(非)日常編
モノアピスからの恐ろしい告知から数日後、特に何か事件がおこるわけでもなく、私達は案外普通に生活していた。
伊織さんは何十針も縫う手術を行って、それは無事成功した。何度もお礼を言いに行ったが、あまり近い距離は好きではないようで、礼と見舞いの品はもう十分だと言われた。
でも本当によかった。
もし、伊織さんが私を突き飛ばさなきゃ…。
もし、その槍が真っ直ぐ伊織さんを貫通したら。
ゾッとする。
私は首を横に振り、あの時感じた恐怖を振り払った。
伊織さんの部屋から戻る時、校内放送が鳴った。
「いんちょーからオマエラにお知らせ〜!働き者のいんちょーは何人かの研究教室を開放しましたぁ!感謝を込めて使ってね!」
モノアピスだ。可愛らしい声と体、顔のパーツがあるがその中身は…可愛くない。
だが研究教室は気になっていたので、私は二階にあがり自分の研究教室が開いているか確認しに行った。
ドアノブをガチャガチャとひねるが、私の研究教室はまだのようだった。
「ひばりちゃん!ひばりちゃんの研究教室はあいてないの〜?」
隣の部屋からひょっこりと顔を出したのは志々水さん。どうやら、超高校級の海洋生物部の研究教室は開放されたらしい。
「そうなんです、少し残念です〜!志々水さんの研究教室は開放されたんですね!」
「うん!すっごくいごこちがいいの〜!そうだ!ひばりちゃん、しじみの研究教室にあそびにこない〜?」
「わぁ!いいんですか!是非!」
私は志々水さんに甘えて研究教室にお邪魔することにした。
中は私達が生活している病室より広く、棚には様々な海の生き物についての資料があった。
いくつか水槽も並んでいる。どうやら此処に飼っているようだった。
「ここで海の生き物について研究ができるんですね〜!…?これは論文…でしょうか?」
「そうなの!しじみがかいたんだよ!」
机の上に広がっていたファイルの中には論文があり、そこにはぎっしりと海の生き物についてまとめた文字が並んでいた。
ちょっぴり子供っぽくて可愛らしい普段の志々水さんとのギャップに私は驚く。
流石は超高校級の海洋生物部だ。
「すごいですね〜!私、感動しちゃいました〜!」
「ありがとうなの!おとーさんが海洋生物の研究をしているんだけどね、しじみもおとーさんみたいなハカセになるのが夢なの!」
「ふふ、しじみさんなら絶対なれますね!」
他にも无子さん、楼さん、藍さんの研究教室が開放されたようだ。3人はお邪魔させてくれるだろうか。私はいつか遊びに行きたい、もっと皆を知りたいという思いを胸にその日を終えた。
次の日、お昼ご飯に楼さんを誘い、食堂へ向かった。食堂には献立表があり、毎日の食事を作ることもできるが3種類ほどから選ぶこともできる。
「お腹空きましたね〜!今日のご飯は何でしょうか?あれ?あそこにいるのは…。」
食堂には既に雪雫さん、日和さん、迅さん、育さんがいた。
皆コミュニケーション能力が高く、比較的明るいメンバーだが、少し珍しいような4人だったので、私は声をかける。
「皆さん何をお話しされてるんですか〜?」
「あ!緋巴銉くん!えへへ、実は明日のお昼、中庭で食べようかなって話していたんだ!良ければ2人もどう?」
「2人が来てくれたらぼくも嬉しいよ!」
「一応全員に声かけて回ってるけど、皆他に用事があるみたいで4人しか集まってないんだよな!」
「はい、人数は多い方が楽しいですから…!」
私はお昼ご飯がオムライスだという事を思い出し、しばらく考える。…正直どちらも選びたいのだ。
「…糸針?」
「ハッ!すみません!えーと、私実はオムライスを食べてから行きたいので…13時頃お邪魔しても大丈夫ですか?プリンを持っていきます!」
「はは!オッケー!!」
「わぁ!プリン?楽しみだなぁ!」
「でもいいのですか?持ってきていただいて…。」
「そうだよ、ぼくたちも手伝うよ!」
「私実はお菓子作りが好きなので、大丈夫です〜!是非素敵な昼食を楽しんでください!」
そして隣にいた楼さんに問う。初めて会った方が楼さんだということもあり、共に行動することが殆どだったが、楼さんにも用事があれば悪いもの。
「楼さんはどうしますか?」
「俺は遠慮しておこう。」
「えーっと、何かご用事があるのですか…?」
「いや…お菓子作りも和気藹々とした空気も得意ではなくてだな。その…崩してしまうといけないだろう。」
楼さんはきっと遠慮しているのだろう。優しくてとても不器用な人だから、今までそうやって自分で壁を作っていたのだろう。
「…楼さん!私やっぱり1人だと不安です…。いっぱいつまみ食いしてしまいそうなので!だから、良ければ明日のお昼も一緒に行動してくれませんか?」
「…糸針がいいなら…。ありがとうな。」
楼さんは下手な演技の真意に気づいたのか、微笑んでくれた。
この病棟生活がいつまで続くのかなんて分からないけれど、私はそれが続く続かない関係なしに、こんな素敵な人達と出会えたのは嬉しいことだと思う。