名前は全てカジキに由来する。
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来達がブルックの町を発った頃、雫と膵花を除いたハジメ一行はとある魔物の討伐に向かっていた。
「今度はどんな魔物なんだろうな。この前のトカゲモドキみたいな奴だったら苦戦しそうだがな」
「さあ……? この前みたいに魔物自体の目撃情報がかなり少ないからね。この前のオオトカゲとは限らないんじゃないかな?」
ギルドからの正式な依頼ではなく、風の噂に聞いたので、取り敢えず討伐しようということになったのだ。
「ん、ハジメならどんな魔物をも打ち砕く武器を作れるから大丈夫」
「武器ねえ……」
地球では自他ともに認めるオタクであったからか、脳内に山積みになっているラノベから強力な武器の参考になるものをひねり出し、それを頭の中に描いていた。
(例えば、
それは既にこの世界に存在している。
「……やっぱり剣と言えば日本刀が最強だよなぁ」
「ハジメ、にほんとうって何?」
「えっ? ああ、そうか。ユエは知らないんだったな。日本刀ってのはな、この世界でいう片刃の曲刀だ。折れることも、曲がることもなく、斬れないものはあんまりない」
「そんな凄い武器が……!?」
ユエが目を輝かせている。だが、彼女は武器マニアではない。ただ、そういった武器があることに驚いていたのだ。
「アイツが一番使いこなしていたからな……あの時俺の作った刀が折れさえしなければ、たった一人でベヒモスを倒せたかもしれないのに……」
「ベヒモスをたった一人で倒す……? 普通の人間にハジメみたいなことできない」
「まるで俺が人外みたいじゃないか…俺もアイツも同じ人間だよ」
「
「いやしないだろ普通……」
と、三人が雑談をしていると、地面から何かの気配を感じた。
「下がれ!!」
ハジメの声と共に地中から姿を現したのは、全長一・二メートルの魚だった。背中は青黒く、腹部には数本の黒く太い横縞が走っている。
「「鰹!?」」
見た目は地球の鰹に似ている。ただし、体は地球の鰹よりも大きく、口には小さいながらも鋭い歯が生えている。
しかもそれが数十匹程姿を現した。
「ユエ!」
「ん。〝蒼天〟」
ユエが蒼い炎を放ち、数匹を燃やした。しかし炎の中から数匹が無傷で飛び出してきた。
「嘘……」
「今度は私が!」
香織のアイビーとイベリスが魔力弾を放った。しかし、これも弾かれてしまった。
「嘘……」
「だったら俺が!」
続いてハジメは背中からレオを抜き、刀身を叩きつけて爆発させた。流石に爆発には耐え切れなかったようで、鰹は爆発四散した。高熱でレオの刀身が赤くなっていた。
ハジメは怒涛の爆発攻撃で鰹の数を徐々に減らしていった。しかし、十五匹目から爆発の威力が落ちてきた。
「おいおい…嘘だろ……どんだけ硬いんだよこの鰹!」
レオの刀身を見ると、かなり刃毀れしていた。刃毀れした箇所から粉末状の燃焼石が零れている。こればかりは刃を取り替えないといけないが、そんな余裕などない。
ハジメは爆発に頼るのを止め、己の剣術のみで蹴散らすことにした。
「俺の剣術を、舐めるなぁぁぁ!!」
刃毀れしながらも、鰹の体表に深い傷を付けることはできている。しかし刃毀れの方も鰹を斬るごとにひどくなっていく。
それでもなお、剣を振り続けるハジメ。
「アイツは刀が折れても戦えたんだ。刃毀れ程度で戦えなくなるようじゃあ、絶対に強くなれねえ!」
ハジメの攻撃が更に激しさを増す。
だが、限界までボロボロになった刀身は、鰹の最後の一匹に当たった瞬間、音を立てて折れてしまった。
「オオオォォォ!!!」
剣が折れても攻撃の手を緩めないハジメ。だが、折れた剣で鰹の首を斬り落とそうとした瞬間、金属音と共に鰹の体はハジメの右横を猛スピードで駆け抜けていった。そして地面に着く頃には、頸と体が泣き別れとなった。太い横縞が細い縦縞に変わる辺り、地球の鰹とよく似ていた。
「は、ハジメくん……」
「右目……」
香織とユエが見たもの、それは…
…鮮やかな赤色の液体を垂れ流しているハジメの右目だった。
ところ変わってホルアドの宿場にて。
ハジメは潰れてしまった右目の代わりに神結晶で作った魔眼を右の眼窩に取り付け、その上から眼帯をした。
「ぐすっ……ごめんね……ハジメぐん……私達が何も出来ないで全部ハジメぐんに任せっぎりにじだりじで……」
「ごめん……」
「いや、香織とユエに比べりゃ、右目なんて安いもんさ」
香織とユエが泣きながらハジメに謝るも、ハジメは気にしていなかった。
「私の〝蒼天〟、あいつらには効かなかった……私の魔法が通じなかったの、初めて」
初めて己の魔法が通用しない相手に遭遇したこともあり、ユエはすっかり落ち込んでしまっていた。
「あんな魔物、図鑑には載っていなかったぞ……この前のトカゲモドキみたいに新種の生物なのかな……今度膵花さんに聞いてみるか」
今この場に膵花はいない。雫と共に迷宮の攻略へ赴いてしまっている。
今後の活動について考えていると、部屋のドアが突然ノックされた。
「南雲、香織さん、ユエさん、いるか?」
ハジメがドアを開けると、そこには前髪で目が隠れた、影の薄い暗殺者の少年が立っていた。
「どうした? 遠藤」
遠藤と呼ばれた少年は、部屋の中へ入って来た。
「イシュタルさんから召集が掛かった。直ぐに王城へ来てくれ」
突然の召集がかかり、ハジメ一行は直ぐに王城へ急いだ。
ハジメ達が王城に着くと、直ぐに王の間へ通された。
「香織! 無事で良かった!」
王の間には、畑山先生と連れの五人、雫と膵花以外の全員が集められていた。
「南雲! 雫と膵花は何処にいる?」
「今何処にいるかは俺も知らねえ。っていうか戻って無かったのかよ」
光輝達も雫と膵花の姿を見ていないようだった。
「で、急にこんなところに集められて、一体どうしたというんだ?遠藤」
「何でも俺達人間族を有利にするかもしれない、ある強力なアーティファクトの手がかりが見つかったらしいんだ」
アーティファクト? とハジメが疑問に思う。すると、間に入って来たイシュタルが前に立つ。
「静粛に。これからお話しするのは、我々を優勢に導き得る程の、強力なアーティファクトについてでございます。伝承では、そのアーティファクトは元々、とある四人の神の使徒様が所有なさっていた七本の曲刀ですが、偉大なる我らがエヒト様に歯向かった反逆者共に盗まれ、長らく行方が分かっておりませんでした」
ハジメと香織、ユエにはそれが何なのか、何となく分かっていた。
「しかし、つい先日、その手がかりが書かれた書物が神山にて発見されました。その書物によると、その七本の曲刀は七大迷宮に一本ずつ隠されている可能性が浮上してきたのです」
そして七大迷宮という言葉が出た瞬間、予想は確信に変わっていた。
「書物には、七本の曲刀は選ばれし者にのみ使いこなせるとありますが、この中で最も剣技に優れた勇者様ならば必ずや使いこなせるでしょう」
光輝が勝手に鼻が高くなっているが無視した。しかもまた不確かなことを言っている。何故光輝はこうも不確かなことを絶対だと信じ切れるのだろうか。不思議でたまらない。
話はこれで終わり、王の間に集められたクラスメイト組は一旦解散した。
それはハジメと香織、ユエがオルクス大迷宮最深部、オスカーの隠れ家に到達した時のことだった。
建物の三階で神代魔法を獲得し、探索に外へ出たハジメ達。するとユエが、畑の端で何かを見つけた。
「ん。ハジメ、見て」
何も植えられていない畑の横に、墓標が立っていた。墓標には、日本語で『〝解放者〟オスカー・オルクス、ここに眠る』と刻まれ、花の代わりに折れた日本刀の刀身がお供えしてあった。
「ハジメくん、これって……」
「ああ、恐らくアイツが建てたんだろう。この折れた刀身は俺がアイツに作った刀のものだ」
三人は建物の中を探索していた。工房に入ると、テーブルに空箱が置かれていた。蓋には『碧い炎を宿す者にこの刀を贈る』と書かれていた。
「碧い炎?」
「ユエちゃんの〝蒼天〟と関係があるのかな?」
「……いや、知らない」
ユエが知らない辺り、どうやらユエとは関係が無いらしい。
「ん? 何だこの紙切れ。漢字二文字で何か書いてあるぞ」
ハジメは箱の中にあった紙切れを手に取った。
「読めない……」
当然ユエに漢字は読めない。
「そりゃ俺達の世界で使ってる文字だからな。読めなくて当然だ」
改めてハジメと香織は紙切れに書いてある漢字二文字を読んでみる。
「……〝舞鱗〟?」
「この箱に入ってた刀の名前か?」
「……でも、この刀とても大事に仕舞ってあったはず。一体誰が……」
「十中八九アイツだろう。アイツならこの中に入っていたであろう刀を手にする程の実力者だからな」
「……その人に会って話をしてみたい」
ユエは迷宮の最奥で、自分が愛している少年の話に出て来る、辻風来、という剣士と会合するという意志を持ち始めていた。
ハジメと香織、ユエは王城を後にしてブルックの町に戻っていた。
「オルクスに隠されていた〝舞鱗〟ってのもそのうちの一本なのか?」
「そう言えばライセン大迷宮でも同じような刀が隠されていそうだったよね……」
確かに、ライセン大迷宮にも刀は隠されていた。
「まさかミレディ・ライセンが剣術の達人だったとは……手記らしきものは持ち出されていて見つからなかったようだし……あの時俺があそこに隠されていたであろう刀を手にできていたのなら……」
「ハジメ、過ぎた事を悔やんでも何も変わらない。残りの大迷宮で刀を見つけ出そう」
「……そうだな、ユエ。香織も、付いてきてくれるよな?」
「勿論だよ。だってハジメくんの恋人だもん」
「右に同じ」
宿部屋の片隅で、改めて千切れない絆を繋いだハジメ達。そこへ、ドアが乱暴に叩かれる。
「ハジメさん! 香織! ユエ! 大変よ!!」
「ん? どうした? 雫」
ハジメが部屋のドアを開けると、ドアの向こうに立っていたのは、昏睡状態に陥っている膵花を抱えた雫だった。
「なっ……!? 膵花さん!」
「雫ちゃん!? 膵花ちゃん、一体どうしちゃったの?」
「香織! 今すぐ膵花を診察して頂戴!!」
雫に急かされるがままに香織は膵花の診察を行う。
「凄く熱い……風邪でもひいちゃったのかな……」
香織のプレートに膵花の症状が表示される。
「……雫ちゃん……」
「どうかしたの? 香織。症状の方はどうだった?」
「膵花ちゃん……今のままじゃあと数週間しか生きられないかも……」
香織の言葉に、全員の顔から血の気が引いていった。
「数週間しか生きられないって……どういうことよ香織!」
「膵花ちゃんの魔力が暴走して彼女の体を痛めつけてるみたい……多分ポーションを飲んでも延命にしかならないと思う」
オルクス大迷宮最下層のヒュドラ戦にて、膵花は雫を庇って黒頭の精神攻撃を受けてしまい、更に畳みかけるように銀頭の極光を一部、胸部に受けてしまっており、心臓を損傷している。
神水を飲めば多少の傷は直ぐに治るが、彼女の場合、心臓に損傷を負ってしまっている為、体内の魔力が暴走してしまっている。そんな状態に飽和した魔力が液状化したものを飲んでも、魔力の暴走を鎮めることはできない。心臓の損傷を神水で修復しようとしても、魔力の暴走により治癒効果が喪失してしまう。
「嘘だろ……膵花さんが、このまま来に逢えずに死ぬってのかよ……」
「うぅっ……」
「「「膵花(さん)(ちゃん)!!」」」
ベッドで眠っている膵花が呻き声を上げた。
「ん、魘されてるみたい……」
ベッドで大量の汗を掻きながら眠っている膵花の表情は、とても苦しそうだった。
「……いで…」
「「「「!?」」」」
四人は慌てて膵花の方を向くと、膵花は何かを言っている。
「私を…独りにしないで……来君……」
かつてこの宿で来が膵花を欲したように、膵花もまた、細胞一つ一つが来の声、匂い、温もりを欲していた。
「膵花さんがここまで来を欲してるなんてな……何やってるんだよアイツ……嫁の危機だってのに何でいないんだよ……」
「ん、これは早く来って人を見つけないと膵花さんも死んじゃう……」
「来さん、貴方は一体何処で何をしているの……」
「嫌だ、嫌だよ…膵花ちゃんが死んじゃうなんて……」
宿の一角で、四人は自分達ではどうにもならない状況に突き当たっていた…
魂同士がとても強い絆で結ばれている来と膵花の体はかなり特殊だった。
まず、怪我や病では死ぬが、老衰で死ぬことはない。そのため、外見年齢は20代で止まる。
次に、魔法によるバフデバフと呪いの共有。これについてはそのままの意味だ。来と膵花どちらかが強化魔法を受ければもう一方も同じ恩恵を半分だけ得られる。逆に、弱化魔法を受ければもう一方も半分だけ弱体化する。
バフデバフに関してはさほど大きな問題はないのだが、それよりも呪いの共有が問題だ。
この「呪いの共有」は、「魔法によるバフデバフの共有」とは異なり、半減することなくもう一方も呪いの効果を受ける。来が呪いあるいはそれに準ずるものを受けているため、膵花にも同じ効果を受けているのだ。
ハジメ達にはそれを何としてでも防がなければならない。それが、生き残った自分達に与えられた役目なのだろう……
どうも、今回から後書きで挨拶することにした最果丸です。
「もし南雲ハジメが雷の呼吸の使い手だったら」が最後に更新されてから一ヶ月以上経っていますが、余程のことが無い限り凍結はしない予定ですので、早急に続きを書きます。
オリジナルストーリーなので話がちぐはぐで面白味に欠けると思った方、大変申し訳ございません。
早くカトレア戦を書きてぇ!!
次回 第三十五閃 次なる街での依頼
IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)
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外伝をある程度進めてから
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今でしょ!
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別途執筆