ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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怪現象報告

1. オルクス大迷宮六十五階層より、ベヒモスの変異

2. ブルックの町より、未知の魔物の出現

3. 場所不明、地球の鰹に酷似した、凶暴な魚類の出現


第三十九陣 激突!! 漆黒の竜と(くろがね)の剣士

一行からそう離れていない場所にもうもうと土煙が立ち上っている。煙の奥に巨大な影が見えた。

 

ドクン、と全員の心臓が嫌な音を立てる。嫌な予感がした。

 

来が体ごと影に向き合い、鯉口を切った。

 

煙が晴れていく。巨大な影がゆっくりと頭を上げた。

 

――ドクン。

 

漆黒の鱗が身を包む竜だ。

 

「グゥルルルル」

 

――ドクン。

 

竜の両目は来と同じ黄金の瞳だ。まるで夜闇に浮かぶ望月のよう。爬虫類らしく縦に割れた瞳孔は、剣呑に細められていながら、なお美しさを感じさせる光を放っている。

 

(漆黒の……竜? どうして今ここに……)

 

体長は七メートル、翼開長は十メートル。長い前足には五本の鋭い爪が生え、魔力を纏っているのか、背中から生えた翼は薄らと輝いて見える。

 

空中で翼をはためかせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻く。

 

その黄金の瞳が、来達を睥睨していた。低い唸り声を喉から零しながら。

 

(七岐と同じ位…いや、それ以上かもしれない)

 

蛇に睨まれた蛙のごとく、愛子達は硬直してしまっている。特に、ウィルは真っ青な顔でガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだ。彼の脳裏には、襲われた時の事が鮮明に蘇っている。

 

その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。

 

キュゥワァアアア!!

 

(不味い、あれをまともに浴びたら灰すら残らないぞ……!)

 

不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。

 

「退避!!」

 

来は警告を発し、自らも後ろへ大きく飛び退く。ミレディとシアは反応できたが、それ以外は反応できなかった。

 

愛子や生徒達、そしてウィルもその場に硬直したまま動けていない。愛子達は、あまりに突然の事態に体がついてこず、ウィルは恐怖に縛られて視線すら逸らせていなかった。

 

来は〝思念通話〟でシアとミレディに指示を出し、自分は愛子達と黒竜の間に割り込む。

 

黒竜の前に立ち、高く飛び上がると、黒竜の顎を思いっ切り蹴り上げた。直後、竜の口から漆黒の熱線が放たれた。激しい轟音と共に熱線が天を貫いた。

 

愛子達は最早何度目かも分からない驚きを見せた。七メートルの竜の頭を一発で蹴り上げたのだ。

 

目を大きく見開いて黒竜と来の戦いを見ていた愛子達の近くにミレディとシアが立つ。

 

黒竜は顎を蹴り飛ばされたにもかかわらず、途中で熱線の発射を止め、すぐに立て直した。そして空中にいる来目掛けて爪攻撃を繰り出すも、〝舞鱗〟と〝眼鱗〟で弾き返された。

 

「〝地鎖引縛〟!」

 

刹那、黒竜の足元に無数の鎖が現れる。直後、地面に引き込むように黒竜に巻き付き、地面に引っ張る。

 

「グゥルァアアア!?」

 

豪音と共に地べたに這い蹲らされた黒竜は、衝撃に悲鳴を上げる。しかし、黒竜を縛る鎖は、それだけでは足りないとでも言うように、なお消えることなく、黒竜を凄絶な力で引っ張り、地面に陥没させていく。

 

〝地鎖引縛〟

 

それはミレディが編み出した重力魔法の応用技だ。地面から実体のない無数の鎖を召喚し、消費魔力に比例した力を以て対象を地面に縛り付ける。

 

重力魔法は、自らにかける場合はさほど消費の激しいものではない。しかし、物、空間、他人にかける場合や重力球自体を攻撃手段とする場合はそれなりの準備時間と多大な魔力が必要になる。しかし、ミレディは重力魔法の使い手である〝解放者〟であるため、消費魔力と発動時間を気にすることはほとんどない。

 

地面に磔にされた空の王者は、苦しげに四肢を踏ん張り何とか襲いかかる引力から逃れようとしている。が、直後、天から兎耳を靡かせて「止めですぅ~!」と雄叫び上げるシアが巨大な鶴嘴〝鳴已(なゐ)〟と共に降ってきた。引力鎖を利用し更に加速しながら鳴已を振りかぶり、黒竜の頭部を狙って大上段に振り下ろす。

 

ドォガァアアア!!!

 

轟音と共に地面が放射状に弾け飛び、まるで爆撃でも受けたかのようにクレーターが出来上がる。それは、鳴已が鎖に引かれていたせいだ。更に、主材であるアザンチウムは叩いて鍛え上げている上に、重力魔法を付与してある。ただし、効果は〝加重〟。「ななつぼし」の〝中和〟とは真逆である。〝質量〟は変わらないが、注いだ魔力の分だけ、〝重さ〟が増えていく。

 

その超重量の一撃をまともに喰らえば深刻なダメージを受けてしまう。ただし、()()()()()()()()()()()の話だが…

 

「グルァアア!!」

 

黒竜の咆哮と共に、鳴已の一撃により舞い上がった粉塵の中から火炎弾が豪速でミレディに迫った。ミレディは咄嗟に右へ〝引かれる〟ことで緊急離脱する。だが、その拍子に黒竜を引っ張っていた鎖が千切れて消失した。

 

火炎弾の余波で晴れた粉塵の先には、地面にめり込む鳴已を紙一重のところで躱している黒竜の姿があった。直撃の瞬間、竜特有の膂力で何とか回避したらしい。黒竜は、拘束のなくなった体を鬱憤を晴らすように高速で一回転させ鳴已を引き抜いたばかりのシアに大質量の尾を叩きつけた。

 

「あっぐぅ!!」

 

間一髪のところでシアは鳴已を盾にしつつ自ら跳ぶことで衝撃を殺すことに成功するが、同時に大きく吹き飛ばされてしまい、木々の向こう側へと消えていってしまった。

 

黒竜は、一回転の勢いのまま体勢を戻すと、黄金の瞳でギラリと来……ではなく、背後にいるウィルを睨みつけた。来はすぐさま舞鱗と眼鱗で斬りつける。アザンチウムですら容易く切断してしまう、鉄梶木の吻を芯に、鋼で包み込まれて作られた刃が黒竜の鱗を切り裂いた。

 

しかし、黒竜は何と、来を無視してウィルに向けて火炎弾を撃ち放った。自身の鱗を裂かれるほどの攻撃を受けたにもかかわらず。

 

「なッ!!」

 

ウィルから狙いを外し、自分へと狙いを向けるために、敢えて接近し怒涛の攻撃をして注意を引こうとしたのだが、黒竜はそんな思惑など知った事ではないといわんばかりにウィルを狙い撃ちにする。

 

「ミレディ!!」

「了解だよ、らーちゃん!」

 

「ひっ!」と情けない悲鳴を上げながら身を竦めるウィルの前に、ミレディが地下深くから押し上げた岩盤の壁が現れる。飛来した岩盤の壁に阻まれて霧散した。と、その時、生徒達が怒涛の展開にようやく我を取り戻したのか魔法の詠唱を始めた。加勢しようというのだろう。早々に発動した炎弾や風刃は弧を描いて黒竜に殺到する。

 

しかし……

 

「ゴォアアア!!」

 

竜の咆哮による衝撃だけであっさり吹き散らされてしまった。しかも、その咆哮の凄まじさと黄金の瞳に睨まれて、ウィル同様に「ひっ」と悲鳴を漏らして後退りし、女子生徒達に至っては尻餅までついている。

 

愛子達では全く歯が立たないので、来は愛子にこの場から直ぐ離れるよう声を張り上げた。逡巡する愛子。来とて愛子の教え子である以上、強力な魔物を前に置いていっていいものかと、教師であろうとするが故の迷いを生じさせる。

 

その間に、黒竜は翼をはためかせ、ウィルに向けて火炎弾を連射しながら上空に上がろうとした。

 

来も斬空波で注意を逸らそうとしているのだが、逸れる気配はない。黒竜の竜鱗は、かつての巨大ゴーレムを彷彿とさせる硬度を誇り、来の攻撃を受けても傷一つ付いていない。いや、既に何か所かは完全に破壊することに成功しているのだが、即座に再生してしまう。

 

黒竜は執拗にウィルだけを狙っている。まるで、何かに操られてでもいるように。命令に忠実に従うドロイドのようだ。先程の重力による拘束のようにウィルの殺害を直接、邪魔するようなものでない限り他の一切は眼中にないのだろう。

 

来は、黒竜の狙いがウィルであることがわかると、即座にミレディに指示を飛ばす。

 

「ミレディ! 奴の狙いはウィルだ!! 彼の守りに専念しろ!! 黒竜は僕が相手取るから!!」

「お任せくださいな!」

 

ミレディはウィルの方に高速で移動し、その前に立ちはだかった。

 

「君達、私が来たからにはもう安心だよ! 私の後ろから動かないでね!」

 

ミレディは後ろを振り返り、愛子と生徒達、そしてウィルに元気に声を掛ける。それに生徒達は傍に寄って来た。地下深くの岩盤を押し上げて壁を築いていくミレディの傍が最も安全だと悟ったのだろう。

 

彼らとて、本来ならばもう少し戦えるだけの実力は持っている。しかし、幾ら来の生存が分かっても、〝迷宮の惨劇〟で、ベヒモスやトラウムソルジャーに殺されかけ、重傷を負った来が奈落へと姿を消してしまったことにより〝死〟という者を強く実感した彼らの心には未だトラウマが蔓延っていた。愛子について来たのも、勇者組のように迷宮の最前線に行くようなことは出来ないが、じっともしていられないという中途半端さの現れでもあったのだ。なので、黒竜に自分達の魔法が効かず、殺意がたっぷり含まれた咆哮を浴びせられ、すっかり心が萎縮してしまっていた。とても、戦える心理状態ではなかった。

 

ウィルの安全が確保されたことを確認した来は、攻撃に集中する。黒竜は空へと舞い上がり、ミレディが構築した防御壁の向こうにいるウィルを狙い、口元に魔力を集束し始めた。

 

来は再び、黒竜の顎門を蹴り上げようと高く飛び上がり、左脚を振り上げた。

 

しかし、相手は黒竜。同じ手が二度も通用するはずもなく、黒竜は途中で集束を中断し、蹴りを避ける。

 

続いて尾で薙ぎ払おうとするも、刀で斬り落とされる。しかし瞬きをする間に再生する。

 

来は地面に一度降り立ち、そして雷を纏って再び飛び上がった。

 

「紫電一閃!!」

 

神速の居合斬りが、竜の翼を片方斬り落とした。翼を片方失った黒竜は重力に引かれ、地に落ちる。

 

そして追い打ちを掛けるように黒竜の真上に落ちていく。

 

「青龍ノ舞」

 

両手の刀が、碧い焔に包まれる。

 

「龍門点額!!」

 

二振りの刃に纏わりつく碧い焔が、一体の龍を形作る。

 

碧い焔で真っ赤にそまった二筋の刃が、黒竜の胸を覆う、漆黒の鎧を貫いた。

 

「グルァアアア!!」

 

黒竜は苦悶の声を上げ、口から盛大に吐血する。黒竜の胸を穿った二振りの刀を抜き、腹部を滅多切りにする。二つの刺し傷は、まるで炎で焼かれたように酷く爛れていた。

 

「クゥワァアア!!」

 

更なる追撃で鱗を肉ごと裂かれ、更に焼け爛れた刺し傷が体を痛めつける。黒竜は痛みに暴れて両手の爪で反撃を開始する。それを寸でのところで躱し、来は後ろへ大きく跳躍する。黒竜は仰向けの状態から俯せの状態になる。刺し傷の痛みに耐えるように頭を垂れて蹲る黒竜の口元から炎が零れだす。唸り声も弱ってきている。

 

黒竜は、来を脅威と認識したのか、ウィルから目を離し来に向けて顎門を開いて火炎弾を連射した。さながら流星群のよう。

 

来はそれを刀で弾き返す。弾き飛ばされた火炎弾は黒竜に全て命中した。特に顔に集中して命中していた。

 

「すげぇ……」

 

来の戦闘を、ミレディの後ろという安全圏から眺めていた淳史が思わず呟く。言葉は無くとも、他の生徒達や愛子も同意見のようで、無言で頷き、その圧倒的な戦闘から目を逸らせずにいた。ウィルに至っては、先程まで黒竜の偉容に震え上がっていたとは思えない程、目を輝かせて食い入るように来を見つめている。

 

だが、〝窮鼠猫を噛む〟という諺のように、獣は手負いの時こそ、最も注意を払わなければならない。黒竜も黙って攻撃を受け続けるはずがなかった。腹部の切り傷や刺し傷を再生してみせたのだ。だが、爛れた部分はそのままだった。

 

更に、斬り落とされた翼も生やした。恐るべき回復能力だ。

 

が、黒竜は突然活動を停止する。翼に纏わりついていた淡い光も消えた。黒竜は気を失ったように項垂れる。

 

――ドクン。

 

全員の心臓が、再び嫌な音を打つ。

 

――ドクン。

 

黒竜の体から黒い煙が噴き出る。そして胸の爛れた痕が紅く光を放つ。

 

他に目だった外見の変化はないが、放たれる魔力の量が桁違いに上がっている。

 

「グォォォォォエェン!!!」

 

そして、今までで最も大きな咆哮を放った。咆哮と共に全方位に向けて凄絶な爆風が発生する。純粋な魔力のみが引き起こした爆発だ。

 

それに続き、口から火炎弾を猛連射する。火力も大きく上昇したようで、着弾すると小規模な爆発が起こった。

 

来はまた刀で弾き返そうとしたが、火炎弾が刀身に触れた瞬間、爆発した。ミレディが岩盤の壁を築くも、十発で粉々に砕かれた。

 

(まずい……攻撃がかなり強化されてる……)

 

ミレディの表情にも焦りが見えてきた。

 

「シア!」

「はっ、はいですぅ!!」

 

森から戻って来たシアは来の呼びかけに応え、大きく上空へと跳躍する。黒竜も同時に上空へと飛翔する。そして、自由落下による運動エネルギーを上乗せし、鳴已を振り下ろす。

 

今の黒竜ならば、シアの攻撃などいとも容易く躱すことができた。だが、黒竜は敢えて避けなかった。シアの、大上段に振りかぶった超重量の鳴已が、さらに魔力を注がれて〝重さ〟を劇的に増加させる。そして、その一撃は狙い違わず、黒竜の脳天に轟音を立てながら直撃した。

 

威力のあまり、鳴已と黒竜の接触点を中心に衝撃波が発生した。

 

黒竜の頭は、その威力を前に下へと下がった。が、それと同時に今度はシアの脳天に、尾が振り下ろされた。

 

「がはっ…!」

 

シアの体は地面に思いっ切り叩きつけられた。

 

空中で一回転した黒竜の前に、二筋の刃が迫る。砕かれた岩盤の壁を足場に、ここまで跳躍してきたのだ。

 

黒竜は大きく顎門を開き、魔力を集束させる。そして前の半分ほどの早さでフルチャージし、熱線を放った。その色は、血で染まったかのように赤黒いものだった。

 

半分のチャージ速度で撃ち出された、倍以上の威力を持った熱線は迫り来る来を撃ち抜いた。そして命中と同時に、大爆発が起こり、何も残すことなく焼き切れたのだった……




はい、冒頭のシーンは、無限列車編における上弦の参・猗窩座の登場シーンをオマージュしました。不評なら即書き変えます。

他の二次作品では、黒竜戦でオリ主(+ハジメ)が圧倒していたので、この作品では少しオリ主達には苦戦してもらいました。

投票の結果、IF編を書くのは外伝作品をある程度進めてから、ということに決定しました。自分勝手なアンケートに投票して下さりありがとうございました。


次回 第四十閃 重力魔法を手に入れるまで

IF編を書くタイミングで迷ってます。何時書いた方がいいですか?(但し書くなという意見は一切受けつけません)

  • 外伝をある程度進めてから
  • 今でしょ!
  • 別途執筆
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