「随分と僕のこと、探してくれてたみたいだね。ありがとう」
来の到着から少し遅れて、ウサミミくノ一ことシア、元ウザキャラゴーレムのミレディ、案内役の浩介が合流した。
「「浩介!」」
「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」
〝助けを呼んできた〟という言葉に反応して、光輝達もカトレアもようやく我を取り戻した。そして、改めて来と兎耳の少女、魔導士の女を凝視する。
「シアは負傷者の手当てを、ミレディは彼らの護衛を頼む」
「了解です!」
「お任せを!」
シアは人間離れした跳躍力でハジメの傍に着地し、ミレディは来の隣で戦闘態勢を取る。
「なっ、お前はあの時のウサミミくノ一……!」
「シア・刃卯鱗亜と言います。貴方が南雲ハジメさんですね?」
「あ、ああ。いかにも俺が南雲ハジメだが……その……あの時はドジウサギなんて言って悪かったよ」
「それはもう水に流しましょう。神水、飲めますか?」
ハジメは神水をシアから受け取り、それを飲み干した。すると、体の傷が徐々に癒えていった。
「ありがとな。生憎神水が無かったもんで、お陰で助かった。……ってあれはミレディ・ライセン!? どうしてここに……」
「今はそれどころじゃないよ」
ミレディに気づいたハジメが彼女の名を叫ぶも、ミレディによって制止させられた。
「さてと、反撃させてもらおうか……久し振りだな琉太。
再びカトレアと琉太に向く来。封印されている膵花を一目見て、直ぐに琉太に視線を戻し、凍りつくような冷たい声で話しかける。
「
売り言葉に買い言葉、琉太も負けじと来に言い返す。
「宗家も分家も何も、君と二代目とは
「それを言うんじゃねぇ!!」
来に辻風家二代目当主・辻風無慈との血縁関係を
が、すぐに落ち着いた。
「本当はお前を始末する準備としてこの迷宮に隠された力とやらを手に入れる算段だったが、その前に態々お前の方から来てくれるとはなぁ。これなら復讐もあっさりと終わりそうだ」
「そうかい」
来が舞鱗を背中に持って来て背後からの不可視の斬撃を防いだ。
「なら、手早く終わらせようか」
それだけ言い、来は琉太へと走り出す。琉太は不可視の斬撃を繰り出すも、全て紙一重で躱されてしまう。
不可視の斬撃は、魔力ではなく焔を用いて操作している。その為、魔力感知を持っていようが斬撃そのものと軌道は見えない。
しかし来の眼には、斬撃の軌跡が青い矢印に見えていた。また、斬撃自体も青白く光って見える。そのお陰で、クラスメイト達が避けられなかった斬撃を避けられるのだ。
「チッ、相変わらずすばしっこい奴め。だが……」
琉太が印を結ぶと、来を中心に術陣が展開される。
「これなら避けられまい!! 〝
結界に閉じ込められ、更に脳天から高威力のレーザーが大量に降り注ぐ。これを喰らって生きていられた者は少ない。
豪雨の如くレーザーが降り注ぎ、結界内は土煙で埋め尽くされる。
「弱くなったなぁ。いや、俺が強くなり過ぎたのか。軟弱千万反吐が出るわ」
結界を解除し、生死の確認もせずに琉太は奥へと歩んでいく。
「さて、さっさとカトレアを回収して更に潜るとするか……」
先程からただ立っているだけのカトレアの方に向かった瞬間、目の前に誰かが姿を見せ、首筋に強い圧力を感じた。
「あっ……がっ……」
気管を塞がれて呼吸ができない。
(なんで生きてんだ……分家風情が……!!)
琉太は必死に抵抗するも、無情にも握力は更に増していく。
「不……死身か……お前は……」
琉太の頸を掴んで持ち上げている来は、冷え切った眼差しで琉太を睨む。
「……」
来は一言も話さずに小刀を琉太の心臓に突き刺した。勿論、碧い焔を流して内側から焼いていく。
「ぐ、ぎぎ……がァッ……」
内臓を全て焼き尽くされ、琉太は断末魔を上げることすらできずに絶命した。事切れた死体を、来は興味なしと言わんばかりに投げ捨てる。
琉太の死と同時に、膵花も封印から解き放たれる。力が抜けたように倒れ込む膵花を来は寸でのところで抱きかかえる。そして彼女の耳元で囁く。
「……ただいま。愛しの膵花」
膵花も笑顔で囁く。
「……おかえり。愛しの来君」
来は疲弊し切った膵花を抱えて、ハジメ達の所まで一瞬で下がった。そして、彼らに膵花と眼鱗を預ける。
「膵花の護衛、頼んだ」
「了解」
そうして再び来はカトレアの前まで一瞬で移動した。
「君がらーちゃんが言ってた膵花って人かな? すっごい綺麗だね! 初めまして、私はミレディ・ライセン。ライセン大迷宮の元最終試練さ」
「わ、私は、シア・刃卯鱗亜です。 よろしくお願いします、膵花さん」
「ふふっ、初めまして。シアちゃん、ミレディちゃん。私が来君の妻、辻風膵花です。主人がお世話になってます」
自分のいない所で夫と寝た女達であるが、膵花は来の一途さを誰よりも知っている為に意外にもフレンドリーにシアとミレディに接している。そんな彼女に対するシアとミレディの感想は、『す、凄く大人な対応……』である。
「……おい、ミレディ・ライセン」
だが、それを快く思わない者がいた。ハジメだ。シアは兎も角これまで自分と香織、ユエを散々怒り狂わせたミレディをまだ許せていなかった。
「お前……散々俺達を苦しめておいてそれに飽き足らず、今度は彼奴を寝取ろうっていうのか?」
「寝取ろうだなんて……私がらーちゃんのことが好きなのは認めるけど、私にその気は無いよ。むしろシーちゃんと一緒にすーちゃんを探すらーちゃんの支えになろうとしてたんだから……」
ミレディは来のことを本気で想っていた。だからこそ、彼を幸せにしてあげたいと思ったのだ。たとえそれが、想い人という関係でなくとも。
「ハジメ君、私には判る。ミレディちゃんはとても良い子。だから、彼女のことを許してあげて?」
「……はぁ、膵花さんがそこまで言うなら、取り敢えずアレは水に流してやるか」
流石に親友の妻にミレディのことを許して欲しいだなんて言われれば、ずっと恨む気になれなかった。
「こっちこそ、試練とはいえ、あんな態度を取ってごめん」
これで、ハジメとミレディとの間にあった溝は幾分か埋まった。
「ユエ、ミレディの奴があの時の件で謝ってるが、お前はどうなんだ? ……おーい、どうしたユエ……!?」
先程からユエは全くこちらに反応していなかった。ユエは恐怖で怯えた顔を正面に向けていた。その紅い瞳は、遥か前方で戦う白髪の剣士を捉えていた。
「あ……ああ……」
ユエの脳裏には、自分を討伐寸前まで追い詰めた黒髪の剣士の姿があった。黒髪の剣士の顔つきと、白髪の剣士の顔つきは驚く程よく似ていた。
一方、カトレアの前に立つ来。周りを魔物に囲まれている中、来はカトレアにある提案をする。
「そこの魔人族。今すぐ撤退するならば今回のところは見逃そう。尾っぽを巻いて逃げるか、一矢報いるか、好きな方を選べ」
「……何だって?」
カトレアは思わず聞き返す。魔物に周囲を囲まれているのに、なぜそのようなことを平然と口にできるのか。
「もう一度言う。大人しく逃げれば見逃す。そうでなければ……命の保証はできない」
「……殺れ」
聞き間違いではなかったので、カトレアは表情を消して魔物に命令を下す。虎の子アハトドを一瞬で殺され、焦りを抱いていた。
「成程、そっちを選んだか」
そう呟いた直後、左から飛び掛かったキメラを一刀両断する。そして何もない空間に向かって飛び出す。
「飛龍乗雲」
碧炎の龍が透明化しているキメラとブルタール似の魔物を喰らい尽くした。その後、大きく後ろへ跳躍し、無数の斬撃を放ちながら駆け抜けた。
「龍頭蛇尾」
攻撃力も範囲も桁違いであり、数体の四つ眼の狼、黒猫、キメラ、角の魔物は一瞬で灰燼と化した。
続いて六本足の亀、アブソドが碧い炎を吸収しようと大きく口を開き、変わらない吸引力で炎を吸い上げた。だが、それは魔力ではない為に、体内の魔力を喰い尽くされ、アブソドは内側から焼き尽くされて絶命した。
来は一瞬でカトレアとの間合いを詰め、肩に停まっていた白鴉の頭を掴んで握り潰した。白鴉の頭を容易く握り潰せる程の握力があれば、カトレアの頭を潰すことなど容易かった。
そんなカトレアだが、あり得べからざる化け物の存在に体の震えが止まらない。あれは何だ? なぜあんなものが存在している? どうすればあの化け物から生き残ることができる!? カトレアの頭の中では、そんな思いがぐるぐると渦巻いていた。
光輝達も似たような思考だった。突然姿を見せた碧い炎を纏った刀を振るう剣士の正体が分からず、自分達ですら敵わず、散々苦しめられて来た魔物をいとも容易く屠っているという認識だった。
「何なんだ……彼は一体、何者なんだ!?」
光輝が疲労で思うように動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟く。周りにいる全員、同じことを思っていた。その答えをもたらしたのは、転移陣の護衛に当たっていたが、自らの意志で駆け付けた仲間、浩介だった。
「はは、信じられないだろうけど……あいつは辻風だよ」
「「「「「「は?」」」」」」
浩介の言葉に、光輝達が間の抜けた声を出す。そんな彼らに浩介は肩を竦めながら言う。
「だから、辻風、辻風来だよ。あの日、橋の上で息絶えたはずの辻風だ。実は生き延びてて、迷宮の底からたった一人、自力で這い上がって来たらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ! って俺も思うけど……事実だよ。ステータスプレートも見たし」
「辻風って、え? 辻風が生きていたのか!?」
光輝が驚愕の声を漏らす。そして、他の皆も一斉に、現在進行形で殲滅戦を行っている化け物じみた強さの青年を見つめ直す。
そんな彼らを横目に、ミレディは迫り来る複数の魔物をロックオンする。
「てい!」
刹那、向かって来た魔物達は地面から引き剥がされ、空中で身動きが取れなくなった。
「シーちゃん!」
「はい!!」
ミレディの合図でシアが飛び出した。両手には太刀が握られている。シアは空中でアクロバティックな動きを見せながら、魔物を一体ずつ斬り捨てていく。また奥から魔物が襲来してきたが、そちらは火属性の上位魔法で焼き尽くした。
「ホントに……なんなのさ」
力なく、そんなことを呟いたのはカトレアだ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。魔物の数もほとんど残っておらず、勝敗など一目瞭然。
カトレアは、最後の望み! と逃走のために温存しておいた魔法を来に向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。放たれたの〝落牢〟。それが炸裂し、石化の煙が来を包み込んだ。だが、来が刀を数回振ると、煙は忽ち晴れていった。カトレアはまだ、それ程離れていない。
「はは……どう足掻いてもあんたからは逃げられないのかい」
あの上位魔法をいとも容易く掻き消した目の前の男からは、逃げられる気がしなかった。恐怖で一歩も動けないカトレアに、来はゆっくりと歩み寄って来る。
「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」
「生まれた時は人間だったさ。今は違うけど」
そう言って来は舞鱗の切先をカトレアに向けた。眼前に突きつけられた死に対して、カトレアは死期を悟ったのか、澄んだ眼差しを向ける。
「君がここに来た理由、それはここの完全攻略だろう? 魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたから。そして、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いている」
「なっ、どうして……まさか……」
「そのまさかだよ。今君の思考と記憶は僕に筒抜けだし、何よりここの攻略者だからね」
「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」
「あの方……魔物はその攻略者からの賜り物というわけか……」
魔人側の状況に少し興味があったので思考を読み取って調べた。必要な情報を手に入れたので、後はどうするか。
「最期に何か、言い残すことはあるか?」
「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」
「そうかい。ならその男に伝えておくよ。『君は最期まで立派な戦士だった』ってね。名前は?」
一応名前を聞いておく。
「……カトレア。恋人の名前は……ミハイルだ」
「……次に生まれ変わる時、想い人と一緒に争いの無い世界で平穏に暮らせますように」
これで互いに話すことはもうない。来は少し下がり、舞鱗を構えて碧い炎を纏う。
ところが、いざ踏み出すというところで制止がかかった。
「待て! 待つんだ、辻風! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」
「……あのなぁ、彼女は戦争中の相手だぞ」
光輝はふらつきながらもどうにか立ち上がり、声を張り上げて言う。
「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。辻風も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」
(……こいつ、戦争の本質も知らんのか? まぁ僕らは全く別の勢力なんだけど)
光輝の助命嘆願を無視し、来は、「せめて楽に死なせてあげるよ」と呟き、技を繰り出した。
碧い炎が龍を形作り、カトレアに迫り来る。カトレアは来るであろう一瞬の痛みに備えて目を閉じた。が、炎は突然消失し、音も無くすれ違った。
「龍播狐踞」
この技を受けた者は、斬られたことに気づかない。本来は不意打ちに用いられる技だが、少しばかりの慈悲で痛みを与えることなく死へと誘う為に使った。全身から血飛沫が舞っているはずなのに、カトレアは痛みを一切感じていなかった。感じるのは意識が薄れていく感覚のみ。
彼女は最後まで、全く痛みを覚えることなく、ゆっくりとその自我を閉じていった。
その後、カトレアの亡骸はその場で燃やされた。新たな肉体を与えられて生まれ変わるようにと願って、来は手を合わせた。
辺りはしばらく静寂に包まれた。クラスメイト達は、今更だと頭では分かっていても同じクラスメイトが目の前で躊躇いなく人を殺した光景に息を呑み、戸惑ったようにただ佇んでいた。
ハジメとて、例外ではなかった。彼は人を痛めつけたことはあったが、命を奪ったことはなかった。親友と生きて再び出会えるなら、何も躊躇わないと決めていたはずなのに、いざ人が死ぬ場面を見ると、体が震えていう事を聞かなかった。香織と雫も同じだった。
ショックを受けていないのは膵花、シア、ミレディの三人だけだった。彼女達は目の前で来が人を殺めた場面を目にしたことがあるし、彼女達もまた、人を殺めたことがあった。
空間を満たす静寂を打ち破るように、感情を押し殺した光輝の声が響いた。
「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」
光輝は歩み寄って来る来を鋭い目で睨みつけた。が、その来はというと、物ともしていなかった。
膵花がゆっくりと来に歩み寄る。来も膵花へと歩み寄っていく。そうして二人が抱き合う距離まで近づこうとした所で、突然魔法が飛んできた。かなり高威力の上位魔法だ。だが、それを喰らってもなお、二人は全くの無傷だった。
先程魔法を放った人物、それは…
「いきなり何するんだよ……」
「……ユエ!!」
ユエは息を荒げながら、来を睨みつけていた。続けてもう一発撃とうとした瞬間、ハジメが飛びついて発射を阻止した。
「……離して!」
ユエは激しく抵抗するが、ハジメは離さない。
「ユエ! どうして彼奴を……来に魔法を撃ったんだよ……!! 答えてくれよ!!」
目の前で親友に向かって魔法を撃ったユエを、流石のハジメも黙って見過ごすことはできなかった。何故、来に向かって撃ったのかを問い詰めるハジメ。
「ユエ!!」
何度も自分の名を叫ぶハジメに、ユエは震えた声で言う。
「……何故今になって甦ったッ……!!
そしてユエが口にした人物名。来と同じ苗字であることに全員が驚く。
「えっ……!?」
「辻風無慈って……あの
龍太郎が無慈の二つ名を言う。
「そ、それって……」
今度は鈴が反応する。
「確か、三百年前に活躍したっていう人族の英雄だよね……!?」
「そんなすげぇのが、辻風の先祖なのか……?」
ユエの目には、来が無慈にしか見えていなかった。
「あの時の恨み……ここで晴らす!!」
そしてユエはハジメのホルダーからシュラークを取り出して飛び出した。
「おいユエ!!」
「やぁぁぁぁ!!!!」
ユエはシュラークの引き金を何度も引く。放たれた銃弾は、凄まじい速度で来に迫る。だが、それを来は全て素手で掴み取った。手を開けば、銃弾がパラパラと地面に落ちた。
「〝蒼龍〟」
銃弾は通用しないと判断し、ユエは火属性の上位魔法を撃つ。蒼い炎の龍は一直線に来へと向かう。だが、来が弧を描くように舞鱗を振ると、炎は刀身に吸い込まれていく。
「……魔法を、喰った!?」
七星刀は共通して、魔力を吸収する素材で作られている。よって、魔力を吸収して相手の魔法を無力化できる。逆に自分の魔力を流して放出することも可能。
ユエは続けて高威力の魔法を連発するも全て無力化されてしまった。そうして何度も撃ち続けているうちに、先にユエの魔力が底をついてしまった。
「くっ……はぁ……はぁ……」
疲労が積み重なり、地面に両手をついて肩で息をするユエ。今の彼女にはもう、魔法を撃つ程の魔力は残されていなかった。
「どうやら……私はここまでみたい……さあ、一思いに殺って」
ユエは諦めたのか、両手を前に広げて、自らの頸を差し出した。
「ユエ……取り敢えず落ち着け。一体どうしたんだ?」
慌ててハジメがユエを制止する。来は刀を納め、手を広げて攻撃する意思は無いことを示す。それを見たユエは、意外とも言うべき表情をする。
「……無慈……じゃない……?」
「あぁ、彼奴はお前の言う無慈じゃない。苗字は一緒だから多分その子孫だとは思うがな」
取り敢えずユエを落ち着かせることができた。しかしユエは未だに来の方をジッと見ていた。
「おい、辻風。お前には色々と聞きたいことが……」
来に色々と問い詰めたいことがあった光輝の話を遮って、ハジメが来に話しかけた。
「お前が来てなかったら、今頃俺達全員あの世に逝ってた。俺達のこと、助けてくれてありがとな」
「四ヶ月で、随分と変わったな。ハジメ」
「まぁ、色々とあってな……それより、あの碧い炎は何だ? お前の適正、雷だったはずだろ?」
「ああ、あれは魔法に似ているけど少し違う。というか水と油。魔力に反応して燃え上がる生体エネルギーみたいなものだ」
ちなみに、膵花も同じような炎を扱えるのだが、そちらは色が朱い。
「辻風、なぜ、かの……」
光輝が再び口を開くも、今度は膵花に遮られる。
「私達のことを……助けてくれてありがとう。そして、戻って来てくれて……ありがとう」
膵花は来をジッと見つめている。藍色の瞳は潤んでいた。
今にも涙を零しそうな膵花を、来は何も言わないで静かに抱き寄せた。四ヶ月間、ずっと感じたかった温もりがそこにあった。彼女の豊満な胸は、夫への想いで埋め尽くされた。そして、涙が頬を伝って流れた。その表情は、とても満足そうにしていた。
シアとミレディは、静かに抱き合う二人に生温かい眼差しを向けた。
「……よかったね、らーちゃん」
と、ミレディは小さな声で呟いた。他のクラスメイトも、一部を除き生温かい目で二人を見ていた。
しかし、ここまで来てもなお、空気が読めない人間がいた。
「……ふぅ、膵花は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、辻風は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、辻風から離れた方がいい」
その一言で、来と膵花のこめかみに青筋が浮かび上がった。
「命の恩人に向かって言うことがそれかよ」
だが、二人が何かを言うよりも先に、ハジメが口を開いた。
「ハ……南雲君の言う通りよ。光輝、彼は私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう」
雫もハジメに加勢する。この場において、光輝の発言は筋違いだった。しかし、光輝は訂正するどころか更に反論してしまう。
「彼女は既に戦意喪失していたんだ。殺す必要なんて無かったんだ。辻風のしたことは許しがたいことだ」
「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」
議論は更に白熱する。他のクラスメイトはただ慌てふためくことしかできなかった。龍太郎でさえ、流石に今回は光輝を宥めようとしている。
そんな彼らに、冷たい声を浴びせる者が一人。
「……はぁ、何下らない言い争いしてんのさ。もう敵は片付けたからさっさと出るよ。らーちゃん、シーちゃん、すーちゃん。行こ?」
その冷たい声は、辺りを瞬く間に静寂で包み込んだ。
光輝達にはそれなりに力があることをミレディも認めているのだが、性格に難があったのであまり関わりたくないと思った。そして、そのような輩を召喚した邪神に対し更に怒りを覚えた。
ミレディは来と膵花、シアの手を引いてこの場を去ろうとした。しかし、ここで待ったが掛かった。
「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。辻風の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ? 一体、俺達の話の何がくだらないって言うんだい?」
光輝が再び筋違いな発言をする。それにミレディは答える。
「少しだけ指摘させて貰うよ」
「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言うのか? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」
光輝は少し眉を顰めるが、すぐに優し気な表情で話す。
「戦争
「いきなり何を……」
「君達は戦争してるんでしょ? あの魔人族の女は君達の敵だよ? なのに君は殺すことを躊躇った。戦場では一瞬の気の迷いが命取りになる。教官とかに習わなかったの? そして、君がらーちゃんを責めたのは魔人族を殺したからじゃない。人が死ぬのを見たくなかったから。だから君は、敢えて
神に操られた人々に対して手を上げることを躊躇ったばかりに、碌に抵抗もできずに死んでしまった仲間達を、ミレディは何人も見て来た。自分も、その一人だった。もうこれ以上それで人が死ぬのを見たくなかった。故に、ミレディは光輝に対して言う。口では下らないと言っていたが、心中では性格さえ直せばどうにかなるだろうと考えていた。
「だが、辻風が無抵抗の人を殺したのは事実だ! 人殺しをしたんだ! 悪いに決まってるだろう!」
「それだったら王国の騎士団全員人殺しになるけど? 彼らにも同じ事言える?」
「そ、それは……」
「君のその悪癖、早く直した方がいいよ。さもないと…………死ぬよ?」
ミレディに圧されて、光輝はそれ以上何も言えなかった。今の彼女には、ライセン大迷宮でのウザさは欠片も残っていなかった。
そしてミレディは来と膵花、シアを連れて地上を目指した。他のクラスメイトも続々と彼らに付いて行った……
次回 第五十一陣 雷、澄水と共に
外伝作品はどこまで進めて欲しいですか?
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アニメ26話まで
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無限列車編まで
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無限城戦手前
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完結後