(非)日常編
「今日も全員揃いませんね♡ 現くんは最近毎日ですけど…今日は藍くんもいないのですか…私、寂しいです♡」
ふぅ、と珍しく看薬院がため息をつき、今日は始まった。
ちょこちょこと誰かが抜けることはあるが、最近、俺たちは食事や昼行動を集団で行動している。
「祇園寺は、部屋に篭ったきり出てこない。」
「片倉さんは…昨日は一緒にお昼を食べたけど、それ以降見てないな。もしかすると研究室にいるのかもしれないね。ほら、あの子何かを忘れようとするたびに掃除しだすから…。」
2人はどうやらそれぞれ別の場所にいるようだった。こんな状況だ。2人も何か思うことがあるのだろう。…思い詰めすぎていなければいいが。
…それから。
ただこの場に俯いて、不自然に言葉を発しない人物がいた。
「……っ…。」
安心院だった。
額にうっすらと汗を浮かべ、いつもの笑顔はなく、ただ青い顔をしていた。不謹慎といえばそうなのだが、今にも死にそうだ。
「お、おい。大丈夫か?」
「…フッー……フッー……ッ…。」
「安心院さん…?」
「日和?大丈夫か?」
肩で呼吸をし、苦しそうな安心院を愛教と相模が不安そうに見つめる。
そしてふらっと
倒れた。
突然の出来事に俺達は思わず立ちすくむ。このまま死んでしまうのではないか、毒を盛られてしまったのでは……嫌なことばかりが頭を過ぎる。どれもこれもこの生活のせいだ。疑うことは何も生まないのに。
「日和ちゃん!…意識は…!」
そんな中、超高校級の看護師である看薬院だけは、立ちすくむことなく慌てて駆け寄り脈を測る。
「脈はあります…気を失ってるだけでしょう……♡」
俺達は安心院に命の危機が無いことを安堵した。
「保健室に連れてってあげよう。」
「俺が行くよ。」
愛教の言葉に相模が頷くと、そっと安心院の体を抱え保健室へと歩いて行った。
大きな相模の背中とそれにすっぽりおさまった小さな安心院の体。それを見つめながら、愛教が言う。
「安心院さん、大丈夫…じゃなさそうだったよね。心配だな。」
「…病気が現れているのかもしれないな。」
そう、時間は無情にも進む。今俺たちが此処で言葉を交わす日常でさえ、蝕まれているのだ。
「え〜と…。とりあえず、お昼にしませんか?♡ お腹が空いたでしょう♡」
空気を読むように看薬院が提案する。時刻は12時過ぎ。たしかに腹が減った。
「そうだな。…あの2人も呼びに行った方がいいか?」
「うん、お昼くらいは一緒に食べたいし…呼びに行こうよ。」
愛教が同調する。
明るい相模と話術に長けた安心院が消え、更に静かになった食堂。人数はいた方がいい。
「僕が声をかけた時もあまり反応はなかったし、来るかはわからないぞ。」
「一応、行くだけいってみるか。」
仍仇がそういうが、とりあえず残っている4人で祇園寺と片倉を呼びにいくことにした。
「現くんの行方はわかっていますし…まず現くんの自室から訪問しましょう♡」
祇園寺の部屋の扉を叩くと、応答はなかった。
「…おかしいな。確かに中にいるはずだが。」
仍仇が怪訝そうに首を傾げドアノブを捻った。
扉は開くことなく、物々しい雰囲気を漂わせる。
どことなく、嫌なものを感じた俺は扉を叩き、大声を出す。
「おい!祇園寺聞こえるか!いるなら返事だけでもしてくれ!」
のほほんとした声も、しっかりとした声も聞こえない。
返事はないのだ。
何度ドアノブをガチャガチャと回しても開くことはない。部屋の主はただ単にいないのか、それとも……。
「べ、別の場所に移動してしまった可能性もありますし…♡ どうか落ち着いてください♡」
そういう看薬院も同じことを考えているのだろう。少し声が震えている。
「ぼ、ぼくが鍵をとりに、モノアピスのところへ行ってくるよ!きっと保健室だよね…!」
しばらくして愛教が息を切らして帰ってきた。
受け取った鍵でドアを開けると、アナウンスが待ってました、と言わんばかりに鳴り響いた。
なんで
そこにいるはずのない人物が、死んでいるんだ?
首を吊られ、俯いたままの片倉。
片倉だけじゃない。
「なっ、なんで…ですか……。」
看薬院の甘い声も今は掠れている。
部屋の主であるが、四肢がもげ、血だらけのベッドに横たわる祇園寺の姿。
その部屋は、地獄のようだった。
_生存者