ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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㊙話

辻風来の誕生日は、蛇柱・伊黒小芭内と同じであるが、まったくの偶然。


第三十八陣 北の山脈へ

それは、まだ夜明け前のことだった。

 

月の輝きが薄れ始めた頃、来、シア、ミレディの三人はすっかり旅支度を済ませて、〝水妖精の宿〟の直ぐ外で立っていた。手には、移動しながら食べられるようにと握り飯が入った包みを持っている。極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず、朝食にとフォスが用意してくれたものだ。それを来達は笑顔で受け取った。

 

朝靄が立ち込める中、彼らはウルの町の北門に向かう。そこから北の山脈地帯へ続く街道が伸びている。馬だったら丸一日かかるが、〝弩空〟なら三時間で到着する。

 

ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。それでもまだ可能性はある。出来るだけ急いで捜索すれば生きて帰せるかもしれない。幸いなことに天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。

 

幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。その北門の傍に複数の人の存在を感知した来は朝靄を掻き分ける。

 

朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と生徒六人の姿だった。

 

「畑山先生……これはどういう事ですか?」

 

毅然とした態度で来と正面から向き合う愛子。ばらけて駄弁っていた生徒達、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々、玉井淳史、相川昇、仁村明人も愛子の傍に寄ってくる。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね?人数は多いほうがいいです」

「北の山脈は貴女方には危険過ぎるのであまりお勧めはしません」

 

来は愛子達の同行をやんわりと止めようとした。理由は愛子達を危険な目に遭わせたくないからだ。

 

「そ、それでも……!」

「それでも?」

 

愛子は来に身を寄せると、小声で決意を伝える。

 

(化粧で隠れているが、隈ができてる。昨夜眠れなかったのか……)

 

「辻風君、先生は先生として、どうしても貴方からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか?」

 

愛子の瞳は、決意に光り輝いていた。空回りは多いが、愛子の行動力は理解しているつもりだった。だが、来は誤魔化しも逃げもしない男だったので、仕方なく同行を許可した。

 

「解りました。纏まって行動するのであれば、同行は許可します。それに…」

「それに?」

「貴女にはまだ別の目的があるのでしょう?」

「……!」

 

来には見抜かれていた。愛子が共に行く別の目的が。愛子は驚いた表情を浮かべる。

 

「道中でいいので、隠さずに伝えて下さい」

 

来は懐から〝八咫〟を取り出し、操作をすると何もない所からホバーボートが出現した。

 

「な、なあ辻風、これお前が作ったのか?」

「ん? ああ。ちょっと座席の数が少ないから少し待っていてくれ」

 

運転席に取り付けてある端末を操作し、座席を八人分用意した。更に、愛子達を風圧に晒すわけにもいかないので、外壁を取り付けた。前方の砲門も二門に増やしておいた。

 

「らーちゃん、本当に連れていくの?」

「ああ、この人は生徒の事に関しては妥協しない人だからね」

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

「そこは尊敬してるよ」

 

大人数の移動に適した形への改造が終わり、来達は〝弩空〟に乗り込む。

 

 

前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、近未来的なホバースキッフ〝弩空〟が時速二百キロで爆走する。街道とは比べるべくもない酷い道だったが、地面から浮いている〝弩空〟には関係ない。車内は当然、新幹線のように快適である。

 

座席は全てゲーミングチェアを参考に製作してあるので体にかかる負担は少ない。ただしPCは無い(当たり前)。更に、自由に回すこともできるので、話し合いもしやすい。運転席には製作者である来が、助手席(砲手席)には愛子が乗っている。ミレディは愛子の近くの席に、シアは優花達と同じ席に腰掛けている。

 

シアは居心地が悪そうだった。それもそのはず、先程から優花と妙子に挟まれて、来との関係を根掘り葉掘り聞かれている。異世界での異種族間恋愛など花の女子高生としては聞き逃せない出来事なのだろう。興味津々といった感じでシアに質問を繰り返しており、シアがオロオロしながら頑張って質問に答えている。

 

一方、来と愛子の話も佳境を迎えていた。

 

愛子のもう一つの目的とは、現在、行方不明になっている清水幸利の事だ。八方手を尽くして情報を集めているが、近隣の村や町でもそれらしい人物を見かけたという情報が上がってきていない。しかし、そもそも人がいない北の山脈地帯に関しては、まだ碌な情報収集をしていなかったと思い当たったのだ。事件にしろ自発的失踪にしろ、まさか北の山脈地帯に行くとは考えられなかったので当然ではある。なので、これを機に自ら赴いて、来達の捜索対象を探しながら、幸利の手がかりがないか調べようとしたのだ。

 

〝迷宮の悲劇〟については、当時の状況を詳しく聞く限り、やはり故意に魔法が撃ち込まれた可能性は非常に高いとは思いつつ、やはり信じたくない愛子は頭を悩ませる。やはり心当たりは檜山だと答えた(大正解)。人殺しで歪んでしまったであろう心をどうすれば元に戻せるのか、どうやって償いをさせるのかということに、愛子はまた頭を悩ませた。

 

うんうんと頭を唸って悩むうちに、揺れのない環境と柔らかいシートが眠りを誘い、愛子はいつの間にか夢の世界へと旅立っていた。ズルズルと背もたれを滑り、来の膝に倒れ込んだ。

 

「らーちゃん、罪な男だねぇ」

「なっ、何を言うんだッ!」

「いつまでその一途な思いが続くのかなぁ~」

「いつまでも続くさ。今まで途切れたことはないし、これからも途切れることはない」

「……そうなんだ…なら私にも惹かれないんだね……」

「っ……」

「ふふふ、冗談だよ。君が私やシーちゃんの事も大切にしてくれてること、知ってるんだからね? 私とシーちゃんが、何が遭っても君を守ってみせるよ」

「…仲間にこんなに大事にされて、僕は幸せ者だなぁ……はは」

 

二十五歳の女教師を膝枕しながら、〝解放者〟最後の一人と談笑する剣士の青年。そんな二人を後部座席からキャッキャと見つめる女子高生、そして不貞腐れる兎の少女。これから、正体不明の異変が起きている危険地帯に行くとは思えない程、騒がしかった。

 

 

北の山脈地帯、標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるその場所は、木々や植物、環境が山々を斑模様に染め上げていた。日本の秋のような紅葉や、真夏の青々とした場所、枯れ木ばかりの場所などがある。

 

山脈の向こう側には、更に北へ北へと山脈が幾重に重なりながら広がっている。

 

第一の山脈で最も標高が高いのは、かの【神山】だ。今回、来達が訪れた場所は、神山から東に千六百キロメートルほど離れた場所だ。紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識あるものが目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見することができる。ウルの町が潤うはずで、実に実りの多い山である。

 

来達は、その麓に〝弩空〟を停めると、しばらくの間、見事な色彩を見せる自然の織り成す芸術を堪能した。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。先程まで、生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって謝罪していた愛子も、鮮やかな景色を前に、その失態を頭の奥へ無理矢理追いやることに成功したようである。

 

「さてと、鑑賞はこのくらいにして…ミレディ、偵察を頼んだ」

「了解」

 

来は〝弩空〟を〝八咫〟に収納し、とある機器を複数取り出した。

 

それは、人工衛星「みちびき」を三十センチまで小型化したような形をした機器七機だった。

 

来は〝八咫〟をミレディに渡し、ミレディが探査モードを起動すると、小さな「みちびき」達は地面から浮いた。愛子達が「あっ」と声を上げた。

 

七機の「みちびき」は、レーダーを山の方に向けてそのまま飛んでいった。

 

「あの、あれは……」

「無人探査機です」

 

ホバースキッフと同じ位、異世界には似つかわしくないものだった。

 

無人探査機「ななつぼし」は、ライセンの大迷宮で遠隔操作されていたゴーレム騎士達を参考に、貰った材料から製作したものだ。生成魔法により、重力魔法を鉱物に付与して、重力を中和して浮く鉱物:重力石を生成した。それに、ゴーレム騎士を操る元になっていた感応石を組み込み、更に、遠透石を頭部に組み込んだのだ。遠透石とは、ゴーレム騎士達の目の部分に使われていた鉱物で、感応石と同じように、同質の魔力を注ぐと遠隔にあっても片割れの鉱物に映る景色をもう片方の鉱物に映すことができるというものだ。ミレディは、これで来達の細かい位置を把握していた。来は遠透石を〝八咫〟に組み込み、「ななつぼし」の映す映像を〝八咫〟の画面に表示できるようにしたのだ。

 

人の脳の処理能力には限界があるのだが、ミレディは七機の「ななつぼし」を自らも十全に動きつつ、精密操作することができる。五十騎のゴーレムを同時操作していたミレディだからこそできる芸当だ。

 

今回は、捜索範囲が広いので上空から確認出来る範囲だけでも「ななつぼし」で確認しておくのは有用だろうと取り出したのである。既に彼方へと飛び去った「ななつぼし」を遠くに見つめながら、愛子達は、これ以上来達のすることに驚くのは止めようと決めた。

 

来達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺り。ならば、ウィル達冒険者パーティーも、その辺りを調査したはず。そう推測して、来達は「ななつぼし」をその辺りに先行させながら、かなりのハイペースで山道を進んだ。

 

一時間もかからずに六合目に到着した来達は、一度そこで立ち止まった。そろそろ痕跡がないか調べる必要もあったが、来達と愛子達の体力の差が予想よりも激しかったため、休むことにもした。もちろん、本来、愛子達のステータスは、この世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山ごときでここまで疲弊することはない。ただ、来達の移動速度が速すぎたのだ。

 

来達三人の中で最も足の遅いミレディでさえ時速三十八キロと、短距離走者といい勝負だ。人間より身体能力が高い亜人族のシアは時速四十キロ、そして、最も足の速い来はなんと七十キロは出せる。来とシアはミレディのスピードに合わせたが、それでも愛子達からは速過ぎたようで…

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、辻風達は化け物か……」

 

体力を消耗しきって疲労困憊だった。来達は休憩がてら近くの川に行くことにした。位置情報は既に把握済みだ。

 

「この先に川があります。そこで休憩しましょう」

 

愛子達と共に、来達は川へと向かった。

 

シアとミレディ、愛子達を連れて山道を逸れ、山の中を進む。さくさくと落ち葉が立てる音を何げに楽しみつつ木々の間を歩いていると、やがて川の潺が聞こえてきた。心に染み渡るような綺麗な音だ。シアの兎耳が嬉しそうに跳ねている。

 

そうして辿り着いた川は、小川にしては規模の大きなものだった。索敵能力に長けたシアと来が周囲を探り、ミレディも「ななつぼし」で周囲を探るも魔物の反応はなし。取り敢えず息を抜き、来達は川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。途中、来が「少し川遊びをしようか」と、三人で川遊びをした。川遊びと言っても、川に足をつけて水飛沫を上げて楽しむといったくらいだった。

 

川沿いに上流へと移動していった可能性も踏まえ、「ななつぼし」の操作を交替した来が上流沿いに「ななつぼし」を飛ばす。ミレディはパシャパシャと素足で川の水を弄んでいる。シアも素足となっているが、水につけているだけだ。川の流れに攫われる感触に擽ったそうにしている。

 

男子三人が、素足のシアとミレディを見て歓声を上げると「ここは天国か」と目を輝かせ、女性陣の冷たい眼差しが彼らに向く。淳史達の視線を気にも留めず、シアとミレディはしばらく川遊びを続けた。

 

愛子達が川岸で腰を下ろし水分補給に勤しむ。男子勢のシア達を見る目が気になったので、「あまりジロジロと見るなよ」とだけ言うと男子勢は視線を逸らした。そんな様子を見ていた愛子達は来に生温かい眼差しを向けた。

 

「ふふ、辻風君は、ホントに滝沢さんと同じ位、ミレディさんとシアさんを大事にしているんですね」

 

愛子が微笑ましそうにそのような事を言う。来は左手で顔を隠したが、頬が染まっているのは見えていた。ミレディは来の左側に腰を落とした。

 

そしてそのまま満足げに来に寄りかかり、全体重を彼に預ける。これが彼女の信頼の証だった。それを見て、シアが寂しくなったので、来は右側を軽く二回叩いた。シアは嬉しそうな表情で右側に座り込んだ。突如、発生した桃色の空間に愛子は頬を赤らめ、優花達女生徒はキャーキャーと歓声を上げ、淳史達男子はギリギリと歯を噛み締めた。

 

来はというと、二人に気はないが、振りほどくことはなかった。二人を優しい目で見ていたが、直ぐに険しい表情を作った。

 

「……これは」

「何か見つけた? らーちゃん」

 

来が遠くを見つめて呟くのを聞き、ミレディが確認をする。その様子に、愛子達も何事かと目を瞬かせた。

 

「上流に盾……まだ新しい鞄もある。読みは当たったな。ミレディ、シア、行こう」

「了解」

「はいです!」

 

来達が阿吽の呼吸で立ち上がり、出発の準備を始めた。愛子達は本音で言えばまだまだ休んでいたかったが、無理を言って付いて来た上、何か手がかりを見つけた様子となれば動かないわけには行かなかった。疲労はまだ抜け切っていないが、何とか重い腰を持ち上げて、再び俊足で上流へと登っていく来達を必死で追った。

 

来達が到着した場所には、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態だった。

 

来達が注意深く周囲を見渡すと、近くの樹皮が剥がされているのを発見した。高さは大体二メートル位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業とは思えない。来は、シアに全力の探知を指示しながら、自らもエコーロケーションを用いて傷の付いた木の向こう側へと踏み込んでいった。

 

先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。それらを発見する度に、特に愛子達の表情が強ばっていく。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

「来さん、これ、ペンダントでしょうか?」

「そうだね、遺留品かもしれない。確かめよう」

 

シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットのようだと気がつく。留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。おそらく、誰かの恋人か妻と言ったところか。大した手がかりにはならなかったが、古びた様子はないので最近のもの……冒険者一行の誰かのものかもしれない。なので、一応回収しておく。

 

その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

 

生体反応は未だ野生生物以外確認できなかった。ウィル達を襲ったと思われる魔物はおろか、他の魔物すら確認できなかった。位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはず。来は異常を感じ取っていた。

 

しばらくすると、再び「ななつぼし」が異常のあった場所を探し当てた。東に三百メートル程いったところに大規模な破壊の後があったのだ。来は全員を促してその場へと急行した。

 

そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。

 

そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。

 

「どうやらここで本格的な戦闘が行われていたようだ。足跡から見るに二足歩行で大型の魔物だ。確か、山二つ向こうにはブルタールという鬼の姿をした魔物がいたな。だが、この抉れた地面は……」

 

ブルタールとは、RPGで言うところのオークやオーガの事だ。大した知能は持っていないが、群れで行動することと、〝金剛〟の劣化版〝剛壁〟の固有魔法を持っているため、中々の強敵と認識されている。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないはずの魔物だ。それに、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずである。

 

来は、しゃがみ込みブルタールのものと思しき足跡を見て少し考えた後、上流と下流のどちらに向かうか逡巡した。ここまで上流に向かってウィル達は追い立てられるように逃げてきたようだが、これだけの戦闘をした後に更に上流へと逃げたとは考えにくい。体力的にも、精神的にも町から遠ざかるという思考ができるか疑問である。

 

逡巡の結果、「ななつぼし」を上流に飛ばし、自分達は下流へ下ることにした。ブルタールの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。

 

彼の推測に他の者も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。

 

すると、今度は先程のものとは比べ物にならない程立派な滝が姿を現した。来達は、滝横の崖を軽快に下りていき、滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。この付近で野営でもしようかと考えていると、〝気配感知〟に微かな反応があった。

 

「! これは……」

「……らーちゃん?」

 

ミレディがすぐさま反応し問いかける。来は暫く目を閉じて感覚を研ぎ澄ませた。そして目をゆっくりと開く。

 

「滝壺の奥に、誰かが一人倒れてる」

「生きてる人がいるってことですか!」

「ああ。確かに生きている」

 

生存の可能性はゼロではないが故に、諦めてはいなかった。だが、ウィル達が消息を絶ってから五日は経っているのである。もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だった。

 

「ミレディ、頼む」

「オッケー」

 

ミレディが両腕を横に振り払うと、滝が縦に真っ二つに割れた。さながら紅海のモーセの伝説だった。

 

詠唱どころか一言も喋らず、更に陣もなしに魔法を行使したことに愛子達は、もう何度目かわからない驚愕に口をポカンと開けた。

 

しかしミレディの魔力は無限ではない。来は、愛子達を促して滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。溢れないことから、きっと奥へと続いているのだろう。

 

その空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

 

「大丈夫か! 今助けに来たぞ!」

「うぅ……」

 

少しずつ目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。

 

「君達は…一体……?」

 

生存者は状況を把握できていないようだった。

 

「僕は辻風来。生存者を助けに来た。君がクデタ伯爵家三男、ウィル・クデタか?」

「あ、ああ。私がウィル・クデタだが……どうしてここに?」

「フューレンギルド支部長、イルワ・チャングからの依頼で来た」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。それから、各人の自己紹介と、何が遭ったのかを彼から聞く。

 

ウィル達は五日前、来達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇した。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になった。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

 

その絶望とは…漆黒の竜だった。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

 

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたようだ。

 

ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛子はウィルの背中を優しくさする。ミレディはライセン大迷宮にいた頃の自分と重ね、シアは困った表情をした。

 

ウィルが言葉に詰まった瞬間、彼の頭にふんわりと手が乗せられた。来だ。来は温かみの籠った透き通った声で語りかける。

 

「君の仲間はきっと、君に生きて欲しかったんだろう。そうでなきゃ君は今ここにいない。僕らが来るまで、よく堪えた。仲間のことは残念だったが、君だけでも生き残れたのなら、イルワさんも喜んでくれる」

「だ、だが……私は……」

「君が死んだら、仲間達の死が無駄になってしまう。仲間達が自分達の命を投げ捨ててまで繋いでくれた命だ。君が生き残ったことには、きっと何か意味がある。だから、仲間の分まで生き続けろ。たとえ七度転ぼうと、八度倒れようと、九度立ち上がれ」

 

涙を流しながらも、来の励ましを黙って聞くウィル。来は膵花と共に七百年以上に亘って、経験を積み上げて来た。

 

「らーちゃんの言う通り、人には必ず生きる意味がある。その意味を知るまで、生き続けて。知ってからでも、生きることを諦めないで」

「……ははっ、ああ当然だ。何が何でも生き残ってやるさ……一人にはしないよ」

 

一行は早速下山することにした。日の入りまで、まだ一時間以上は残っているので、急げば、日が暮れるまでに麓に着けるだろう。

 

ブルタールの群れや黒竜の存在についても気になるが、今は下山が最優先だ。戦闘能力の低い保護対象を抱えたまま調査に赴くのは無謀だ。ウィルも、足手まといになると理解しているようで、撤退を了承した。他の生徒達は、町の人達も困っているから調べるべきではと微妙な正義感からの主張をしたが、黒竜やらブルタールの群れという危険性の高さから愛子が頑として調査を認めなかったため、結局、下山することになった。

 

ミレディの重力魔法で、滝壺から出て来た一行。急いで下山するべく来た道を引き返そうとした瞬間、何かが落下してきた衝撃音と共に、地面が激しく揺れた……




無限列車編、また観にいきたいなぁ……

そして千と千尋も観たいなぁ……


無限列車編に影響を受けながら執筆しました。


次回 第三十九閃 激突! 漆黒の竜と(くろがね)の剣士

IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)

  • 外伝をある程度進めてから
  • 今でしょ!
  • 別途執筆
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