情報量を増やすとそれだけ余計なモノが混じる、それが誤解を生み、やがて嘘偽りとなる。
必要な情報をいかに纏めて、「喋り過ぎない」かもまた大事だと俺は思う。
加えてこの世界ではあまりに言葉が力を持ちすぎるのもある。
シェム・ハの名前とか出すだけで危なそうだもの。
「状況からあてくしが今話せる事は三つ、第一に『あてくしは平行世界および他世界から見た歴史のいくつかを知っている』第二に『この世界に異世界からの侵略を初めとした多くの危機が迫りつつある』そして『この世界を守る為にあなたの力が必要』だという事です」
ありとあらゆる盗聴の危険性の無い、俺の私室でテーブル越しに向かい合うのはフィーネ。
少し目元を赤く腫らしているのは見ない、何千年も孤独に彷徨ってきた彼女の気持ちは俺にはわからない。
同時に彼女にも俺の事は殆どわかるはずもない。
「今、差し迫ってという事ではないのか」
「はい、ただあてくしが歴史の分岐点をぶん殴ってしまったので、この先の知識はもうどの程度役に立つかは未知数ですが、聖遺物の知識の一部なんかはまだ役に立つ……筈です。それとあてくしがこの三つしか今話せないのはこの世界の「コトバノチカラ」が怖いからです、哲学兵装とか……」
「そう、そういうことなら分かった。けれど聞き出せる分は全部聞き出す積もりでいる、それは覚悟しておけ。それでその知識は一体どうやって手にした?」
ほれきた、これはどの道いつかは話さなければならないから早々に話しておこう、とはいってもこの世界がアニメやゲームの世界の平行世界で原作知識です!って言うのはダメだ、絶対拗れる。
「この平行世界群を観測していたあてくしは死後、侵略を望む何者かの尖兵として送り込まれました。この記憶を思い出したのはシンフォギアの起動試験時です、それが二つ目の危機の中の一つです」
「……待て、となるとお前は自身の主を裏切るということか?」
「そもそも黒幕の顔すら知りもしませんし、あてくしはあなた達が好きだからどっちに味方をするかといえばこの世界の味方をする以外ありません、例えこの命が再び終わろうとしてもです」
前世の俺は少なくとも未練なく、満足して生きて、満足して死んだ。
別にもう一度死のうが変わりはしない、見も知らない誰かが生きるこの世界の為にもう一度笑って死ねるというならそれは過ぎた願いか。
「……完全に以前の花崎律とは別人、か。ギア起動以前の滑稽なお前とはまるで別だ」
「性質は変わってませんわよ、偏屈な所とか、自分の犠牲を許容できる所とか」
「違いない、さて……そうなると計画の立て直しが必要だ。月を破壊するのではなく……月に行く計画だ」
「それについては、そう……セキュリティがあるのでアガートラームと呼ばれる銀の腕の形をした聖遺物を持っていくのを推奨しますが……心当たりはありますか?」
「いや……ないな、だが銀の腕が月と関係する?」
「……あー、その……エンキさんが戦いの最中、裏切り者の「銀へと変換」する埒外法則の攻撃を食らって切り落とした一部なのです」
あっフィーネの表情が変わった、やばいかもしれない。
「…………それであのお方はその後……どうなったの?」
これ返答間違えたら死ぬ奴か?いや……むしろフィーネの心が死にそうだ。
「……わかっているの、本当はわかっているのよ……お前があのお方の真意を伝えてくれた時から……」
「……エンキさんはおそらく月で亡くなられました、がその意志を遺跡の制御装置として遺しました。本当の気持ちを聞く望みはまだあります」
心が痛い、苦しい、ああも活躍した黒幕で元凶と一人の人として接する中でこんな俺でもそこは共感できてしまう。
「そうね、あのお方が残した世界ですもの、守らないとね」
これで完全に分かり合えたなんて思い上がりはしない、ただそれでも一時的にでも協力関係を築く事ができそうなのは素直に喜べる。
この世界を守る仲間が一人出来た、それだけで安心できる要素だ、例え俺が志半ばに朽ちても、遺志を継いでくれると。
「さしあたって、あてくしは当面の間これまで通りに動きます。他に危機に対して協力できそうな相手、例えばパヴァリア光明結社のなどとはいずれ接触する必要が出てくるでしょうが、生憎どこに潜んでいるのかも全くわからないので……」
「わかった、その件は私からも手を打ってみるが……あまり期待するなよ?奴らとは何度かやりあっている、特に知ってるであろうがアダム・ヴァイスハウプトは文字通りのヒトデナシだ、奴は人を見下している」
「それでも、互いを利用できる程度か……運がよければ協力できるとあてくしは信じます」
アダムだってヒトデナシとは言うが平行世界ではキャロルを気にかけたり人類を守ろうとするいい奴な世界もあるから一概に敵対したいという訳でもない。
加えて今思い出したがキャロルどうしよう……あの子説得するの絶対に難しいな……最悪、俺の想い出を読んでもらってなんとかならないだろうか。
「フッ……」
「……顔に出てましたか?」
「それはもう言葉よりも雄弁にな、粗方まだ見ぬ明日に出会う相手に心を割いていたのだろう」
「その通りです、腹芸は苦手ですし、言葉を選ぶのも苦手です。とはいえ最短で真っ直ぐ、一直線に行ける程振り切れてもいません……あてくしの悲しいさだめなのです」
考えるべき、といえば他の装者達の事だ。
マリア達レセプターチルドレンに雪音一家辺りはどう転ぶか全く分からない、とりあえず救えるのなら救える様に俺は手を伸ばす。
逆に翼と響に奏は俺が巻き込もうとしなければ平和に過ごせる可能性もあるが……。
俺は神様じゃない、それに全部をどうにかできるほどの天才でもない、だから誰かに頼ることにする。
それを教えてくれたのは彼女達だ、それが世界を救える力になるというのは知っているつもりだ。
「考える事は無限にありますが、今はそう……よろしくお願いしますね」
ああやはり手を取り合えるのは素晴らしい事だ、だからこの世界を守って見せようじゃないか。
俺はこの世界で初めて、頼りになる仲間を見つける事が出来た。
それによって背負っていた重荷が少しばかり軽くなった気がした。
願い:Pルート