赤黒く光る魔法陣は脈打つように音を響かせる。直径は三十メートルで、構成された式もベヒモスのものよりも複雑で精密なものとなっている。
来は決然とした表情をしている。もう、後戻りはできない。
「ここで戦わずして、どうやってここを出るんだ……大丈夫、俺ならやれる! 今までたくさんの魔物を葬って来たじゃないか……だからやれる!」
魔法陣がより一層輝きを増し、弾けるように光を放った。あまりの光の強さに腕をかざして目を覆う。
光が収まり、そこに一体の魔物が現れる。
全長三十メートル以上、六つの頭に長い頸、鋭い牙を生やし、赤黒い眼で来を睨みつけているこの化け物の姿は正に、神話に登場する伝説の怪物、ヒュドラだった。
不思議な音色の絶叫を上げながら六対の眼光が来を射抜く。常人ならそれだけで心臓を止めてしまうだろう。だが来は臆することなく、ヒュドラに飛び掛かる。
ヒュドラの赤い頭が火を噴いた。来はそれを避けて神速で飛び出し、得意の抜刀術で赤い頭を斬り飛ばした。しかし直後、白い頭が叫ぶと斬り飛ばされた赤い頭が再生していく。
ここまで判った色ごとの能力
赤:火炎放射
青:不明
黄:不明
緑:不明
白:回復
黒:不明
「まずは白から斬り飛ばすか……」
青い頭が散弾のように氷の礫を吐き出す。来はそれを折れた刀で全て打ち落とす。
ここまで判った色ごとの能力
赤:火炎放射
青:氷礫
黄:不明
緑:不明
白:回復
黒:不明
「一体俺は何者なんだ……? あの数の氷の礫が止まって見える……」
そして飛び出し、白い頭に狙いを定める。
「これなら……斬れる!!」
しかし刀が白い頭を刎ね飛ばす直前で、黄色い頭が身代わりになる。折れた刀は白い頭の代わりに黄色い頭を斬り飛ばした。白い頭が直ぐに再生させる。
「……ちっ、盾役がいたか……攻撃、回復、防御、全く隙が無い……」
黄色い頭が吠えると、来は地面から突き出た突起に突き飛ばされる。
ここまで判った色ごとの能力
赤:火炎放射
青:氷礫
黄:魔力操作
緑:不明
白:回復
黒:不明
「……くッ!! ……近寄る隙も無い……」
迂闊に近づけずに動けないままの来を黒い頭が一睨みする。
「あぐっ!!」
来を激痛と飢餓感、頭痛で痛めつけ始めた。
ここまで判った色ごとの能力
赤:火炎放射
青:氷礫
黄:魔力操作
緑:不明
白:回復
黒:精神攻撃
「ああっ!! ぐっ……あ……頭がぁッ……」
来が精神攻撃で痛めつけられている隙に、緑の頭が狙いを定める。
「……成程……俺が今まで受けてきた苦しみを全部与えるのか……だが……俺にはもうそんなものは通用しないんだよ!!」
来は気力で精神攻撃を断ち切り、再び刀を抜いた。今度は緑の頭が風刃を飛ばす。来は〝縮地〟で全て避ける。
ここまで判った色ごとの能力
赤:火炎放射
青:氷礫
黄:魔力操作
緑:風刃
白:回復
黒:精神攻撃
(彼奴の攻撃パターンがだんだん読めてきたぞ……)
作戦を思いついた来は手裏剣を取り出し、それぞればらばらの方向に投げた。そのうちの一つは緑の頸に刺さった。
赤い頭が口を開く。
そして炎を吐く。来は右に避けた。そこへ青い頭が待ち構える。
氷の礫を吐き出す前に上へ跳ぶ。そこへ黄色い頭が肥大化させ、叩き落そうとする。
来は黄色い頭の顎を蹴り、青い頭に着地する。黄色い頭が来を叩き潰す前に来は直ぐに飛び退いた。青い頭の目に手裏剣が刺さり、悶えているうちに黄色い頭は誤って青い頭を潰してしまう。黄色い頭はしまった、と言わんばかりに目を細めた。
すぐさま白い頭が回復させようとするが、軌道を曲げた手裏剣に気を取られ、その隙に黄色い頸を駆け上る来が神速で飛び出し、白い頭を斬り飛ばす。これでもうヒュドラは頸を再生できない。
壁を蹴って緑の頭に狙いを定める。
緑の頭が風刃の嵐で来を切り裂こうとした。それを来は〝風爪〟と元々持っていた雷属性の魔法を組み合わせた電撃刃で打ち消した。その影で黒い頭がもう一度来の精神に攻撃を仕掛けようとしたが、首筋に手裏剣が刺さり、動きを一瞬止めた。
来はその隙に緑の頭、そして黒の頭に横一文字に斬り込みを入れる。残りは黄色と赤のみ。
「この勝負はぁぁぁぁぁッ!!」
赤い首に回収した手裏剣を突き刺す。そして残った黄色い頭目掛けて飛び出す。
「俺が貰ったぁぁぁぁぁツ!!」
来は空中で一回転し、まるで水車のように円を描きながら、黄色い首を斬り落とした。そして着地と同時に掛け声を放つ。
「起爆!!」
白と黄色以外の頸が起き上がった瞬間、刺さった手裏剣が爆発する。四つの頸が高威力の爆発に怯んだ隙に、来は神速で飛び出し、横に回転しながら頸を一つ一つ斬り落としていった。全ての頸を失ったヒュドラの身体は大きく仰け反った後、地面に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……勝てた……のか……?」
来は息を荒げながら地面にへばり込んだ。記憶を失っても、状況判断力と戦闘力は健在だ。
来はヒュドラの身体を見た。あれ程の大きさの魔物をたった一人で倒したのだ。
だが……
……勝負は
ヒュドラの身体がビクッと痙攣した後、胴体部分から七本目の首がせり出してきた。
「なっ……何……!?」
銀色に輝く頭は予備動作もなくいきなり極光を放った。来は突然の奇襲に対応が遅れ、衝撃波に巻き込まれてしまう。
「……ッ!!」
来は頭を強く打ちつけ、意識を失ってしまった。銀色の頭は遠くからジッと横たわる来を睨みつけていた。
ヒュドラは再び極光を放とうと口を大きく開いた。チャージが終わると同時に、来の脚がほんの少しだけ動いた。
ヒュドラは極光を来目掛けて放った。来は成す術なく極光に消し飛ばされた……かのように思えたが…
着弾地点に来が目を閉じたまま立っていた。しかし一部は胸部に被弾してしまったようで、心臓が剥き出しになっている。そして吐血してしまった。
来は身体を蝕まれながらもなお、ヒュドラに向かってこう言い放った。
「貴様ごときがこの僕に勝とうだなんて……四百年早いんだよ」
ヒュドラは苛立ち、今度は無数の光弾をガトリングのごとく連続で放った。
「【抜刀術・鳴ノ舞 〝紫電一閃〟】!!」
来は居合の構えを取り、雷を纏う。そして神速でヒュドラ目掛けて一直線に飛び出した。光弾の一部が被弾し、身体のあちこちが徐々に溶かされていく。
「【二連】!!」
ヒュドラの一歩手前で急停止し、ヒュドラの頸目掛けて真上に跳び上がった。ヒュドラは突然の方向転換に驚き、動きを一瞬止めた。その一瞬が、命取りになるとも知らずに。
跳び上がった来はまるでロケット花火のように打ちあがり、ヒュドラの最後の頸を斬り飛ばした。しかし、最後の頸は今までの六つの頸より遥かに硬かったため、刀が砕けてしまった。
真上に大きく跳んだ来は体勢を崩し、力なく落ちて行った。
と同時に、不安を駆り立てるような音が響いた。
七つの頸を失ったはずのヒュドラは、メキメキと生々しい音を立てながら立ち上がり、頸を再生していった。
ヒュドラ戦の第三ラウンドが、今始まる。
「ほぅ、まだ戦うのか。中々やるようだな」
刀を失った剣士がヒュドラに向かって嗤う。
「シィァァァァァ」
ヒュドラも七つの頸で来を睨みつける。
「術陣展開」
苦無を両手に、両腕を大きく横に振ると、来を中心に七芒星の陣が展開する。雷があちこちに落ちる。
「妖術 霹靂乱舞」
神速でヒュドラに飛び掛かる。ヒュドラは七種類の攻撃で迎撃するも、全て躱され、苦無で滅多切りにされる。苦無だけでは頸一つ落とすことすらできない。だが、来に纏わりつく雷はヒュドラの傷口から体内に入り、痛めつける。
そしてヒュドラの心臓に苦無を突き刺す。突き刺した瞬間、ヒュドラの全身が大きく罅割れ、稲妻を漏らしながら崩壊していく。
「ギィァァァァァァァッ!!!」
ヒュドラは断末魔を上げながら、上半身が崩れていき、塵すら残らず消えていく。残る下半身も同じ運命を辿った。
「そうだ……あの化け物は……」
目を醒ました来は直ぐにヒュドラの方を向いた。だが、そこにヒュドラの姿はなかった。
「今度こそ……勝った……あぐっ!!」
また吐血した。極光の毒素で身体を蝕まれていた。自己再生のスピードよりも、毒素が肉体を破壊するスピードが上回っているため、斬り落とす前よりもダメージを負ってしまっている。
来は急いで神水を飲んだ。神水による回復スピードで自己再生のスピードが加速する。
「……扉の向こうに……何があるんだ?」
来は毒素が与える激しい痛みに耐えながら、巨大な両開きの扉を押し開いた。
「地獄のような場所の中に……極楽か……ああ、ここで死ねるのなら……それはそれでいいかもな……」
ふらふらと生まれたての子鹿のように扉の向こうを彷徨い歩き、住居の前で倒れてしまった……
解説
本当は前回でするべきでしたが、忘れてました。申し訳ございません。
龍化状態でのステータス表示について
連載当初は書き忘れてただけでしたが、一度龍化を発動させないと表示されないという設定を後付けしました。
次回
第九閃 一時の休息
オリ主ヒロインにミレディ・ライセンを追加しようと思っていますが、入れてもいいと思いますか?
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入れてもいい(むしろ入れてくれ)
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原作重視(入れるな)
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死亡回避ならOK