「俺達なら出来るから、皆諦めず行こう!」
「う…うん…。きっと…大丈夫だよね。」
「選択肢は一つしかないだろう。」
「…やるしかないんだ。」
「まずいつも通り死因から確認していくか。…いやその前に死亡推定時刻も聞いておきたい。カルテさん、どうかな?」
祇園寺が裁判の流れを作っていく。
「死亡推定時刻は発見時から1時間〜2時間前くらいだとは思います♡死後硬直はさほど無かったですから♡」
「カルテさんと楼さんがいるのでそこら辺は心強いですね。えっと、そして死因は…。」
「近くに毒の瓶らしいものがあったけどぉ……毒殺でいいのかなぁ?」
「うん、ぼくもそうだと思うよ。」
全員が毒殺だと意見を一致させた。
「そうだとして、その瓶は一体どこで、そしていつ手に入れたんだろうな。」
「薬品保管庫なら誰でも出入り可能ですよね♡恐らくそこで確保したとは思うのですが♡」
「今日昨日の話でないとするのなら、いつでも手に入れることができちゃうよなぁ。」
ガシガシと頭を掻き、もどかしそうに相模が言う。
それじゃあ、誰が持ち出したのか分からない、というのは同意見だ。
「誰にでも可能…ならとりあえず今日、事件発生までのアリバイを皆話してみないか?」
俺の提案に皆が頷いた。
「私と日和ちゃんは知っての通り、クッキー作りの約束をしていました♡ それに、折角ですし朝からお喋りしていたんです♡…雪雫ちゃんは後から来るといって…来ませんでしたが…♡」
共犯の線は低い。2人はシロであろうか。
「俺は迅くんとお茶とトランプをね。あぁ、途中まで伊織くんとも一緒だったよ。」
「図書室に行こうと途中で離脱したが、そこでお前たちに会った筈だ。」
「うん、確かにぼく達は仍仇さんに会ったね。ぼくと楼くんは朝から談話室にいたよ。…3人の中で長い間抜けてた人はいたりしなかった?」
「僕がいる間は2人が1度だけ抜けたがな。」
「俺は御手洗いに、迅くんはお茶を取りに行ってくれてたんだ。それで、君は?」
黙ったままの片倉に鋭い目を祇園寺が向ける。片倉はビクッと体を震わせた。
「えっとぉ…ボクはベッドの下の埃とか取りたくて……ずっと1人だった…よ。」
ずっと1人だったという告げるその声も震えていた。疑われるという避けようのない事実に、怯えているようだった。
「本当にアリバイがないのは…今日の事件発生まで誰にも姿を見られてないのは片倉だけか。」
「お前が殺して、あとは何食わぬ顔で部屋に戻ればできる話じゃないのか?」
「ちょ、ちょっと待って…。ボクはただ部屋の掃除をしたかっただけなんだよぉ…いぢめないでよ…。」
片倉は急に向けられた疑いに必死になって、否定するが、どうやってもじわじわと疑いの目が集まっているのは確かだった。
「毒を盛り、殺すには2、3分席を外すだけでは難しそうですよね…。」
「なら、犯人は…片倉さん……?」
「……。」
彼は何かを思い出したようだ。
そしてその弾丸は放たれた。
「それは違うぞ!」
「藍にも…誰にでも犯行は不可能に思えるんだ…。だって、実際に2人が雪雫ちゃんの部屋に来た時は、密室だったんだ。そうだよね?」
「はい、鍵がかかっていて中に入れなかったんです♡ノックをしても応答はなくてですね…♡」
「だから、カルテさんだけに人を呼ぶのを任せて、私はモノアピスに鍵を開けるようにお願いしに行ったんです。」
「モノアピスはボク達が鍵を開けてからすぐいなくなっちゃったけどぉ…。」
「いんちょーが感じ悪い奴みたいな言い方やめてくんないかな?邪魔したくなかっただけだもーん!」
「ご、ごめんなさい……。」
「密室で、かつ、毒瓶の持ち出し時間も不明。」
「…行き詰りました、ね。」
「あと、役に立ちそうなものって….。」
打撲跡も落ちた小麦粉も、役に立ちそうにはない。あと残っているのはあれだけだが、それが果たして役に立つのか。
「日記の後ろのページが、何枚か破れてたんだ。犯人について、約束をしていたりとか…何か手がかりになるものが隠されていたりしてないのか…?」
「犯人が隠したとなると、見つけるのは難航だな。」
「もし、雪雫ちゃん本人が隠したなら、近い日に1人でどこかに訪れた時なんでしょうか?♡」
仍仇がぽつりと言った。
「…そういえば、図書室に何度も足を運んだが、一度だけ蓮桜に会ったな。」
「その時、蓮桜は1人だったのか?」
「あぁ。たしかに1人だった。」
これが日常であれば、普通のことであろう。今はどんな些細なことでも異変に思えた。
「楼さんも私も…誘われてないのは少しだけ引っかかりますね…。雪雫さんは単独行動が少ない方でしたから。」
安心院も引っかかる点があるようで、首を傾げて見せた。
「モノアピス!俺達どうしても確認したいことがあるんだ。だから、もう一度だけ捜査をさせてくれないかな?」
相模がすっと手を挙げてモノアピスへと言葉を向けた。
これが最後のチャンスなんだ。俺達はモノアピスの返事を待った。
「仕方ないなぁ〜。いんちょーは優しいので再捜査を許可します!その代わり、いんちょーの引率!皆で行動すること!」
そうして、モノアピスに連れられて図書室へと移動。
「…にしても莫大な資料の数だが…。」
「この中から本当に探せるんでしょうか?♡」
半ば呆れ顔で放たれる祇園寺の言葉を看薬院が引き継ぐ。
「仍仇、会ったときに何か蓮桜は言ってなかったか?」
「そうだな…。あぁ、花に関する本はどちらだと聞かれたな。」
花に関する本。
そして、俺が託されたのは
「…希望………。」
「雪雫さん、ですからスノードロップじゃないですか?」
俺の言葉に続き、安心院が答えを出した。蓮桜から聞いたんだ。スノードロップの花言葉は_______希望だと。
「花言葉に関する本の中…スノードロップのページじゃないか?」
本棚から目当てのものを探し当てた俺達は、スノードロップのページを開いた。
そこにはくしゃくしゃになった紙。
“この病棟に来てから、結構な日付が経ちました。閉じ込められてコロシアイをしなさいって言われた時はびっくりしたけど、それでもたくさんお友達ができて、楽しい時間もありました。
…しかし僕には時間がありません。僕は病気に罹っています。必ず死ぬ病気です。身体の機能とか、感覚とか、…記憶とか。これらが日によって、ものも程度も違うけれど、確かに無くなっていって。起きていられる時間も減っていって、目を覚ませなくなって。
そうして最後には身体の細胞が壊死して死ぬ病気です。
最近、味がわからない。無くなって、思い出せない記憶がある。たぶん、他もいずれは同じようになるんだろうなぁ。
...誰が亡くなったのか。その記憶も、いくつか無くなってる。
いつどこでどうやって殺されたのか、その人を殺した誰かがどうなったのか。記録を見るまで把握出来なくなった。普通なら忘れようとしても出来る訳ない記憶のはずなのに。
死なないでいられる自信がなくなってきました。
誰かに殺されるか、誰かを殺して処刑されるか。
...それとも、病気で死ぬのか。
どれも起きないとは絶対に断定できません。
かといって、これ以上友達が亡くなるのも僕は見たくない。...それなら、残ったのは
▽……自分で死ぬこと。
俺はその場にはりつけられたのように動けなくなった。
何もかも、信じられなかった。
「……ないだろ………。」
「え?」
「死ぬはずなんてないだろ!」
「楼くん!蓮桜さんはっ……自殺したんだよ…!」
愛教が珍しく大声を出し、俺の言葉を真っ向から否定した。
初めて受けた相棒からの否定だった。
「もう…君も分かってるんだろ。」
祇園寺が息を整えた後、泣きそうな、悔しそうな、そんな顔で俺を見つめた。
本当は、分かってたんだ。
はりつめたものが、風船を突くように、割れた。
怒りをぶつける相手も、なにもない。あいつは自分の意思で命を絶ったのだ。
「…なんでお前が諦めてんだよ…!」
悔しかった。
気づいてあげられなかった。
最後に話した事、それは蓮桜なりのSOSだったのかもしれなかった。
助けてあげられなかった。
与えられてばかりだった。
なにも、返せなかった。
ただ、知らないような泣き叫ぶ声が、シンとした空間に響いていた。
「あぁ、ちょっと待ってよ!楼おにいちゃん!」
その場から立ち去ろうとした時、モノアピスが俺を呼び止める。
「…。」
「遺品整理ってやつ!」
そういうと、何かをモノアピスは放り投げた。
床に落とすのは忍びないので、何を渡す気だと怪しみながらも、俺は受け取る。
それは、蓮桜の首飾りだった。
「『もし僕が死んだら楼くんに渡してほしい』ってさ!いんちょーってば忘れないでおいてあげたよ!」
形に残るものも残らないものも、すべて蓮桜との記憶として俺の心に残る。
俺が生きている限り、蓮桜はまだ生き続けている。
今はそう、思っていたい。
首飾りを握ったまま、俺はそのままベッドへと体を投げ出した。
いつのまにか深い深い眠りについていた。
夢の中で、あたたかな、春を見た。
氷はいつか溶けるだろうか。
「あーあ、まだ謎は解けてないのになぁ。君もそれでよかったわけ?」
Chapter 4
Heartful_Recollection
四章シロ 蓮桜雪雫さんの裏シートでございます。