恐れ多くも冨岡末代   作:数多 命

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出来てしまったんや・・・・。


巻の三

パチパチと木々の悲鳴を飲み込みながら、火の手が上がっている。

黒々とした煙は天高く昇り、もはや騒ぎを隠すこと叶わない。

否、そもそもそんな必要はないと、一人笑う。

 

「待て!止まれ!」

「この先には、ぐああ!」

 

家族は逃がした、使用人も逃がした。

わずかばかりの手勢が駆けつけてくれたのは、嬉しいと同時に申し訳なく思う。

しかし、それで良い。

 

「――――ッ」

 

襖が、開け放たれる。

佇んでいたのは、壮年の男。

あまりの怒りにつくろえぬ様を見て、安堵を覚えたので。

 

「――――お待ちしておりました」

 

堂々と、勝利宣言を突き付けてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

特異災害対策機動部二課。

ノイズに対抗し得る、世界で唯一の装備『シンフォギア』を所有する日本政府の組織。

シンフォギアの類稀なる希少性から、存在をひた隠しにされている。

その指令室では、人々の噂の的『侍狐』の画像や映像を前に考察がされていたのだった。

鋭く一閃する姿、荒々しく乱舞する姿。

他にも上空から急襲する姿や、爆速で飛び出す姿も確認されている。

 

「それにしても、興味深いと言わざるを得ないわね」

 

それらを眺めて言葉を零したのは、櫻井了子。

 

「どう見てもただの服に刀なのに、一体どんな絡繰りがあるのかしら」

 

シンフォギアの開発者でもある身として、歌を介さずノイズへ干渉できる彼は見逃せないらしい。

口元に手を当てて、まじまじと映像を見ていた。

 

「私としては、彼が人との交戦を徹底的に避けているのが気がかりですな」

 

次に口を開いたのは、オペレーターの松田庄司。

元々海上自衛隊に所属していたが、二課が設立されるにあたって引き抜かれた大ベテランだ。

定年が近づいている現在は、最近入った新人に才を見出し、後進として教育している。

 

「特に、うちの『姫様』二人に対しては、察知が早い」

 

そう、微笑まし気に目をやった先には。

申し訳なさそうに委縮する少女と、むすっとモニターを睨む少女がいた。

 

「す、すみません。未知のノイズ討伐者の確保は急務、なのに私達は・・・・」

 

委縮しているのは『風鳴翼』、シンフォギアの基である聖遺物を、歌で最初に起動させた。

むすっとしているもう一人は『天羽奏』、史上二人目のシンフォギア装者であり、翼の相棒を務めている。

 

「あたしはあいつの態度が気に入らないね。なんで逃げるんだ?何もやましいことがないなら、せめて話を聞いてくれたっていいじゃないか」

 

納得がいかないとばかりに腕を組み、そう不満を漏らす奏。

どうやら先日の逃げっぷりを根に持っているらしい。

――――一見浅慮に見える意見だが。

彼女はそもそも、『侍狐』の真意を未だ知らないし。

肝心の『侍狐』も、翼や奏を徹底的に避けているという事実もある。

ゆえに、無理からぬ思いを抱いているのだった。

何はともあれ、やっと尻尾を掴んだところという事情もある。

分からなくもないと、大人達は苦笑い。

 

「とはいえ、彼の正体が気になるのも事実よねぇ。弦十郎君はどう思う?」

 

了子が話を振った先、組織の司令官である『風鳴弦十郎』は、ふむと一考して。

 

「難しい、と言う他ないな。せめて敵か味方かがはっきりすればいいのだが・・・・」

「そうねぇ、善人の振りして懐に潜り込んで、首元掻っ捌かれる・・・・なんてのもあり得るわけだし」

 

やはり、立場がはっきりしないことがネックになっている。

弦十郎共々、悩まし気に額を叩いた了子が、物憂げにため息をついていると。

 

「あの!お話中の所失礼します!」

「松田さん、頼まれていたもの持ってきましたよ」

「おお、早いな」

 

二人の若者が入ってきた。

片方は男性で、片方は女性。

どちらも年は同じくらいか。

 

「松田さん、彼らが?」

「ああ、紹介しておきましょう。俺の後釜についてもらおうと考えている、『藤尭』と『友里』だ」

「は、初めまして!友里あおいです!」

「同じく初めまして、藤尭朔也っす!」

 

弦十郎の質問に松田が頷けば、緊張気味に自己紹介する二人。

どうやらそうそうたる面々を前に緊張しているようで、若干声が上ずっていた。

 

「それで、何を持ってきてくれたんだ?」

「あ、はい!松田さんに頼まれて、過去の監視カメラのデータを洗い直していました!」

「主に、『侍狐』の出現が報告された地域を中心に、半年分あります」

 

『よくやったな』と松田に褒められる横で、弦十郎の質問に答える二人はてきぱき作業して。

モニターに新たな画像を映し出していった。

 

「おお、こんなに」

「結構意欲的に活動していたのね」

「そりゃ、半年もあればこれだけは――――ッ!?」

 

それぞれが感心の声を上げる中、弦十郎だけが目を見開いて言葉をなくした。

ただ事ではない雰囲気に、思わず全員が注目してしまう。

弦十郎が注視しているのは、とある画像。

着の身着のままで逃げてきたらしい子どもに、トレードマークの羽織をかけているところだった。

ちょうど向いている背中には、大きく『滅』の白文字が刻まれていて。

 

「・・・・司令?」

「どうしたんだよ、ダンナ」

 

翼と奏の声で、やっと我に返ったようだった。

そして注目されていることにも気づいて、ぼんやりしたのを照れくさそうに恥ずかしがってから。

 

「・・・・そうだなぁ、お前達には話しておくべきだろうなぁ」

 

顎を撫でながら、呟いた。

 

「なぁに、弦十郎君?もしかして心当たりがあるの?」

「ああ、いや、彼個人は知らないのだが・・・・縁がある組織には、多少」

「組織?」

 

依然、モニターの『滅』の字を見据えながら、弦十郎は了子の問いを肯定する。

 

「特に翼、お前には話しておくべきだろう」

「私、ですか?」

「ああ・・・・『身内の恥』とも呼べる、忌むべき出来事をな」

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「わっしょい」

 

うっま・・・・うんまああぁぁ・・・・!

竈門ベーカリーの新作、『ごろっとさつまいもパン』まじうまぁ・・・・。

これは馬になっちゃうウマさ・・・・。

小麦の素朴さと、さつまいものなめらかさの二重の甘みがたまらん・・・・。

ふられた黒ゴマがまたいいアクセントになってて・・・・はあぁ~、うめ・・・・うめ・・・・。

 

「ふふふ、そう嬉しそうに食べてもらうと、開発した甲斐があったわ」

琴禰(ことね)さん、はい、おいしいです」

 

おいしいという気持ちがあんまりにもあふれ出していたのか、話しかけてくる人が。

この人は『竈門琴禰』さん、竈門ベーカリーの現店長で、五人姉弟の一番上でもある。

 

「いつもごひいきありがとうね、静勇君」

「いえ、ここのパンがおいしいのは事実なので」

 

そのままもっきゅもっきゅ頬張れば、微笑まし気に見られた。

間もなく店の奥に戻っていった琴禰さん。

頑張ってる背中を見送ってから、俺も食べ終えて帰宅。

 

「・・・・」

 

心ばかし厳かな気持で袖に手を通す。

羽織もはおって、日輪刀を差して。

お面もかぶって。

――――さあ、今日も人助けだ。

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