私の監視役は、リノだった。多分、立候補したのだろう。なんやかんやで、リノと私は仲が良い。それから、ゼナ・ミアも居る。
何人か私に同調し、反対した人間も居たので彼女たちの監視役も必要だったのだろう。
「アイン、教えてくれないか? どうしてお前は上に今回の蜂起のことをチクらなかったんだ?」
「んー。ザビ家と揉めたくないからだね。ガルマを止めたとしても禍根が残るだろ? それに犠牲になる市民に同情しないと言えばウソになる」
「噓つけ小惑星女。お前にサイド3への帰属意識なんて無いだろ?」
「最悪な形での暴走を避けたかったからだな。この蜂起は良くない結果をムンゾにもたらす。でも、予想できる上で最悪な結果にはならないだろう」
「日和見主義者め」
「それを言うなら君もだろう」
まあ、そういうことだ。校長であるドズル・ザビに計画を伝え、この蜂起を頓挫させるという手段もあったかもしれない。しかし、それをやったら違う形での爆発が起きるかもしれない。ガルマ・ザビという政治的アイコンが絡む暁の蜂起は政治的に利用しやすい案件ではあるのだ。
というか、ガルマの恨みを買うわ。暗殺対象になるとか面倒だからやめてくれ。ギレンの長い手に掛かるのは嫌だ。
「さて、リノ君と二人きりだし、私の方からも聞きたいことがあるんだよね。シャア・アズナブル。彼の出身地はテキサスコロニーだ。リノ君、奇しくも君と同じ場所なわけだ。でも君は彼とそこまで親しい様子もない。士官学校以前のシャアの様子を教えてくれないか」
「…………っ」
「おやおや。おやおやおや。なーんでリノ君は黙っちゃったのかなぁ??」
リノはわかりやすく、動揺している。額には脂汗が浮かび、私から目線を外している。
「そういえばさぁ、リノ君、前に私のことキシリア機関員って予想してたっけ?」
「し、知らない」
「へぇ。バレバレな嘘はやめなよ」
「俺は何も知らない。……本当だ」
「飽くまでシラを切ると」
「…………」
仕方がないので、リノ君を壁際に追い詰めて、両手で逃げ場を塞ぐ。俗に言う壁ドンというやつだ。
「シャア・アズナブルはもっと純真でバカだった。ジオニズムに憧れを持った単純な奴だった……」
「ふむ」
「士官学校に入ってからのアイツは別人になったようだった。だからオレはカマをかけた。シャアは簡単に引っ掛かったよ。だから、記録を漁った。エドワウ・マス。それがシャアと入れ替わった人物だ」
「それだけじゃ君が怯える理由にならない」
「あぁ。エドワウ・マスの素性を辿った。エドワウの正体はジオン・ズム・ダイクンの息子、キャスバル・ダイクンだ」
「証拠書類は?」
「有る」
「へぇ。優秀じゃないか。私はキシリア機関とか知らないし、単なる一般人だけど、然るべきところに持ち込めばリノ君は出世間違いなしじゃん」
私の言葉にリノは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「俺は権力を簒奪したザビ家が嫌いだ。ダイクンの遺児キャスバルを中心とした正当なジオンがムンゾには必要だと思っている。俺は行動しなかった。いや嘘だ。その気持ちは有るし、お前にこの秘密を打ち明けた。そうだ。俺は死にたくない。臆病者だからな」
「ふーん」
「なんか、他人事みたいだが、俺がビビりになったのはお前が俺を脅したからだぞ。肩を外しやがって。あの時のことは覚えているからな」
「あー。そうなのか」
リノはキレ気味だった。どうやら私が彼の肩を外したりボコボコにしたらしい。めっちゃ記憶に有るわ。だから彼は慎重になったので、シャアの秘密を本人に言わなかったし、消されなかったということだ。
微妙に原作から変化しているが、まあそれはそれだ。
「で、リノ君はどうするわけ?」
「さぁな」
「軍で出世していざという時にザビ家にクーデターを起こすとか考えてる?」
「考えていないと言えば嘘になる」
良いこと思いついた。リノは機甲の成績が良い。それに情報処理能力も高い。なかなか有能な人材である。
「ねぇリノ君、君に良い提案が有るんだけど聞かない?」
すごい嫌な顔をしていたが彼は最終的に私の提案に首を縦に振ったのだった。
暁の蜂起が終わり、パレードが終わった。私たちは参加していない。けっ、何が戦勝パーティーだ。ジオンは負けるんですけどね。初見さん。
ドズルはもう少しで辞職するからすぐに元校長になる。依然として軍部の重鎮であり、ザビ家の一員だ。私は穏健派、中立派の多いドズル派閥に入るつもりだった。でもガルマと何故か仲良くなってしまった。予定には全くない。
暁の蜂起に反対したから、ちょっとギクシャクしている。
暁の蜂起が起きてからのドズルは多忙だった。なにしろ士官学校の校長だったのだから。
政治的センスが無いと自認しているドズルでも否応なしに表舞台へと引っ張り出されたのだ。折衝役の仕事は骨が折れる。ザビ家の勢いが良く、連邦軍を批判する世論は追い風になった。それでも、自分に向いていない仕事というものはドズルの精神力を削ぎ落とす。
そんな折だった。士官学校の学生からアポイントが入ったのだ。最高学年であり、暁の蜂起に参加しなかった学生だ。ガルマが友人として紹介してきたこともあり、ドズルはアイン・ルインという名前を覚えていた。
応接室でアインと対面する。短く切り揃えられたブラウンの髪。彼女の秀麗さはドズルの苦手とするギレンの秘書セシリア・アイリーンを彷彿とさせた。
彼女の同行者であるリノ・フェルナンデスという生徒の名はドズルの記憶には無いが、彼を理由に拒むようなことはしなかった。ドズルの度量の広さは彼を慕う部下が多い理由でも有る。
「アイン、久しぶりだな。ガルマの奴とは上手く行っているか?」
「いいえ。ガルマとはクーデターに関して意見が衝突して軟禁されまして、上手く行っているとは言えません」
「そうか……」
少しの間、ドズルは口を開くか逡巡した。しかし、現状への憂いが彼の口を割かせた。
「……このクーデター、ジオンにとっては良いことだったのか? 兄上が上手く収めるだろうが、俺にはこの先の良い未来が描けん」
「はい。このクーデターは失策です。戦争へ一歩近づいたと言えます。歴史の転換点の一つを私たちは越えました」
「……ああ」
政治に疎いドズルでも、今回の蜂起に思うところは有った。不味いことをしてくれた。ドズルのその直感は正しかったようだ。
「それで、俺のところに来た用は何だ?」
「
「分かった。ガルマの友人の頼みだ。話は通しておく」
二つ返事で申し出を了承する。愛国心という熱病に犯されず大局的な見方の出来る士官は貴重な存在だった。
「ぁ」
「何だ?」
「いえ、なんでもありません」
アインは彼女の監視役に、ゼナ・ミアが居たことを思い出した。ゼナとドズルのフラグが成立していない。
アインには、ミネバ・ザビが生まれない未来が見えた。しかし、彼女は特に気にしていなかった。アイン・ルインはそういう人間だった。
これ好き。続き書くか……??