ありふれた職業と共に一刀両断!!   作:籠城型・最果丸

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第四十五陣 海人族の幼女

「ふんふんふふ~ん、ふんふふ~ん! いい天気ですねぇ~、絶好のデート日和ですよぉ~」

 

フューレンの街の表通りを、上機嫌の兎耳少女シアが来の隣を歩いている。服装は何時も着ているくノ一装備とは異なり、可愛らしいもんぺ姿だった。相変わらず露出度は低い。それでもお胸は目立つ。野郎共の視線がそこに釘付けになる。

 

もっとも、何より魅力的なのは、その纏う雰囲気と笑顔だろう。頬を染めて、楽しくて仕方ありません! という感情が僅かにも隠されることなく全身から溢れている。亜人族(しかも兎人族)であるとか、奴隷の首輪らしきもの(チョーカー)を付けている事とか、そんなものは些細な事だと言わんばかりに周囲の人々を尽く見惚れさせ、あるいは微笑ましいものを見たというようにご年配方の頬を緩ませている。

 

そんなシアを、来は穏やかに微笑みながら歩いていた。よほど心が浮き立っているのだろう。シアは来の腕に抱きつき、頬を染めていた。いつもならここまでさせないのだが、今日は特別に許可している。昨夜、別の日にミレディとティオとも二人きりで観光させられることが決まり、後でその分膵花を愛してあげようと決心した。

 

観光区には、実に様々な娯楽施設が存在する。例えば、劇場や大道芸通り、サーカス、音楽ホール、水族館、闘技場、ゲームスタジオ、展望台、色とりどりの花畑や巨大な花壇迷路、美しい建築物や広場などである。

 

「来さん、来さん! まずはメアシュタットに行きましょう! 私、一度も生きている海の生き物って見たことないんです!」

 

ガイドブックを片手に、兎耳を「早く! 早く!」と言う様にぴょこぴょこ動かすシア。【ハルツィナ樹海】出身なので海の生物というのを見たことがないらしく、メアシュタットというフューレン観光区でも有名な水族館に見に行きたいらしい。

 

ちなみに、樹海にも大きな湖や川はあるので淡水魚なら見慣れているらしいのだが、海の生き物とは例えフォルムが同じ魚でも感じるものは違うらしい。

 

途中の大道芸通りで、人間の限界に挑戦するようなアクロバティックな妙技に目を奪われつつ、たどり着いたメアシュタットは相当大きな施設だった。海をイメージしているのか全体的に青みがかった建物となっており多くの人で賑わっている。

 

中の様子は極めて地球の水族館に似ていた。ただ、地球ほど、大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術がないのか、格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれており、若干の見にくさはあった。

 

だが、シアはそんな事気にならないようで、初めて見る海の生き物の泳いでいる姿に瞳を輝かせて、頻りに指を差しながら来に話かけた。すぐ隣で同じく瞳を輝かせている家族連れの幼女と仕草が同じだ。「海の生き物を見るのは初めて」と、視線が合った幼女の父親に説明した。

 

そんなこんなで一時間ほど水族館を楽しんでいると、シアは一つの水槽に釘付けになっていた。水槽の中には中年男性の顔をした魚らしき生物が泳いでいた。

 

「な、何なんですかこのお魚……」

 

シアが謎生物をジッと見つめていると、謎生物が急に喋った。

 

〝……何見てんだよ〟

「うわ喋った!?」

 

解説によると、リーマンという水棲系の魔物で、固有魔法〝念話〟が使える。滅多に話すことはないがきちんと会話が成立するらしく、確認されている中では唯一意思疎通の出来る魔物として有名であるとのことだ。

 

ただ、物凄い面倒くさがりのようで、仮に会話出来たとしても、やる気の欠片もない返答しかなく、話している内に相手の人間まで無気力になっていくという副作用?みたいなものまであるので注意が必要とのことだ。あと、お酒が大好きらしく、飲むと饒舌になるらしい。但し、一方的に説教臭いことを話し続けるだけで会話は成立しなくなるらしい。

 

来は似た能力を持っているので〝思念通話〟で話しかけてみた。

 

〝初めまして。辻風来と申します〟

 

突然の念話に、リーマンの目元が一瞬ピクリと反応する。そして、シアから視線を外すと、ゆっくり来を見返した。シアが、何故か勝った! みたいな表情をしているが一旦置いておこう。

 

〝お前さん、なぜ念話が出来る?人間の魔法を使っている気配もねぇのに……まるで俺と同じみてぇだ〟

 

当然といえば当然の疑問だろう。何せ、人間が固有魔法として〝念話〟を使っているのだ。なぜ自分と同じことを平然と出来ているのか気になるところだ。普段は、滅多に会話しないリーマンが来との会話に応じているのも、その辺りが原因なのだろう。流石に生まれ持った能力とは言えず、念話を使う別の魔物を捕食して得たものだと説明した。

 

〝……若ぇのに苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。おっちゃんが分かることなら教えてやるよ〟

〝……え?〟

 

どうやら、魔物を喰うしかないほど貧乏だとでも思われたようだ。今のそれなりにいい服を着ている姿を見て、「頑張ったんだなぁ、てやんでぇ! 泣かせるじゃねぇか」とヒレで鼻をすする仕草をしている。

 

実際、それなりに苦労したので特に訂正はせず、リーマンに色々聞いてみる。例えば、魔物には明確な意思があるのか、魔物はどうやって生まれるのか、他にも意思疎通できる魔物はいるのか……等々。リーマン曰く、ほとんどの魔物は本能的で明確な意思はないらしい。言語を理解して意思疎通できる魔物など自分の種族しか知らないようだ。また、魔物が生まれる方法も知らないらしい。

 

他にも色々話しているとそれなりの時間が経ち、傍目には若い男とおっさん顔の人面魚が見つめ合っているという果てしなくシュールな光景なので、人目につき始める。シアが、それにそわそわし始め来の服の裾をちょいちょい引っ張るので、会話を切り上げることにした。

 

リーマンとの会話は中々に面白かったが、今日はシアに付き合うと決めていたのだ。蔑ろにしては約束を反故にすることになる。リーマンの方も「おっと、デートの邪魔だったな」と空気を呼んで会話の終わりを示した。ちなみに、その頃には何時の間にか敬語が抜け、「リーさん」「ラー坊」と呼び合う仲になっていた。

 

最後にリーマンが何故こんなところにいるのか聞いてみた。そして、返ってきた答えは……

 

〝ん?いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ〟

〝それって……〟

 

ライセンの大迷宮から排出された時のことだろうか。どうやら、リーマンはそれに巻き込まれて一緒に噴水に打ち上げられたらしい。直接の原因はミレディだったので、巻き込んでしまったかもしれないと思った。実際には、ハジメ一行の脱出に巻き込まれた。その際、香織が溺れかけてハジメの処置で一命を取り留めたのは別の話。

 

〝リーさん。その、ここから出たいのかな?〟

〝?そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ〟

〝なら、近くの川にでも送り届けようか? 僕達の事情に巻き込んでしまったかもしれないわけだし、ちょっと職員と交渉してくるから〟

〝ラー坊……へっ、若造が、気ぃ遣いやがって……何をする気かは知らねぇが、てめぇの力になろうって奴を信用できないほど落ちぶれちゃいねぇよ。ラー坊を信じて待ってるぜ。それと嬢ちゃん、ラー坊と繋いだその手、離すんじゃねぇぞ〟

 

「へ? へ? えっと……もちろん離しませんよ!」

 

訳がわからないなりに、しっかり返事するシア。そんな彼女に満足気な笑みを見せるリーマン。彼のこれからに幸運を祈りつつメアシュタット水族館の奥へと進む。

 

その後、来は職員に「あのリーマンは本来自分が運んでいた荷物だったのだが、訳あって紛失したので返していただけないか」と交渉した。職員が悩んでいる中、水族館が喰鰹の群れの襲撃に遭い、来が討伐するとお礼にとリーマンを譲ってもらえた。リーマンは「ななつぼし」によって近くの川に放流された。空っぽになった水槽には絞めて気絶させた喰鰹を一匹入れた。勿論補強された後で。

 

 

メアシュタット水族館を出て昼食も食べた後、来とシアの二人は、迷路花壇や大道芸通りを散策していた。シアの腕には、露店で買った食べ物が入った包みが幾つも抱えられている。今は、バニラのようなアイスクリームを攻略中だ。

 

「美味しいかい?」

「あむっ……はい! とっても美味しいですよ。流石、フューレンです。唯の露店でもレベルが高いです」

「それはよかった」

 

シアが幸せそうにしているのを見て、来も頬が緩んだが、突如、その表情を訝しげなものに変え足元を見下ろした。

 

それに気がついたシアが、「ん?」と首を傾げて来に尋ねる。

 

「どうかしましたか、来さん?」

「……下水道を子供が流れてる。かなり弱ってるぞ」

「ッ!? た、大変じゃないですか! もしかしたら、何処かの穴にでも落ちて流されているのかもしれませんよ! 来さん! 追いかけましょう! どっちですか!」

「こっちだ!」

 

来はシアと二人で地下をそれなりの速度で流れていく気配を追う。一気に気配を追い抜き、マンホールから下水道に侵入する。

 

「来さん、私にも気配が掴めました。私が飛び込んで引っ張り上げますね!」

「いや、そこまでしなくていいよ」

 

下水に飛び込もうとしているシアを止め、来は左腕を突っ込んで子供を掴んで引き上げた。

 

「この子は……」

「まだ息はある。取り敢えずここから離れよう」

 

引き上げられたその子供を見て、シアが驚きに目を見開く。来も、その容姿を見て知識だけはあったので、内心では結構驚いていた。しかし、場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。

 

何となく、子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま開けたマンホールの蓋を閉め、〝八咫〟から毛布を取り出して小さな子供を包み、抱きかかえて移動を開始した。

 

とある裏路地の突き当りにあるマンホールが開き、来とシアが飛び出す。

 

「シア、背中に乗って」

「はい!」

 

来はシアを背負い、子供を抱えると神速で近くの川まで移動する。そして川岸で大きめの鍋を取り出してお湯を沸かす。言っておくが、風呂の代用である。

 

来とシアは改めて運んできた子供を見る。見た目三、四歳といったところだ。マリンブルーの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だ。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。

 

「この子、海人族の子ですね……どうして、こんな所に……」

「只事ではないのは確かだ」

 

海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族だ。西大陸の果、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。そのため、亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族なのである。差別しておきながら使えるから保護するという何とも現金な話だ。

 

そんな保護されているはずの海人族、それも子供が内陸にある大都市の下水を流れているなどありえない事だ。

 

と、その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。そして、その大きく真ん丸な瞳でジーと来を見つめ始める。来も何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。

 

「……」

「……?」

 

意味不明な緊迫感が漂う中、シアが何をしているんだと呆れた表情で近づくと、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。再び鼻をピクピクと動かし、来から視線を逸らすと、その目が未だに持っていたシアの露店の包みをロックオンした。

 

シアが、これ? と首を傾げながら、串焼きの入った包み右に左にと動かすと、まるで磁石のように幼女の視線も左右に揺れる。どうやら、相当空腹のようだ。

 

「お腹が空いてるなら、これを……」

「待て。体を洗う方が先だ。それに、幾分か下水を飲んでしまっているだろうし、一度胃の中を洗う必要がある。その間、この子の替えの服を買いに行ってくれ」

「は、はい」

 

シアが、包から串焼きを取り出そうとするのを制止して、幼女を風呂に入れる準備をする。そしてシアは幼女の服を買いに街へと向かう。

 

「ここまでよく頑張ったな。僕は来。さっき出かけて行ったのはシアだ。名前は?」

「……ミュウ」

「そうかミュウ。お腹が空いてるところ悪いんだけど、先にお風呂だ」

 

そう言って毛布と衣服を脱いだミュウの体をお湯で濡らし、石鹸で洗う。ちなみにお湯は四十二度ほど。熱すぎず温すぎずの温度だ。

 

体を洗った後、湯船(鍋)に入れる。ミュウは体を包む温かさに顔を緩ませる。しばらくしてミュウが上がると、来はミュウの体を新しい毛布で拭き、煮沸消毒した水を大量に飲ませる。ミュウは飲んだ水を吐いた。それを二、三回繰り返す。傍から見れば虐めてるように見えるが歴とした応急処置である。

 

処置を済ませた後、市販の薬を溶かした微温湯を飲ませる。ちょっと苦かったのでミュウは涙目だ。

 

「来さ~ん、戻って来ましたよ~」

「お帰り」

 

数分後、シアが戻って来た。串焼きはシアが持っていたので戻って来るまで食べられなかった。

 

「よし、もう食べていいぞ」

 

着替えも済み、髪も乾き、これでようやくミュウは食事にありつける。来に抱っこされながら、ミュウは串焼きを小さな口を一生懸命動かして食べる。薄汚れていた髪は、本来のマリンブルーに戻っていた。

 

「来さんって面倒見良いですよね」

「前の世界で子供がいたからね。子供の世話は慣れてるんだ」

「そうですか。それなら納得です」

 

シアは頬を緩めてニコニコと笑う。

 

「で、今後の事だけど……」

「ミュウちゃんをどうするかですね……」

 

二人が自分の事を話していると分かっているようで、上目遣いでシアと来を交互に見るミュウ。

 

「教えてくれ。君に一体何が遭ったんだ?」

 

ミュウはたどたどしくも事情を話す。

 

ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられた。

 

そして、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられた。そこには、他にも人間族の幼子たちが多くいた。そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかった。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていた。

 

いよいよ、ミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。三、四歳の幼女に何か出来るはずがないだろう、と枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。

 

だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけば来の腕の中だったというわけだ。

 

「……」

「……来さん、どうしますか?」

 

シアのその瞳は何とかしたいという光が宿っていた。亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのが常だ。その恐怖や辛さは、シアも家族を奪われていることからも分かるのだろう。

 

だが、それに対する来の返答は、意外なものだった。

 

「……ここは保安署に出向くべきか」

「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」

 

来の言葉にシアは噛みつく。

 

保安署とは、地球で言うところの警察機関のことだ。そこに預けるというのは、ミュウを公的機関に預けるということで、完全に自分達の手を離れるということでもある。なので、見捨てるというわけではなく迷子を見つけた時の正規の手順ではあるのだが、事が事だけにシアとしてはそういう気持ちになってしまうのだろう。

 

「違う、そうじゃない。ミュウを連れたままではあまりにリスクが高すぎる。だから少しでも安全な場所に置いておく方が無難なんだよ」

「そ、それは……そうですが……」

「手放したくない気持ちはわかる。でも今は少し我慢してくれ」

 

シアは来の瞳を見る。何かを決意した目だ。

 

「……はい」

 

シアも眼差しから察したのか、決意表明をする。来は屈んでミュウに視線を合わせると、ミュウが理解出来るようにゆっくりと話し始めた。

 

「ミュウ。これから、君のことを守ってくれる人達の所に行く。時間はかかるかもしれないけど、必ず母親の許に帰す」

「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

 

ミュウが不安そうな声音で二人はどうするのかと尋ねる。

 

「心配するな。なるべく早く戻って来る。兄ちゃん達はこれからやらなきゃいけないことがあるから」

「やっ!」

「えっ、えぇ……」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいの! 二人といるの!」

 

思いのほか強い拒絶が返って来た。ミュウは、駄々っ子のように来の膝の上でジタバタと暴れ始めた。今まで、割りかし大人しい感じの子だと思っていたが、どうやらそれは、来とシアの人柄を確認中だったからであり、信頼できる相手と判断したのか中々の駄々っ子ぶりを発揮している。元々は、とても明るい子なのだろう。

 

来としても信頼してくれるのは悪い気はしないのだが、どっちにしろ公的機関への通報は必要である。なので、「やっ――!!」と全力で不満を表にして、一向に納得しないミュウへの説得を諦めて、抱きかかえるとそのまま保安署に連れて行くことにした。

 

ミュウとしても、窮地を脱して奇跡的に見つけた信頼出来る相手から離れるのはどうしても嫌だったので、保安署への道中、来の髪やら頬やらを盛大に引っ張り引っかき必死の抵抗を試みる。隣におめかしして愛想笑いを浮かべるシアがいなければ、来こそ誘拐犯として通報されていたかもしれない。

 

「やっ――!!」

「止めて、髪を引っ張るのは止めて……」

「あはははは……」

 

髪はボサボサにされ、頬に引っかき傷を作って保安署に到着した来は、目を丸くする保安員に事情を説明した。

 

事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。どうやら相当大きな問題らしく、直ぐに本部からも応援が来るそうで、自分達はお役目御免だろうと思い、一旦様子見をと引き下がろうとした。が……

 

「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」

 

幼女にウルウルと潤んだ瞳で、しかも上目遣いでそんな事を言われて平常心を保てる者はそうそういない。眼前の保安員に任せておけば安全だと根気よく説明するが、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。

 

見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引に来達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、泣く泣く来とシアは保安署を出たのだった。

 

やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来たころ、来とシアは作戦会議をしていた。

 

「……取り敢えず情報収集するしかないですね……」

「……そうだね」

「でも街は広いですから、どこから調べようか迷いますね……」

「なるべく人目の付かないような場所をしらみつぶしに探していくしか……」

 

刹那、後方から爆音が聞こえた。黒煙も上がっている。

 

「ら、来さん。あそこって……」

「不味い、油断した!」

 

黒煙が上がっている場所は、先程の保安署だった。二人は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。恐らく、ミュウを誘拐していた組織が、情報漏洩を防ぐためにミュウごと保安署を爆破したのだろう。

 

焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。しかし、建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。来達が、中に踏み込むと、対応してくれた保安員がうつ伏せに倒れているのを発見する。

 

両腕が折れて、気を失っているようだ。他の職員も同じような感じだ。幸い、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうである。来が、職員達を見ている間、ほかの場所を調べに行ったシアが、焦った表情で戻ってきた。

 

「来さん! ミュウちゃんがいません! それにこんなものが!」

 

シアが手渡してきたのは、一枚の紙。そこにはこう書かれていた。

 

〝海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて××に来い〟

 

「来さん、これって……」

「ああ、どうやら僕の逆鱗に触れてしまったようだ」

 

来の眼差しは、普段からは想像もつかない程、凍りつくようなものになっていた。おそらく、連中は保安署でのミュウと来達のやり取りを何らかの方法で聞いていたのだろう。そして、ミュウが人質として役に立つと判断し、口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族も手に入れてしまおうとでも考えたようだ。

 

「シア」

「はい」

「これよりミュウの奪還に入る。大事な仲間に手を出そうとしているんだ。連中は全員息の根を止めろ」

「了解です」

 

来はかつて、幼子を救えずに死なせてしまったことがあった。その子供の体は傷だらけだった。親の方は原型を留めていなかった。それは一晩中塞ぎ込んでしまうほどのトラウマになった。

 

あの惨劇以降、彼は二度と子供を死なせないと誓った。そして今、また子供が窮地に立たせられている。ここで動かなければ、来は一生後悔し続けるだろう。

 

それに、今回、相手はシアをも奪おうとしている。己の〝大切な仲間〟に手を出そうというのだ。

 

陣羽織姿の来とくノ一姿のシアは刀を携え、愚か者共の指定場所へと音速で駆け出して行った……




小話
剣士である来が錬成を使えたのは先祖に鍛冶師がいるから。


次回 第四十六閃 白髪の死刑執行人(エクセキューショナー)

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  • 無限列車編まで
  • 無限城戦手前
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