パナケイアダンガンロンパ   作:ろぜ。

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非日常編

俺は立ちすくんだまま暫く動けなかった。

こんな俺を構っては明るい場所に連れてきてくれた糸針が死んだなんて到底信じられず、目の前の遺体を目にしても尚俺の脳は思考を停止したまま、糸針との思い出だけを駆け巡らせる。

 

「私は糸針緋巴銉です〜!楼さん、一体ここはどこなんでしょうか?」

 

「楼さん!朝ですよ〜!ご飯食べましょう!」

 

「一緒にどうですか〜?」

 

「楼さんは優しいですね!」

 

「楼さん!」

 

_______......

 

「…。」

 

そうだ。

最初から俺の世界なんてこんなもんだったじゃないか。

夢も希望もないような。

暗い世界。

 

どうせ俺には無理だ。

糸針がいない状況で、クロを見つけ出すことなんか、俺1人には無理だ。

もう、諦めてしまいたい。

希望はもう息をしていない。

 

「…楼くん!」

そんな中、誰かが俺を呼ぶ声をした。糸針ではない誰かの声。

ゆるいウェーブの白髪、きらきらした緑と白い目。蓮桜だった。

「…捜査…しないの?……1番辛いのは…よく…わかるんだけど…。」

「………ほっといてくれ。」

 

「緋巴銉くん…本当にそれを望んでるのかな?」

蓮桜は子供みたいな顔で目線を合わそうとする。

「…え?」

 

「現実から目を背けちゃダメだって…。それ言ったの糸針さんじゃないのかな。」

愛教が続けて言う。

「そうだよ!ねぇ、だから僕達と進まなきゃ……。それが1番緋巴銉くんが望んでる事だと思うんだ。」

 

「……これは友情という意味を持つシトリンという宝石です。」

「……菊地原さん……。」

後ろから月陰と御伽が肩を叩いて、俺を見つめた。普段あまり自ら何かをする事がない2人だ。その2人が俺を慰めるかのように、そっと寄り添ってくる。

 

まだ泣けない。

まだ止まれない。

俺はこんなところで…。

 

「進まなきゃだよ、楼くん!」

蓮桜が俺の手をぎゅっと握る。

 

…俺は進まないと。

 

進むんだ。

糸針の為に。

支えてくれる皆と。

 

「……ありがとう…な…。」

俺は涙を堪えて、またぶっきらぼうに礼を言ってしまう。

この裁判を乗り越えてから、また礼がしたい。

それが今言える俺の“したい”だ。

 

「ね…菊地原さん…。良かったら、ぼくと一緒に捜査してくれないかな?今は誰かと一緒にいたくて…。」

愛教が俺の袖を掴んだ。こっちの方が死者なのでは、と思わず疑ってしまうほど…血の気のない顔だった。

 

「……あぁ。俺も今は愛教が側にいてくれる方が助かる。」

今独りになったら…。どうしていいのか分からなくなりそうだった。穏やかな愛教が隣にいるのは正直有難い。…心が少しだけ和らぎそうだ。

 

愛教は弱々しく頷いた。

 

…今は気持ちを切り替えなくては。

 

第一発見者は砂切。図書室で本を読もうとしていたところ、俺の研究教室が少しあいている事に気づき、倒れこんでいた糸針を発見したらしい。

そして、祇園寺と相模を呼んで死体アナウンスを鳴らしたそうだ。

 

「砂切さんもびっくりですよ…。図書室に1番近い菊地原の研究教室が開いてるなぁと思って、覗いてみたら糸針が死んでいるのですから…。とりあえず闇雲に人を探し回ったって非効率なので誰かしらがいつもいる談話室に向かいました。…丁度祇園寺と相模がいて助かりました。お2人足も早いですし。」

 

「俺はちょっと銃の話を聞いてもらおうと思って、現と約束してたんだ!そしたらひなのちゃんが来てさ!死体があるので急いで来てください!…って!」

「丁度13時12分。談話室の時計を確認した。」

3人の話に相違点は見られなかった。

 

いよいよ俺達は遺体を確認する。

目立った外傷は無し…と言いたいところだが、

「…ねぇ菊地原さん。これって…殴った跡…だよね?」

「…あぁ。」

糸針の顔には殴られた跡があった。それも一発や二発ではない。因縁なのかなんなのか。…一体糸針とクロの間に何があったのか。

 

糸針の首には明らかな絞め跡があった。そしてその跡は均等についている訳ではない。少し不自然なくらいだ。また、海老塚の遺体の時とは違い何か物を使って絞め殺したというよりかは、人間の手によって絞められた感じがする。

 

糸針の遺体を少しだけ触らせて貰う。少し揺れたケープから何かが落ちた音がした。

「…なんだこれ?」

糸針の遺体からは何故か金属破片が出てきた。

糸針の遺品なのだろうか。とりあえず俺はそれをポケットに入れた。

 

俺は最後に糸針の自室へと訪れた。何か事件に関係があると思った訳ではない。どうしても糸針の面影が、俺を押してくれる何かが欲しくて堪らなかった。

 

部屋は相変わらず甘い香りがした。同じ男だとは思えない、綺麗に整頓されている部屋だ。

糸針の自室は最後に俺が訪れた時となにも変わらなかった。そう、まるであいつが今も此処で俺を待っているかのような。今から出かけようとするような。

 

あいつは勿論自分が殺されるだなんて思っていなかった。だからこそ、部屋には何も遺されてはいない。死者に何かを求めることは違う、それは俺なりに分かっているつもりだ。

 

カルテには嘘偽りなく、糸針の言った通りの病気についての記述。

そして冷蔵庫の中には小さな箱が1つ。貼られた淡いピンクの付箋には“明日、楼さんと。”と小さな文字が。

中身はマカロンだった。

 

どうやら、今日俺との約束の時に食べようと思っていたものらしい。

俺は箱をゆっくりと開け、桃色のマカロンを取り出した。徐に口に入れる。何故かと聞かれると…よくわからない。

 

マカロンの喉にはりつくような甘さが、今日は痛かった。

俺はゴクリとそれを飲み込み、溢れ出る何かを抑えた。

 

「は〜い!いんちょーモノアピスです!そろそろ裁判を始めるから中庭に集まってね!」

学級裁判の始まりを告げる放送が鳴る。

もう糸針のいない学級裁判だ。

 

「行こうか、菊地原さん…。」

俺と愛教は裁判場の一歩を踏み出した。

必ず糸針を殺した犯人を見つけ出す。

それがこの世にもういない糸針へできる唯一の恩返しの様な気がしたから。

 

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