就活に失敗した。軍以外の全ての志望先からお祈りを貰ってしまったのだ。ギャンブルで身を崩してしまって、怖い人に借金を作ったのが失敗だった。入隊金を全部持っていかれたが、借金は帳消しになった。
転生しても根は変わらず、私は陰キャコミュ障である。今世も二流大卒で世の中は不景気。サイド3ではFランではない大学生には、予備士官教育が強制されるので軍には入れた。
原作知識で一年戦争が起きることは知っている。しかし生活のためだ仕方ない。石の上にも三年である。散々同期や上司、果ては部下に
「中尉! 戦争ですよ! 開戦です!」
「んぁっ……ふぎゃッ!!」
ボケっとしてたらミレア曹長が嫌な知らせを持ってきた。椅子から落ちたので尻が痛い。
ノックなしに私室に突入するな……くつろいでいたというのに。尻をさすりながら椅子に座りなおす。乱入者は早々に口火を切った。
「我が小隊も活躍するんですかね!?」
「しないんじゃない……?」
「活躍したいです!」
「したくない」
「軍人精神が無いんですか!?」
「売っぱらった」
ミレアは頬を膨らませる。コイツも私と同じ出来損ないだ。軍人にはおおよそ向いていない人種である。思ったことをストレートに言うし、私という上官にセクハラとかいろいろな無礼をはたらく。彼女、ダイクン派の上司が良からぬことを考えていたのを、ザビ家に密告し部隊を解散させたらしい。へ〜怖いな〜。
こんなのでも曹長という下士官最上位になれるのだからジオンに兵なしである。
我が小隊は歩兵主体だ。しかも編成途上。人員も装備も不足している。上位の中隊もまだ編成されていない。
経歴的にアレな人間が送り込まれるゴミ箱なのかもしれない。
私の教育係だったいぶし銀の准尉は他に取られたし、幹部クラスがマジでいない。中尉の私と曹長だけで、他は予備役から戻ってきたおじさん軍曹がちらほらだ。もう終わりだよこの小隊。
徴兵した予備役メインで戦地へ行くらしい。マジか。この練度で!? 正直ヤバい。敢えて言おうカスであると。
予備役の連中と志願兵は、子持ちのおっさんとか無職のおっさんとか、その他のおっさんで構成されている。それを職業軍人の下士官のおっさんが束ねているのだ。
小隊長の私は無能だが!? どうやってこんなの統制すれば良いんだよ……
ミレア曹長に全て放り投げた。人間としてアレなミレアだが、なんか小隊は纏まっている。ミレア、能力だけは有るけど他がアレなんだよな……
命令が下された。下されてしまった。地球降下作戦に我が小隊は従事するらしい。出来るだけ楽な戦区を引きたい。
しかし、現実は上手くいかなかった。続けて来た指令にはこう有った。
第250混成MS中隊は北米ニューヨークへ降下、敵部隊への突破を図れと。混成中隊の指揮官になってしまった……私、こんなの指揮したことないよ……どうしてこうなった……
MSも1個小隊だけいる。旧型のザクが3機。旧ザク、ザクⅠと呼ばれるやつだ。搭乗員は准尉1人と新米少尉。そして伍長だ。戦場でOJT教育をするんじゃない。対価は生命で支払うんだぞ。うちの歩兵も他所のことは言えないが……
この混成MS中隊という呼称だが、どうも上が見栄えを整えるために名付けたらしい。バカじゃないのか。ミレアを連れて上に文句を言ったら戦車と歩兵戦闘車を融通してくれるらしい。マゼラ・アインが2小隊も来るという。8両の戦車が来たら非常に心強い。定員割れてるし編成めちゃくちゃだし、歩兵も偵察小隊もいないしまぁ、なんとかなるか……???
「私のおかげですね! 褒めてくださいリーゼ中尉たん」
「なんか余計なものが付いてないか?」
「失礼。リーゼたん」
「階級が消えたんだがぁ」
「褒めてくれないならお尻触ります。リーゼ中尉のお尻、フィット感が有って良いですよね」
思わず、ひんとひゃんの間のような声が出てしまった。いつもやられているのだが、慣れない。私が無能なためミレアに仕事を押し付ける対価としてセクハラを受けている感じになる。
「中尉のお尻ひんやりしてて気持ちいいですね。次はその貧乳を……」
「だめ、だめだ」
「けち。じゃあやめます」
ちょっと放心している私の服を、ミレアが直す。
「パンツ湿ってますよ? 興奮したんですか?」
「……うっ、うるさいな」
ミレアはセクハラはするが一線は越えない。彼女の中に何らかのルールがあるのだろう。
恐れていた実戦が始まってしまう。遺書を書いた。死にたくない。
訓練はしているが、完全に恐怖は消えない。HLVの座席に固定された脚は震えていた。
「死にたくないなぁ……はぁ、死にたくない」
口中で小さく呟く。私の表情を見たせいかミレアが手を握った。別に私はお前の彼女でも恋人でもなんでもないんだぞ。強がったが落ち着いたのは確かだった。
カンカンと船体を鉄か何かが叩く音がした。対空砲火か摩擦熱なのかはわからない。ひたすら怖い。
ドン、ともダン、とも言える一際大きい音がした。それから爆音が響いた。身体を震わせる。怯えを必死に抑える。
ちょっと下半身が温かくなった気がした。漏らしてはいないせいぜいチビッた程度だ。もうすぐ死ぬかもしれないというのに私は、自分のズボンの心配をしていた。
「中尉、中尉聞いていますか?? リーゼ中尉! リーゼ!」
「……んぁ?」
「味方HLVのうち一つが落ちました。戦車第1小隊とその整備班がロスト」
「あぁ。うん」
「聞いてます〜?」
「神様、あぁ。神様助けてください。やだぁ、もうお家帰るぅ」
「んー。駄目ですねこれ。仕方がない。NCコントロール、敵砲火強大。ミノフスキー粒子の追加散布許可、及び火力支援要請」
ミレアが何か言っている。ミレアは凄いなぁ…… 働かない頭でぼんやりとしていた。
どれほどそうしていただろうか。身体が重くなった。そして耳障りな音も消えていた。重力だ。私はぺたぺたと頬を触る。そしてつねる。生きている。私は生き残った。
「ほら、ちゃっちゃと降りますよ。リーゼ中尉」
「ミレアちゃん、パンツ濡れちゃったから替えたいんだけど……」
「駄目です」
「濡れてて気持ち悪いんだよね〜。水こぼしちゃったかなぁ。あはは」
「ほら、立つ! 行きますよお漏らし中尉!」
なんて血も涙もない女だ。ひどい。
「ミレアちゃん、これズボン濡れてないよね?? バレないよね?」
「はいはい。濡れてませんよ大丈夫ですよ心配しなくていいですよ。で、さっさと正気に戻ってください! 指揮をしろ! お前が責任者だぞ!」
ミレアちゃんは何を言っているのだろうか? ちょっとわからない。なおもぬぼーっとしていると衝撃が!
「い゛」
「傾注! 地球方面軍第250中隊長、リーゼ・アフィアー中尉! 返事をしろ!」
「はっ! リーゼ・アフィアー中尉であります!」
私は正気に戻った。頰がヒリヒリする。そうだ。ここは戦場だ。指揮をしなければ旅団の皆が死んでしまう。
「中尉、状況を報告します。1TP及び火砲ロスト。2TP戦闘中、MS1機のみ戦闘中。敵防衛戦に対し制圧射撃中」
「MSの状態知らせ」
「1機大破、1機小破」
「小破機の状況は?」
「搭乗員死亡」
「ミレア・エイメ曹長を准尉に任官する。旅団指揮所で指揮を執れ」
「は?」
「MOSは持ってる。私でも小破したザクなら動かせるかもしれない」
「バカなんですか中尉は? 指揮をとってください。貴女みたいな鈍臭いのが言っても死ぬだけですよ。はい! 分かったら行く! 返事!」
首根っこを引っ掴まれ、私は中隊司令部に連行されていった。司令部といっても簡素なものだ。単なる戦闘指揮車なのだから。指揮所という方が正しいかもしれない。
指揮車内では慌ただしく準備がされていた。辛うじて掴めた状況だと味方が制圧射撃を行っているが、敵の反撃が激しく突撃は出来ないらしい。私は指揮をしなければならないらしい。
「2TP、ATM被害。後退要請です」
「MSに援護させろ。迫砲は?」
「火砲はHLVごとやられてます。ありません」
「2TP、歩兵戦闘車下げろ。陣地構築急がせろ」
「MSはどうします?」
「殿をさせろ」
教本通りに、訓練通りに、やったつもりだった。しかし、結論から言ってしまうと、我が旅団は敗北した。
「夜襲の可能性もある。兎に角陣地構築だ。陣地構築をしなくては。あーどうすれば。あー」
「684幹線道路を中心に敵は陣地を構築しています。684道路の先に全周防御された都市があるので、敵が夜襲に出る可能性は低いかと」
ミレアは優秀だ……もうコイツが指揮官で良いんじゃないかな……
「伝令! 敵に動きがあります!」
がァァ!! 敵襲かよぉぉ!! 今日の夜は眠れないじゃんんん!!