ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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第四十二陣 強き意思が故

一行を乗せた弩空が行きよりも速い時速三百二十キロで走行していた。機体が地面から浮いているのでどんなに凸凹した道でも快適に走ることができる。

 

「では、ティオと黒幕の正体については伏せておく、ということで」

「ええ、それでお願いします」

 

愛子はティオが竜人族であるという事実や、黒いローブの男の正体とされる者についてのことは秘匿するように提案した。それを来は了承した。

 

途中、デビッド達が完全武装しているのを確認したが、止まって説明するよりウルの町で説明する方が早いと判断し、弩空の高度を上げてデビッド達を飛び越えていった。

 

愛子は顔を出して自分の無事を知らせたかったが既に時速が三百キロオーバーなので来に止められた。風圧が普通の人間にはあまりにきつすぎるからだ。

 

その後、デビッド達は弩空を追いかけてウルの町へと戻っていった。

 

 

門の前で急停車し、弩空を〝八咫〟に収納すると、一行は町へと戻っていく。

 

町中は、よもや明日には魔物の大群による蹂躙劇が繰り広げられるとは夢にも思わないと言わんばかりに活気に満ちていた。

 

愛子達は急いで町長のいる場所まで駆けて行った。一方、来、ミレディ、シア、そしてティオはゆっくりと歩いていた。

 

「具合はどうだ? ティオ」

「うむ、幾分体力は戻ったのじゃ。歩くだけなら問題は全く無いじゃろう」

 

快適な弩空で休んだおかげで、ティオの体力はいくらか回復した。

 

「しかしあの時は驚きましたよぉ~。ブレスを受けたのに何事も無かったかのようにピンピンしてましたし」

「亡骸すら残らなかったからさ、まるで灰から甦ったのかと思ったけど…まさかそんなことは無いよね?」

「いや、あの時肉体は完全に死んだよ。でも、僕の中で渦巻く焔は滅ばない」

「うぅ……」

 

ティオは極まりが悪そうだった。

 

「気にするな。寧ろ礼を言いたいくらいだよ。今まで散々僕の体を苦しめ続けた呪いから解放されたから」

 

来の体を蝕んでいた〝呪い〟とは、舞鱗と眼鱗の(なかご)に刻まれた〝滅魔の印〟が来の体に反応した拒絶反応のことであった。

 

七星刀の茎には、魔物を滅する〝滅魔の印〟が刻まれている。この呪印の効果により、魔物に対し絶大なダメージを与えることができるのだ。

 

しかし、来は魔物を喰らい、体質が魔物に近い状態だったため、呪印が反応し来を殺そうとしていたのだ。しかし、ティオが来の体を焼き尽くしたことで体が再構築され、魔物から遠ざかって人間に近い体になったのだ。その代償として、魔力の量が減少した。

 

「もう、血を吐くことは無いんですね……」

「毎晩悪夢に魘されることも無いんだね……」

 

シアとミレディはようやく来の体の心配から解放された。

 

町の役場に到着した頃には既に場は騒然としていた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 

報告したのが〝神の使徒〟かつ〝豊饒の女神〟たる愛子でなければ、即座に戯言と切り捨てられていただろう。そして、魔人族が魔物を操ることはは公然の事実であるため、無視をできる状況ではなかった。

 

喧騒の中、ウィルが来へと駆け寄る。

 

「あっ、来殿!! 丁度いい所に」

 

ウィルは来の手を引き、町長の許へと連れて行く。

 

「町長! 彼とその仲間達なら迫り来る魔物の大群を退けられるかもしれません!」

 

しかし町長は信じられないという表情だ。

 

「敵は四万を優に超えているのだぞ! それを勇者でもない一個人、ましてや数名の仲間程度で魔物の大群に打ち勝つことなどできるはずがないだろう!」

「ここにいるのは、その勇者をも上回る戦闘能力を持つという剣士なんですから」

「それに、負けると判ってて無謀な戦いに挑む程、僕は愚かではありませんよ」

「し、しかしだな……」

「もしかしたら、彼ならきっと成し遂げるかもしれません。そうなれば、我々の安全も確保されたも同然です」

 

ウィルにとって、ベテラン冒険者達を苦も無く全滅させた黒竜でさえ圧倒する来はまるで英雄であるかのように見えた。しかも、見返りは全く求めない。

 

「…………」

 

ウィルに押され、町長は何も言い返せない。

 

「……できるのだな?」

「町の被害を最小限に抑えつつ、全力で討伐に当たります」

 

町長はまだ信じ切れていなかった。でも、この状況では彼に頼る他ない。

 

「辻風君、少し話したいことがあります」

 

今度は愛子が来に話しかける。

 

「…どうしました?」

「どうしても気になったことがあって」

 

愛子は問いかける。

 

「辻風君、君の宣言に躊躇いが全く感じられませんでしたが、君の心の支えとなっているものは、何ですか?」

「………」

 

来は自分の心臓のある位置を見て、手をそこに置いた。

 

「やっぱり、滝沢さんですか?」

 

来はコクリと小さく頷いた。

 

「彼女は僕の…心の一部です。彼女が生きていると判っている限り、七度転び、八度倒れても、九度立ち上がれる」

「辻風君、君はきっと、想像を絶する経験をしてきたでしょう。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったかもしれません。しかしそれでも君は、それを忘れなかった。今までの君を見て来た限りでは、絶対にありえないことですが、誰かを慮ること。それだけは忘れないでいて欲しいです」

 

それに来は少し自嘲気味に返す。

 

「いえ、僕はそんな高貴な人間ではありませんよ。僕は自分勝手な者ですから。心の奥底ではこの世界のことなどどうだっていい、膵花と共にいられるのなら他は何も要らない。そう思っている」

 

これは、来の数少ない欠点の一つだ。自分の心の奥底には非常に醜く自分勝手な情が潜んでいる、無意識にそう思い込んでいるのだ。いつまで経ってもそれが消えることはなかった。

 

「辻風君は自分勝手ではありませんよ」

 

来の言葉を、愛子は否定した。

 

「自分では気づいていないかもしれませんが、君はずっと人の幸せばかりを願っているように見えます。地球にいた頃からずっと」

 

来は愛子の話をずっと聞き続けた。

 

「君が南雲君達が幸せそうにしているのを見て、君も幸せそうな笑顔を見せてくれていました」

 

愛子は更に話を続ける。

 

「辻風君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てる生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。人の幸せを望むなら……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。君が持っている大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

 

言葉の一つ一つに、思いが詰め込まれている。一つ一つ紡がれたそれらの言葉が、来の心に響く。町の重鎮達や生徒達も、愛子の言葉を静かに聞いている。特に生徒達は、力を振るってはしゃいでいた事を叱られている様な気持ちになりバツの悪そうな表情で俯いている。

 

来とは違い、愛子はその希少価値ゆえに特別待遇を受けており、苦難を経験していない。それでも、心優しい来には反論などできるはずがなかった。

 

彼はこの世界が嫌いだ。命よりも大事な人と無慈悲にも引き剥がしたこの世界が嫌いだ。でも、憎むことができない。この世界は、新たにできた素晴らしい仲間達を育んだ世界だからだ。この世界の全てを拒絶することは、新たな仲間達も拒絶してしまうことになる。

 

「……先生の方こそ、何が遭っても自分の生徒を見捨てないと胸を張って言えますか?」

「当然です。私は教師なのですから」

「近い将来、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としても、ですか?」

 

愛子は一瞬目を見開いた。しかし、愛子はすぐに言葉を紡いだ。

 

「ええ。たとえ何が遭っても、絶対に見捨てません。本当は、そんなことは起きて欲しくないですけど…」

 

『もしかしたら、彼は清水君を殺そうとしているのかもしれない』、愛子はそう心中で思った。しかし、来が本当に殺そうとしているのは別の人物だった。

 

(この先の未来は、きっと畑山先生の望まない結果だろう。それでも、これ以上苦しむ人がいなくなるのなら……)

 

愛子の言葉を聞いて、来は()()()()の殺害を決意した。それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()を避けられると信じて。

 

「そうですか。であれば、安心して赴けます。貴女の道に、幸があらんことを」

 

来は踵を返して部屋を後にした。愛子は扉をずっと見つめていた。

 

 

翌日、町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。

 

当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。

 

だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。愛子だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる〝豊穣の女神〟。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。

 

冷静さを取り戻した人々は、二つに分かれた。すなわち、故郷は捨てられない、場合によっては町と運命を共にするという居残り組と、当初の予定通り、救援が駆けつけるまで逃げ延びる避難組だ。

 

居残り組の中でも女子供だけは避難させるというものも多くいる。愛子の魔物を撃退するという言葉を信じて、手伝えることは何かないだろうかと居残りを決意した男手と万一に備えて避難する妻子供などだ。深夜をとうに過ぎた時間にもかかわらず、町は煌々とした光に包まれ、いたる所で抱きしめ合い別れに涙する人々の姿が見られた。

 

避難組は、夜が明ける前には荷物をまとめて地下壕に逃げ込んだ。現在は、日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。居残り組の多くは、〝豊穣の女神〟一行が何とかしてくれると信じてはいるが、それでも、自分達の町は自分達で守るのだ! 出来ることをするのだ! という気概に満ちていた。

 

来は、ミレディが重力魔法で造った高さ十二メートル、厚さ二メートルの防壁に腰掛け、すっかり人が少なくなり、それでもいつも以上の活気があるような気がする町を眺めていた。彼の傍に、シアとミレディ、ティオが寄り添っていた。壁の十メートル手前には、幅四メートル、深さ六メートルの堀がある。

 

そこへ愛子と生徒達、ウィル、デビッド達数人の護衛騎士がやって来た。

 

「辻風君、準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」

「いいえ、大丈夫ですよ」

 

城壁から愛子の方に向いて答える来。

 

「辻風君。黒ローブの男のことですが……」

 

愛子の言葉に苦悩がにじみ出ている。

 

「どうしても確かめたいですか?」

「はい……」

「僕もできるだけ生きたまま連れて来るです」

「ありがとうございます、辻風君」

 

つくづく自分は無力だなぁと内心溜息をつきながら、愛子は苦笑いしつつ礼を言うのだった。

 

「来殿、少し話が……いや、頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

「どうした? ティオ」

 

ティオは続けて話す。

 

「来殿は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「あ、ああ」

「うむ、頼みというのはそれでな……よければ妾も同行させてほしいのじゃ」

「…いいのか? 里を出て調査しているんじゃなかったのか?」

「里に帰ろうと思えば、何時でもできるのじゃ。じゃが、お主と共に旅に出る機会はこれを逃せばもう二度と訪れないと思ったのじゃ」

 

シアと同じく、自ら志願して旅を共にしたいようだ。ミレディの場合は勧誘されて同行している。

 

「もっ、勿論ただでとは言わんぞ? 妾の魔法で全力で援護するのじゃ。お主のパーティー構成は魔法属性に偏りがあるとシア殿が言っておった。ならば、それを妾で補填した方がお主の役に立てるのではないかと思ったまでじゃ」

 

確かに、魔法属性に偏りがあった。来が使うのは主に雷属性の魔法、シアはそもそも魔法適正がほとんどなかった。だが、ミレディは全ての属性に適正を持っていた。それをシアは知らなかったのだ。

 

「あの、私……全部の属性魔法使えるんだけど……」

「えっ!? いやあの、重力魔法しか使ってるの見た事なかったですからてっきり……」

「美少女天才魔術師って名乗ってたじゃん! 私!」

「ご、ごめんなさい!」

 

ステータスプレートをまだ発行していなかったので、仕方ない。

 

「まぁまぁ、落ち着いて。プレートをまだ作って無かったからね。この戦いが終わったらフューレンに作ってもらいに行くから。それに、旅は人数が多いほど賑やかになるって言うしね」

 

属性面では現在のままで問題はないが、竜人族たるティオの戦力は解放者たるミレディと並ぶ程だ。

 

「それで、妾のことは……」

「あ、ああ。そうだったね。旅の同行の話だけど……」

 

ティオはごくりと固唾を飲む。

 

「僕達三人は、君を快く歓迎するよ」

「何があっても、私達は貴女を見捨てたりしないですよ」

「君がいると安心して戦えるよ」

 

三人共、旅の同行には賛成だった。

 

「…ありがとう……ございます」

 

一行に、新たな仲間が加わった。これからの旅に、来達がそれぞれ思いを馳せていると、戦いの時がすぐそこまで迫って来た。

 

「! ……来たよ」

 

ミレディが北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、〝八咫〟には「ななつぼし」からの映像が鮮明に映し出されていた。

 

それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだった。ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートル程の黒い狼、六本足の蜥蜴、背中に剣山を生やしたパイソン、四本の鎌をもったカマキリ、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛、二本角を生やした真っ白な大蛇など実に種類豊富な魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。その数は、山で確認した時よりも更に増えていた。五万あるいは六万に届こうかという大群である。

 

更に、大群の上空には翼竜型の魔物もいる。何十体もの翼竜の中に一際大きな体を持つ個体の背中に、黒いローブの男が立っている。

 

「らーちゃん」

「来さん」

 

ミレディとシアが、阿吽の呼吸で来に呼びかける。来は二人に一つ頷くと、そして後ろで緊張に顔を強ばらせている愛子達に視線を向けた。

 

「来ました。到着までおよそ三十分です。数は五万強、複数種の魔物の混成です」

 

魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子達。不安そうに顔を見合わせる彼女達に、来は毅然とした表情で告げる。

 

「数が増加したのは想定内です。問題はありません。予定通り、戦える者は壁際で待機させてください」

 

戸惑いの色を少しも見せない来に、愛子は少し眩しいものを見るように目を細めた。

 

「わかりました……どうか無事で……」

 

愛子はそう言うと、護衛騎士達が「彼に任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。生徒達も、来を一度複雑な表情で見ると愛子を追って走り出した。残ったのは、来達以外にはウィルだけだ。

 

ウィルは、ティオに壁から降りさせ、何かを語りかけると、来に頭を下げて愛子達を追いかけて走り去っていった。

 

「彼は何と?」

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ? それに、剣技に関してもある程度は自信があるのじゃ」

 

教会から半端者と呼ばれている竜人族は、亜人族に分類されながらも魔物と同様に魔力を直接操ることができる。それ故、適正のある属性に関しては魔法の行使に詠唱を必要としない。

 

来はティオに、髪飾りと刀を渡した。髪飾りの方は神結晶を加工した超小型大容量魔力タンクである。ちなみにシアとミレディにも同じ物をあげている。刀の方はオスカーの隠れ家にあった、この世界には本来存在しないはずの、魔力を吸収する鋼で作られている。

 

三人共受け取る時に頬を朱く染め上げていた。

 

遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。壁際に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。

 

それを見て、来は愛子にコソコソと何かを話す。愛子は驚いて顔が赤くなる。

 

「そ、そんな……恥ずかしいですよ……」

「どうかお願いします!」

「し……仕方ありませんね……」

 

どうにか愛子の了承を得ると、ミレディに頼んで重力魔法で即席の演説台を作り上げる。ご丁寧に階段まで付けてある。そして土台の上に愛子を登らせると、口笛で全員の注意を引く。

 

全員の視線が自分に集まったことを確認すると、大きく息を吸い、天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「ごきげんよう、ウルの町の勇敢なる者達よ! 唐突ですまないが、この瞬間、我々の勝利は運命づけられた!」

 

いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様である!」

 

その言葉に、皆が口々に愛子様? 豊穣の女神様? とざわつき始めた。来は少し古風な言い回しで言葉を紡ぐ。

 

「愛子様のある所故に、敗北ここにあらず! 愛子様こそ! 我等人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天より舞い降りし現人神なり! 己は愛子様の(つるぎ)にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えここへ来た! 見たまへ。これが愛子様により教え導かれた己が力なり!」

 

来はそう言うと、舞鱗と眼鱗を鞘から抜き、翼竜の群れに剣先を向ける。町の人々が注目する中、些か先行している翼竜型の魔物に照準を合わせ、脚をしっかりと踏み込む。

 

「妖術 〝天ノ橋立〟!!」

 

剣先と剣先の間から、紫色の極光が放たれ、空を切り裂く。数キロ先の翼竜を撃ち抜いた。そのまま他の翼竜を薙ぎ払うように撃ち抜いていく。そして大型の個体を横に真っ二つに切断した。黒いローブの男は魔物と共に地に落ちていく。

 

悠然と振り返ると、そこには唖然として開いた口が塞がらない者が多数いた。

 

来は人々に向かって「愛子様、万歳! 女神様、万歳!」と書かれたカンペを見せる。そして次の瞬間、愛子を讃える言葉が響き渡る。

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

ウルの町に、二つ名としてではなく本当の女神が生まれ落ちた。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。

 

「うぅ……やっぱり恥ずかしいです……」

 

愛子は顔中真っ赤に染め上がり、震え上がった。

 

「途轍もなく大きな罪悪感がのしかかっている気分だ……」

 

一方、来も罪悪感を感じ、冷や汗が止まらない。しかし、先程の言葉には目的があった。

 

一つは、この先、自らの活躍により教会や国が動いたとき、彼等が来に害をなそうとすれば、愛子は確実に彼等とぶつかることになるが、その時、〝豊穣の女神〟の発言権は強い方がいいというものだ。

 

町の危急を愛子様の力で乗り切ったとなれば、市井の人々は勝手に噂を広め、〝豊穣の女神〟の名はますます人々の心を掴むはずだ。その時は、単に国にとって有用な人材というだけでなく、人々自身が支持する女神として、国や教会も下手な手出しはしにくくなり、より強い発言権を得ることになるだろう。

 

二つ目は単純に、大きな力を見せても人々に恐怖や敵意を持たれにくくするためだ。一個人が振るう力であっても、それが自分達の支持する女神様のもたらしたものと思えば、不思議と恐怖は安心に、敵意は好意に変わるものである。教会などから追われるようになっても、協力的な人を確保しておくためだ。まぁ来の実力ならばその必要はないだろうが念には念を押しておくに越したことは無い。

 

気を取り直した来は人々を背に、両手に刀を持って前に進む。

 

右にシア、左にミレディ、その更に隣にティオが、それぞれ刀と共に並ぶ。

 

「準備はできたな?」

「うん!」

「はい!」

「うむ!」

 

来は大群を見据えて、小さく呟いた……

 

 

「さぁ、見せて貰おうか。どれ程の実力を付けたのか……なぁ、()()




小話

ティオの剣術の師匠の子孫が、ミレディの剣術の師匠。


次回 第四十三閃 一騎当千の者達

外伝作品はどこまで進めて欲しいですか?

  • アニメ26話まで
  • 無限列車編まで
  • 無限城戦手前
  • 完結後
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