「必ず僕達で緋巴銉くんを殺した犯人を見つけよう!」
「どうして糸針さんが殺されなくちゃならなかったのか…。」
「犯人に聞く以外何もありませんしね♡」
「…あぁ。それしか道はない。」
…だから俺は裁判に立つ。
そしてそれを知るためには生きなくては。投票で正しいクロを選ばなくてはならない。
「1番気になるのはあの殴られた跡…ですよね?」
「あれは酷かったよね…。」
「うん…あんなに殴られたらすごく痛いよぉ…。」
安心院がキリ出すとそれに蓮桜と片倉が頷く。
「犯人は何故糸針の顔を殴ったんだ?」
これは第1の謎だ。人当たりがよく、誰とでも仲良くしたがった糸針に不仲な相手がいるとは思えない。何か可能性があるとすれば、俺達が知らなかっただけで一方的に糸針に嫌悪感を抱いていた奴、という事だろうか。
そんな事考えたくもないが…。それはこの中に糸針を嫌っている奴がいるという事だ。
「殴るって…それ8割型恨みかなんか買ったんじゃないの?どう見ても計画的な殺人には思えないけど。」
「无子さんの意見に俺も賛成だ。犯人は突発的に何かを思ったに違いない。例えば触れられたくないことに触れられてしまって…カッと。…といった感じでだな。いや、例えばの話だが。」
「悲しいですが、動機は怨恨のようですね♡」
「そうだな。次はとりあえず死因だけ確立させておくか。」
仍仇が次へと促す。死因は絞殺に間違い無いだろう。首の絞め跡がくっきり残っていたし、殴られた跡以外は何も別の死因を連想させる特徴がなかった。
「ま、絞殺だろうなぁ。」
「それ以外に何か証拠を見つけた人は?」
「ないです……るうも絞殺で…いいと思います……。」
「ぼくも。それに賛成だよ。」
どうやら皆も同じ意見らしい。ひとまず意見が合致して俺は安心する。
「次は殺害場所についてだけど…。」
相模が切りだすが、言葉に詰まる。
「えっとぉ…。」
「楼さんの研究教室でしたよね…。」
「うん、菊地原の研究教室さ。」
次々と視線が俺の方に向いていくのが痛いほどわかる。冷たい汗が流れるのがわかった。
「…まってくれ。俺は糸針を殺してなんかない。」
苦し紛れの反論だろう。それは信じられることなく、心に届くこともなく落ちていく。
「菊地原が犯人だって考えるのが妥当だろうね。」
「いつも一緒に行動してたから、殺しやすいといえばそうだろうな。」
「事件の前も一緒にいたんじゃないんですか?」
これじゃ犯人の思惑通りになってしまう。ちゃんと前日の話を説明しなくては。
「糸針は確かに事件前を俺と過ごしている。丁度お昼13時くらいまでだ。…でもその後は他の開放された研究教室に向かうと言って別れたんだ。それが最期になってしまったが…。だからそれ以降は俺は糸針に会っていないんだ。」
「研究教室が開放された人の中に犯人がいる可能性が高いな。勿論君も含まれているが。」
研究教室が開放されているのは、海老塚、片倉、繰生、片倉、御伽、月陰、俺だ。
「でも、楼には悪いけど、そんなのいくらだって捏造できちゃうと思うけどな…!」
「僕も相模と同意見だ。」
「うーん、研究教室に実際に緋巴銉さんが訪れたという方はいらっしゃいますか?」
安心院が穏やかに言った。名乗り出やすいような配慮だろうか。
「えっとぉ、ボクは見てないなぁ。」
「るうは来てないです……。」
「僕も。」
「……。」
どうやら俺以外の研究教室には、糸針は訪れていないようだった。
「糸針と菊地原が別れた時刻から発見時刻まで大分時間がありますし、怪しいですね。」
「やっぱり、そのまま殺したんじゃないのか?」
まだ俺は疑われているようだ。
…そうだ。
こんな時に糸針が残したものが、証拠になるなんて思いもしなかったが…。あれで証明できるんじゃないか?
「いや、糸針は一度部屋に帰って、俺との約束用にマカロンを用意してるんだ。そうだよな愛教?」
「うん、ぼくも確認したよ。…ってことは菊地原さんとの明日の約束は確実にあったわけで、もし菊地原さんの研究教室に訪れるなら糸針さんはマカロンを持っていくはずだと思うんだ。だから菊地原さんが犯人だと結びつけるのは、違うんじゃないかな。」
「確実に糸針の手書きでの付箋も発見している。…これが証拠だ。」
皆は少し納得したような顔をしだした。俺はほっとし、愛教と糸針に感謝をする。
「じゃあなんで緋巴銉くんの死体は楼くんの研究教室にあったんだろう?」
蓮桜が考える仕草をする。俺は頭の中で組み立てた推理を話してみせた。
「犯人は遺体を引きずって、運んだんだ。俺を犯人に仕立て上げるためにな。」
「で、でもかなりの力が必要だと思うんだけどぉ…。」
「殺してからの死体移動だなんて……きっとバレてしまうと思います………。」
片倉と御伽が怪訝そうな顔をする。
「いや…一度遺体を放置したんだよ。研究教室は殆ど個室みたいなものだろ?だから遺体を放置してたって、糸針みたいに訪れる奴がいない限り誰にもバレることが無いんだ。」
「でも引きずるなんて……。」
「あまり信用し難いが。」
「私も楼くんに賛成ですよ♡」
口を開いたのは看薬院。
「この病棟に階段でも人を運べるものなんて発見できませんでした♡ それとも皆さんは見つけられたのでしょうか?♡うふふ、あるのなら聞いてみたいところです♡」
「ないな。」
「僕も見たことないなぁ。」
「うーん!俺もないな!」
「でしょう、早くに認められて素敵です♡ モノアピスが掃除をしているおかげで、埃などが緋巴銉ちゃんの衣服に一切付着していなかった…流石は病院なだけありますけど♡ 遺体を引きずって運ぶ…人の体は腕を伸ばせば引きずりやすい体をしていますよね♡ 結構現実的な話だと思いませんか?♡」
「でももし仮にそうだとしても、一度放置した後、一体いつ遺体を運んだのですか?朝も昼も夜も、全く誰にも会わず病棟内を2階分歩くなんて…。遺体を運んでいますし、もし砂切さんなら途中で休憩してしまいますが。」
砂切が自分の疑問を素直に反論として出してくる。
俺は考え込む。確かにそうだ。…でも何か綻びがあるんじゃないのか?…可能性を考えろ。
もう一度モノアピスから出された規則を確認してみる。するとある事に気づいた。
「…実際には多分人がいない深夜も動けるんじゃないか?」
「え?」
「講堂と食堂が封鎖されるだけで、恐らく深夜も病棟内を動き回ることは可能な筈だ。」
「本当ですか?」
「モノアピスに聞いてみよっか!どうなの?」
蓮桜が言う。モノアピスは少し戯けた表情で笑った。
「そうだよ!夜時間も動いてOK!勿論深夜帯もね!今更気づくなんてお馬鹿さん!」
ちょっとモノアピスに苛立ちを覚えるが、そんな事は今はどうだっていい。
「成る程。どの時間帯もずっと動けるのなら、可能な気がしてきました。」
砂切は俺の方を見ると、少し安心したように笑った。俺が犯人でないという事を砂切なりに考えた末の、証明してほしいという意味での、反論だったのだろうか。
「だが、誰もそれを目撃した人がいないのなら…。中々犯人を当てるのは難しいな。一発で当てないと、俺たち諸共死亡だ。」
「誰も見てないなら、意味ないよね。どうするの?」
祇園寺と繰生がため息をつく。2人にも早く犯人を見つけなくてはという焦りが出てきたようだ。
「……これは道しるべという意味を持つダイオプサイドという宝石です。」
いきなりの反論だった。
「どういう事だ?」
「悪いが、もっと詳しく説明してくれないか?」
「うん、ぼくも知りたいな。」
「……これは1月3日の誕生石のパゾライトガーネットです。」
「えっと…誕生石…その日に生まれた方を研究教室前でお見かけしたという解釈で大丈夫ですか?」
安心院の問いにこっくりと月陰は頷く。
「それは…いつの話ですか?♡」
月陰はそっと指で1と4を作った。
「14時という意味か?」
「……。」
また頷く月陰。
「そんな大事な事…。もっと早く言ってくださいよ。」
砂切がぎょっとして、そして呆れた顔で月陰の方を向く。当の本人は困った顔で微笑んだ。
いやでも、その証言は犯人を決定づけられる大事な証拠かもしれない。
確か電子生徒手帳に、俺達のプロフィールがあったはず…。1月3日が誕生日なのは…。
「1月3日が誕生日なのは繰生…お前じゃないのか?」
「そんなの月陰が捏造したらなんとでも言えるさ。それに、糸針は僕の研究教室に来てない。僕は義手を作ってただけだよ。僕の研究教室は防音だからね。」
繰生は俺の指摘を一蹴するとせせら笑った。
でも月陰が何の考えも無しに虚言を吐くとは考えにくい。恐らくそれは事実だ。
でも何か決定づけられる確かな証拠。皆を納得させられる証拠を出さなきゃならない。…モノアピスが欠伸をし始めている。タイムリミットはもうあと少しなのだろう。
繰生の言葉に引っかかる点が一つあった。
「繰生、お前の研究教室は防音だと言ったな?だったら殴ったりするのは簡単な話じゃないのか?」
「もし仮にそうだとしても、そんなの証拠にならないよね?僕の研究教室が防音でした。それで僕が犯人に繋がるとでも思ってるの?」
「…これ以上何も出ないようだったら、僕なら1番怪しい菊地原に投票するけどね。もうすぐでしょ、投票時間。僕に罪をなすりつけようとするのはやめてくれないかな。遺体は菊地原の研究教室で発見されてるんだ。それが1番の証拠なのに、無理してねじ曲げようとしちゃってさ。」
「そ、そんなぁ…菊地原クン…。」
「まさか…。」
俺は絶対に犯人じゃない…。だけど、ここで…終わってしまうのか?
何か……なにか…。
「菊地原さん……。……っ!」
愛教は一度俺の方を泣きそうな顔で見た後、何かを思い出したような顔をした。
「…愛教?」
「ぼく達…遺体を捜査してる時にアレを見つけたよね?…それって犯人を示す大事な証拠になるんじゃないかな?」
俺が手に入れた証拠…。
そうか。これがあれば…!
「いや…見てほしいものがある。」
俺が差し出したのは糸針の遺体を調べた時に出た金属破片。
この金属破片は…。
「これって繰生の義手じゃないか?」
「僕のだって証拠はないね。」
「じゃあ見せてみろ。お前のその腕を!」
「……。」
繰生は俺を睨むとゆっくりとその手を差し出した。義手には間違いなく何かが欠けた様な跡がある。その隙間は俺が出した金属破片と形が一致していた。
「それに、もし繰生が犯人なら…首の絞め跡が左右非対称なのも合点がいくんだ。お前は右手と左手で力加減に差が出る…その義手をつけているから…。違うか?」
「そうか…!」
「それなら確かに…繰生さんにしかできない……。」
「そろそろ投票タイム!いっちゃお〜よ!!もう皆わかってんでしょ!うぷぷ!」
モノアピスのクスクス笑いに遮られて、俺達は一度発言をやめる。
そして、投票を行なった。
「ピンポーン!大正解!糸針緋巴銉おにいちゃんを殺したのは繰生无子おねえちゃんでした!!」
「…无子…さん…。う、嘘ですよね?そんな殴ったり…首を絞めたり……して殺すなんて…。そんな事…无子さんはしないですよね?」
「残念だけどそれをしたのは僕だよ。」
安心院が苦しそうな顔のまま言う。繰生はというと、安心院の顔を真っ直ぐ見据えたまま言葉を吐いた。
「糸針クンはボク達の希望だったのに…!」
「君は何故緋巴銉さんを殺したんだ。」
「…どんな理由があっても…人を殺したら悪だ。」
片倉、祇園寺、仍仇が繰生へと言葉を向ける。俺も3人と全く同じ気持ちだった。
繰生はそれには答えず、俺たちをひと睨みした。
「うーん!无子おねえちゃん!面白そうだし緋巴銉おにいちゃんが殺されるまでのお話!聞かせてあげなよ!」
モノアピスが嬉々として繰生に問いかける。
「…別に僕は聞かせたって構わないよ。君達が聞きたいと望むならね。」
モノアピスの趣味の悪さに俺は吐き気がした。でも…糸針なら…。殺した理由を必ず聞くだろう。
「…繰生。聞かせてくれ。お前らに、何があったのか。」