ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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オリ主に対するキャラ達の想い(オリ主、ハジメヒロイン+ハジメ)

膵花(オリ主ヒロインその一)
「必ず何処かで生きてるって信じてる。だって私は、貴方の妻ですもの」

ハジメ(原作主人公)
「生きてるなら早く姿を見せてくれよ……想い人を死なせるんじゃねえぞ!」

香織(ハジメヒロインその一)
「私の恋を後押ししてくれて、ありがとう」

雫(ハジメヒロインその二)
「何時かもう一度貴方と勝負がしたい。またあの頃の日々に戻りたい」

ユエ(ハジメヒロインその三)
「どんな人か知らないけど会ってみたい」

シア(オリ主ヒロインその二)
「私の命を救ってくれた貴方が大好きです!」

ミレディ(オリ主ヒロインその三)
「こんな私にも優しくしてくれる君が私は好き……」


第三十五陣 次なる街での依頼

中立商業都市、フューレン。そこは、高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、事業に失敗して無一文となり、悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言える。

 

その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識のようだ。メインストリートからも中央区からも遠い場所は、闇市が多い。だが、時々相当な掘り出し物が出ることもある。冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 

そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞く和装一行。話しているのは案内人と呼ばれる職業の女性。都市が巨大であるため需要が多く、案内人というのはそれになりに社会的地位のある職業のようだ。多くの案内屋が日々客の獲得のためサービスの向上に努めているので信用度もかなり高い。

 

来達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドを訪れた。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのか全く知らなかったので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられた。

 

そして現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのだ。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「そうですか、なら観光区の宿にしよう。場所は何処がおススメですか?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「そうですね、食事と立地はいいとして、お風呂があれば何処でも。あと、責任の所在が明確な場所も」

 

リシーは、にこやかに来の要望を聞く。最初の二つはよく出される要望なのだろう。早速、脳内でオススメの宿をリストアップした。しかし、続く条件に思わず首を傾げた。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

「まあ、警備が厳重な宿でもいいのですが、ただ、欲に目が眩んで羽目を外す輩もいますからね。警備も絶対ではない以上、時には物理的説得も止むを得ない場合もあるので」

「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

「あくまで〝出来れば〟の範囲で構いませんよ」

 

どうやらリシーは来の意図を完全に理解したようだ。あくまで〝出来れば〟で構わないという来に、案内人としての根性が疼いたようで、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。そして、シアとミレディにも視線を転じ、要望はないか聞く。出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、当たりだった。

 

「お風呂があればいいですよ。あと混浴と貸切ができるところでお願いします」

「えっと、ベッドは大きめがいいな」

 

シアとミレディは、少しの間考えて要望を伝えた。個々としては何てことない要望だが、組み合わせると自然ととある意図が透けて見えてきた。来は顔を赤くして驚きの表情を見せる。

 

「あの……」

「え、あ、はい! お願いします!!」

 

リシーも察したようで、「承知しましたわ、お任せ下さい」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。そして来とシア達を交互に見ると更に頬を染めた。

 

それから、他の区について話を聞いていると、不意に強く不快な視線を感じた。特に、シアとミレディに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないミレディとシアだが、あまりの不快さに僅かに眉を顰める。

 

来が視線の先を見ると……身体的特徴を述べることすら拒否する程の風貌をしたデブ男がいた。油霧を使えば体が無くなるのではないかと思う。シアとミレディを欲望に濁った目で凝視している。

 

これには流石の来も嫌悪感を剥き出しにしてくる。容姿に対してではなく視線に対してである。このデブ男には下心しかなかった。これ以上姿を見るのも嫌なようで、直ぐに視線を逸らした。

 

脂肪の塊は重そうな体を揺すりながら真っ直ぐ来達の方へ近寄ってくる。

 

リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それともこの生物が目立つのか、傲慢な態度でやって来る醜い生物に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

 

脂肪は、来達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でミレディとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかった来に、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

聞き心地の最悪な汚い声で告げ、ミレディへ手を伸ばす。この醜悪な脂肪の塊の中では既にミレディは自分の物になっているようだ。だが、来達は無視を決め込んだ。あと一つ言っておくが、来は二十一だ。十分大人である。

 

「シア、ミレディ。場所を変えよう」

 

早くこの場から去りたかった。この百キロの脂肪の相手をしていると絶対に碌な事がない。

 

だが、ギルドを出ようとした途端、今度は筋肉の塊が進路を塞ぐような位置取りに仁王立ちで立っていた。腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

その巨体が目に入ったのか、脂肪が再び耳障りな声で喚きだした。

 

「そ、そうだ、レガニド! 私を無視したそのクソガキを殺して女どもを捕らえろ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

レガニドと呼ばれた巨漢はそう言うと、拳を構えた。長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わないようだ。周囲がレガニドの名を聞いてざわめく。

 

「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」

「〝暴風〟のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」

「金払じゃないか? 〝金好き〟のレガニドだろ?」

 

レガニドの冒険者ランクは〝黒〟。相当な実力者であることに間違いはない。

 

「ほう、坊主とは随分と舐められたものだな」

 

来はそれだけ言うと拳を振るおうとした。が、意外な場所から制止の声が掛かる。

 

「……待って、らーちゃん」

「あの人は私達が相手になります」

 

ミレディもシアも、毅然とした態度でレガニドを見据える。

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ?夜の相手でもして許してもらおうって『……君さ、黙りなよ』ッ!?」

 

下品な言葉を口走ろうとしたレガニドは、辛辣な言葉と共に、重力魔法を受けた。レガニドの足は、床から七センチ程浮いてしまっている。そして鉱石をぶつけられる。レガニドは全く反応できなかった。心中では「いつ詠唱した?陣はどこだ?」と冷や汗を掻きながら必死に分析している。

 

「私達だって、ただ守られるだけのお姫様じゃないんです」

「らーちゃんの力を借りなくとも、私達で十分だよ」

 

ミレディは魔法を解除し、レガニドは再び床に足を着ける。

 

「もう終わりですか?」

 

レガニドの前に素手のシアが立ちふさがる。

 

「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるんでね。大人しくしていて欲しいんだが?」

「貴方を傷つけることなく、貴方を制します」

「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん! わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

 

レガニドは、シアは大して気にせずミレディに気を配りながら、豚脂肪に一言断りを入れる。流石に、ミレディ相手に無傷で無力化は難しいと判断したようだ。だが、レガニドは気が付かなかった。愛玩奴隷という認識が強い兎人族が素手でランク〝黒〟の人間の前に立っていることの違和感に、相応の実力が垣間見える来とミレディの二人が初手を任せたという意味に。

 

「すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ」

 

シアは大きく深呼吸をし、合気道の構えを取る。シアは剣術や体術、槍術、棒術といった武術とは別に、道徳を重んじつつ心技体の研鑽に励むべく武道も習っている。勘違いしている者も多いが、武術と武道は全くの別物である。

 

これらでもレガニドを無力化するには十分だった。だが、シアはあくまで合気道を選んだ。彼女は相手を倒すよりも、相手を制することを重視した。

 

先にレガニドが動いた。シアは一瞬で至近距離に近づき、レガニドの隙を突いて足をすくう。

 

「ッ!?」

「やぁ!!」

 

可愛らしくも気合の籠った声が響く。軸を崩されたレガニドの体は投げられ、床に叩きつけられた。

 

(なっ…何だこの兎……攻撃を躱しただけでなく、カウンター攻撃まで繰り出すとは……)

 

レガニドは冒険者ランク〝黒〟にまで上り詰めた自分が、まさか兎人族の少女に攻撃を受け流されただけでなく、不意を突いて攻撃を喰らってしまったという事実に、もはや笑うしかなかった。

 

(坊ちゃん、こりゃ、割に合わなさすぎだ……)

 

こうしてレガニドは、戦意を喪失してしまった。

 

 

一方、来は豚男を別の生き物を見るような目で見ていた。脂肪に向かって威圧を放っている。脂肪の股は濡れてしまっている。

 

「おい、お前!」

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「お前みたいな奴の家は記憶に存在しない!知らん!!」

 

豚脂肪にミン男爵家など知らん、とキッパリと言ってやった。

 

「二つ言っておく。百万ぽっちでシアを…兎人族を譲るなどと思うな。それと、ミレディに気安く触れるな。お前の物じゃないだろう。傲慢が過ぎるぞ」

 

豚脂肪は恐ろしい程の威圧の前に気絶してしまっていた。

 

そして先程までの威圧とは見違える程の笑顔を、リシーに見せる来。

 

「すみません。場所を移して続きの方お願いできますか?」

「はひっ! い、いえ、その、私、何といいますか……」

 

彼の笑顔に恐怖を覚えたのか、リシーはしどろもどろになる。

 

「……あ、そ、その、ご、ごめんなさい」

 

そこへ今更ながらギルド職員が到着した。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

来達は素直に職員の指示に従い、場所を移動した。

 

 

そして職員より尋問を受ける来。何時の間にか秘書長まで加わっている。

 

来は嘘偽りなく事の顛末を話した。

 

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……」

「申し訳ないですが、連絡先の方は滞在先が決まってないので……早急に滞在先を見つける必要があります」

 

身分証明はできるが、連絡先は滞在先がまだ決まっていないので今は無い。

 

ドットという名の秘書長は来よりステータスプレートを受け取る。

 

「ふむ、いいでしょう……〝青〟ですか。向こうで座り込んでいる彼は〝黒〟なんですがね……しかも無傷とは……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」

 

来のステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の〝青〟であることに、ドットは僅かな驚きの表情を見せた。しかし、二人の女性の方がレガニドを制したと聞いていたので、彼女達の方が強いのかとシアとミレディのステータスプレートの提出を求める。

 

「実は訳あって、この二人のプレートは紛失してしまいまして。再発行もまだ済ませていません」

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

 

身元の証明はどうしても必要なようだ。しかし、ステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実に二人の固有魔法が表示されるだろう。それどころか今や、神代魔法も表示されるはず。まず間違いなく大騒ぎとなるだろう。だが、それ以上にブラックリストに名が乗ることは避けなければならない。

 

「是非お願いします。それと、知り合いのギルド職員より手紙を賜っております」

「? 知り合いのギルド職員ですか? ……拝見します」

 

ドットは渡された手紙を開いて内容を流し読みする内に驚愕の表情を浮かべた。

 

そして、来達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、来達に視線を戻した。

 

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

「分かりました」

「職員に案内させます。では、後程」

 

ドットは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。指名された職員が、来達を促す。それに従い移動しようと歩き出したところで、困惑したような、しかし、どこか期待したような声がかかった。

 

「あの~、私はどうすれば?」

 

リシーだった。ギルドでお話があるならお役目御免ですよね?とその瞳が語っている。明らかにと言えば失礼だが、厄介の種である来達とは早めにお別れしたいらしい。

 

それに来は端的に答えた。

 

「すみません、宿は自分達で探します。これは迷惑料です」

 

そう言うと最初に支払った料金の三倍の額が入った袋を渡す。

 

来達が応接室に案内されてから丁度十分後、扉がノックされた。来の返事から一拍置かれて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした、鋭い目付きの三十代後半の男性と先ほどのドットだった。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長、イルワ・チャングだ。ライ君、シア君、ミレディ君……でいいかな?」

「ええ。キャサリンさんより紹介を賜りました、辻風来です。身分証明の方は問題ないのですか?」

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

どうやらキャサリンの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立に立ったようだ。随分と信用がある。キャサリンを〝先生〟と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える。

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

「キャシーやばっ!?」

 

イルワより聞かされたキャサリンの正体に感心する来達。想像していたよりも遥かに大物だったようだ。

 

「他に用事が無いのであれば、我々は下がります」

 

元々、身分証明のみが目的だったので、イルワから用事が無ければこれ以上長居する理由は無い。それを彼に確認する。しかしイルワは、瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」と来達を留まらせる。

 

来達の前に一枚の依頼書を提示する。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「依頼ですか。何でしょう」

 

人道から外れない限り、依頼はきっちりとこなすのが来のポリシー。すんなりと話を聞く。

 

「ありがとう。さて、依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

「成程、捜索願ですか」

 

イルワの話によると、最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされたのだそう。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けたようだ。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになったのだという。

 

この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

「かなりの手練でも対処しきれないと……ですが、ランクが〝青〟の冒険者一人と連れ二人に持ち出して大丈夫なのですか?」

「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

「ライセン大峡谷? 手紙には書いてなかったはず……まさか」

 

ライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。イルワがそれを知っているのは手紙に書かれていたという事以外には有り得ない。

 

来は張本人が分かったようで、シアとミレディの方に向く。

 

「君達二人のどちらか、だね?」

「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」

「……」

「!? ミ、ミレディさんもいました!」

「シーちゃんの裏切者ぉ!!」

「……今後そういった話は、人前ではなるべく控えるようにね」

「「は、はい!!」」

 

二人共、平静を装いつつ冷や汗を掻いている。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 

懇願するようなイルワの態度には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められているようだ。伯爵と友人ということは、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれない。個人的にも、安否を憂いているのだろう。

 

来は何か思い詰めている表情でイルワを見ている。

 

「ほ…報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいい。本当は〝金〟にしたいところだが、それは流石に盛り過ぎだと思う」

「……」

「勿論それだけではない。今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になろう。フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。それと、シア君とミレディ君のステータスプレートも作って差し上げよう。悪くない報酬ではないかな?」

「……貴方から焦りを感じる。その裏で、何があったんですか?」

 

来の言葉に、イルワが初めて表情を崩す。後悔にまみれた表情だ。

 

「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

表情を崩したイルワを、来は慈しい目つきで見る。

 

「その依頼……受けさせて頂きます」

 

来としては、これ以上、ギルド支部長の負担を少しでも軽くしてあげたかった。見返りは求めていない。ただ、己が培ってきた倫理観に従っただけのこと。

 

「本当に……ありがとう……どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ライ君、シア君、ミレディ君……宜しく頼む」

 

イルワは最後に真剣な眼差しで来達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

 

「では、行って参ります」

 

その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、来達は部屋を出て行った。バタンと扉が締まる。その扉をしばらく見つめていたイルワは大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。

 

「支部長……よかったのですか? あのような報酬を……」

「……ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」

「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか……」

「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

 

「!? 支部長は、彼が召喚された者…〝神の使徒〟の一人であると? しかし、彼はそのような話など一切しませんでした」

「およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。しかも勇者を差し置いて最強の剣士だったと聞く。遺体は奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね」

「……まさか、その者が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? それに、報告が正しければその者の死は直接確認されているはず。とても生き残るなんて……」

 

ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で再び来達が出て行った扉を見つめた。

 

「そうだね。でも、もし、そうなら……なぜ、彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね? 彼は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」

「何を……ですか……」

「ああ、もしかするとそれは、この世界の真実に深く関わっているもの、なのかもしれない」

「世界の真実……」

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」

「もちろんだとも」

 

スケールの大きな話に、目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかし、イルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。

 

 

「生存の可能性は、時間が経てば経つ程下がる。早急に見つけ出さないと……」

「らーちゃん!!」

「来さん!!」

「……僕まで後を追いそうだからねッ……」

 

彼に残された時間は三週間。一行は急ぐ必要があった……




皆さんに分かって欲しいのは、武術と武道は全くの別物であることです。

武術とは「対峙した相手に攻撃を加えて殺傷するための技法」と「それらの技法を効率的に繰り出して有利な展開に持ち込むための理論」を構築したものであって、武道とは道徳を重んじつつ心技体の研鑽に励むものです。


次回 第三十六閃 巡り逢い

IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)

  • 外伝をある程度進めてから
  • 今でしょ!
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