パナケイアダンガンロンパ   作:ろぜ。

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Chapter3 毒林檎はゆっくり甘い夢を見る
(非)日常編


俺はまだいまいち糸針や繰生の死が実感できず…いや受け入れられず、中身のないような…空白の日々を過ごしていた。何をしても虚無感が襲う。

 

まだコロシアイは終わってなんかいない。早く…早く忘れてしまわなくては。

俺も此処に来て少しばかり情があつくなってしまったようだ。糸針のせいだろうか。

…だめだ。また思い出してしまう。

 

俺は記憶を頭から振り払うように首を振ると、何となくの気持ちで中庭に向かった。

静かで風通りがいい場所だから、少しくらい気分が晴れると思った。

 

だがしかし、そこには先客がいた。

「愛教?」

「…?…偶然だね。菊地原さん。」

愛教だった。この前の捜査を一緒にしたし、裁判では助かったが、あれ以来言葉は交わしていなかった。そもそも愛教は誰にでも優しかったが、一歩引いた態度で皆を見ているタイプだ。

 

「…この前はありがとな。」

「え?……あぁ。全然、ぼくの方こそ。」

「……。」

「……。」

暫く沈黙が続く。

これ以上どう声をかけていいか分からなかったし、きっと愛教もそうなのだろう。

なんとなく芝生に腰を下ろしてしまったが、これは失敗だっただろうか。

 

「どうして此処に?」

長い沈黙を破り、愛教がぽつりと言った。

「…何をしててもあいつらの言葉と死がちらつくんだ。早く忘れなきゃって頭ではわかっているんだけどな。」

 

「忘れなくてもいいんじゃないかな。」

「え?」

 

「ぼくはいつでも…海老塚さんや零くん、糸針さん、繰生さんの事を…思い出すよ。」

 

「…ぼくはね…1番愛されたかった人がいて、でもそれは叶わなくて。ぼくなんて、っていつも何処かで思ってた。だけどね、此処に来て初めて心を許せる人達ができてたんだ。彼らがくれた居場所があって、今のぼくがある。だからきっと忘れることなんて出来ないよ。それに、コロシアイで別れたってぼく達は友達なんだ。友達のことは忘れないでしょ?」

 

穏やかに愛教は喋る。不思議と幼少期の父親の声を思い出させるような、あたたかくなってしまうような、そんな声だった。

 

あぁそうか。友達……。そうだよな。

俺はなんて馬鹿だったんだろう。 

忘れてたまるか。忘れてなんかやらない。

あいつらが遺したかったものを、生きた証を、友達を忘れるなんて…できっこないんだ。

 

「繰生さんの言ったことは確かに正しいんだよ。それをぼく達が否定できないのも確かだ。でもね、此処でぼく達が笑い合ったことは決して仲良しこよし…って馬鹿みたいなことじゃないと思うんだ。現にぼくは救われてる。……きみもそんなぼくを馬鹿だと思う?」

 

愛教は長台詞を述べ、上目遣いで遠慮がちに笑った。

俺は迷わず答える。

「いや、全く。」

俺も救われてる。そう思ったからだ。

 

「…そういえば糸針さんは夢の話が好きだったよね。きっときみも聞かれたんでしょ?なんて答えたか気になるな。」

 

そうだ、あの日。

俺が…糸針に言いたかったこと。言うはずだったこと。

それは…

 

『俺も糸針と同じだ。』

 

「誰も死なずに病気が治って、また全員でパーティーだのピクニックだのをしてみたい。そして糸針みたいに…明るい未来を信じたい。」

あいつみたいになってみたかった。思いっきり希望を信じてみたかったんだ。…照れくさくていえなかったけど。

 

結局その言葉は糸針には届かなかった。

“明日に確証なんてない”

痛いほどわかった瞬間だった。

 

「明るい未来を信じたいなんて性じゃねえよな。夢だからって、ちょっと理想論すぎたか?」

「ううん、そんなことないよ。…ぼくも…また愛してくれる日が来るんじゃないかって。結局儚い希望を願ってしまっているんだよ。」

 

「…今はそれにすがって生きるのもアリなんじゃねぇの?」

儚い希望でも、それが希望である限り、俺達は少なくとも生きていけてると思う。

 

「うん、そうだよね。大切なものが無くならないように守っていけたらいいね。」

「一緒に見つけるか。…俺達の未来。」

 

「…きみとなら進めそうな気がするよ。」

そう言って愛教は目をこすり、手を差し出した。

そして、俺はその手を力強く握り返す。

 

…沈まぬように。

そうだったよな?

 

頷くように、花壇のピンクの花が小さく揺れた。

 

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