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第四陣 手書遺言
ベヒモスの断末魔も、崩れ行く石橋の音も、いつの間にか聞こえなくなっていた。響くのは、香織と膵花のすすり泣く声とハジメの叫び声だった。
香織と膵花は来の身体を持ち帰ろうとしたが、あの血の量で助かる可能性は限りなく低かった。
香織の頭の中には昨夜の光景がループ再生していた。膵花とハジメの頭の中には来と今まで過ごした日々が流れていた。
香織は昨夜月明りの差す部屋でハジメと紅茶を飲みながら話をしていた。香織は約束していた。〝ハジメを守る〟と。なのに香織はハジメを守るどころか寧ろ守られていた。守ると言っておきながらいざという時に怖くて動けなかった自分が許せなかった。そのせいでハジメの代わりに来が死んだ。
光輝を抑えてクラス内最強だった来の死は誰も想像していなかっただろう。ハジメに向けて火球を放った檜山でさえ来の死は全くの予想外だった。
「……さない……」
膵花の瞳から光が消えた。それと同時に刀を抜き、狙いを定めたのは……
……ハジメに向けて火球を放った檜山だった。
「ち、ちょっと膵花ちゃん!?」
「止めて膵花! ここで犯人を殺しても、
香織と雫が羽交い絞めにするが膵花に二人の言葉は聞こえていなかった。檜山をこれ以上生かしておく気もない。間接的ではあるものの最愛の人を殺したのだ。膵花の目は橋を崩したベヒモスよりも大きい怒りと来が落ちていった奈落よりも深い憎しみで満ちていた。
「お前だけは絶対に許さない! 殺してやるッ!」
膵花は檜山に向かって走り、抜いた刀で本気で檜山を切り刻もうとした。が、彼女の首筋にメルド団長の手刀が落とされる。膵花は刀を落として地面に俯せになる。
光輝が膵花に近寄ろうとするがハジメが剣で止める。来の血が付いた剣で。
「近寄るな……」
光輝は頬が引き攣った。生物としての本能が光輝に告げる。『
「僕の許可なく膵花さんに近寄るなぁァァァ!!」
光輝に向かって怒鳴った後、ハジメは怒鳴り声で体力を使い果たしたかのように言葉を紡ぐ。
「……皆、早く撤退しよう」
ハジメの静かな、そして怒りの籠った声でクラスメイト達は流離蟻の如くぞろぞろと撤退を始める。トラウムソルジャーの魔法陣はまだ沢山残っていたが最早戦う必要もない。
そして生き残った全員が階段への脱出を果たす。そこから更に体感で三十階層以上も上っていく。
一行は魔法陣の書かれた壁の前に辿り着いた。念のためフェアスコープを使うがその警戒は杞憂に過ぎなかった。
メルド団長が魔法陣に魔力を流し込むと、壁がぐるりと回り、元の二十階層の部屋へ戻って来た。
「帰って来たの?」
「戻ったのか!」
「帰った……帰ったよぉ……」
クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らすがまだ大迷宮の中。出口まで気を抜くことは許されない。だが、彼らにこれ以上進む気力はほとんど残っていない。
「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」
メルドは心を鬼にしてへばっている生徒達を無理矢理立ち上がらせる。疲れに耐え、道中の敵を最低限なぎ倒しつつ一行は遂に地上へ出る。今度こそ本当に安堵の表情で外へ生徒達が出る。
だが、一部の生徒――未だ固く瞳を閉じた膵花を背負ったハジメや香織、雫、光輝、その様子を見る龍太郎、恵里、鈴は暗い表情だ。特にハジメは涙が止まらなくなっていた。ハジメは何度も謝り続けていた。
ホルアドの町に戻り、ハジメは膵花を背負ったまま自室へ戻る。香織や雫もついてきた。
ハジメは膵花をベッドに横たえ、小さな声で謝罪の言葉を紡ぐ。
「ごめんね、僕が白崎さんの予知を一蹴したせいで……来が……」
「南雲くんは何も悪くないよ。悪いのは、何も出来なかった私の方なのに……」
香織がハジメの肩に手を置く。が、香織までまた泣き始める。それをハジメが宥める。
「白崎さんだって何も悪くないよ! だから、泣かないで。白崎さん」
「……うん、そうだよね。ごめんね、南雲くん」
「えーと、私はお邪魔かしら?」
ハジメと香織が何か恋人のような雰囲気を醸し出していたので雫が咳払いをする。
「いや全然? ……そうだ、来から手紙を手渡されてたんだった」
「辻風君が手紙? 遺言のつもりだったのかしら?」
「私も渡されてるから読んでみるね」
「香織にも!?」
「来、膵花さん以外に信用してたの僕と白崎さんくらいだったからね」
「ちょっと、私は信用されてないってこと!?」
「多分八重樫さんのことも信用してたんじゃなかったかな?」
ハジメと香織が懐から手紙を取り出し、封を切る。そして雫を入れた三人で手紙を読んだ。
ここからはハジメ宛の手紙の内容である。
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拝啓 南雲ハジメ殿
この手紙を読んでいるということは、僕は迷宮の何処かでもう息絶えてしまっていることだろう。これからこの手紙に記すことは三つだ。
一つ目は……どうか香織さんのことを守ってあげて欲しい。彼女は君を好いている。覚えているだろう? 君が中学二年の頃に不良達に対して土下座をしたことを。あの時、不良達が頭痛を起こしたのは僕と膵花の能力だ。君と香織との繋がりをより強くするためにやったことだ。これは膵花から聞いたことだが、その時彼女は君が土下座をする姿に見惚れていた。たとえ弱くても人の為に頭を下げられる勇気に彼女は惚れた。だから、君には彼女を――香織さんを守ってあげて欲しい。香織さんの方にも別の手紙で書いておく。
二つ目は……ハジメ、君は――お前は、強くなれ。檜山がまだ生きている以上、これからずっとお前のことを痛めつけて来るだろう。だがお前はそれに屈してはならない。撥ね退けろ。お前には世界最強を目指すに相応しい器を持っている。その器に見合うだけの力、お前にはそれを手にする資格がある。訓練で何度でも負けていい。戦いで幾らでも泣け。逃げたければ何時でも何処ででも何度でもいい、逃げろ。だが何が遭っても絶対に諦めるな。生き延びろ。
最後に……死んでしまった僕の代わりに膵花を守ってくれ。最愛の人を残して死んでしまった僕は未熟者だ。いつか、彼女にまた巡り逢いたい……
迷わず、恐れず、ただ生きろ。
匆々
辻風来
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ここからは香織宛の手紙の内容である。
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拝啓 白崎香織殿
君がハジメのことを好いていることは膵花から聞いている。君の魂の美しさは我が最愛の人膵花と同じくらいだ。ハジメは幸せ者だ。香織さん、貴女にお願いしたいことがまた三つほどある。
もしハジメが生きていれば彼と共に生きて欲しい。ハジメと共に幸せになって欲しい。僕と膵花が手にするはずだった幸せも含めて全部、君達の幸せに充ててくれ。君の悪い予知は一部外れたのか? それとも予知通り……ハジメも道ずれになったのか?この手紙を書いている僕には一切判らない。
だが仮にハジメが死んだとしても、生きることを諦めるな。ハジメの後を追うなんてことは絶対にあってはならない。そんなこと、ハジメが望むはずがない。故に、彼は願うだろう。君がハジメの分まで生き延びていてくれることを。
どうか、膵花と雫も一緒に君達の幸せの環に入れてあげて欲しい。膵花をこれ以上苦しませないでくれ。雫を独りぼっちにさせないでくれ。彼女もまた、良き
天之河は君とハジメが恋仲となることをよしとしないだろう。天之川は檜山とは違って邪な情を君に向けていない。だがそれでも、君が心から愛すと決めた者だけは、絶対に裏切らないでくれ。
裏面に続く
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「裏? 裏に何かあるの?」
雫も気になり、香織宛の手紙の裏面を見る。そこには、雫宛の文章が書かれていた。
ここからは雫宛の文章である。
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最後に雫……
生憎手持ちの紙が二枚しかなかったから、香織さん宛の手紙の裏に書く、という形になってしまってすまない。
たとえ、僕という越え難い壁を一生越えられなくなったことが起ころうとも、その刀だけは絶対に手放すな。己の剣技の才だけは絶対に裏切ってはいけない。
ハジメを助けてやってくれ。
匆々
辻風来
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「うぅっ……来……そこまでして僕の幸せを願ってたのか……」
「辻風くん……ごめんなさい……そして…ありがとう……」
「いつか私はなってみせるわ……貴方と同じくらい、世界に名を轟かせる程の剣士になってみせる!」
手紙の内容にハジメと香織、雫は涙を流した。ベッドで眠っている膵花も静かに涙を流していた。
「……じゃあ私は自分の部屋に戻るけど……香織はどうするの?」
「私は……まだ残ってるね」
部屋から雫だけ出て行った。眠り続けている膵花を除けば部屋に残っているのはハジメと香織の二人っきりだった。
「……白崎香織さん……」
「ひゃい!?」
香織はハジメに急に名前を呼ばれたので噛んでしまった。
「僕……ずっと白崎さんが僕に構ってくるの……正直鬱陶しいと思ってた。迷惑だ、と感じてた」
「そう……だったんだ……」
香織は青菜に塩の如く元気を失くす。だけど、次の言葉で再び元気を取り戻す。
「でも……こんな僕を好いていてくれてたなんて……知らなかったよ。ごめん」
「南雲くん……」
ハジメはちっぽけな勇気を最大限に振り絞る。
「だから……僕は今、弱い僕に優しくしてくれた貴女が好きです。僕でよければ……付き合ってください!」
ハジメの告白に香織の返事は……
「不束者ですが、宜しくお願いします」
絶望に包まれる中、部屋に注ぎ込む月明りの下で新たなる希望が産み落とされた。
その傍ら、膵花はまるで祝福でもしているかのように音も無く涙を零すのであった……
次回
第五閃 決意表明
オリ主ヒロインにミレディ・ライセンを追加しようと思っていますが、入れてもいいと思いますか?
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入れてもいい(むしろ入れてくれ)
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原作重視(入れるな)
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死亡回避ならOK