一言が無ければもっとな」
「うぅ……調子に乗りましたぁ……」
疲労困憊の表情を見せるも、来の称賛にはにかむシア。実際、つい最近まで、争いとは無縁だったとは思えない活躍だった。それはひとえに、来と同じ地に足を着けたい、ずっと一緒にいたいというシアの願いあってのことだ。深く強いその願いが、シアの潜在能力と相まって七大迷宮最大の試練と正面から渡り合わせ、止めを刺すというこれ以上ない成果を生み出した。
来としては、最後の場面で、どうしてもシアの止めが必要という訳ではなかった。彼の妖刀〝舞鱗〟は、彼が振るえばアザンチウムですら紙のように切断してしまうこと、来の持つステータスが膨大であることもあり、その気になれば一瞬でミレディを核ごと粉砕することもできた。だが、温厚で争いごとが苦手な兎人族であり、つい最近まで戦う術を持たなかったシアが一度も「帰りたい」などと弱音を吐かず、恐怖も不安も動揺も押しのけて大迷宮の深部までやって来た。最後くらい花を持たせてあげたいと思ったのだ。
結果は上々。凄まじい気迫と共に繰り出された最後の一撃は来の言う通り見事なものだった。
「でも、ちょっと見蕩れてた。〝心惹かれた〟からはちょっと遠いけど」
「来さん……今までで一番
「よく頑張りました」
もしこの場に来ではなくハジメや香織、ユエがいたなら少なくともハジメから頭を撫でられることはなかっただろう。だが来はシアの許に歩み寄り、徐にシアの頭を撫でた。
「ら、来さ~ん。うぅ、あれ、何だろ? 何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ」
「よしよし」
緊張の糸が解けたのか、ぽろぽろと涙を流しながら来に抱きつき泣き出してしまった。初めての旅でいきなり七大迷宮というのは相当堪えていた。それを、来に着いて行くという決意のみで踏ん張ってきた。褒められ、認められ、安堵のあまり涙腺が緩んでしまった。
(やはり膵花に似てる……)
一方、来はシアの姿を最愛の妻膵花と重ねて見ていた。彼にとってシアはこの世界でできた初めての親友だった。だが、来は膵花を一途に愛するあまり、膵花に対する感情を複数人に持てない。もしこの場に膵花がいたなら側室としてなら許していただろう。
「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」
来達がハッとしてミレディの方に向くと、眼に光が戻っていた。シアは咄嗟に飛び退いたが来はその場に留まった。
「来さん!?」
「安心していい。核は砕けたから持ってあと数分といったところか」
ミレディの眼の光は点滅を繰り返していた。
「それで、話って何だ?」
「話したい……というより忠告だね。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……」
ミレディの力が尽きかけているのか、次第に言葉が不鮮明に、途切れ途切れになってゆく。
「それなら他の迷宮の場所を教えてくれ。オルクスとここ、あとハルツィナとグリューエン、シュネー以外の二つは場所が判らないんだ」
「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」
ミレディの声から力が失われていく。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、シアが神妙な表情をする。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿した。
「……メルジーネ海底遺跡……海上の町エリセンの沖に沈んでる……最後は神山……あのクソ野郎を崇めてる教会が建ってる山……」
「あそこにもあったのか……」
「以上だよ……頑張ってね」
今のミレディは、迷宮内の苛立つ文を用意したり、あの人の神経を逆なでする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。
「君が君である限り……必ず……君は、神殺しを為す」
ミレディの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。
そして、徐にシアがミレディの傍へと歩み寄った。ほとんど光が失われた眼を見つめている。
「何かな?」
囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにシアが一言、消えゆく偉大な〝解放者〟に言葉を贈る。
「……お疲れさまです。よく頑張りました」
それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれない。だが、やはり、これ以外の言葉を、シアは思いつかなかった。
ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。
「……ありがとね」
「……いいんですよ」
シアはとてもミレディに激しい憎悪を抱いていたとは思えない程穏やかな表情でミレディを見ている。
「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」
オスカーと同じ言葉を来達に贈り、〝解放者〟の一人、ミレディは淡い光となって天へと昇っていった。
辺りは静寂に包まれ、シアは余韻に浸るように光の軌跡を追って天を見上げた。
「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、来さんと一緒で一生懸命なだけだったんですね」
「たとえ根性が最悪でも、解放者の一人だ。一生懸命にならないと世界に太平をもたらせない」
そんな雑談をしていると、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気がついた来達。気を取り直して、その場所に向かう。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、ブロックの一つに二人で跳び乗った。と、その途端、足場の浮遊ブロックが滑るように動き出し、光る壁まで彼等を運んでいく。
「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」
十秒程で光る壁の手前五メートル程の場所に到着した。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、音も無く発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。
来達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。来達が近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。
潜り抜けた壁の向こうには……
「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」
小型のゴーレムがいた。
「「……」」
シアは絶句していた。来の方は分かっていたので驚きはしなかった。彼は魂を視認できる能力を有していたのだ。ミレディは、意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっている。だとしたら、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等という事は有り得ない。それでは、一度のクリアで最終試練がなくなってしまうからだ。
それに、先程の巨大ゴーレムからは魂の存在を確認できなかった。なので、巨大ゴーレムを破壊してもミレディ自体は消滅しないことは明白。浮遊ブロックも案内するように動いていた。この迷宮で浮遊ブロックを意図的に操作できるのは創設者であるミレディ只一人のみ。
「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」
黙り込んで顔を俯かせるシアに、ミレディが非常に軽い感じで話しかける。
ミレディの本体は、人間に近いフォルムをしていた。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、ニコちゃんマークの付いた白い仮面を付けている。ミレディは語尾を輝かせながら、来達の目前まで寄って来た。未だ、シアの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れてわからない。
シアがぼそりと呟くように質問する。
「……さっきのは何だったんですか?」
「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!」
「でも、光が昇って消えていきましたよね?」
「ふふふ、中々よかったでしょう? あの〝演出〟! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」
自画自賛してテンション上昇中のミレディの前に、シアは草薙を構えようとするが、来に止められた。そして音も無くミレディのいる方向に歩み寄る。
「え、え~と……」
無言で歩み寄る来に、ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。
「テヘ、ペロ☆」
「……」
「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」
だが、来は刀を構えることもなく、ミレディに問いかけた。
「七大迷宮にはそれぞれ一振りずつ片刃の曲刀が保管されているとオルクスで知ったんだが、それは何処にある?」
「……知っていたんだ。でもそれは私が認めた相手じゃないと預けられない。以前来たハジメとやらも挑んだけど私には勝てなかったよ」
ミレディは突然部屋の奥の隠し扉へ走り去っていき、数分後に扉から出てきた。
「ええっ!?」
シアはかなり驚いていた。扉から出てきたのは先程のゴーレムとは似ても似つかない金髪の美少女だった。
「じゃじゃーん! 美少女天才魔術師兼美少女剣士ミレディ・ライセン見参!」
ミレディの着ている服装は来やシアと同じく和服だった。腰には普通の刀を差している。
「剣術を使うのにゴーレムのままじゃ不便だからね。ウサギちゃんも一応剣術は習ってるみたいだけどどうする? 七聖選別受ける?」
「う、受けます!」
「よし、じゃあまずはそのでっかい鋸をそこに立て掛けておいてね」
壁に草薙を立て掛け、選別用の部屋へと移動する。
「それじゃあ、七聖選別、始めるよ」
ミレディの開始の合図と共に、二人は抜刀する。しばらくの沈黙の後、動いたのはシアだ。鍛えられた足腰で一瞬で間合いを詰め、横に薙ぐ。ミレディはそれを縦方向の斬撃で打ち消す。今度はミレディが横方向に斬りつける。シアは縦方向の斬撃で防ぎ、鍔迫り合いに入る。
「ほう、錬成師クンと同じくらいにはやるみたいだねぇ」
「当たり前です! 来さんに稽古つけられたんですから!!」
「でもね、上には上がいるんだよッ!」
ミレディは視認不可能な速度で刀を振り、シアの刀を弾いた。そして攻撃手段を失ったシアの首筋に刀身を当てる。
「勝負あったね」
「……参りました」
「随分と潔いんだね」
シアはミレディの前に敗北した。敗北したので勿論刀は手にできない。
「さて、次は剣士クンの番だよ」
「来さん、気をつけて下さい。彼女の剣裁きは見えないくらい速かったです」
ミレディは再び構え、来は舞鱗を手に構える。
「それじゃあ、始めようか」
二回目の戦いが始まる。来もミレディも視認不可能な速度ですれ違い、互いに背を向いて立っていた。そしてしばらくの沈黙の後、ミレディが倒れた。峰打ちだったので流血はしていない。
「こ、これが……達人同士の対決……本当に一瞬で終わるものなんですね……」
シアは一瞬で決着がついた戦いを見て驚きを隠せなかった。
「そうか……れーちゃんの言ってた剣士って君のことだったんだね……」
ゆっくりと立ち上がりながらミレディは言う。
「曲刀を渡すよ」
ミレディは対決部屋の隅に置いてあった箱を持って来た。
箱の中身は舞鱗とは逆に鞘と柄が白い一振りの打刀が入っていた。箱の蓋には舞鱗の時と同じように防錆の魔法陣が刻まれている。そして一枚の紙切れも入っていた。紙切れには漢字二文字で『
「部屋の隅に置いてあったその片刃の曲刀、元々はある一人の剣士が使っていたものなんだよ」
「ある一人の剣士……?」
ミレディはまるで昔話を聞かせるようにシアに語る。
「うん、その剣士はたった一人で千人を相手にできる程の剣技の持ち主だったらしいんだ」
「文字通り一騎当千ですね……」
「その剣士は二刀流使いで、もう一本は恐らく剣士クンの使ってるその曲刀だよ。お~い剣士クン。曲刀を二本持ってそこに立ってもらえるかな?」
言われた通り、右手に舞鱗、左手に眼鱗を持って立つ。
(両手の曲刀……白髪頭に黄金の瞳……間違いない)
「ところで、その剣士の名前って、分からないんですか?」
「名前は解放者達に伝えられてるけど、多分聞いたら腰を抜かすと思うな」
「その名前って、まさか……!?」
ミレディは大きく深呼吸をして、剣士の名を告げる。
「その名は……辻風来。剣士クンの名前だよ」
シアは今までにないくらいに驚いた。
「じゃ、じゃあ、来さんは一体いくつなんですか!?」
「……少なくとも七百年は生きて来た」
「そ、そりゃあ動きが見えなくて当然ですよね……って普通人間って七十年くらいしか生きられないんじゃなかったんでしたっけ?」
「寿命なんて当の昔に失くしてるし、何度も転生を繰り返したからね」
普通なら、シアの言う通り人間が数百年単位で生きることはまず有り得ない。だが、来は幾度となく転生を繰り返してきた。七百年というのは今まで生きて来た合計年数のほんの一部だ。
「ミレディ、一つ聞く。僕達がここを発って、神を討ち滅ぼした後、君はどうするつもりだ?」
「……」
「……独りここに籠ったまま死ぬつもりなのか?」
「……」
それがミレディの答えだった。かつての仲間はミレディを遺して全員死んでしまっている。戦いが終わればすぐさま後を追うだろう。
「まだ勝てる可能性があるのに負けたまま死ぬなんて、勿体無いとは思わないのか? 負けを認めたまま死ぬなんて、惨めだとは思わないのか? 君の神代魔法は一体何のためにあるんだ?」
「ッ!?」
自分の力は何のためにあるのかと言われ、ミレディの中に憤りが渦巻いた。守るべき者達を守れずに無様に敗れた自分達を嘲笑している気がしてならなかった。
「何より、君を遺して散った仲間達がそれを望んでいるのか?」
「……」
「君が今ここにいるのは、誰のお陰だ?」
ミレディの額を指で突きながら話す。
「残る五つの迷宮を造った者達のうちの誰かだろう? 彼らがどのような思いで君を生かしたのか、その答えを求めようとは思わなかったのか? それとも、君にとって仲間という存在はその程度のものだったと…」
「……君に何が解るって言うんだよ!」
ずっと一方的に言われっぱなしだったミレディだが、「仲間という存在はその程度のもの」という言葉に怒りが沸点に達して来に怒鳴り返す。
「私にはもう、仲間なんて誰一人残されていないんだよ!? 皆私を置いて死んでしまった!! 守るべき人々に刃を向けられても、誰も為す術を持てなかった!! 人々を殺したくなかったんだ!!」
両手を震わせながら、ミレディは続けて話す。
「それなのに……私は仲間を守ろうとして人を一人殺めてしまった……その所為で益々私達への迫害は酷くなっていったんだよ……あの時の感覚は、今でも忘れられない……私が手を血で汚してしまったばっかりに……仲間を死なせてしまう原因を作ってしまった……私が殺してしまったようなもんだよ……」
話していくうちに、声がだんだんと震えていった。
「……あれからどれくらい此処で過ごしたのかも、もう分からない。残った仲間達も皆それぞれの迷宮の中で息絶えていってしまった……もうこれ以上、寂しい思いも……悲しい思いも……したくないよ……」
遂にその場で泣き崩れてしまった。顔を覆う両手の隙間から涙が零れ堕ちた。もしかしたら、今までウザキャラを演じていたのも、孤独に怯える自分を隠す為のものだったのかもしれない。
(僕は、二か月も膵花の顔を見れなかっただけでも物凄く寂しかった。百年単位では足りない位の時間ずっと孤独って……どれ程辛いことだろうか)
すすり泣くミレディの頭に、来は手を置きながら語りかけた。
「ずっと…独りで怖かったんだね。僕だって人の命が掌から零れ落ちた。人だって…何人も手に掛けた。それでも立ち直れたのは、僕の命よりも大事な人の存在だった。彼女がいる限り、僕は何度折れても立ち直れる」
「でも……もう私には……何も残されてないよ……」
永い時を生きて、既に己の道を見失っていたミレディに、来は手を差し伸べる。
「だったら、君を何度でも立ち直らせてくれる仲間……僕達じゃ、駄目かな?」
「……え?」
「折角今まで生き延びてるんだから、このまま死ぬより神と直接対峙して死ぬ方が気分も晴れるんじゃないかな? ……誰一人欠ける事無く打ち勝てれば万々歳だけど」
「……でも、私結構ウザいよ?」
「いいさ、どうであれ。皆纏めて受け止めてやるよ」
ミレディはしばらく考えた後、細々と言葉を紡いだ。
「……そう、だよね……やっぱここで死ぬより……あのクソ野郎と直接対峙してぎゃふん、と言わせてやりたい!」
「うん、よく言った」
「仲間は一人でも多くいたほうがいいですもんね!さっきまでのことは水に流します」
今まで散々ミレディに苛立たせられたシアも賛成の意を示した。自分だけ突っ撥ねるのは酷だと思った。
「じゃあ、そういうことで宜しく」
「うん!」
ミレディは元気よく返事をして、来の手を掴み取る。
こうして、嘗て神々の手からこの世界を救おうとした解放者の最後の一人が、白髪の剣士の仲間に加わったのだった。
「あっ、そういえばまだ君達に神代魔法渡してなかったね……」
ここで神代魔法の存在をすっかり忘れていた三人。直ぐに元の部屋に戻り、ミレディが魔法陣を起動させる。
来とシアは魔法陣の中に入った。今回は試練を突破したことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。シアにとっては初めての経験だったので身体が跳ねた。
刻み込みは数秒で終わり、来達はミレディ・ライセンの神代魔法、重力魔法を入手した。
「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、シーちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」
「ミレディ、それは言い過ぎ」
「……ごめん」
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辻風来 17歳 男 レベル:20
天職:剣士
筋力:4810 [+龍化状態17500]
体力:7760 [+龍化状態15400]
耐性:7000 [+龍化状態8740]
敏捷:7300 [+龍化状態6100]
魔力:5000
魔耐:4800
技能:雷属性適正・全属性耐性・剣術[+抜刀術][+斬撃速度上昇]・天歩[+空力][+縮地]・剛腕・先読・気配感知・気配遮断・幻術・妖術・龍化・暗視・熱源感知・魔力感知・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・胃酸強化・思念通話・睡眠覚醒・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・纏雷・風爪・石化耐性・毒耐性・麻痺耐性・言語理解・生成魔法・重力魔法・再生魔法・魂魄魔法・変成魔法
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ようやくレベルが20に突入した。来のステータスプレートをミレディが確認すると、首を傾げた。
「ん? らーちゃん、攻略したのって本当にオーちゃんの迷宮だけだよね?」
「そうだけど……」
迷宮は二つしか攻略していないのだが、更に三つ程神代魔法らしきものが付け加えられている。転生前から持っている能力が、この世界では神代魔法として扱われているようだ。
ちなみにらーちゃんとはミレディが来に付けた呼び名である。ミレディ曰く、らー君だと他の人物と呼び名が被ってしまうから紛らわしいらしい。
「……まあいっか。シーちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。らーちゃんはこの前の金髪ちゃんと同じくらい適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」
シアは打ちひしがれていた。折角の神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけ。重くするなど論外だが、軽くできるのも問題だ。戦闘に支障を来してしまう可能性がある。むしろデメリットを背負ったんじゃ……とシアは意気消沈した。
「……」
「……どうしたんだミレディ。そんなに目を細めて」
「……やっぱり君は違うんだね」
「……?」
ミレディは困惑していながらも、何処か安心した様子だった。そんなミレディに来は首を傾げる。
「ウザさてんこ盛りのこの迷宮で一切怒りを見せなかったのって、君が初めてだったんだ。前の三人は滅茶苦茶イラついてたから」
「あれで苛立っていたらこの先攻略できそうにないからね」
「ウザい私にさえ君は怒りを向けることなく優しさを向けてくれた。まるで陽の光を浴びているようだったよ。一時君のその優しさにずっと浸っていたい、って思った程だったよ。だからさ…」
途中まで言いかけて言葉を止めた。この先を言おうかと迷っていたのだ。ミレディはしばらく悩み続け、頬を染めながらも意を決して言葉を紡いだ。
「もし、戦いが終わったら……その……君の、傍にいさせてくれないかな……?」
来の背中に抱きつきながらシアが物凄い形相でミレディを睨んでいる。どこぞの金髪の剣士が見たら血の涙を流すことだろう。
「も、もちろん寝取るつもりはないけど……数百年……もしかしたら千年……それくらい長い間溜め続けた寂しさを、君なら埋めてくれる気がするんだ……それに、見た目も格好いいし……」
ミレディに寝取る気は無いようだが、それでもシアは来に抱きついたまま離さない。
「……最終試練の時にも言ったけど、僕には自分の命よりも大事な人がいる。だけど、大事な人は一人じゃないんだ。膵花は勿論、ハジメや香織さん、雫さん、シア、それとミレディ、君もそうだ。仲間なら互いに心の隙間を埋めて当然だよ」
「……ありがとう」
ミレディは懐から指輪を一つ取り出し、それを来に手渡した。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。
指輪を渡す時のミレディの顔は赤く染まっていた。
「れーちゃん、もーちゃん、あーちゃん、さーちゃん、君達の言ってた剣士、確かに来たよ」
ミレディは旅の支度をしながらそう呟いた。
「君達が言った通り、優しかったよ」
そして七人の解放者が映った写真を見る。
「私だけ生き残っちゃってごめんね、でもこれも
「お~い、ミレディさ~ん。行きますよ~」
「……皆ができなかった分を私と新たな仲間達と一緒に成し遂げるよ。じゃあ、行ってくるね」
そう言って写真を仕舞い、待っている二人の許へ走っていくミレディの後ろで、六人分の声が聞こえた気がした……
『『『『『『行ってらっしゃい!』』』』』』
解説
『眼鱗』
四人の来訪者が七人の解放者に預けた〝七聖刀〟のうちの一振りで、ミレディ・ライセンが所有していた。
製作者は『舞鱗』と同じ鍛冶師。雌雄の双刀のうちの〝雌〟に当たる。魚を呼び寄せる力を持った妖刀。
次回
第三十一閃 異変
IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)
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外伝をある程度進めてから
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今でしょ!
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別途執筆