苦節17年。私は士官学校になんとか合格した。学校に入学するにあたっては事前準備が必要になる。学用品を買ったりとか、服のサイズ測定とか。これでようやくクソッタレな故郷からおさらばできるぜ。というわけで、私は故郷を離れサイド3の首都であるズム・シティに来ていた。
自分語りになるが、私の半生はかなーりハードモードだった。
まず出身地。
衰退した場所の産業はどうなるかって? まっとうな産業は生き残った採掘業と加工業くらいである。それでは人は養えず、アングラな産業が蔓延した。麻薬プラントだったり海賊だったり人身売買だったりね。
治安がロアナプラなアステロイドで私は育った。両親は私が幼いころに蒸発し、以降は孤児院暮らしである。そしてなんとこの孤児院、人身売買屋さんだったのだ。出荷されるのが嫌な私は、頑張って優秀さをアピールして士官学校への切符を手に入れたのだった。
この孤児院、機関とか実験体とか、サイコミュとかなんとかのモルモット養成所だったらしい。ジオン軍とズブズブの人身売買組織である。コワイ。
アステロイドでいろいろあったけど、まあ生き延びたのでヨシ。シティライフを満喫してやるぜ。と思ってオシャレなカフェに入り、端末を弄っていたのだが、その優雅なティータイムを銃声がぶち壊した。
悲鳴と怒号、そして
店内に押し入ってきた武装集団は三人だけのよう。意外と少ない。目的は不明だ。強盗だろうか?
「ザビ家の独裁を許すな! 市民諸君! 目を覚ませ! 君たちはザビ家に騙されている。ザビ家は事実上のクーデターによって政権を奪取した。自由と民主主義の敵だ。ザビ家を打倒しよう」
声高な叫び。まったくその通りだ。君たちの主張は正しい。もっとも銃を持っていなければだが。一般人を巻き込んでいる時点でテロリストの主張に耳を貸す気はなくなった。彼らの主張の正当性は歴史が証明するだろう。何せ数年後にはジオンは戦争やら、コロニー落としやら、ジェノサイドやらをするのだから。
「そこのお前! そうだ。そこの男だ。両手を挙げてゆっくり出てこい」
テロリストは、パニックになって私の後ろに逃げてきた青年に目を付けたらしい。拳銃を構えている。引き金に指がかかっている。青年を殺そうと考えているのだろうか。というか、私も射線に入っている。銃を向けられるのは不愉快だ。
「セーフティは外れてないし、構え方も適当。人を殺したこと無いでしょ?」
テロリストの腕を折り、銃を奪う、セーフティを外し、即座に彼の頭を撃つ。残り二人もそのまま撃つ。彼らは素人だったようで碌な反撃もしてこなかった。
「だ、大丈夫だった?」
私の後ろで震えていた青年には、私を心配する余裕が生まれたらしい。お優しいことで。いかにも上流階級って感じで羨ましい。転生ガチャを交換してほしかった。
「アステロイドじゃ日常茶飯事。ズムシティの坊ちゃんにはスリリングだったかもしれないけど」
「それより死体には驚かないの?」
青年は、ひィって感じの声を出して死体から飛びのいた。貰おうかなと思って拳銃を弄っていると、駆けつけてきたであろう警察が私に小銃を向けている。
「お勤め、ご苦労様です」
銃をひょいと捨てると。警察は私を捕まえた。おかしい。理不尽である。
「だから私はテロリストじゃないって言ってるでしょ!」
「嘘をつけ。貴様は士官学校に潜入しようとしているテロリストだろう!」
「私は、ジオン市民権を持つ、れっきとした士官学校の学生です! ケプラーの孤児院出身ですけど」
「ケプラー。聞いたこともない。どこの田舎町だ? お前の学籍は削除されるだろうし、刑務所にぶち込まれるんだよ。テロリストが」
刑事は、私の話を全然聞いてくれなかった。男三人を撃ち殺しただけじゃないか。正当防衛だ。治安がロアナプラなアステロイドなら、なあなあで終わっているぞ。
「さあ、吐け。テロリストめ。誰の指示でやった?」
「正当防衛って言ってんじゃん」
「黙れェ!!」
ケプラー市警だったらもう暴力振るってるっていうのに、ズム・シティの警察はお行儀がいい。言葉だけだし。このまま拘置所暮らしってのもいいかもしれない。いや、良くはないか。
「ちょっと、困ったなぁ」
うるさい刑事さんを無視しながら独り言を呟いていると、取調室の扉が開いた。入ってきたのはお役人って感じの黒いスーツを着たおじさんたち。そして、豪奢な服を着た青年だった。
青年の顔に見覚えがあるような気がする。はて、誰だったか。
「ガルマ・ザビだ。彼女、アイン・ルイン士官学校生の身分は僕が保証する」
「なっ、そ、それは」
「彼女は僕の命を救った恩人だ」
「し、しかし」
「僕がいいと言っているんだ」
「……はっ」
刑事は、不承不承、不本意。といった感情を露わにした。だが、ガルマひいてはザビ家には逆らえないと判断したようである。私を留置所から釈放した。
どうも、カフェで私の後ろに隠れてテロリストに怯えていたのは、ガルマだったらしい。少し変装していたようで全く気が付かなかった。
こうなると、件のテロリストへの見方も変わる。彼らは非常に優秀だったのだ。情報提供者が内部にいたのかもしれないし、ザビ家に踊らされた可能性もあるがザビ家の一人を殺せる一歩手前にいた。
ちょっとテロリストに感心してしまったが、後に私はこの事件が国内メディアへの統制を強めるきっかけとしてギレンが自作自演したものだと知ることになる。まあ、うさん臭かったし、私にその話をしてくれた友人はア・バオア・クーで戦死したので真相はわからない。
「やあ、アイン。事件以来だね」
「ガルマ。あー……ガルマさま?」
「ガルマでいい。恩人の君に、畏まられても困る。アイン、君は僕の友人なんだ。もっと堂々としていてくれ」
「わかった。ガルマ。学校でもよろしく」
事件後も二、三回会ったし、なんとなくガルマが私に友情だか親愛だが、はたまた恋愛感情だかを抱いていることは知っていた。しかし、これ結構面倒くさい立場になってしまったな。
ガルマの取り巻きは私を排除したいけど、出来ない感じだし一般学生からの視線が結構痛い。特別視されるというほどではないが、腫れ物に触れるように扱われている感じだ。
原作知識でガルマが死ぬことは知っているし、一年戦争後のジオン共和国でのザビ家寄り勢力の末路も知っている。なので、このポジションになる気はサラサラ無かったのだが、どうしてこうなった。
私の脳内に有ったプランはこうだった。
まず、治安が終わっているアステロイドから逃げる。
次に、一年戦争で強制徴兵されないために士官学校に入学し、派閥とは無関係なままそれなりに良いハンモックナンバーを取る。
そして、後方勤務で一年戦争終了。戦後は、軍官僚として平和に過ごす。
地味目のモブとして生きていくつもりだったのだが、ガルマのせいで道は潰えそうである。まあでも、アステロイドよりはマシなので、良しとするしか無いだろう。