ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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解説

碧い炎の正体

別世界の人間特有の生体エネルギー、「(ほむら)」によるもの。体力値に比例する。魔力の代用として使用可能。絶大な威力を生み出すが、それと引き換えに使用後は異常な疲労感に襲われる。


第四十一陣 漆黒の竜と(くろがね)の龍

来が爆散する光景を見て、愛子と生徒達は絶望しか見えていなかった。

 

「あのドラゴンには辻風ですら歯が立たないのかよ……」

 

昇がポツリと零す。

 

愛子の方は爆発四散する来を見て、静かに涙を流した。『今度こそ本当に生徒を一人喪ってしまった』と。

 

シアとミレディですら、絶望を隠しきれていなかった。いくら強いとはいえ、生身の人間。熱線を喰らえば跡形もなく焼き尽くされてしまう。

 

黒竜はウィルの方を向いた。これで邪魔者は居なくなった。黒竜はウィルに向かって再び熱線の発射準備に入る。

 

「ウィルさん! 早く逃げてくださいッ!!」

 

シアが叫ぶも、ウィルは動くことができなかった。

 

「もう、逃げても無駄だ……あの人まで死んでしまった。私の所為で……」

「らーちゃんがそんなことで君を恨むわけないじゃん!!」

 

如何やらウィルはここで死ぬつもりらしい。生きることを諦めた目で、黒竜を見つめる。

 

「生きろって言われたんでしょ!? なららーちゃんの言った通り生きなよ!!」

 

ミレディの言葉を聞いて、ウィルは先程言われた言葉を思い出す。

 

 

『仲間の分まで生き続けろ。たとえ七度転ぼうと、八度倒れようと、九度立ち上がれ』

 

 

「……」

 

ウィルは意を決し、ミレディの方に向く。

 

「すまない、取り乱してしまった。ここで私が死ねば、彼の犠牲が無駄になってしまう」

「それでこそ男だよ!」

 

ウィルが正気に戻ったことで、全員安堵の表情を見せる。が、すぐそこに死の危機が迫っている。

 

「シーちゃん、彼を連れて逃げるんだ。アイツのことは、私が何とかしてみせるから」

「はい!」

 

シアはウィルの手を引き、下山コースに向けて突っ走る。速さはウィルに合わせているが、いざという時は全速力で逃げるようだ。

 

ミレディは再度黒竜に向き直り、小太刀を取り出す。

 

「さて、今のうちに皆も逃げなよ。ここは危ないぜ?」

 

愛子達も黒竜から離れる。

 

「らーちゃんの仇討ちとして、ここで倒させてもらうよ」

 

ミレディは黒竜を睨み、小太刀を構える。

 

「円環遊遊」

 

ミレディは高く飛び上がり、体を捻って黒竜を斬りつけた。重力魔法で後ろへ大きく吹き飛ばされる黒竜。

 

「さて、トドメの一撃と行こう……?」

 

黒竜に向かって高威力の光線を放とうとしたが、黒竜の周りを碧い炎が包んだ。

 

「何……あれ……」

 

黒竜を囲っていた碧い炎が、まるで大蛇のように黒竜の体に絡みつき、締め上げた。苦しみに悶える黒竜。しかし碧い炎は容赦しない。

 

「一体何が……!?」

 

ミレディが見ていると、黒竜を縛っていた碧い炎が霧散した。黒竜を縛っていたのは鉄色(くろがねいろ)に煌めく龍だった。全長約三十五メートル。黒竜の五倍程長い体をしている。

 

「魔力が……吸い取られている…!?」

 

よく見れば黒竜の体から魔力が吸い取られていた。魔力を吸い取られている黒竜はみるみるうちに弱体化していった。

 

そして黒竜の魔力が底をついた。鉄の龍は黒竜を解放する。魔力を吸い尽くされた黒竜は鉄の龍の上にに倒れ伏す。鉄の龍と漆黒の竜は碧い炎に包まれ、その大きさを徐々に縮めていく。そして、炎が霧散すると、その場には、二人の和装男女がいた。

 

女の方は身長が百七十センチ程で、見た目が二十代前半の美女だった。腰まで届く、艶やかで真っ直ぐな黒髪が、地面に向かって垂れている。

 

男の方はミレディが知っている人物だった。熱線で焼き尽くされたはずの来である。しかし、見た目が若干変化している。体格は変わらないが、右目が藍色に、毛先が縹色になっている。

 

来は黒髪の女を優しく地面に寝かせた。

 

「……らーちゃん、なの?」

 

来はミレディに気づくと、優しく微笑む。そして頷く。

 

ミレディは来に向かって駆け寄っていく。そして彼に泣きながら抱きついた。

 

「もう……無茶しないでよ……」

「…ごめんね。心配かけて」

 

碧い炎を見たシアとウィル、そして愛子達も戻って来た。

 

「ら、来さん…!?」

 

シアもミレディと同じく駆け寄り、そして抱きつく。

 

「本当に心配したんですよっ……」

 

シアとミレディの頭を、来は優しく撫でた。

 

「つ、辻風君……」

 

愛子も恐る恐る来に近寄っていく。

 

「畑山先生も、ご心配をおかけしてすみません。でもほら、五体満足ですよ」

 

両腕を広げて、無傷であることを知らしめる。

 

 

 

 

同時刻、遠い何処かの町にて。

 

「!?」

 

ユエが突然頭を押さえて蹲った。

 

「ん? どうした? ユエ。頭を押さえたりして、お前も体の調子が悪い……のか……!?」

 

金髪の吸血姫は、明らかに異常なまでの怖がり方をしていた。まるで、()()()()()()()()()()だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「うっ……ここ…は……」

 

黒髪の和装美女が目を覚ましたようだ。全員が彼女に注目する。

 

「起きたか」

 

女は来と同じく、黄金の瞳をしていた。男子組が思わず前屈みになる。

 

「自分が何をしたか、解っているか?」

「う、うむ……」

 

女はゆっくりと頷いた。

 

「辻風君、この人は…?」

「ああ、彼女は先程の黒竜です」

 

ミレディ以外、全員が驚いた。

 

「えっ……この綺麗な女の人が、さっきのドラゴン……?」

 

淳史が思わず零す。

 

「そうじゃ。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族、クラルス族の一人じゃ」

「りゅ、竜人、族? それは一体何ですか?」

 

愛子が質問をする。それに来が答える。

 

「竜人族は、五百年以上前に滅びたとされる種族の名です。彼らは自由自在に人と竜の姿を切り替えることができます」

 

続いて来はティオという名の竜人族に問いを投げかける。

 

「何があったか、説明できるか?」

「うむ、わかったのじゃ。妾は異世界からの来訪者について調べるために、隠れ里を飛び出して来たのじゃ。一族の中に魔力感知に非常に優れた者がおってな、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したのじゃ。表舞台には関わらないという掟があるのじゃが、この未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは流石に不味いのではないかと、議論の末に調査の決定がなされた」

「里を飛び出した後は?」

「本当なら山脈を越えた後、人の姿になって町に紛れ込み、竜人族であることを隠して情報収集に励むつもりだったのじゃが、その前に一度しっかり休息をと思い、この山脈と一つ北にある山脈の間で一休みしていたのじゃ。周囲に魔物がいたから竜の姿で休息しておった。と、そこへ顔の隠れた男が妾に洗脳や暗示をかけて妾の思考と精神を蝕んでいったのじゃ。恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……妾一生の不覚!」

 

ティオは悲痛な声を上げた。

 

「け、けど、何で眠ったままだったんだよ。普通反撃するだろ?」

 

明人が指摘をする。

 

「竜化した竜人族は、一度眠ったら尻でも蹴られない限りずっと眠ったままだからな……」

「洗脳が終わった後も意識と記憶はしっかりと残っていたのじゃ。その証拠に、その男が『丸一日もかかるなんて……』と愚痴を零していたのを聞いていたのじゃ」

「その後はどうなった?」

「その男に一つ北の山脈よりも更に北の方で魔物の洗脳を手伝わされていたのじゃ。そしてある日、ブルタールの群れが人間達と遭遇したのじゃ。目撃者は消せという命令を受けていたから、それを追いかけていたのじゃ。うち一匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して妾を差し向けたのじゃ」

「で、気づけば窮地に追い込まれて魔力爆発を起こしたわけか」

「そうじゃ。そして脳に強固に染みついた命令のままに最後の特攻を仕掛けたところ、突然碧い炎が妾の体を縛り付け、そのまま魔力を吸い尽くされて意識が飛んでしまった。それが正気に戻れた原因なのかはよく分からんが……」

 

事情説明を終えたティオに、激情を必死に押し殺したような震える声が発せられる。

 

「……ふざけるな」

 

ウィルは拳を握り締め、怒りの宿った瞳でティオを睨みつけていた。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

状況的に余裕ができたのか、仲間を殺されたことへの怒りが沸き上がった。激昂してティオに怒声を上げる。

 

ティオは、何も言うことができなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

「……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」

 

それでもなお、ウィルは言い募ろうとする。

 

「彼女は嘘を言っていない」

 

来が口を挟む。

 

「僕は人の嘘を見抜く術を知っている。証拠を見せよう。今からシアが何本指を立てたか、当ててみせるよ」

 

来がそういうと、シアは来だけに見えないように片手を隠す。

 

「シア、指を立てたか?」

「は、はい」

「今何本立てているかな? 嘘を言ってもいい」

 

シアは恐る恐る自分が立てた指の本数を言う。

 

「……一本です」

 

本当は三本立てていた。ウィルは、『普通の人間が嘘と本当を簡単に見分けることなんてできるわけがない』と思った。

 

「三本だね」

 

しかし、来は嘘を見抜いた。シアは立てている指の数を一つ減らしてみる。すると…

 

「今、薬指を折り曲げたね?」

「はい、折り曲げました」

 

それも容易く見破った。

 

「これで分かったかな? 彼女が嘘を吐いていないことを」

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

頭では分かっているが、親切にしてくれた先輩冒険者達の無念を思い、責めずにはいられない。

 

「そうだウィル、このペンダントに見覚えはあるかな?」

 

取り出したロケットペンダントをウィルに差し出す。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

「君のだったのか」

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

「にしては随分と若い姿のようだけど……」

「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」

(……成程、お母さんっ子か)

 

その場のほぼ全員が物凄く微妙な表情をした。

 

母親の写真を取り戻したせいか、随分と落ち着いた様子のウィル。何が功を奏すのか本当にわからない。だが、落ち着いたとは言っても、恨み辛みが消えたわけではない。ウィルは、今度は冷静に、ティオを殺すべきだと主張した。また、洗脳されたら脅威だというのが理由だが、それはあくまでも建前。主な理由は復讐であった。

 

そんな中、ティオは懺悔するように罪悪感を含んだ声音で己の言葉を紡ぐ。

 

「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」

 

魔物の大群という言葉に、全員が驚愕を露わにした。

 

そんな中、来はティオをじっくりと見据え、口を開いた。

 

「罪なき人を殺めたことは、決して許されることではない。それでもなお、償いたいというのであれば、自らの死ではなく行為で示せ。たった一人では酷だろうから、僕らも全力で協力する」

 

来の寛容な姿勢に、ティオは思わず零す。

 

「何と、心が広く温かい者なのじゃ……」

 

次の一言で、ティオは完全に決断をした。

 

「君の力が必要だ。一緒に魔物退治を手伝ってくれないか?」

「……分かった、のじゃ」

 

この瞬間、魔物退治という大勢の人命を賭けたカードゲームに挑む来達の手札に強力な一枚のカードが加わった。

 

「それで、例の男はどういう見た目だった?」

「確か、黒髪で黒目の少年じゃった。見た目からして恐らく人族じゃ。妾を手中に収めた後、何やら頻りに口にしておったな。『これで自分は勇者より上だ。これで自分は一歩彼奴に近づけた』とな」

「そうか、()()が……」

 

愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。犯人の目星がついたのだろう。

 

「らーちゃん、かなり不味いことになったよ」

「どうした? ミレディ」

 

ティオの話を聞いてから、来はミレディに魔物の大群や例の男を捜索させていた。

 

「魔物の大群が、ウルの町に向かって進んでる」

「そうか」

 

魔物の大群が町に向かっていると聞いたティオは更に情報を伝える。

 

「あの男の目的は、魔物の大群で町を襲撃することなのじゃ。妾を手中に収めた時点で既に三千から四千に届く数じゃった」

「それどころか桁がもう一つ追加されるレベルだよ。移動しているペースも速い。恐らく半日で山を下りて、一日で町に到達すると思う」

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。数万の魔物の群れが相手では、卓越した能力を具えているとは言え、トラウマを抱えた生徒達と戦闘経験が全くと言っていい程無い愛子、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にすらならない。ならば、愛子の言う通り、一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。そう、誰もが思っていた。

 

しかし、それに口を挟む者が一人。

 

「救援の必要はありません。僕らが纏めて相手取ります」

「つ、辻風君!?」

 

来のとんでもない発言に、愛子と生徒達、そしてウィルが驚愕する。

 

「いくらアンタが強いからって、流石に無茶よ! あの時変な骸骨から私を守ってくれた南雲と同じ状況じゃないんだから!」

 

優花は叫ぶ。

 

「一度言ったことは、最後まで貫き通すって決めてるんだ。町の人々を、誰も死なせたりなんかしない。この背中にかけて」

 

もう、誰も彼を止めることはできない。一行は弩空に乗り込み、全速力でウルの町へと戻っていった……




ユエは一体何を恐れているのか。そして、三百年前、ユエの身に一体何が遭ったのか。


次回 第四十二閃 強き意思が故

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