翌日、俺と愛教は談話室にいた。特に何もする事もないし、世間話でもしようかとなったのだ。食堂には女子が集まっているらしい。クッキーを作るそうだ。
「そっか、楼くんは3年生だったんだね。」
「俺と…祇園寺とあとは…確か蓮桜も同じ学年だったぞ。」
「え!蓮桜さんも?」
「あぁ。それで愛教は何年なんだ…ってあれ?」
そこに何者かの影。
「菊地原と愛教か。偶然だな。」
仍仇だった。
どうやら、図書室に行く道で空いている扉に気づき、覗いてみたらしい。
「こんにちは、仍仇さん。もし時間あれば少し話していかない?」
「時間に追われてるわけでもないしな。少し此処で休むか。」
そう言うと、仍仇は近くの椅子を引き、腰を下ろした。
「この辺の研究教室も最初に比べると大分開いてきたね。」
「そうだな。才能を思う存分研究できる部屋…。才能が好きであれば嬉しいだろうな。」
愛教の言葉に返事をしながら、研究教室の開放に喜んでいたあいつらを思い出していた。
「好きならな。…お前は自分の才能のこと、誇りに思っているのか?」
「…俺か?」
幼い頃、葬儀屋を継ぐのが嫌で嫌でたまらなかった。そんな記憶がある。
俺は、過去をそっと思い出してみた。
チクリとした痛みが胸を走った。
けど、
今は…。
「誇れるぞ。」
誰かが必ずしなければならないこと。死者の弔い。影の仕事ではあるけれど、きっと誰かが…死者が…感謝してくれてると思う。
「そういう仍仇はどうなんだ?」
「まぁ、僕もそうだな。…すまないがそろそろ行くとする。」
仍仇が出て行こうと腰をあげた時、悪夢の様な、それは鳴った。
『死体が発見されました。繰り返します、死体が発見されました。』
「え?」
愛教が大きな目を陰らせながら、声を漏らした。その心情は此処にいる全員同じのはずだった。
誰が
どこで
俺は体を動かすこともできないまま、次の言葉を待った。
『場所は蓮桜雪雫さんの病室です。生徒はすぐに向かってください。』
はすさき ゆきな
蓮桜雪雫_______
その言葉に俺は更に拍動が痛いほどに速くなるのを感じた。
昨日の話が頭を過ぎる。俺達の最後の会話がそれだとするのなら、あぁそれは。
ぐちゃぐちゃな頭の中、俺は走った。もうこれ以上、誰にも死んで欲しくなくて、そのアナウンスが嘘だと思いたくて。俺はついに、蓮桜の自室へとたどりついた。もう既に俺達以外の全員が集まっている。
「…蓮桜は…無事なのか?…一体…誰が……。」
「ろ、楼くん………。」
『また皆が楽しくなれる様に、集まれる様に、考えてみるからさ!』
そういうことじゃない………。
違う。違うんだ。
蓮桜は全員の視線の先、死んでいた。
「蓮桜…っ!」
膝から力が抜けていき、情けなくも体が崩れ落ちていくのを感じた。蓮桜の横に座り込んだ俺は、名前を呼び、応えてくれるはずもないことを知りながら手を握った。
昨日までの温もりはもうない。
集まれるような事がお前の死だなんて、そんな皮肉な事あるもんか。
あぁ、昨日、どうして握られた手を離した?
“死ぬな”
“俺と生きよう”
言えばよかったんだ。
そのまま、離さないで、
ちゃんと言葉にして、
好きだと言えば良かった。
誰も何も言わなかった。
ただ、すすり泣く声だけが人数に合わない、シンとした部屋に響く。主は安心院だろうか。
こういう事が前にもあった。
その時、あいつはこう言ったっけ。
進まなきゃ、って。
今此処で折れるほど、弱い俺じゃない。
お前が俺の希望だから、俺は立ち上がる。
その存在があるから…あったから…まだ、まだ、終われない。
必ずクロを見つけるんだ。
___生存者