ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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第四十四陣 襲撃終幕

町外れ。この場にいるのは愛子と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルと来達のみである。町の残った重鎮達が、現在、事後処理に東奔西走している。

 

バツが悪そうに俯く幸利に、愛子が歩み寄った。黒いローブを着ている姿が、そして何より戦場から直接連れて来られたという事実が、動かぬ証拠として彼を襲撃の犯人だと示している。信じたくなかった事実に、愛子は悲しそうに表情を歪めつつ、幸利に話しかけた。

 

デビッド達が、危険だと止めようとするが愛子は首を振って拒否する。拘束も同様だ。それでは、きちんと幸利と対話できないからと。既に手首は縛られているがそれだけだ。愛子はあくまで先生と生徒として話をするつもりなのだろう。

 

「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

幸利は力の籠ってない声で話を始めた。

 

「俺は…誰かに俺の力を認めてほしかったんだ……勇者勇者と囃し立てられてる天之河が羨ましかったんだ。それに比べて俺は誰にも……否、辻風以外の誰にも期待されなくて、自分で勝手に不満を募らせてた」

「てめぇ……危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

「そうよ! 愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

淳史や優花など生徒達は幸利に対して憤りを露わにする。

 

愛子は生徒達を抑えると、なるべく声に温かみが宿るように意識しながら清水に質問する。

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

「……魔人族になら示せると思ったんだ」

 

清水の口から飛び出したまさかの言葉に愛子のみならず、来達以外の全員が驚愕を表にする。幸利は魔人族の男と出会った経緯、契約を交わしたこと全てを話した。

 

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

戦争の相手である魔人族とつながっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族が自分の生徒を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

「……え?」

 

愛子は、一瞬何を言われたのかわからなかったようで思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛子よりは早く意味を理解し、激しい怒りを瞳に宿して幸利を睨みつけた。

 

幸利は、生徒達や護衛隊の騎士達のあまりに強烈な怒りが宿った眼光に射抜かれて一瞬身を竦めるものの、何とか立て直して話を続ける。

 

「え? って……先生、自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……先生を町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいって。勇者の下で燻っているのは勿体無いって」

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。〝特別〟でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと〝特別〟になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません……清水君。もう一度やり直しましょう? みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

幸利は、愛子の話しを黙って聞きながら、何時しか肩を震わせていた。生徒達も護衛隊の騎士達も、清水が愛子の言葉に心を震わせ泣いているのだと思った。実は、クラス一涙脆いと評判の園部優花が、既に涙ぐんで二人の様子を見つめている。

 

「あぁ。だけどその前に、犯した罪を償わなければならない……」

「罪滅ぼしなら、町の復興を一緒に手伝ってもらいます。それで良いですか?」

「既に人殺してるんだぞ。それでも良いのか?」

「えぇ。先生に二言はありません」

 

幸利が愛子と生徒達の許へ駆け寄ろうとした瞬間、事態は急変する。

 

「ッ!? ダメです! 避けて!」

 

そう叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった。

 

突然の事態に、幸利は動くのが遅れた。シアが無理やり愛子を引き剥がし何かから庇うように身を捻ったのと、蒼色の水流が、来の刀に弾かれるのはほぼ同時だった。

 

跳ね返された鋭い水流は遠くの鳥型の魔物の頭を貫いた。黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男は走って逃げようとするが、来が投げた針が刺さった。外野手顔負けである。投げた針は幸利が北の魔物から採った毒針だった。

 

あの男は愛子を暗殺しようとしていたが、来達の規格外ぶりに茫然自失してしまい機会を逸していたのだ。その後、隙を探っていたところ、幸利と愛子の対談が始まった。そして、幸利が愛子を殺せるなら任せようと考えて遠方から様子を伺っていたのだが、いつまでも幸利が愛子を殺す気配がしなかったため痺れを切らして自ら直接手に掛けることにしたのだ。ただ、彼には一つ誤算があった。それは、あわよくば射線上に来達を重ねて一緒くたに危険因子を葬ろうとしたがために、シアの固有魔法を発動させてしまったことである。そう、〝未来視〟だ。来の後ろにいたシアは、当然射線上にいたために、幸利、愛子、来、自分が一気に〝破断〟で貫かれる未来を見たのである。

 

おかげで、愛子が頭を貫かれて即死する未来は避けられた。シアが、体を張って変えた未来だ。誰も死ぬことが無かった。

 

「今のは幸利と契約した魔人族の攻撃か。危うく幸利と畑山先生が死ぬところだった」

 

来は刀を仕舞い、愛子達の方に向く。

 

「僕達はこれで発ちます。無理に留まって貴女方を危険に晒すわけにもいかないので」

「……そうですか」

 

唐突に町を発つと告げられ、愛子は何か言いたげだったがそれを押し留めた。

 

「幸利。今度は人の為に、己を磨け」

「……あぁ」

 

来と幸利は互いに拳を打ちつけ合う。

 

「それから園部さん」

「な、何?」

「ハジメに救われた命、無駄にするなよ」

 

優花は在りし日の大迷宮で骸骨に襲われているところをハジメに救われた光景を思い出していた。

 

「……わかった」

 

それだけを来に言う。

 

「それでは皆、達者で。シア、ミレディ、ティオ、ウィル。行くぞ」

 

弩空を取り出し、全員を乗せて走り去っていった。

 

 

北の山脈を背に、弩空が地面から浮いて滑るように走行している。

 

ウィルは、操縦する来に対し少々身を乗り出して話しかけた。

 

「あの、どうして来さんは清水という少年を許したのですか?」

「別に全部許したわけじゃない。ただ、彼はまだやり直せると思ったんだ」

「お人好しな人ですね……」

「君だって同じだろう?」

 

会ったばかりの冒険者達の死に本気で嘆き悲しみ、普通に考えれば自殺行為に等しい魔物の大群に襲われる自分とは関係ない町のために残り、恨みの対象であるティオを許している。王国の貴族でありながら、冒険者を目指すなど随分変わり者だとは思っていたが、それを通り越して思わず心配になるぐらいお人好しだ。

 

「いい人だねぇ~」

「いい人ですねぇ~」

「うむ、いい奴じゃな」

 

ウィルは、一斉に送られた言葉に複雑な表情だ。褒められている気はするのだが、女性からの〝いい人〟というのは男としては何とも微妙な評価だ。

 

「……一つ、聞きたいことがあります」

「どうした?」

「貴方、本当に人間ですか?」

 

ウィルは人前ですべきではない質問を口にしてしまう。シアとミレディ、そしてティオは目を大きく開き、冷や汗を流す。

 

「……」

 

来の毛先が縹色に、右目が藍色に変わる。

 

「どうしてそう思ったんだい?」

「……あの時、貴方は極光を受けて爆散しましたよね? どうして無事だったんですか?」

 

来も冷や汗を流す。

 

「え、えーと……そう、あれだ。これを身代わりにしたんだ」

 

そう言って懐から火薬玉を取り出す。実際には全く使ってなかったが。

 

「で、でも、その後に出て来た魔物は一体……!?」

「召喚術で呼び出したんだ。ただ、あれだけ強力な奴を使役するとなるとかなり魔力を消費するから……」

 

何となくそれっぽい言い訳をウィルに言う。

 

「でも魔法陣はどこにもありませんでしたが……」

「爆風の中にあったから外からは見えなかったんだろうね。そうだろう? 三人共」

 

シアとミレディ、ティオはいきなり話しかけられて吃驚した。

 

「そ、そうですね~。味方すら欺くとは流石ですぅ……」

「いや~、ホントに吃驚したよ。ホントに死んじゃったかと思ったじゃん」

 

実際本当に死んだけど。

 

「あ…操られていたとはいえ、妾の一撃を前に敗れ去ったと思い込ませるとは……妾も精進しなければの」

 

シア以外は本音である。

 

「……」

 

そんな四人をウィルは怪訝そうな目で見る。

 

「「「「……」」」」

「……まぁ、それなら良かったですけど」

 

どうやら納得してくれたようだ。四人は胸をなでおろし、お茶を飲んだ。

 

「……シア。ありがとう。今回は助かったよ。完全に油断してた」

「べ、別に大した事じゃありませんよ……」

 

シアは謙遜するが、頬は赤く染まっていた。兎耳も忙しなく動いている。

 

「シア。少し気になったんだけど……どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだい? 先生とは、大して話してないだろう? 身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが……」

「それは……だって、来さんが気にかける人ですから」

「……それだけかな?」

「? ……はい、それだけですけど?」

「……そうか」

 

彼にとって愛子は今の恩師とも呼べる存在なので、死んでしまえばそれなりに衝撃を受けてしまう。死ななくて良かったと素直に思える相手だ。シアのことはそれなりに理解しているつもりだったが、シアもまた、来の心情を十分理解できていた。

 

これは、何かしらの形で報いるべきだと来はシアに話しかける。

 

「そうだ、この後買い出しの予定があるんだが……シアも一緒に来るか?」

「いいのらーちゃん? 君には大切な想い人が……」

 

ミレディが差し止めるように言う。

 

「たまにはこういった形でご褒美をあげないとね」

 

あくまで仲間としてシアを見ている来。本当はウィルを町まで送った後、真っ先に膵花の許へ直行したかったのだが、いつまでもシアに何もしてあげないというのも可哀想だと思ったのだ。

 

「来殿には想い人が別にいるのかの?」

「さぁ……彼自分の過去についてはほとんど話したがらないから」

 

ティオとウィルは互いに思案していた。確かに来は自分の過去を積極的に打ち明けたりはしていない。

 

「いるよ~」

「「!?」」

 

ミレディがいきなり割り込んできた。

 

「み、ミレディ、さん……」

「いる……とは……?」

「そのままの意味だよ?」

 

何故か仲間であるミレディがバラしてしまっているが、肝心の来本人は特に気にしていなかった。

 

「彼曰く、ティーちゃんと同じ位ナイスバディな子らしいよ」

 

確かに間違ってはいないが、もう少しマシな説明はできなかったのだろうか。

 

「来殿の想い人……一体どんな人なんでしょうか……」

「さぁ? それは私にもわからない。ただ一つ言えることは、彼女とらーちゃんはとても固い絆で結ばれているってことだと思う」

 

ミレディがウィルに語りかけている傍ら、ティオは来に話しかけていた。

 

「来殿……いえ、我が主(マスター)

「どうした?」

「貴方方は一体何を目標としているのでしょうか?」

 

迎撃戦前に仲間として迎え入れられたティオだが、来達の目的を知らなかった。

 

「……一言で言えば世直し、だ」

「世直し……」

「そう。種族問わず皆が笑って暮らせるような世の中にするための世直しだ」

 

ティオは来をジッと見つめる。

 

「……というのは建前で、本当は最愛の人と信頼できる仲間がいればそれでいいんだけどね」

 

建前と言っているが、それもまた彼の本音だった。

 

「でも、人の幸せを願ってることには変わり無いよ」

「……貴方様は我が剣術の師匠によく似ていらっしゃるお方です」

「僕は君の師匠に似ているのかい?」

「師匠も人の幸せを常に願っている人でした。随分前に亡くなられてますが……」

「すまない。嫌な事を思い出させた」

「いえ、大丈夫です。今の妾には仲間がいますので」

 

一行は、そのように雑談をしながらフューレンへ向かっていった……中立商業都市フューレンの活気は相変わらずだった。

 

 

 

高く巨大な壁の向こうから、まだ相当距離があるというのに町中の喧騒が外野まで伝わってくる。これまた門前に出来た相変わらずの長蛇の列、唯の観光客から商人など仕事関係で訪れた者達まであらゆる人々が気怠そうに、あるいは苛ついたように順番が来るのを待っていた。

 

そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャラい感じの男が、これまた凄く派手な女二人を両脇に侍らせて気怠そうに順番待ちに不満をタラタラと流していた。取り敢えず何か難しい言葉とか使っとけば賢く見えるだろ? というノリで、順番待ちの改善方法について頭の悪さを浮き彫りにしつつ語っていると、周りがざわつき始めた。

 

チャラ男と連れ二人の後ろには、美青年一人、美少女二人、美女一人、そして普通の青年一人が並んでいた。横にはホバースキッフ〝弩空〟が停まっている。

 

「このペースだと軽く一時間は掛かりそうだな」

 

門までの距離を見て、来は呟く。

 

「それまで暇ですねぇ~」

 

シアは暇そうだ。髪飾りが陽光に照らされてきらりと反射して輝く。

 

「らーちゃん、ちょっといい?」

「どうした? ミレディ」

 

ミレディが来に話しかけた。

 

「ティーちゃんからちょっと話があるんだって」

「そうなのか? ティオ」

「はい……」

 

ティオは周りの様子を見ながら、ひそひそ声で話す。

 

「マスター……その……〝辻風鬼十郎〟なる人物をご存知でしょうか?」

「その人……僕のご先祖様だけど……」

「何と!? 貴方が我が剣術の師の子孫であったとは!」

 

声のボリュームを最大限に落として驚きの声を上げるティオ。そう、ティオ・クラルスの師である辻風鬼十郎は辻風来の直接の先祖である。

 

「僕も吃驚だよ。まさか鬼十郎さんもこの世界を訪れていたなんて」

「ミレディ殿から聞いた話なのですが、彼女の師匠は我が師の子息でございます」

「無慈さんもか」

 

ちなみに、ミレディの剣術の師匠は鬼十郎の息子で、名は〝辻風無慈〟。異名は〝辻斬りの無慈〟という。実際には人を殺したことは一度もないのだが、魔物は大量に殺している。

 

「我が師といい、ミレディ殿の師といい、我々は貴方の血筋と(ゆかり)があるようです」

「世の理というのは、何と不可思議なものなのかな」

 

こればかりはいくら(エヒト)とて弄ることはできない。

 

「ところで来さん。弩空仕舞わなくていいんですか? 今までは町に着く前に仕舞ってましたよね?」

「……今まで人に隠していたのは、今思えばそれは慢心だったと思う」

「どういう……ことですか?」

 

シアが何故弩空を収納しないのかを訊ねた。

 

「この身に秘められた力は途方もなく大きい。それ故全力を出すことに抵抗を覚えてしまう。だから、極力力を加減しなきゃって思ってた。でもそれだけじゃ駄目だった。出し惜しみなんかしてたから、今伴侶と離れ離れさ。でも、その結果君達に出会えたのもまた事実」

 

来は肩を若干竦めて答える。今までは僅かな力だけで困難を乗り切ろうとしていた。だが、その結果最愛の妻と引き離されてしまった。少し前までその傾向が残っていたが、今回の件を以て決別することにした。

 

「来さん……」

「だから、できるだけ僅かな力だけで乗り切ろうとか、最初から絶大な力で押し退けようなんてそんな両極端なこと、もう止めにした。大事な人はもう誰も死なせないって決めたんだ。だから、もう奴隷を装わなくていいんだよ? そのチョーカー外したらどう?」

 

常に手加減、常に全力といったことはキッパリと止めて加減と全力を織り交ぜることにした。故に、シアにも奴隷の振りは止めていいと、チョーカーに指を当てて言う。彼女に手を出そうというのなら、その前に退けるのみと伝える。

 

しかし、シアは、そっと自分のチョーカーに手を触れて撫でると、若干頬を染めて首を横に振った。

 

「いえ、これはこのままで。来さんから初めて頂いた物ですし……それに来さんのものという証でもありますし……最近は結構気に入っていて……だから、このままで」

「そ、そうかい……気に入ったのなら別にいいけど……」

 

シアの兎耳が激しく動く。目を伏せて、俯き加減に恥じらうシアの姿はとても可憐だ。前の方で並んでいる男の何人かが鼻を抑えた手の隙間からダクダクと血を滴らせている。

 

「そうそう、シーちゃんは今のままでも十分可愛いよッ」

 

ミレディも後ろから抱きついて来た。

 

いきなり出来上がった桃色空間に、未知の物体と超美少女&美女の登場という衝撃から復帰した人々が、来達に今度は様々な感情を織り交ぜて注目し始めた。女性達は、シア達の美貌に嫉妬すら浮かばないのか熱い溜息を吐き見蕩れる者が大半だ。一方、男達は、シア達に見蕩れる者、来に嫉妬と殺意を向ける者、そして弩空やシア達に商品的価値を見出して舌舐りする者に分かれている。

 

だが、直接来達に向かってくる者は未だいないようだ。商人達は、話したそうにしているが他の者と牽制し合っていてタイミングを見計らっているらしい。そんな中、例のチャラ男が自分の侍らしている女二人とシア達を見比べて悔しそうな表情をすると明からさまな舌打ちをした。そして、無謀にも来達の方へ歩み寄って行った。見た目はチャラいがそれでも容姿はそれなりに整っている方だ。それ故に、自分が触れて口説けば、女なら誰でも堕ちるとでも思ったのだろう。

 

「よぉ、レディ達。よかったら、俺とこの後お茶しないかい?」

「結構」

 

来が間に入ろうとしたが、ミレディの方が先に動いた。

 

「私達には彼がいるから」

 

そう言ってミレディは来を前に出す。仲間に手を出したのでその視線は冷ややかなものだった。

 

「……」

「何だよその目、俺のことが気に食わないってのか?」

「貴方には既にそのお二方がいるだろう? そんなお二方を差し置いて僕の仲間に手を出そうとは……貴方は女性の気持ちをもっと考えた方がいい。明らかに彼女達は嫌がっていた」

 

しかし、チャラ男はシア達から手を引くどころか対抗心を更に燃やしていた。

 

「へぇ、よく言うねぇ~。だけど、俺はそこそこイケメンだから、俺とお茶でも飲んだらこっちに靡くと思うんだけどなぁ。お前達もそう思うだろ?」

 

チャラ男は侍らしている女二人に尋ねるように言う。しかし、当の二人はというと…

 

「あっちの方顔良すぎ……」

「おまけに超優しそう……」

 

来の方に夢中であった。

 

「なっ……何で俺よりお前の方がモテてるんだよ!」

「……さぁ?」

 

冷や汗をかいて視線を逸らす来。チャラ男の中で殺意が湧きたつ。

 

「お前……ちょっと顔が良いからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

チャラ男は来に殴りかかった。だが、その拳が届くことはなかった。チャラ男の拳は、指一本であっさり止められた。

 

「くっ……」

「……今回だけは水に流してやる。ただし、次同じことをしてみろ。両の腕を折るぞ」

 

殺気の籠った金眼でチャラ男を威圧する来。そのまま指一本でチャラ男を押し返した。チャラ男は来の凍りつくような目を見ると、女二人を置いて何処かへと消えていった。先程まで、「てめぇら、抜け駆けは許さんぞ」と互いに牽制し合っていた商人達は、今や「どうぞどうぞ」と互いに譲り合いをしている。あまりの殺気に皆怯えてしまっていた。

 

「……全く、油断も隙もあったものじゃない」

「私達って、そんなに大切に思われてたんですね……」

「カッコよかった……」

「威圧だけで押し退けるとは、流石マスター。妾も精進せねば」

 

チャラ男を追い返した後、何事もなかったかのように来は列に並ぶ。そんな彼を見て、シアはますます惹かれ、ミレディは見蕩れ、ティオは感心していた。

 

一方、完全に蚊帳の外なウィルは弩空に乗って三角座りをしていた。列に並んでいる間、無言で座り続けるウィルを来達は必死に宥めた。弩空は邪魔だったので仕舞った。

 

そして、列が進んでようやく門のすぐ前まで来た所で、門番から話しかけられた。

 

「……君達、君達はもしかして……ライ、シア、ミレディという名前だったりするか?」

「え? あ、はい。そうですけど……」

「そうか。それじゃあ、ギルド支部長殿の依頼からの帰りということか?」

「はい……もしかしてイルワさんから通達でも来てるんですか?」

 

門番の男は頷く。そして直ぐに門を通してくれた。

 

 

 

ギルドの応接室で待つこと五分、部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、来達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。来としては、そこまでしなくても良いのに。と思ったのだが、礼はきちんとしておく主義のようだ。

 

ウィルが出て行った後、改めてイルワと来が向き合う。イルワは、穏やかな表情で微笑むと、深々と来に頭を下げた。

 

「来君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

「いえいえ、彼の運が良かっただけです」

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」

「……随分と情報が早いですね」

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員が付いていたのは知っていた。支部長の直属でありながら、常に置いていかれたその部下の焦りを思うと、中々同情してしまう。

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

「力の方なら、僕達のステータスを見れば、一目瞭然かと」

「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせる。

 

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シア・刃卯鱗亜 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:剣術・未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

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シアの苗字がハウリアではなく刃卯鱗亜なのは一族総出で刃卯鱗亜と名乗り始めたから。

 

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ミレディ・ライセン 20歳 女 レベル:94

天職:魔導士

筋力:670

体力:740

耐性:450

敏捷:370

魔力:8630

魔耐:8020

技能:全属性適性・剣術・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法・魂魄魔法

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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・剣術・複合魔法

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来には及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスだ。勇者が限界突破を使っても及ばないレベルである。

 

そして、現在の来のステータスはこちら。

 

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辻風来 17歳 男 レベル:23

天職:剣士

筋力:5050  [+龍化状態19400]

体力:8730  [+龍化状態17800]

耐性:7200  [+龍化状態9070]

敏捷:7540  [+龍化状態6200]

魔力:5100

魔耐:4600

技能:雷属性適正・全属性耐性・剣術[+抜刀術][+斬撃速度上昇]・天歩[+空力][+縮地]・剛腕・先読・気配感知・気配遮断・幻術・妖術・龍化・暗視・分子操作・熱源感知・魔力感知・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・思念通話・睡眠覚醒・状態異常耐性・言語理解・生成魔法・重力魔法・再生魔法・魂魄魔法・変成魔法

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一度肉体を再構成した際にいくつか技能が喪失していた。錬成は生成魔法に、その他の耐性は状態異常耐性として統合された。風爪、纏雷、胃酸強化は消失した。

 

流石に、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。ミレディに関しては神代魔法を三つ持っている。

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

「では、事の顛末を話します」

 

普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。来君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……だが、君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

「……そうですか。ありがとうございます」

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。まぁ、そのうち〝金〟より上のランクができるかもしれないけど。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを(無理矢理)使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるが、それ以上に、来達とは友好関係を作っておきたいということらしい。ぶっちゃけた話だが、隠しても意味がないだろうと開き直っているようだ。

 

その後、イルワと別れ、来達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 

グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、来が固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。

 

 

広いリビングの他に個室が四部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。既に日は傾いている。

 

「……これは買い出しは明日だな。取り敢えず今日はここで一休みにしよう」

「あのぉ~、来さん」

「分かってる。明日は一日付き合うよ」

 

シアの表情が明るくなる。兎耳も忙しなく振れる。

 

「……買い物なら私とティーちゃんがしておくから、明日はお二人で楽しんでいってね」

「ありがとう。ミレディ」

「だって、オーちゃんの迷宮を攻略してからできた、最初の仲間だもんね」

 

初めて会った時と比べて、ミレディの性格は変わっていた。迷宮で披露したウザさは鳴りを潜め、今や優しさ全開の恋する乙女となっている。

 

「そ・の・か・わ・り」

「な……何?」

 

ミレディは来の耳元に顔を寄せて囁く。

 

「今度は私も、君とデートしたいな♪ もちろん、ティーちゃんとも一日付き合ってあげてね☆」

(最近なんか大胆になって来たな……)

 

ミレディも、一緒にお出かけがしたかったようだ。しかし、ティオの存在も忘れずにいることから、仲間想いは健在だ。

 

来は心の中で膵花に必死に謝りながら、四人で雑談を交わし合いながら夜を過ごした……




色んな方から指摘を喰らいそうな気がしてならないまま執筆してました。


次回 第四十五閃 海人族の少女

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  • 無限城戦手前
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