「降伏する。ハーグ陸戦条約に基づいて丁重な取り扱いを要請する」
連邦軍部隊から入った通信はこんな内容だった。は? なんで? 正直意味がわからない。ぼんやりした頭で武装解除を命じ、捕虜の収容をさせるように言った。
「北米軍第2師団第4連隊長のトム・レイモンド大佐だ。丁重な取り扱いに感謝する」
「ど、どうも。ジオン軍地球方面軍第250中隊のリーゼ・アフィアー中尉であります」
「中尉、敬礼はいらないぞ」
「し、失礼しました」
レイモンド大佐は溜息を吐いた。パリッとした軍服が様になっている。泥やら何やらに塗れた自分の姿が嫌になる。何も知らない人が見たらレイモンド大佐が勝者と見るだろう。
といくか、事実レイモンド大佐は勝者だった。彼は我が中隊の作戦を失敗させ、大打撃を与えたのだ。
「あの大佐殿、捕虜収容所というのはどうしたら良いのです?? 定員割れの中隊では大佐の連隊を武装解除するのもやっとなんですが……」
「うーむ。私も困っているな。威力偵察だと思ったアレが全軍だったとはなぁ」
レイモンド連隊は無傷といっても過言ではない。しかし他の連邦軍部隊は違う。連邦軍はジオン軍の攻勢により防衛線が瓦解したため撤退を余儀なくされたのである。つまり連邦軍は敗北したのだ。
困ったのはレイモンド連隊である。敵中で孤立無援になってしまったのだ。包囲されたようなものである。そこで彼らは降伏を選択したのだった。
「中尉、しっかりしてください! 内実はどうであれ我々は責務を果たすべきです。既存の建物を借り上げるしかありません」
「法務士官も死んだんだぞ。私はどうすれば良いんだ?」
レイモンド大佐が苦笑している。捕虜収容した後に反乱とか起こされたら詰むぞ……どうすんだこれ……
困った時はホウレンソウである。上に責任をなすりつければよいのだ。ガルマ・ザビ大佐が華麗に解決してくれるに違いない! ヨシ! 問題ナシ!
問題有りました……私はレイモンド大佐に銃で脅されています。助けてください。
「命ばかりは助けてください……うぅ……どうしてこんなことに……」
「まったく将校としての資格すら持っていないとはな。将校なら覚悟を持たんか」
「ひぃん。お家帰るぅ」
部下の死体が所々に散らばっている。私は人質としてレイモンドに連行されている。連邦軍はこちらが弱体なのを良いことに反乱を起こしたらしい。
当然の選択肢だ。誰だってそうする。車両を奪い、脱出するのだろう。賢い。
「あの、お手洗いに行きたいんですけど……」
「駄目だ。貴様の部下でも取り逃した奴がいる。合流されてはたまらんからな」
「そんなつもり無いんです! 便意と尿意が限界なんです! ここで、漏らします!」
「何を言おうと足を止める気はない。ジオンに成り済まし包囲を突破するのだ。何が有っても車両は止めん」
こっちは、脱糞することも出来るんだぞ! 私の尊厳を守ってくれ! 捕虜虐待反対!
「簡易トイレとか有りません??」
「そんなものはない。中尉、いい加減、その口を閉じろ」
「本当に漏らしちゃいます! 本当なんです!」
「くどい!」
レイモンド大佐の平手打ちを食らい、私が床に転がった瞬間、車両が揺れた!
「クソ! 敵の戦闘機だ! AAMは?」
「載せていた車両がやられました!」
クソって言いたいのは私の方だよ。私は、衝撃で脱糞し勢いあまり、尿も漏らした。もう、殺してくれ……
そう思って、しばらく拘束されたまま床に転がっていたら、急に立たされた。
「貴様ら! 部隊長の命が惜しくないのか!?」
「え?? そんな汚物は知りませんね!」
血みどろのレイモンド大佐が、私を人質にしていた。大佐にアサルトライフルを突き付けているのは、ミレア軍曹だ。助けてください! なんでもします! 助けて!
フルオートで、ぶっ放されたアサルトライフルで、レイモンド大佐が肉塊となった。私は、嘔吐した。
「汚いなぁ……殺しちゃおっかな? でも、中尉はダイクン派じゃないし……この人単に無能なだけだし……」
「助けてください! 殺さないで! 一生懸命やります! お願いです!」
泣きながら反吐と糞便に塗れながら土下座するのは、はじめての経験だ。もう二度としたくない。
「な〜んて冗談ですよ。中尉を殺すわけないじゃないですか」
援軍が、敵の残党を滅ぼしていく。助かった。私、部隊壊滅させたし、捕虜逃がしたし、もう精神衰弱で本国に帰れるよね。神様、もうギャンブルはしません。真っ当に働いて真っ当に生きます。ですから、助けてください。
えっ、精神に異常は認められない?? そんなぁ……不名誉除隊させてください。お願いします。
なぜか、少尉に降格した私はミレア中尉のペットなっていた。ミレアさん、普通に優秀で草。出世しててすごいですね。後方の2線級部隊なので、やることはない。
「木馬が来るそうですよ。アレを落とせば手柄になります」
「やめたほうが良いよ。勝てないよ」
「この豚! 敗北主義者!」
「痛ッ、痛い。やめ、やめろ〜」
マゼラ隊で、ホワイトベースを襲ったが見事に敗北した。指揮車の席を奪い、逃げなければ殺されていた。
「なんてことをしてくれたんですか!! 敵前逃亡ですよ! もう私のキャリアはおしまいです……脱走兵ですよ!」
「命有ってのものだねじゃん」
「そうですね。分からないですよね。借金作ったギャンカスで、部隊を全滅させて脱糞しながら生き永らえた人には!!」
めっちゃえぐってくるじゃん。生きてれば良いことあるよ。
ガルマ・ザビが死亡し、メタメタになった北米だが、私たちはゲリラとして生きていた。ミレアちゃんと私で、味方の基地からグフをパクったのだ。MOSを持っていたし、上からの命令だと言えば素直に従った。
そして、今は北米の田舎村で暮らしている。グフは一応取ってあるが、使っていない。私は立ち寄った村で酒を飲んだら、気付いたら寝てた男を旦那にした。村は反ジオンでなんやかんや命の危機だったが、優しさに救われた。彼と結婚して子供を育てている。
ギャンブルは夫に禁止された。ミレアは知らない。多分、連邦に捕まったか、死んだのだろう。もしかしたら、まだ元気にゲリラをしているかもしれない。
無能すぎて話が広がらないのでボツ。降格で済んでよかったね。処刑されてもおかしくない。